副腎皮質ホルモン剤一覧と作用時間の特徴

副腎皮質ホルモン剤一覧と特徴

副腎皮質ホルモン剤の基本情報
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作用時間による分類

短時間型(8〜12時間)、中間型(12〜36時間)、長時間型(36〜54時間)の3種類に分類されます。

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主な作用

抗炎症作用、免疫抑制作用、抗アレルギー作用などがあり、様々な疾患の治療に使用されます。

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使用上の注意点

長期使用による副作用リスクや特定疾患(褐色細胞腫など)への使用制限があります。

副腎皮質ホルモン剤は現代医療において非常に重要な薬剤群です。これらは副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンを人工的に合成したもので、強力な抗炎症作用や免疫抑制作用を持ち、様々な疾患の治療に広く使用されています。本記事では、副腎皮質ホルモン剤の種類や特徴、使用上の注意点などを詳しく解説します。

副腎皮質ホルモン剤の作用時間による分類と特徴

副腎皮質ホルモン剤は、その生物学的半減期と作用時間によって主に3つのタイプに分類されます。それぞれの特徴を理解することで、適切な薬剤選択が可能になります。

  1. 短時間型(生物学的半減期:8〜12時間)
    • 代表薬:ヒドロコルチゾン(コートリル)、酢酸コルチゾン(コートン)
    • 特徴:電解質作用が強く、作用時間が短い
    • 用途:副腎皮質不全の補充療法、ショックの治療(経静脈的投与)
    • 血中半減期:約1.2〜1.5時間
  2. 中間型(生物学的半減期:12〜36時間)
  3. 長時間型(生物学的半減期:36〜54時間)
    • 代表薬:ベタメタゾン、デキサメタゾン
    • 特徴:抗炎症作用が最強で、作用時間が長く、電解質作用が弱い
    • 注意点:受容体への結合が強く、下垂体副腎機能抑制が強い

これらの分類を理解することで、治療目的や患者の状態に応じた適切な薬剤選択が可能になります。例えば、急性期の強い炎症には作用の強い長時間型が、維持療法には副作用の少ない中間型が選択されることが多いです。

副腎皮質ホルモン剤の商品一覧と薬価比較

2025年3月現在の副腎皮質ホルモン剤の主な商品と薬価を紹介します。医療機関での処方や薬剤選択の参考にしてください。

経口剤

  • メドロール(ファイザー)
    • メドロール錠2mg:6.1円/錠
    • メドロール錠4mg:9.6円/錠
  • コートリル(ファイザー)
    • コートリル錠10mg:7.4円/錠
  • プレドニゾロン製剤
    • プレドニゾロン錠「タケダ」5mg:10.1円/錠
    • プレドニゾロン散「タケダ」1%:6.7円/g
    • プレドニン錠5mg(シオノギファーマ):10.1円/錠
    • プレドニゾロン錠1mg(旭化成):8.6円/錠

    注射剤

    • ソル・メドロール(ファイザー)
      • ソル・メドロール静注用40mg:279円/瓶
      • ソル・メドロール静注用125mg:605円/瓶
      • ソル・メドロール静注用500mg:1,668円/瓶
      • ソル・メドロール静注用1000mg:2,907円/瓶
    • ハイドロコートン(日医工)
      • 水溶性ハイドロコートン注射液100mg:495円/瓶
      • 水溶性ハイドロコートン注射液500mg:1,782円/瓶
    • ヒドロコルチゾンリン酸エステルNa(共創未来ファーマ)
      • ヒドロコルチゾンリン酸エステルNa静注液100mg「AFP」:191円/管
      • ヒドロコルチゾンリン酸エステルNa静注液500mg「AFP」:715円/瓶

      外用剤

      • ロコイド(鳥居薬品)
        • ロコイド軟膏0.1%:14.9円/g
        • ロコイドクリーム0.1%:14.9円/g
      • リドメックス(興和)
        • リドメックスコーワ軟膏0.3%:14.7円/g
        • リドメックスコーワクリーム0.3%:14.7円/g
        • リドメックスコーワローション0.3%:14.7円/g
      • キンダベート(グラクソ・スミスクライン)
        • キンダベート軟膏0.05%:13.8円/g

        これらの薬価情報は医療機関での薬剤選択や患者への説明の際に役立ちます。また、先発品と後発品(ジェネリック医薬品)の価格差も大きいため、コスト面での検討材料としても重要です。

        副腎皮質ホルモン剤の糖質コルチコイドと鉱質コルチコイド作用

        副腎皮質ホルモン剤の作用は主に「糖質コルチコイド作用」と「鉱質コルチコイド作用」の2つに分けられます。これらの作用バランスは薬剤によって異なり、治療目的に応じた選択が重要です。

        糖質コルチコイド作用

        • 主な効果:抗炎症作用、免疫抑制作用、抗アレルギー作用
        • 代謝への影響:糖新生促進、タンパク質分解促進、脂肪分解
        • 臨床応用:自己免疫疾患、アレルギー疾患、炎症性疾患の治療

        鉱質コルチコイド作用

        • 主な効果:電解質バランスの調整(Na+保持、K+排泄)
        • 水分代謝への影響:体液量増加、血圧上昇
        • 臨床応用:アジソン病などの腎不全の補充療法

        各薬剤の作用比較

        一般名(商品名) 糖質コルチコイド作用 鉱質コルチコイド作用 特徴
        ヒドロコルチゾン(コートリル) 1.0 1.0 天然型、電解質作用強い
        プレドニゾロン(プレドニン) 3.5〜4.0 0.8 汎用性高い、電解質作用弱い
        メチルプレドニゾロン(メドロール) 5.0 0.5 抗炎症作用強い、電解質作用弱い
        トリアムシノロン(レダコート) 4.0〜5.0 0 電解質作用ほぼなし、ミオパシーに注意
        ベタメタゾン(リンデロン) 20〜30 0 長時間作用型、強力な抗炎症作用
        デキサメタゾン(デカドロン) 20〜30 0 長時間作用型、強力な抗炎症作用
        フルドロコルチゾン(フロリネフ) 10 125 鉱質コルチコイド作用が極めて強い

        この作用バランスを理解することで、例えば抗炎症作用を期待する場合は糖質コルチコイド作用の強いベタメタゾンやデキサメタゾンを、副腎不全の補充療法には鉱質コルチコイド作用も持つヒドロコルチゾンやフルドロコルチゾンを選択するなど、適切な薬剤選択が可能になります。

        副腎皮質ホルモン剤の使用上の注意点と褐色細胞腫への影響

        副腎皮質ホルモン剤は強力な薬理作用を持つ反面、様々な副作用や使用上の注意点があります。特に近年注目されているのが、褐色細胞腫患者への投与リスクです。

        褐色細胞腫患者への投与リスク

        2022年5月、厚生労働省は副腎皮質ホルモン剤が褐色細胞腫患者に危険を及ぼす可能性があると注意喚起しました。褐色細胞腫は副腎から発生し、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコラミンを産生する腫瘍です。

        以下の副腎皮質ホルモン剤を褐色細胞腫患者(疑いを含む)に投与すると、褐色細胞腫からの急激なカテコールアミン分泌が起こり、高血圧、全身症状、臓器障害を呈する「褐色細胞腫クリーゼ」を発現する可能性があります。

        • ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(セレスタミン配合錠など)
        • ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン注など)
        • その他の副腎皮質ホルモン剤

        褐色細胞腫クリーゼは予後不良のケースも少なくないため、これらの患者には慎重な投与が必要です。

        一般的な副作用と注意点

        1. 短期使用での副作用
          • 消化管障害(胃潰瘍、消化管出血)
          • 精神神経症状(不眠、興奮、気分変調)
          • 感染症リスクの増大
          • 高血糖
        2. 長期使用での副作用
        3. 外用剤の副作用
          • 皮膚萎縮
          • 毛細血管拡張
          • ステロイド皮膚症
          • 全身性の副作用(大量使用時)

        特に外用剤については、0.05%クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏を1日10g単純塗布した場合の副腎皮質機能抑制は、ベタメタゾン錠を1日0.5mg内服した場合に相当するという報告があります。大量・長期の外用でも全身性の副作用が生じる可能性があるため注意が必要です。

        副腎皮質ホルモン剤のショートコンタクトセラピーと新しい投与法

        副腎皮質ホルモン剤の副作用を軽減するための新しい投与法として、近年「ショートコンタクトセラピー」が注目されています。これは従来の方法と比較して、薬剤の皮膚への接触時間を短くすることで効果を維持しながら副作用を軽減する方法です。

        ショートコンタクトセラピーの概要

        ショートコンタクトセラピーは、強力なステロイド外用剤を短時間だけ皮膚に接触させ、その後洗い流すという方法です。この方法により、皮膚への浸透は十分に得られる一方、全身への吸収は最小限に抑えることができます。

        代表的な製剤

        • クロベタゾールプロピオン酸エステル(コムクロ®)などのシャンプー様外用剤
        • 特殊な基剤を用いた速乾性のローション剤やスプレー剤

        適応疾患

        使用方法の例

        1. 患部に薬剤を塗布
        2. 5〜15分間放置
        3. 温水でよく洗い流す
        4. 1日1〜2回の頻度で実施

        従来法との比較

        項目 従来の塗布法 ショートコンタクトセラピー
        接触時間 24時間(連続) 5〜15分(短時間)
        効果発現 やや遅い 比較的早い
        副作用リスク 高い 低い
        患者負担 衣類への付着など 洗い流す手間
        適応 広範囲 限局性病変に適する

        ショートコンタクトセラピーは特に、強力なステロイド外用剤を必要とするが副作用が懸念される場合や、顔面など副作用が出やすい部位への使用に適しています。また、小児や高齢者など副作用リスクの高い患者にも有用な選択肢となります。

        この新しい投与法は、副腎皮質ホルモン剤の「効果は最大限に、副作用は最小限に」という理想的な使用を可能にする方法として、今後さらに研究と普及が進むことが期待されています。

        副腎皮質ホルモン剤の選択基準とテーパリング方法

        副腎皮質ホルモン剤の選択は疾患の種類や重症度、患者の状態などを考慮して行う必要があります。また、長期使用後の中止方法(テーパリング)も重要なポイントです。

        疾患別の薬剤選択基準

        1. 自己免疫疾患(関節リウマチ、SLEなど)
          • 中等度〜重度:プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン
          • 急性増悪時:メチルプレドニゾロンパルス療法
          • 維持療法:少量のプレドニゾロン
        2. アレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)
          • 全身性:プレドニゾロン、ベタメタゾン
          • 局所療法:吸入ステロイド(ブデソニドなど)、外用ステロイド
        3. 皮膚疾患
          • 軽度:ヒドロコルチゾン酪酸エステル(ロコイド)
          • 中等度:プレドニゾロン吉草酸エステル(リドメックス)
          • 重度:クロベタゾールプロピオン酸エステル(デルモベート)
        4. 副腎不全
          • 急性期:ヒドロコルチゾン静注
          • 維持療法:ヒドロコルチゾン経口+フルドロコルチゾン

        患者特性による選択基準

        1. 小児
          • 成長抑制の少ない短時間作用型を選択
          • 隔日投与を考慮
          • 局所療法を優先
        2. 高齢者
          • 骨粗鬆症リスクを考慮
          • 消化管保護薬の併用
          • 感染症リスクに注意
        3. 妊婦
          • 胎盤通過性の低いプレドニゾロンを選択
          • 最小有効量で使用
          • 局所療法を優先

        テーパリング(漸減)方法

        副腎皮質ホルモン剤の長期使用後は、下垂体-副腎系の抑制により急な中止は危険です。適切なテーパリングが必要です。

        テーパリングの基本原則

        1. 使用期間が2週間以内であれば、急な中止も可能
        2. 2週間以上の使用では、徐々に減量する
        3. 高用量・長期使用ほど、ゆっくりと減量する

        テーパリングの実際例(プレドニゾロン使用の場合)

        • 初期用量が30mg/日の場合。
          • 1週目:25mg/日
          • 2週目:20mg/日
          • 3週目:15mg/日
          • 4週目:10mg/日
          • 5週目:7.5mg/日
          • 6週目:5mg/日
          • 7週目:2.5mg/日
          • 8週目:中止

          テーパリング中の注意点

          • 原疾患の再燃兆候に注意
          • 副腎不全症状(倦怠感、食欲不振、低血圧など)に注意
          • ストレス時(手術、感染症など)は一時的に増量を検討
          • 10mg/日以下の減量は特に慎重に行う

          適切なテーパリングにより、副腎不全や原疾患の再燃リスクを最小限に抑えることができます。患者への十分な説明と、症状変化の注意深い観察が重要です。

          副腎皮質ホルモン剤の選択とテーパリングは、その薬理学的特性を十分に理解した上で、個々の患者に合わせた慎重な判断が必要です。特に長期使用例では、骨粗鬆症予防や感染症対策などの副作用対策も併せて検討することが重要です。

          日本リウマチ学会:ステロイド薬の適切な使用と減量方法についての詳細情報

          以上、副腎皮質ホルモン剤の一覧と特徴について解説しました。これらの薬剤は現代医療において非常に重要な位置を占めていますが、その強力な作用ゆえに適切な使用が求められます。疾患の種類や重症度、患者の状態を考慮した薬剤選択と、副作用の予防・対策を常に念頭に置いた治療計画が重要です。医療従事者は最新の情報を常にアップデートし、エビデンスに基づいた適切な治療を提供することが求められています。