鼻性視神経炎と診断と治療と予後

鼻性視神経炎と診断と治療と予後

鼻性視神経炎:現場で迷わない要点
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時間依存の視神経障害

不可逆性の視力低下を残し得るため、初期対応のスピードが最重要です(受診導線の整備が鍵)。

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CT+造影MRIで「見える化」

CTで副鼻腔・骨性構造、造影MRIで視神経周囲への炎症波及や眼窩先端部病変を評価します。

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眼科×耳鼻科×感染症の連携

ステロイド先行が危険なケース(真菌など)があり、同時並行で鑑別と治療方針決定が必要です。


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鼻性視神経炎の診断とCTとMRI

鼻性視神経炎(鼻性視神経症を含む概念として扱われることが多い)は、副鼻腔の炎症・嚢胞・腫瘍などが視神経へ波及、あるいは機械的圧迫を起こして視機能障害を生じる病態で、眼所見が球後視神経炎に似るため鑑別が重要です。

診断では「鼻症状が目立たない」ことが落とし穴になりやすく、問診で副鼻腔手術歴や慢性副鼻腔炎の既往、免疫抑制状態糖尿病、ステロイド、抗腫瘍薬など)を拾い上げたうえで画像へ進みます。

画像は、まず副鼻腔病変と骨性構造(蝶形骨洞・後部篩骨洞、視神経管近傍)を把握できるCTが基本で、次に炎症波及や眼窩先端部の軟部組織病変を評価するMRI(必要なら造影)を組み合わせます。

参考)Ⅰ.視神経疾患 9.鼻性視神経症 (眼科 63巻13号)

CTや単純MRIで決め手に欠ける場合でも、造影MRIで副鼻腔から視神経周囲へ炎症が波及する所見を捉え、早期手術につなげて視力が短期間で改善した報告があり、「造影を追加する」という意思決定が実臨床で重要になります。

参考)単純MRIでは診断困難であった鼻性視神経症の1例 (臨床眼科…

鑑別としては、眼窩先端症候群(視神経+III・IV・V1・VIなどの障害)を来す原因が炎症・腫瘍・感染・血管病変など多彩である点を意識し、眼症状(視力低下、中心暗点、眼痛、眼球運動障害眼瞼下垂)を“束ねて”病変部位を想定します。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f9a3f54886a1eb94fd920468b2a82893a4a2e7a0

特に真菌性病変ではMRI所見が診断の助けになる一方、血清β-Dグルカンやアスペルギルス抗原・抗体は参考所見であって感度が十分でないことがあり、最終的には病理で菌体証明が必要になる場面があります。

現場向けの実務として、紹介状や救急外来メモに「副鼻腔条件CTを至急」「眼窩先端部を含む造影MRIを検討」「耳鼻科同日コンサルト」をセットで書けると、診断遅延のリスクが下がります。tokushima-med.jrc+1​

また、視野検査や眼底が“そこまで派手ではない”のに視機能が急落する例があり得るため、眼底所見の乏しさを理由に画像を先送りしないことが重要です。

参考リンク(眼窩先端症候群の定義、原因、真菌感染の鑑別や診断の難しさ、視神経管開放術+抗真菌薬の考え方がまとまっている)

臨床神経学:視神経管開放術により失明を免れたアスペルギルス感染症による眼窩先端症候群

鼻性視神経炎と副鼻腔炎と眼窩先端症候群

鼻性視神経炎は「副鼻腔疾患→視神経障害」という一直線の理解だけでは不十分で、眼窩先端症候群として現れたときに“副鼻腔由来か、頭蓋内・血管・腫瘍・硬膜病変か”を短時間で切り分ける必要があります。

眼窩先端症候群は、視神経管と上眼窩裂に病変の主座があり、視神経(II)とIII・IV・V1・VIの障害を組み合わせて呈する症候群と整理されます。

副鼻腔炎、特に蝶形骨洞や後部篩骨洞の病変は視神経管・眼窩先端に近接し、炎症波及や圧迫で急激な視力・視野障害を来し得ます。tokushima-med.jrc+1​

実際に、視力障害を来した副鼻腔疾患の検討では、初診日〜翌日に手術へ進めた症例群が示されており、治療の「待ち」が不利になり得ることが示唆されます。

参考)https://www.tokushima-med.jrc.or.jp/file/attachment/3232.pdf

ここで重要なのは、眼科単独では完結しにくい点です。

鼻性視神経炎は早期に耳鼻科と連携し、内視鏡下副鼻腔手術の適応やタイミングを詰めながら、同時に感染(細菌・真菌)や炎症性疾患を鑑別し、薬物治療の順番を誤らないことが求められます。

副鼻腔由来が疑われるのに鼻内所見が軽微、あるいは鼻症状が乏しい場合でも否定材料にはなりません。

参考)佐賀大学における真菌性鼻性視神経症の検討 (臨床眼科 74巻…

特に糖尿病など易感染状態が背景にあると、侵襲性真菌症が眼窩先端へ波及する可能性が上がるため、眼症状主体の副鼻腔真菌症を念頭に置く必要があります。

一方で、似た臨床像でも実体は別物のことがあります。

例えば肥厚性硬膜炎は、眼窩深部痛を伴い、眼球運動障害や視力低下を来し、造影MRIで硬膜肥厚が見えることがあり、治療はステロイド中心になるため、感染性病変と取り違えると危険です。

したがって「副鼻腔っぽいから耳鼻科だけ」「視神経炎っぽいからステロイドだけ」という分断を避け、画像で病変の地図を作ることが診療の骨格になります。webview.isho+1​

参考リンク(肥厚性硬膜炎が眼窩先端症候群として発症し得ること、感染との鑑別とステロイドの扱いの難しさが具体例で理解できる)

日眼会誌:真菌性眼窩先端症候群との鑑別に苦慮した肥厚性硬膜炎の1例

鼻性視神経炎の治療と手術とステロイド

鼻性視神経炎の治療は「確立された単一基準はない」とされる一方で、不可逆性の視力障害を残す場合があるため、できる限り早期の手術加療が勧められる、と整理されています。

これは裏を返すと、薬だけで様子を見る時間が“視機能の時間窓”を削る可能性がある、という臨床的メッセージです。

治療選択の中心は、原因が圧迫(嚢胞・粘液嚢胞など)か、炎症波及か、侵襲性(真菌など)かで変わります。

圧迫要素が強い場合は、内視鏡下副鼻腔手術(開放・ドレナージ、必要なら視神経管周囲の減圧を含む議論)が“視力を戻す介入”になり得ます。

一方、ステロイドは諸刃の剣です。

視神経炎やTolosa-Hunt症候群など、ステロイドが奏功しやすい疾患が鑑別に並ぶため、診断が確定しない段階でステロイドを開始したくなる臨床状況が生まれますが、真菌感染が背景にあると不幸な転帰につながり得るため、慎重な判断が求められます。

真菌感染症による眼窩先端症候群では、確定診断が難しい場合に「ステロイド開始前に抗真菌薬による診断的治療を考慮すべき」と述べられており、順番の設計が重要です。

抗真菌治療については、侵襲性アスペルギルス症などを疑う状況で、ボリコナゾールやリポソーマルアムホテリシンBが治療選択肢として挙げられ、病巣の外科的除去と全身投与が基本方針として語られます。

また、症例報告レベルではあるものの、抗真菌薬のみで進行した眼窩先端症候群に対し、視神経管開放術と併用して失明を免れた例が提示されており、「外科+薬物」の組み合わせが予後を変え得ることが示されています。

実務的な治療フロー(医療従事者向けに言語化)としては、次が使いやすいです。

・緊急度評価:急速進行の視力・視野障害、眼痛、眼球運動障害、眼瞼下垂の有無をセットで評価。

・画像:副鼻腔条件CT+(必要に応じ)造影MRIで視神経周囲・眼窩先端を確認。webview.isho+1​

・並走:耳鼻科へ同時コンサルト、感染リスク(糖尿病、免疫抑制、β-Dグルカン等)を確認。

・治療:手術適応があれば可及的早期に内視鏡手術、感染が疑わしければ抗菌/抗真菌薬、ステロイドは鑑別を踏まえ慎重に。

現場での注意点として、CTや単純MRIで「明らかな副鼻腔病変が薄い」場合でも、造影MRIで視神経周囲の炎症波及が見えて診断がつくケースがあるため、画像が陰性っぽい=鼻性を否定、にしないことが重要です。

また、ステロイドを使用する場合は、真菌性副鼻腔炎の除外など病態把握の上で投与している、という実臨床報告もあり、施設内での“投与条件”を明文化すると安全性が上がります。

鼻性視神経炎の予後と視力と視野

鼻性視神経炎の予後は「どれだけ早く、原因に合った介入へ到達できたか」に大きく依存します。

特に、視力低下が急激で、眼窩先端部へ病変が及ぶケースでは、進行が速く不可逆変化が進む可能性があるため、初療段階の意思決定がそのまま予後因子になります。

予後評価は視力だけでなく、視野(中心暗点など)や、眼球運動障害の回復もセットで追うべきです。

アスペルギルス感染に伴う眼窩先端症候群の症例では、視神経管開放術と治療後に視力・眼球運動障害が改善し、外来経過でβ-Dグルカンの推移を追いながら治療が継続された経過が記載されています。

また、鼻性視神経症の中には「発症から1〜2週間程度で急激な視機能障害をきたすが、早期治療で良好な改善を得た」とされる報告もあり、患者説明では“時間が勝負で回復の余地が残る”ことを伝えるのが重要です。

参考)白内障術後に発症した浸潤型副鼻腔真菌症による鼻性視神経症の1…

逆に、緊急手術を行っても回復しない例も報告されており、初期視力や病変の侵襲性、骨破壊や血管侵襲の有無などが背景にある可能性を想定して、過度に楽観しない説明も必要です。webview.isho+1​

ここで意外に効いてくるのが、受診導線と診療科間の“引き継ぎ品質”です。

眼科→耳鼻科紹介で「視機能低下の時間経過」「眼球運動障害の有無」「造影MRIの必要性」「真菌リスク」を明確に書けるかどうかで、同日手術や抗真菌薬開始の判断速度が変わり得ます。webview.isho+1​

施設内では、疑い例のチェックリスト化(例:糖尿病、鼻症状乏しい、蝶形骨洞・後部篩骨洞、眼痛+中心暗点)を作ると、見逃しが減りやすいです。

長期予後では、再燃や別病態の合併にも注意が必要です。

例えば眼窩先端症候群様の症状が、実は肥厚性硬膜炎の再燃であったケースでは、ステロイド減量で画像上の再発が示され、増量で軽快した経過が報告されています。

つまり「一度改善したから終わり」ではなく、原因に応じて画像フォローや内科的背景(免疫抑制、膠原病、糖尿病コントロール)まで含めた管理が必要になります。

鼻性視神経炎と独自視点と連携

鼻性視神経炎を“診断名”として知っていても、実際に予後を左右するのは、連携の設計(院内オペレーション)です。

特に、ステロイドが絡む鑑別(視神経炎、Tolosa-Hunt、肥厚性硬膜炎)と、ステロイドが危険になり得る鑑別(侵襲性真菌症)が同じ症状帯に並ぶため、単科判断が事故につながりやすい構造があります。

そこで独自視点として、医療者向けに「鼻性視神経炎レッドフラッグ」を運用することを提案します(検索上位記事は病態解説中心になりがちで、運用設計は語られにくい領域です)。

レッドフラッグ案。

・🚩 48時間〜2週間で進行する視力低下(中心暗点を含む)。

・🚩 眼痛+眼球運動障害/眼瞼下垂(眼窩先端症候群を疑う)。

・🚩 糖尿病、免疫抑制、透析、悪性腫瘍治療歴(真菌リスク)。

・🚩 CTで蝶形骨洞/後部篩骨洞の病変、または視神経管近傍の異常が疑われる。

・🚩 CT/単純MRIで決め手がなくても、臨床的に疑わしければ造影MRIを早期追加。

連携プロトコル案(最短で治療に乗せるための“型”)。

・眼科:視力/視野/眼球運動を定量し、「鼻性疑い」明記で副鼻腔条件CTをオーダー。tokushima-med.jrc+1​

・放射線:眼窩先端・視神経周囲の評価が目的であることを共有し、必要時は造影MRIへ切替。

・耳鼻科:画像で病変が視神経管近傍なら、緊急手術適応を含めた判断と、採取検体の病理・培養提出を標準化。

・感染症/内科:β-Dグルカン等の解釈、抗真菌薬選択、糖尿病コントロールを同時進行。

抗菌薬・抗真菌薬を入れつつステロイドをどうするか」は、個別症例でしか決められませんが、感染と炎症の鑑別が難しい状況で両者併用を行った報告もあり、ゼロか100かの判断にしない“安全策”の発想が役立つことがあります。

ただし、真菌性が疑わしい場合にステロイドが先行して不幸な転帰に至った報告があるという指摘もあり、併用するにしても「抗真菌薬を先に」「生検/手術で確定へ近づける」など、順序と監視計画が重要です。

最後に、医療従事者向けメッセージとしては、鼻性視神経炎は“眼科疾患の皮をかぶった副鼻腔・頭蓋底疾患”であり、画像と連携が治療そのもの、という点をチームで共有できると強いです。