左心耳閉鎖術の適応と禁忌・実施判断の要点

左心耳閉鎖術の適応・禁忌と実施判断の要点

抗凝固療法が禁忌でない患者でも、左心耳閉鎖術が推奨されるケースが実は約30%存在します。

🫀 左心耳閉鎖術 適応の3ポイント
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抗凝固療法の限界

長期の抗凝固療法が困難または出血リスクが高い非弁膜症性心房細動患者が主な対象です。

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適応スコアリング

CHA₂DS₂-VAScスコア2点以上、かつHAS-BLEDスコアを参考に出血リスクを総合評価することが基本です。

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禁忌・注意事項

左心耳内血栓の存在、高度僧帽弁狭窄症、心内膜炎などは禁忌となり、術前の経食道心エコーが必須です。

左心耳閉鎖術の適応となる患者像と背景疾患

非弁膜症性心房細動(NVAF)患者において、脳卒中の塞栓源の約90%は左心耳に由来するとされています。これが左心耳閉鎖術の最大の根拠です。

主な適応対象は、以下の条件を満たす患者です。

  • CHA₂DS₂-VAScスコアが2点以上(男性)または3点以上(女性)
  • 長期の抗凝固療法(DOACまたはワルファリン)が困難または禁忌
  • 消化管出血、頭蓋内出血の既往など高度出血リスクを有する
  • アドヒアランス不良のため薬物療法の継続が期待できない
  • 抗凝固薬による重大な副作用(薬疹、過敏反応等)の既往

つまり「抗凝固療法の代替手段」として位置づけるのが原則です。

注目すべきは、DOACが普及した現代においても左心耳閉鎖術の需要が増加していることです。理由は単純で、加齢に伴う腎機能低下や転倒リスクの増大により、高齢患者ほどDOACの継続が困難になるケースが増えているためです。

実際、日本でWatchman FLX(ボストン・サイエンティフィック社)が保険収載されて以降、年間施行数は増加の一途をたどっています。これは使えそうです。

HAS-BLEDスコアが3点以上で「高出血リスク」と判定される場合でも、それ単独では抗凝固療法の中止理由にはならないことを改めて確認しておく必要があります。HAS-BLEDはあくまで「修正可能なリスク因子の洗い出し」に使うものです。

日本循環器学会「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」(左心耳閉鎖術の記載含む)

左心耳閉鎖術の禁忌と術前に必須の経食道心エコー評価

禁忌の見落としが、術中・術後の重大合併症に直結します。厳しいところですね。

絶対的禁忌として臨床上重要なのは以下の4点です。

  • 左心耳内血栓の存在(術前TEEで必ず確認)
  • 高度僧帽弁狭窄症(弁口面積1.5cm²以下)
  • 活動性感染性心内膜炎
  • 卵円孔開存などを伴う右左シャントで矛盾性塞栓リスクが極めて高い場合

術前の経食道心エコー(TEE)は必須です。左心耳の形態は「チキン・ウィング型」「ウィンドソック型」「カリフラワー型」「ケーキ型」の4型に分類されます。

カリフラワー型は他の形態と比較して脳卒中リスクが約1.7倍高いというデータがあり、適応判断だけでなくデバイスサイズ選択にも影響します。意外ですね。

左心耳の開口部径(オスティウム径)とランディングゾーンの深さを正確に計測することが、デバイスサイジングの基本です。Watchman FLXであれば対応サイズは20〜35mmで、オスティウム径+最大10mmのデバイスを選択するのが一般的です。

また、術前TEEでは左心耳内の自然エコーコントラスト(SEC)の有無、血流速度(通常40cm/s以上が望ましい)も評価します。SECが強陽性の場合、デバイス留置前に抗凝固療法で血栓を否定・消退させることが条件です。

左心耳閉鎖術の適応評価における CHA₂DS₂-VASc と HAS-BLED の実践的な使い方

スコアは「計算するだけ」では意味がありません。結論は「スコアを臨床文脈で解釈する」ことです。

CHA₂DS₂-VAScスコアの各項目を改めて整理します。

リスク因子 点数
うっ血性心不全 1点
高血圧 1点
年齢75歳以上 2点
糖尿病 1点
脳卒中/TIA既往 2点
血管疾患心筋梗塞等) 1点
年齢65〜74歳 1点
女性 1点

スコア2点以上では年間脳卒中リスクが2.2%以上となり、抗血栓療法の介入が推奨されます。スコアが4点を超えると年間リスクは4%以上に跳ね上がります。

HAS-BLEDについては、「スコアが高い=抗凝固療法を中止」ではなく、「スコアが高い=修正可能な因子(血圧コントロール不良・飲酒・NSAIDs使用など)を是正してから再評価」が正しい使い方です。これが基本です。

実際の患者カンファレンスでは「CHA₂DS₂-VAScが3点以上でHAS-BLEDも3点以上」のケースが最も議論を要します。このような症例こそ、左心耳閉鎖術の適応として積極的に検討すべき対象といえます。

カテーテルアブレーション併用と左心耳閉鎖術の適応拡大——独自視点

心房細動アブレーションと左心耳閉鎖術の同日施行(いわゆる「ワンストップ手術」)は、国内でも2020年代以降に症例数が増加しています。

従来は「左心耳閉鎖術=抗凝固療法ができない患者のみの手技」という認識が一般的でした。しかし実際には、アブレーション後にDOACを中止したい患者や、アブレーション後も心房細動再発リスクが高い患者(低電位領域が広範、長年の持続性Afなど)への適応拡大が議論されています。

ワンストップ手術のメリットは明確です。

  • 麻酔回数・入院回数が1回で済む(患者負担の軽減)
  • アブレーション後の抗凝固療法期間を短縮できる可能性
  • アブレーション中にTEE画像を共有できるため、デバイスサイジングの精度が上がる

一方でリスクもあります。手技時間の延長による放射線被曝量・造影剤使用量の増加、術者の技術的習熟が両手技で同時に求められる点です。

国内ガイドラインでは現時点でワンストップ手術を標準的推奨として明記していませんが、欧州心臓病学会(ESC)の2023年改訂AFガイドラインでは、個別判断での施行に対して一定の支持が示されています。今後の国内エビデンス蓄積が注目されます。

ESC 2023年心房細動管理ガイドライン(左心耳閉鎖術の位置づけを含む)

左心耳閉鎖術の術後管理と抗凝固療法の段階的離脱プロトコル

デバイス留置後が「終わり」ではありません。術後管理が適応判断と同じくらい重要です。

Watchman FLXの標準的な術後抗凝固プロトコルは以下の通りです。

  • 術後45日間:DOAC(またはワルファリン)+アスピリン81mgの併用
  • 術後45日TEEで完全閉鎖(漏れ5mm以下)確認→DOAC中止、クロピドグレル+アスピリンへ移行
  • 術後6ヶ月:アスピリン単剤へ移行
  • 術後12ヶ月以降:抗血小板薬も不要(完全閉鎖確認済の場合)

このプロトコルが守れない患者、すなわち術後45日間のDOACすら継続困難な出血リスクを持つ患者に対しては、抗血小板薬2剤(DAPT)による代替プロトコルも選択肢に入ります。ただしDAPTプロトコルでのデバイス関連血栓(DRT)発生率はやや高く(約7%)、注意が必要です。

DRT(デバイス関連血栓)は術後45日TEEで約3〜5%に発見されます。DRTが確認された場合は即時にDOACを再開し、60〜90日後に再度TEEで確認するのが標準対応です。

術後フォローのTEEは45日・6ヶ月・12ヶ月が一般的なスケジュールです。施設によって多少異なりますが、少なくとも45日時点のTEE評価は省略できません。TEE評価は必須です。

また、デバイス周囲漏れ(peridevice leak)が5mmを超える場合は血栓塞栓リスクが残存するため、抗凝固療法の継続を検討します。5mm以下であれば臨床的に許容範囲とされています。これだけ覚えておけばOKです。

日本不整脈心電学会(左心耳閉鎖術関連の教育資料・ガイドライン情報)