肺炎球菌感染症の症状
肺炎球菌感染症の初期症状と臨床的特徴
肺炎球菌感染症の初期症状は風邪やインフルエンザと類似しているため、医療従事者として早期発見のポイントを押さえることが重要です。初期段階では発熱、咳、全身の倦怠感、頭痛などの非特異的な症状から始まります。これらの症状はしばしば軽度であり、見逃されがちなため注意が必要です。
参考)肺炎球菌感染症ではどのような症状がありますか? |肺炎球菌感…
肺炎を発症した場合の典型的な症状として、急性の突然の発熱、悪寒戦慄、咳嗽、膿性痰、胸痛、呼吸困難が挙げられます。特に肺炎球菌性肺炎は、赤褐色のたんの絡んだせきが特徴的です。肺炎球菌は肺胞に侵入した菌が惹起した炎症に伴い多量の滲出物を生じ、Kohnの小孔を通じて隣接した肺胞領域に広がっていく大葉性肺炎のパターンを取ることが多く、比較的末梢の肺胞領域から炎症が起こることから胸膜に炎症が及びやすく、胸膜炎をしばしば合併します。
参考)肺炎球菌感染症(2/3) │ KANSEN JOURNAL
年齢層によって症状の出方が異なる点も重要な臨床ポイントです。小児では成人と異なり、肺炎を伴わず、発熱のみを初期症状とした感染巣のはっきりしない菌血症例が多く報告されています。成人では発熱、咳嗽、喀痰、息切れを初期症状とした菌血症を伴う肺炎が多い傾向にあります。
参考)侵襲性肺炎球菌感染症 – 岡山県ホームページ(感染症情報セン…
厚生労働省の感染症法に基づく医師の届出基準では、小児と成人の臨床的特徴の違いについて詳細な解説が掲載されています
肺炎球菌感染症における侵襲性感染症の症状
侵襲性肺炎球菌感染症とは、本来無菌環境である部位(血液、髄液等)から肺炎球菌が検出された感染症のことです。髄膜炎、菌血症を伴う肺炎、敗血症などが特に問題とされており、小児および高齢者を中心に患者報告があります。
参考)小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報 href=”https://ipd-information.com” target=”_blank”>https://ipd-information.comamp;#8211; …
菌血症の症状として、高熱、寒気、低血圧、意識障害(呼びかけへの反応が悪いなど)が見られるため、迅速な治療が必要です。菌血症は血液から肺炎球菌が検出される状態で、重症の感染症に該当します。敗血症は感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態を指し、典型的な全身性の反応として、発熱、脱力、心拍数の増加、呼吸数の増加、白血球の増加などがみられます。
参考)侵襲性肺炎球菌感染症 Invasive pneumoniae…
髄膜炎の典型的な症状には激しい頭痛、高熱、首の硬直、嘔吐、意識混濁があります。髄膜炎例では、頭痛、発熱、痙攣、意識障害、髄膜刺激症状等の症状を示します。特に髄膜炎は適切な治療が行われないと後遺症を残す可能性があるため、早期発見が極めて重要です。日本での報告では、侵襲性肺炎球菌感染症の致死率は約19%とされており、進行が速く、死亡や後遺症のリスクが高いことが知られています。
参考)肺炎球菌感染症 – 16. 感染症 – MSDマニュアル家庭…
髄膜炎は中耳炎や乳突炎、副鼻腔炎などの感染を基礎に、脳底部へ進展して発症しますが、肺炎などに伴う菌血症から二次性に発症することもあります。小児では、髄膜炎は直接発症するものの他、肺炎球菌性の中耳炎に続いて発症することがあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-02.html
東京都感染症情報センターでは、侵襲性肺炎球菌感染症の定義や症状、治療法について詳しい情報が掲載されています
肺炎球菌感染症における局所感染症の症状
局所感染症は侵襲性感染症と比較すると比較的軽度ですが、日常的に多く見られる感染症です。肺炎は最も頻度が高く、市中肺炎の主要原因菌として知られています。せき、発熱、黄色や茶色のたん、呼吸困難などの症状が特徴的ですが、高齢者では典型症状が出にくいこともあります。
参考)肺炎球菌が原因の肺炎
中耳炎は特に乳幼児に多く、耳の痛みや発熱が主な症状です。副鼻腔炎では鼻詰まりや鼻水、顔面の圧痛が見られます。これらの上気道感染は、肺炎球菌が上気道に定着しうる菌であることから、保菌者や肺炎患者との濃厚接触によって、飛沫や接触を介して曝露することで発症します。
参考)肺炎球菌感染症には初期症状はありますか? |肺炎球菌感染症
上気道では副鼻腔炎や中耳炎、乳突炎を起こし、下気道を通り肺胞まで到達すれば肺炎を起こします。慢性呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患[COPD]や喘息など)を有する患者では、その急性増悪や気管支炎の原因になることも報告されています。
肺炎球菌はグラム陽性球菌であり、卵型もしくはランセット型と言われる楕円形の菌体が横長に2つ連なっている双球菌のパターンが典型的で、莢膜があるため菌体周囲が不染帯として抜けて見えます。この莢膜という分厚い膜に包まれているため、からだの免疫からの攻撃に強く、退治するのが難しい細菌です。
肺炎予防.jpでは、肺炎球菌の特徴や感染経路について分かりやすい図解が掲載されています
高齢者と免疫不全患者における肺炎球菌感染症の非典型的症状
高齢者や免疫不全患者では発熱が見られない、膿性痰が目立たないなど、非典型的な臨床像を取りやすいため注意が必要です。これは医療従事者として見逃しやすいポイントの一つであり、高齢者の肺炎球菌感染症では典型的な症状が揃わないことが多いことを念頭に置く必要があります。
参考)【医師が解説】肺炎球菌とは?原因・症状・重症化リスク・予防法…
65歳以上の高齢者は肺炎球菌感染症に罹患しやすく、重症化リスクも高いとされています。肺炎で亡くなる方の97.8%が65歳以上であることから、特に65歳以上の方は肺炎球菌などによる肺炎を予防することが重要です。
参考)https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/stop_pneumonia2024.pdf
免疫機能が低下すると、通常より肺炎球菌感染症にかかりやすくなり、またかかった場合に重症化する危険性も高まります。特に血液やリンパのがんの人、免疫器官として重要な脾臓を摘出した方は、莢膜菌に対して特に弱く、リスクが著しく高いとされています。
参考)肺炎球菌感染症Q&A:[国立がん研究センター がん情報サービ…
基礎疾患がある方も重症化しやすい傾向があります。慢性疾患がある方(糖尿病、心臓・腎臓・肺・肝疾患など)、がん患者、免疫抑制剤使用中、HIVなどの免疫力が低下している方は、肺炎球菌感染症の重症化リスクが特に高いとされています。リスク因子無しに対してリスク因子の数が1つでは3.9倍、2つ以上では11.9倍の発症リスクとなることが報告されています。
参考)基礎疾患をお持ちの方
喫煙者、栄養不良、過労、集団生活者なども感染・重症化リスクが高いとされており、生活習慣や環境因子も重要な評価ポイントです。
肺炎球菌感染症の診断における症状評価と検査所見
肺炎球菌感染症の診断では、症状や感染部位のサンプル中で特定された細菌に基づいて行われます。グラム染色および培養による診断が基本となり、肺炎球菌はグラム染色でランセット型双球菌の典型的な外見を示すことから、容易に同定されます。
参考)肺炎球菌感染症 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュアル…
喀痰グラム染色では、肺炎球菌はグラム陽性球菌であり、卵型もしくはランセット型と言われる楕円形の菌体が横長に2つ連なっている双球菌のパターンが典型的で、莢膜があるため菌体周囲が不染帯として抜けて見えます。多数の多核球を背景に、単一に多数存在するこれらの所見を見つけることができれば、肺炎球菌と自信を持って診断できます。
尿中抗原検査も有用な検査法ですが、感度70~80%・特異度94~99%のため、尿中抗原が陰性でも肺炎球菌は否定できないという点に注意が必要です。また、感染後1か月~3か月間は、おしっこから肺炎球菌抗原が出続けるため、陽性結果の解釈には時期を考慮する必要があります。
参考)肺炎球菌はなぜ脅威??肺炎球菌の肺炎の症状・治療とは?
侵襲性肺炎球菌感染症の届出基準として、分離・同定による病原体の検出(検査材料:髄液、血液、その他の無菌部位)、PCR法による病原体の遺伝子の検出(検査材料:髄液、血液、その他の無菌部位)、ラテックス法又はイムノクロマト法による病原体抗原の検出(検査材料:髄液)が定められています。
参考)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/survey/kobetsu/j1079.pdf
症状に応じて髄液検査や画像検査を行って感染巣を明らかにし、薬剤感受性や病巣に応じた抗菌薬治療を適正な期間行うことが推奨されます。ペニシリン感受性株肺炎球菌(PSSP)ではペニシリンG、アンピシリンなどのペニシリン系抗菌薬が使用され、ペニシリン耐性株、中間株(PRSP、PISP)では第3世代セファロスポリン系抗菌薬が選択されます。髄膜炎疑い例では、バンコマイシンと第3世代セファロスポリン系抗菌薬の併用による治療が推奨されています。
肺炎球菌感染症の症状から見る予後と合併症のリスク
肺炎球菌感染症の予後は、感染部位や患者の基礎疾患によって大きく異なります。侵襲性肺炎球菌感染症の場合、日本での報告では致死率は約19%とされており、重篤な転帰をたどる可能性が高いことが知られています。
髄膜炎は進行が速く、死亡や後遺症のリスクが高い疾患です。小児における肺炎球菌性髄膜炎の研究では、退院時の治癒および改善率は22.5%(36/160)および66.2%(106/160)であり、18例(11.3%)が不良な転帰を示したことが報告されています。頭蓋内合併症は1歳未満の小児でより頻繁に観察され、発熱が最も一般的な臨床症状であり、硬膜下滲出液/気腫および水頭症が最も多い合併症でした。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10921867/
肺炎球菌性肺炎では、菌血症の合併頻度が高く、肺炎や髄膜炎に伴うものが多いですが、時に感染巣がはっきりしない菌血症を起こすことがあります。心内膜炎や心外膜炎、関節炎などを起こすこともあり、その他にも肝硬変患者における特発性細菌性腹膜炎、子宮・卵管炎、皮膚軟部組織感染症の起炎菌にもなることが報告されています。
抗菌薬耐性の問題も予後に影響を与える重要な因子です。日本では、マクロライド耐性を含む薬剤耐性の増加や、ワクチン非含有血清型の出現など、いくつかの懸念があります。ペニシリンに対する感受性率は16%(11/68)、クリンダマイシンは6%(1/17)と低く、エリスロマイシンに対しては完全に耐性(100%, 31/31)という報告もあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10678088/
成人の肺炎球菌感染症は主に小児に棲み付いている肺炎球菌が感染することで起こると考えられているため、小児の保菌状況も重要な疫学的要因となります。肺炎球菌は主に小児の鼻や喉に存在し、咳やくしゃみによって周囲に飛び散り、それを吸い込んだ人へと広がっていきます。からだの抵抗力(免疫力)が低下している人などが肺炎球菌に感染すると、肺炎球菌感染症になることがあります。
感染症の種類 | 主な症状 | 重症度 | 致死率・予後 |
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肺炎 | 発熱、咳嗽、膿性痰、胸痛、呼吸困難 | 中~高 | 市中肺炎の主要原因 |
菌血症 | 高熱、寒気、低血圧、意識障害 | 高 | 迅速な治療が必須 |
ここるみクリニックでは、肺炎球菌による肺炎の症状と治療について詳しい解説が掲載されています
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