DPP4阻害薬の強さ比較と種類ごとの特徴・副作用

DPP4阻害薬の強さ比較

DPP4阻害薬の強さ・特徴・副作用の比較
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強さの比較

HbA1c低下作用は薬剤ごとに異なります。メタ解析ではテネリグリプチンが最も強いという報告があります。

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種類と使い分け

腎機能や心機能、併用薬に応じて適切な薬剤を選択することが重要です。特にトラゼンタは胆汁排泄が特徴です。

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副作用と薬価

心不全リスクや水疱性類天疱瘡に注意が必要です。薬価も先発品と後発品で大きく異なるため考慮が必要です。

DPP4阻害薬の強さ比較ランキングとHbA1c低下作用

 

2型糖尿病治療において、DPP-4阻害薬は血糖降下作用と低血糖リスクの低さから広く使用されています 。しかし、その効果の強さ、特にHbA1c低下作用は薬剤によって異なります 。どのDPP-4阻害薬が最も効果的なのかは、臨床現場で常に議論の的となります 。
2024年に発表された58のランダム化比較試験(RCT)を含むネットワークメタ解析では、プラセボと比較した際のHbA1c低下作用について、以下の様な序列が報告されています 。

参考)DPP4阻害薬で最も強いのは?

この結果から、テネリグリプチンが最もHbA1cを低下させる効果が強い可能性が示唆されています 。ただし、このメタ解析はあくまでも多くの研究結果を統合したものであり、個々の患者さんへの効果を保証するものではありません 。患者の背景(年齢、罹病期間、合併症の有無、人種など)によって薬剤の効果は変動するため、このランキングはあくまで参考情報として捉えるべきです 。例えば、ある研究ではアログリプチンとメトホルミンの併用が、サキサグリプチンとメトホルミンの併用よりもHbA1c 7%未満を達成する割合が高かったと報告されています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4065303/


また、DPP-4阻害薬は、インクレチンの分解を抑制することで血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制するため、単剤では低血糖を起こしにくいという共通の利点があります 。そのため、強さだけでなく、患者さん一人ひとりの状態に合わせた薬剤選択が求められます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8558587/

DPP4阻害薬の種類とそれぞれの特徴・使い分け

日本国内では現在9種類のDPP-4阻害薬が使用可能で、それぞれに異なる特徴があり、患者の病態やライフスタイルに応じた使い分けが重要です 。

DPP-4阻害薬の主な種類と特徴

一般名(販売名) 用法 主な排泄経路 腎機能低下時の投与 特徴
シタグリプチン(ジャヌビア/グラクティブ) 1日1回 腎排泄 用量調節が必要 最も早く登場したDPP-4阻害薬の一つで、豊富な臨床データを持つ 。
ビルダグリプチン(エクア) 1日2回 腎排泄/肝代謝 中等度以上の腎機能障害では禁忌 1日2回投与でより厳格な血糖コントロールを目指せる可能性がある 。
アログリプチン(ネシーナ) 1日1回 腎排泄 用量調節が必要 HbA1c低下作用が比較的強いと報告されている 。
リナグリプチン(トラゼンタ) 1日1回 胆汁排泄 腎機能による用量調節が不要 腎機能が低下した患者にも投与しやすいのが最大の特徴 。
テネリグリプチン(テネリア) 1日1回 腎排泄/肝代謝 用量調節が不要 HbA1c低下作用が最も強いとの報告がある 。腎機能低下時も用量調節不要。
アナグリプチン(スイニー) 1日2回 腎排泄 用量調節が必要 食後高血糖の改善に優れるとされる。1日2回投与 。
トレラグリプチン(ザファテック) 週1回 腎排泄 用量調節が必要 週1回の投与で済むため、服薬アドヒアランスの向上が期待できる 。

特に重要なのが腎機能に応じた使い分けです 。DPP-4阻害薬の多くは腎排泄性であるため、腎機能が低下している患者さんでは血中濃度が上昇し、副作用のリスクが高まる可能性があります 。そのため、シタグリプチンやアログリプチンなどは腎機能(eGFR)に応じて用量を減らす必要があります 。

参考)<ディベート>第一選択薬として優れるのは? 「DPP-4 阻…


一方で、リナグリプチン(トラゼンタ)は主に胆汁中に排泄されるため、腎機能の程度にかかわらず用量調節が不要です 。テネリグリプチン(テネリア)も腎機能に応じた用量調節は不要とされており、これらの薬剤は腎機能障害を合併する糖尿病患者さんにとって有力な選択肢となります。

参考)糖尿病薬物治療その2:DPP4阻害薬について

DPP4阻害薬の副作用比較と心不全・腎機能への影響

DPP-4阻害薬は全般的に安全性が高い薬剤ですが、注意すべき副作用もいくつか報告されています 。特に注目されるのが、心不全への影響と水疱性類天疱瘡です 。
心不全リスク
大規模臨床試験(SAVOR-TIMI 53)において、サキサグリプチン(オングリザ)が心不全による入院リスクをプラセボと比較して有意に増加させた(ハザード比 1.27)と報告されたことは大きな衝撃を与えました 。この結果を受け、サキサグリプチンの添付文書には心不全のリスクに関する注意喚起が記載されています。他のDPP-4阻害薬では、アログリプチン(ネシーナ)で心不全入院リスクの増加傾向が見られたものの、統計的な有意差はありませんでした(EXAMINE試験) 。シタグリプチン(ジャヌビア)やリナグリプチン(トラゼンタ)では、心不全リスクの有意な増加は報告されていません 。そのため、心不全のリスクが高い患者さんや既往のある患者さんに対しては、薬剤の選択を慎重に行う必要があります 。

水疱性類天疱瘡
DPP-4阻害薬に特徴的な副作用として、自己免疫性の水疱性疾患である水疱性類天疱瘡が挙げられます 。発症機序の詳細は不明ですが、DPP-4阻害薬を服用中の患者で水疱やびらんなどの皮膚症状が現れた場合は、この副作用を疑い、皮膚科専門医への相談と薬剤の中止を検討する必要があります。全てのDPP-4阻害薬で報告がありますが、特にビルダグリプチン(エクア)で報告が多いという指摘もあります。

その他の副作用
その他、低血糖(特にSU薬など他剤と併用時)、急性膵炎、肝機能障害、便秘、関節痛などが報告されています 。いずれも頻度は高くありませんが、患者さんへの説明と定期的なモニタリングが重要です。特に急性膵炎は、発症すると重篤化する可能性があるため、持続的な激しい腹痛や嘔吐などの初期症状を見逃さないように注意喚起することが大切です。

参考)https://www.phamnote.com/2017/09/dpp-4.html


腎機能への直接的な影響としては、DPP-4阻害薬が腎臓を保護する可能性を示唆する基礎研究もありますが、現時点ではSGLT2阻害薬ほど明確な腎保護効果は確立されていません 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11315305/

DPP4阻害薬の薬価比較とSGLT2阻害薬との違い

薬剤選択において、効果や安全性と並んで重要な要素が薬価です 。特に長期にわたる治療が必要な糖尿病では、患者さんの経済的負担も考慮しなければなりません 。DPP-4阻害薬の薬価は、薬剤の種類や先発品か後発品(ジェネリック医薬品)かによって大きく異なります 。

主なDPP-4阻害薬の薬価(1日あたり・2025年11月時点の概算)

販売名(用量) 先発品薬価(1日あたり) 後発品薬価(1日あたり)
ジャヌビア(50mg) 約82円
グラクティブ(50mg) 約85円
エクア(50mg) 約43円(1日2回で約86円) 約18円(1日2回で約37円)
ネシーナ(25mg) 約157円
トラゼンタ(5mg) 約119円
テネリア(20mg) 約98円

※薬価は改定されるため、最新の情報をご確認ください 。後発品が登場しているビルダグリプチン(エクア)は、経済的負担を大きく軽減できる可能性があります 。

SGLT2阻害薬との比較
近年、DPP-4阻害薬としばしば比較されるのがSGLT2阻害薬です 。両者は異なる作用機序を持ち、使い分けが重要です 。

  • 作用機序: DPP-4阻害薬がインクレチンを介して血糖降下作用を示すのに対し、SGLT2阻害薬は腎臓での糖の再吸収を抑制し、尿中へ糖を排泄させることで血糖を下げます 。
  • 心血管・腎臓への影響: SGLT2阻害薬は、心不全や慢性腎臓病CKD)の進行を抑制する効果が大規模臨床試験で証明されており、これらの合併症を持つ患者に積極的に推奨されます 。DPP-4阻害薬には、SGLT2阻害薬ほど強力な心・腎保護効果は示されていません 。実際に、SGLT2阻害薬を投与されている患者は、DPP-4阻害薬の患者に比べて心不全や慢性腎臓病の合併率が著しく高いというデータもあります 。
  • 体重への影響: SGLT2阻害薬は尿糖排泄により体重減少効果が期待できますが、DPP-4阻害薬は体重に対しては中立的です 。
  • 副作用: SGLT2阻害薬は尿路・性器感染症や脱水ケトアシドーシスに注意が必要ですが、DPP-4阻害薬ではこれらのリスクは低いです 。

高齢者や腎機能が低下している患者、多剤併用で副作用が懸念される場合など、多くの日本人2型糖尿病患者においてDPP-4阻害薬が第一選択薬として優れているという意見もあります 。
参考情報:SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の配合剤に関する情報
SGLT2 阻害薬の逆襲 – 愛知県医師会

【独自視点】DPP4阻害薬の多面的効果と免疫への影響

DPP-4阻害薬の作用は、血糖降下作用だけにとどまりません 。DPP-4(Dipeptidyl peptidase-4)という酵素は、血糖調節ホルモンであるインクレチン(GLP-1やGIP)以外にも、体内の様々な生理活性物質を分解する働きを持っています 。この酵素は全身に広く分布しており、特に免疫細胞(T細胞など)の表面に多く発現していることが知られています 。そのため、DPP-4を阻害することは、血糖コントロールを超えた「多面的効果(Pleiotropic effects)」をもたらす可能性があり、近年その研究が進んでいます 。
免疫系への関与
DPP-4はCD26という分子名でも知られ、T細胞の活性化や増殖に関わる重要な分子です 。理論上、DPP-4阻害薬はこの免疫応答を調節する可能性があります。例えば、炎症性サイトカインの産生を抑制したり、逆に免疫機能を高めたりする可能性が基礎研究レベルで示唆されています。

参考)https://www.touchendocrinology.com/wp-content/uploads/sites/5/2024/09/6.-touchENDOCRINOLOGY_20.2_Zaka_19-29.pdf


ある研究では、DPP-4阻害薬が炎症を抑制することで、動脈硬化の進展を抑制する可能性が報告されています。これは、DPP-4が分解するはずだったケモカインなどの基質が維持されることによる影響と考えられています 。

神経保護作用の可能性
GLP-1は中枢神経系にも作用し、神経保護作用や食欲抑制作用を持つことが知られています 。DPP-4阻害薬は脳内のGLP-1濃度を高めることで、アルツハイマー病などの神経変性疾患の進行を遅らせるのではないかという仮説があり、現在も研究が続けられています。

心血管系への影響
前述の通り、一部のDPP-4阻害薬で心不全リスクの増加が懸念される一方、GLP-1自体は心保護的に働くことが知られています 。DPP-4阻害薬による心血管イベントへの影響は、薬剤の化学構造や、GLP-1以外の基質への影響などが複雑に関与していると考えられ、単純ではありません 。リナグリプチンやシタグリプチンでは心血管イベントを増加させなかったという報告もあり、薬剤ごとの特性を理解することが重要です 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6360916/


これらの多面的効果は、まだ研究段階のものも多く、臨床的な意義が完全に確立されているわけではありません 。しかし、DPP-4阻害薬を選択する際に、単なる血糖降下薬としてだけでなく、患者が持つ他の併存疾患(例えば、慢性的な炎症性疾患など)への潜在的な影響を考慮に入れるという視点は、今後の個別化医療において重要になるかもしれません。DPP-4阻害薬が持つ血糖降下作用以外のポテンシャルは、この薬剤クラスの評価をさらに奥深いものにしています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4434481/


参考情報:DPP-4の多機能性に関する包括的なレビュー
New Insights into the Pleiotropic Actions of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors Beyond Glycaemic Control – touchENDOCRINOLOGY

インクレチン治療―GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬による新たな糖尿病治療