変形性膝関節症の治療とヒアルロン酸注射

変形性膝関節症の治療とヒアルロン酸

この記事の概要
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ヒアルロン酸関節内注射の位置づけ

国内ガイドライン(CQ13)と海外ガイドラインの差を踏まえ、現場での使い分けを言語化します。

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効果・回数・副作用の説明

「どれくらい効く?」「何回?」「危険は?」に対して、患者説明の型を提示します。

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治療全体設計(運動療法・体重・薬)

注射だけに依存せず、運動療法・体重管理・鎮痛薬・装具を含めた治療の「順番」を組み立てます。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸関節内注射の位置づけ

 

変形性膝関節症(膝OA)の保存療法は、患者教育、運動療法、体重減少、物理療法、装具療法、薬物療法、注射療法などを組み合わせて「痛みと機能」を改善し、手術療法のタイミングを最適化する考え方が基本になります。日本整形外科学会の「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」でも、治療(保存療法)のClinical Questionの一つとして「CQ13 変形性膝関節症にヒアルロン酸関節内注射は有用か」が独立して扱われています。

一方で、海外の診療ガイドラインは同じヒアルロン酸でも推奨が割れます。AAOS(米国整形外科学会)の2021年ガイドラインでは「Hyaluronic acid intra-articular injection(s) is not recommended for routine use in the treatment of symptomatic osteoarthritis of the knee」とされ、“routine(ルーチン)”での使用は推奨されない、という立場です。

このギャップは「日本では臨床で広く使われ、ガイドラインでもCQとして評価している」ことと、「AAOSは臨床的に意味のある効果量やバイアスを重視し、ルーチン使用を避ける」ことの差として説明できます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10982086/

医療従事者向け記事としては、ここを曖昧にせず、患者にとっては“効く/効かない”の二択ではなく「どの層に、何を目的に、どの期間で試すのか」という設計に落とし込むのが重要です。

実務上の位置づけは、次のように整理すると現場で使いやすくなります。

  • 目的:鎮痛(とくに動作開始時痛・荷重時痛)と機能改善の「きっかけ」を作り、運動療法・減量を回すための時間を稼ぐ。
  • ターゲット:画像所見だけでなく症状・活動性・炎症所見(腫脹・関節水症)を含めて“試す価値がある”層を選ぶ。
  • 出口戦略:一定回数で効果判定し、無効なら漫然継続せず次の手段(薬剤調整、装具、リハ強化、手術相談)へ進む。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸注射の効果とエビデンスの見方

ヒアルロン酸関節内注射(viscosupplementation)は、関節液の粘弾性補助、潤滑、衝撃吸収の補助を狙う治療として説明されることが多いです。実際、臨床研究ではプラセボ対照試験で効果が小さい・研究により結果が割れることも古くから報告されており、例えば1994年の二重盲検RCTでは「5週間の週1回注射がプラセボより優れない」という結果が示されています。

ただし、臨床ガイドラインの推奨が割れる背景には、製剤(分子量・架橋の有無)、注射回数、対象患者(重症度、炎症、BMI、アライメント、併用療法)の異質性が大きく、効果が“平均化”される問題があります。AAOSは「ルーチン使用は推奨しない」と書きつつも、注射療法の章立てで評価し、他の保存療法(運動、減量、外用NSAIDsなど)も併記しています。

医療者向けには、「この治療は“誰にでも効く鎮痛注射”ではなく、治療全体設計の中で試験的に位置づける」ことを明示すると、上司レビューでも臨床的妥当性が出やすいです。

また、患者向け説明では、効果を過大に約束せず、評価指標(痛みNRS、歩行距離、階段、立ち上がり、WOMACなど)を事前に決めておくと、治療継続の判断が透明になります。

さらに、意外と見落とされやすい点として「ヒアルロン酸は“単独の最終兵器”ではなく、運動療法の実施率を上げるための補助輪になり得る」ことがあります。AAOSが強く推奨する運動療法や自己管理プログラムは、痛みが強いと実行困難になりやすいため、短期の疼痛コントロールを先に置く設計自体は臨床的に合理性があります。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸注射の回数と間隔

日本の実臨床でよく採用される投与パターンは、週1回を複数回(例:5回)行い、反応があれば間隔を延ばす、という設計です。実際、患者向け解説でも「週1回の投与を5週続け、その後は効果に応じて2〜4週に1回が一般的」と説明されている例があります。

回数を語るときに重要なのは、“回数そのもの”より「どこで効果判定するか」です。医療従事者向けには、以下のように運用ルールを明文化すると、漫然投与を避けられます。

  • 初回〜数回:注射後24〜72時間の疼痛増悪(穿刺刺激・反応性疼痛)も含めて経過を見る。
  • 5回前後:ここを1つの評価ポイントにし、改善が乏しければ治療戦略を変更する。
  • 維持投与:効果がある場合のみ間隔を延長し、運動療法・体重管理の目標達成を優先する。

AAOSの記載は「ルーチン使用は推奨しない」ですが、これは「必要時に個別に検討する余地がゼロ」という意味ではなく、標準的に広く行う治療としては推しにくい、というニュアンスです。

したがって国内の現場では、患者の希望(注射への期待)も踏まえつつ、科学的な不確実性と、他の強い推奨(運動・減量など)を同時に提示する説明が現実的です。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸注射の副作用と注意点

ヒアルロン酸注射は比較的安全性が高い治療として扱われる一方、注射である以上、局所反応と感染リスクはゼロではありません。古いRCTでも、副作用として「一過性の痛み・腫れ」が一定割合で観察されたことが報告されています。

実臨床の説明では、頻度の高いものから順に、患者が判断できる言葉に落とすとトラブルが減ります。

  • よくある反応:注射部位の痛み、腫れ、熱感、違和感(多くは一過性)。
  • 注意が必要:赤みと腫れが強く増悪する、発熱、歩けないほどの痛み(感染性関節炎の可能性を否定できない)。
  • 稀だが重要:アレルギー反応など全身症状。

医療者が押さえるべき実務ポイントは「無菌操作」「皮膚消毒」「関節液貯留があれば評価」「注射後の緊急受診目安の説明」です。注射に関連した感染リスクは医療安全上のインシデントになり得るため、患者説明をカルテに残すことも含めて運用設計が必要です。

参考)https://www.medicalonline.jp/medcase/download?id=107

また、独自視点として強調したいのは「副作用の説明は、恐怖を与えるためでなく、早期発見のための共同作業の合図を作ること」という点です。感染性関節炎は頻度は低い一方、見逃すと関節破壊や全身状態悪化につながり得るため、“いつ・どの症状なら連絡するか”を具体化することが、注射療法の質を決めます。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸と運動療法の併用(独自視点)

膝OAの長期アウトカムを考えると、注射単独でコントロールする発想は限界があり、運動療法・自己管理・体重管理の実装が中心になります。AAOSガイドラインでも、運動療法(監視下・非監視下・水中)や自己管理プログラム、患者教育は強い推奨として整理されています。

ここで、ヒアルロン酸を「運動療法のための鎮痛ブリッジ」として設計すると、現場の成功率が上がることがあります。痛みが強い患者は運動療法の開始が遅れ、結果的に筋力低下→疼痛増悪→活動性低下のループに入りやすいため、短期の疼痛低減を“行動変容の初速”に使う、という考え方です。

具体策としては、注射日から逆算して「何を運動目標にするか」を決め、再診で注射の効果判定と運動達成度を同時に評価します。

  • 注射当日:過度な負荷は避けつつ、翌日からの運動メニュー(例:大腿四頭筋・股関節外転筋、可動域)を指示。
  • 1〜2週:痛みが軽い時間帯を見つけ、歩行量・階段・立ち上がりを段階づけて増やす。
  • 4〜6週:痛みの再燃パターンを確認し、装具・外用NSAIDs・運動強度を再調整。

この併用戦略は、AAOSが推奨する運動療法と、(国やガイドラインで評価が割れる)ヒアルロン酸注射を“対立”ではなく“役割分担”として組み直すため、医療者間の説明も通しやすくなります。

参考:国内ガイドライン(CQ13を含む目次・構成)

変形性膝関節症診療ガイドライン2023(日本整形外科学会):CQ13「ヒアルロン酸関節内注射は有用か」など、保存療法のCQが整理されています。

参考:海外ガイドライン(AAOS 2021の推奨一覧)

AAOS Management of Osteoarthritis of the Knee (Non-Arthroplasty) 2021:Hyaluronic Acidは「routine useは推奨しない」と明記され、運動療法や体重減少などの推奨も一覧化されています。

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