ckdヒートマップと蛋白尿
ckdヒートマップの重症度分類とGFR区分
ckdヒートマップは、GFR区分(G1〜G5)と蛋白尿区分(A1〜A3)を掛け合わせてリスクを色分けする「重症度分類」です。根拠はKDIGO 2012の枠組みで、日本腎臓学会が日本の運用に合わせて改変した表が広く使われています。GFR区分はeGFR(mL/分/1.73m2)で、G1≧90、G2 60〜89、G3a 45〜59、G3b 30〜44、G4 15〜29、G5<15が目安です。これだけ見るとG2は「軽度低下」なので安心しがちですが、ヒートマップの怖さは「Gが保たれていてもAが高いと色が一気に赤に寄る」点にあります(後述します)。
実務上のコツは、GFR区分は“単発の値”ではなく“傾向”も同時に見ることです。最新の日本腎臓学会ガイドラインでは、CKD進行評価として「eGFRスロープ」や「一定期間でのeGFR 30%/40%低下」も重要な指標として整理されています。特に「3カ月以内に30%以上の腎機能悪化」は、紹介基準の例外として強く意識すべき安全弁です。薬剤(RA系阻害薬やSGLT2阻害薬など)開始後の初期低下という“生理的に起こり得る下がり方”もある一方、落ち方が大きい場合は腎血行動態以外の病態(脱水、腎動脈狭窄、NSAIDs併用など)を疑う入口になります。
医療現場でありがちな落とし穴として「eGFRは施設・時期で微妙に揺れるから、G3a⇄G2を行き来して見える」ケースがあります。ここでGだけで判断するとフォロー間隔がぶれます。ヒートマップ運用では、A(蛋白尿)を固定軸にして考えると判断が安定します。つまり、Gの1段階の揺れよりも、A2/A3の存在を“優先して重く見る”設計が安全です。
ckdヒートマップの蛋白尿区分と尿蛋白定量
蛋白尿区分は、本来はアルブミン尿(ACR)でA1〜A3に分けますが、日本では保険診療上、アルブミン尿定量の適用が糖尿病や糖尿病性早期腎症などに制限される状況があります。そこで日本腎臓学会の枠組みでは、アルブミン尿が測れない場合に尿蛋白定量(尿蛋白/Cr比など)で代用できるように整理されています。目安として、A1は尿蛋白/Cr比0.15未満(またはACR 30未満)、A2は0.15〜0.49(ACR 30〜299)、A3は0.50以上(ACR 300以上)です。
「尿定性が陰性だからA1」と即断するのは危険です。最新の国内ガイドライン本文でも、尿蛋白(±)が微量アルブミン尿相当以上を含み得ること、健診という文脈では尿蛋白(±)の扱いを工夫する議論が整理されています。つまり“±は灰色”で、病態や背景(高血圧・糖尿病・肥満・心不全リスクなど)によっては次の一手(定量へ)を迷わないことが重要です。忙しい外来では「定性→定量→病態評価」の段取りが滞りがちなので、オーダーセット化して運用に組み込むのが現実的です。
あまり知られていない(しかし現場で効く)ポイントは、「低蛋白尿域ではアルブミン/蛋白の比がばらつき、蛋白定量とアルブミン定量の見え方が一致しにくい」ことです。ガイドライン本文でも、正常〜軽度蛋白尿域ではアルブミン・蛋白比が30%未満でばらつきが大きい一方、高度蛋白尿では60〜70%程度に上がりばらつきが小さくなる、という整理がされています。つまり、A2付近の患者ほど“測定法の違いによる解釈ズレ”が出やすいので、検査の一貫性(同じ方法・同じタイミング・同じ前提条件)を意識すると説明が通りやすくなります。
患者説明では、ヒートマップを「赤だから危険」だけで終わらせず、蛋白尿を“治療で動かせる指標”として扱うと行動変容につながります。ガイドラインでは、蛋白尿・アルブミン尿はCKDの診断および重症度判定で必須であるだけでなく、経過観察・治療効果の指標としても重要だと整理され、減塩・減量などの非薬物介入や、RA系阻害薬、MRA、SGLT2阻害薬などが蛋白尿低下に寄与し得ることが述べられています。つまり「Aを下げる=色を戻す可能性がある」というメッセージが、治療継続の動機づけになります。
ckdヒートマップと尿アルブミン定量
尿アルブミン定量(ACR)は、糖尿病性腎臓病の早期診断で特に重要です。典型的な糖尿病性腎臓病は微量アルブミン尿で発症するため、eGFRが保たれている段階でもA2を拾えるかが分岐点になります。実際、ガイドラインでは「eGFR<60またはアルブミン尿(ACR 30mg/gCr以上)」がCKD診断・リスクの土台として整理されており、腎機能低下とアルブミン尿が全死亡・心血管死・末期腎不全などのリスク因子であることが再確認された経緯も説明されています。
意外と盲点になるのが「アルブミン尿は腎疾患特異的ではない」という点です。アルブミン尿は高血圧、メタボ、炎症や血行動態の影響などでも陽性になり得るため、陽性=即腎炎ではありません。一方で、リスクマーカーとしては非常に強いので、陽性なら“原因精査の入口”には確実に立てます。現場の安全設計としては「アルブミン尿が出たら、原因疾患(C)も意識してCGAで記載する」ことが重要です(例:糖尿病性腎臓病G2A2など)。Cを意識すると、生活習慣病由来なのか、一次性腎疾患の可能性なのかで、次の検査(沈渣、画像、免疫、腎生検相談など)への分岐が明確になります。
もう一つ、現場で説明に効く“意外な事実”は、国内ではアルブミン尿定量の保険適用が限定され、世界標準の運用とズレが残っている点です。ガイドライン本文でも、その制約がCKD評価の課題として言及され、アルブミン尿測定が原疾患に限らず施行可能となることが望ましい、と整理されています。患者への説明では「本当はこの検査が理想だが、日本では適用条件があるため、代わりに尿蛋白定量で追う」など、制度と医学を切り分けて伝えると不信感が生まれにくいです。
必要に応じて参照できる原典(英文ガイドライン)も挙げておきます。KDIGOのCKDガイドライン(2012)はヒートマップ(リスクグリッド)の原型であり、国際的な共通言語になっています。
論文・ガイドライン(英文)。
ckdヒートマップの紹介基準と検査頻度
ヒートマップは「色=予後リスク」を示すだけでなく、「色=診療の手間(検査頻度・連携強度)」に変換して初めて現場で機能します。日本腎臓学会のガイドライン本文では、症状がなく腎機能が長期安定している患者でも、ヒートマップが黄色なら6〜12カ月に1回以上、オレンジなら3〜6カ月に1回以上、赤なら少なくとも3カ月に1回以上の血液検査・尿検査を行う、という実務的な目安が示されています。これは“誰が診ても同じ頻度になる”という意味で、医療の質を標準化します。
紹介基準についても、ヒートマップの考え方が下敷きになります。ガイドラインには、かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準が表として整理され、G3b〜G5は蛋白尿区分にかかわらず紹介、G3aは年齢や蛋白尿区分で分岐、G1〜G2でも血尿を伴う場合などは紹介、などのルールが示されています。さらに重要なのが例外ルールで、「3カ月以内に30%以上の腎機能悪化」を認める場合は速やかに紹介する、と明記されています。ここは忙しい現場ほど抜けやすいので、検査結果の見方に“自動アラート”を組み込む(電子カルテで前回比を出す、外来でΔeGFRを表示する)と事故が減ります。
見落としがちな実務論点として「腎臓内科紹介=患者が不安になる」という問題があります。紹介の言い方を、ヒートマップの色で“客観指標”として説明すると納得が得られやすいです。例えば「赤だから末期という意味ではなく、将来のイベントを減らすためにチームを強くする段階」と説明できます。また、紹介後の逆紹介(併診)を前提にすると、かかりつけ医の診療継続にもつながり、患者の通院負担も調整できます。ガイドラインでも、地域の状況を踏まえて受診形態(併診・逆紹介等)を検討する重要性が述べられています。
参考:紹介・連携の根拠(日本腎臓学会の紹介基準表、検査頻度の目安、例外ルールがまとまっています)
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023 第1章(診断・重症度・紹介基準)
ckdヒートマップの独自視点:CGA分類と現場のヒートマップ運用
検索上位の解説はGA(GFR×アルブミン尿)に寄りがちですが、実臨床では「C(原因)」を入れたCGA分類を意識すると、ヒートマップが“単なる色塗り”から“治療戦略の地図”に変わります。日本腎臓学会の資料でも、CKDは原因(C)とGFR(G)と蛋白尿(A)を組み合わせて表記し、原因疾患をできるだけ記載することが推奨されています。例えば同じG3aA2でも、糖尿病性腎臓病、高血圧性腎硬化症、IgA腎症疑いでは、診療の次の一手が大きく違います。つまり、ヒートマップは“共通言語”であり、Cを付けることで“専門性”が乗ります。
現場運用で効く、少し意外な工夫を挙げます(意味のない文字数増やしではなく、明日から使える手順です)。
- 🧩「GとAが揃った時点でCを仮置きする」:糖尿病・高血圧の既往がある場合でも、尿沈渣や血尿、蛋白尿の増え方が典型から外れるなら“C不明”のまま固定しない。
- 🧾「ヒートマップ色+ΔeGFRの二軸で説明する」:色が黄色でも短期でeGFRが落ちるなら危険、赤でも長期安定なら外来計画は組める、という“動的評価”が患者にも伝わる。
- 🧠「検査の標準化を優先する」:同じ患者のフォローでは、尿蛋白/Cr比、採尿条件、測定法、採血タイミングを可能な限り揃える。A2境界の揺れが減り、説明の説得力が上がる。
さらに“意外な情報”として、ガイドライン本文では、尿蛋白(±)の扱いを健診文脈で再考する議論があり、「尿蛋白(±)でも微量アルブミン尿相当以上が含まれ得る」ことが示されています。これを踏まえると、かかりつけ医の現場では「±を放置しない」だけで、A2の拾い上げが改善し得ます。つまり、派手な新規治療よりも、検尿の解釈と定量への導線整備が、地域のCKDアウトカム改善に直結する可能性があります。
参考:CGA分類(原因Cを併記する意義、GFR区分と蛋白尿区分の定義がまとまっています)