アルブミン一覧と基準値
アルブミンは、血液中に最も多く存在するタンパク質で、全血漿タンパク質の約50~65%を占めています。主に肝臓で合成され、血管内の浸透圧維持や様々な物質の運搬など、生体内で重要な役割を担っています。医療現場では、血清アルブミン値の測定は肝機能検査の一環として頻繁に行われ、また人血清アルブミン製剤は様々な病態の治療に使用されています。
本記事では、アルブミン製剤の種類や血清アルブミン値の基準値、アルブミン製剤の効能効果について詳しく解説します。医療従事者の方々にとって、日常診療における適切なアルブミン製剤の選択や使用の参考になれば幸いです。
アルブミンの種類と血清アルブミン値の基準値
アルブミンは大きく分けて以下の種類があります。
- 血清アルブミン:脊椎動物の血液の血漿に含まれるアルブミン
- 卵アルブミン:卵白を構成するアルブミン
- 乳アルブミン:乳汁に含まれるアルブミン
このうち、医療現場で最も重要なのは血清アルブミンです。血清アルブミンは肝臓で合成され、健常人の基準値は約3.8~5.3g/dLとされています。また、血清中の別の主要なタンパク質群であるグロブリン濃度との比、アルブミン/グロブリン比(A/G比)も重要な肝機能の臨床検査項目であり、基準範囲は1.2~2.0です。ただし、これらの基準値は測定方法や施設により若干異なる場合があります。
血清アルブミンの主な機能は以下の通りです。
- 浸透圧の保持:血管内外の水分バランスを調整
- 物質の保持・運搬:脂肪酸、ホルモン、ビタミン、薬物などを結合して運搬
- pH緩衝作用:血液のpHを一定に保つ
- 各組織へのアミノ酸供給
- 抗酸化作用
血清アルブミン値が低下すると、浮腫(むくみ)や腹水などの症状が現れることがあります。
アルブミン製剤一覧と薬価比較
現在、日本で使用されているアルブミン製剤には、高張製剤(20~25%)と等張製剤(5%)があります。以下に主なアルブミン製剤の一覧と2025年4月時点での薬価を示します。
高張製剤(20~25%)
製品名 | 規格 | 薬価(円) | 製造販売元 |
---|---|---|---|
アルブミナー25%静注 | 12.5g/50mL | 4,436 | CSLベーリング |
アルブミン−ベーリング20%静注 | 10.0g/50mL | 4,288 | CSLベーリング |
献血アルブミン25%静注「ベネシス」 | 5g/20mL | 4,263 | 日本血液製剤機構 |
献血アルブミン25%静注「ベネシス」 | 12.5g/50mL | 4,436 | 日本血液製剤機構 |
献血アルブミン20%静注「JB」 | 4g/20mL | 3,674 | 日本血液製剤機構 |
献血アルブミン20%静注「JB」 | 10g/50mL | 4,717 | 日本血液製剤機構 |
献血アルブミン25%静注「KMB」 | 12.5g/50mL | 4,436 | KMバイオロジクス |
献血アルブミン25%静注「KMB」 | 25g/100mL | 8,872 | KMバイオロジクス |
献血アルブミン20%静注「KMB」 | 10g/50mL | 4,717 | KMバイオロジクス |
献血アルブミン25%静注「タケダ」 | 12.5g/50mL | 4,436 | 武田薬品工業 |
献血アルブミン20%静注「タケダ」 | 4g/20mL | 3,674 | 武田薬品工業 |
献血アルブミン20%静注「タケダ」 | 10g/50mL | 4,717 | 武田薬品工業 |
赤十字アルブミン25%静注 | 12.5g/50mL | 4,436 | 日本血液製剤機構 |
等張製剤(5%)
製品名 | 規格 | 薬価(円) | 製造販売元 |
---|---|---|---|
アルブミナー5%静注 | 12.5g/250mL | 4,362 | CSLベーリング |
献血アルブミン5%静注「JB」 | 5g/100mL | 4,525 | 日本血液製剤機構 |
献血アルブミン5%静注「JB」 | 12.5g/250mL | 4,362 | 日本血液製剤機構 |
献血アルブミン5%静注「タケダ」 | 12.5g/250mL | 4,362 | 武田薬品工業 |
これらの製剤は、「献血」と表示されているものは日本国内の献血由来、それ以外は海外の有償採血由来となっています。製剤の選択にあたっては、患者の病態や必要なアルブミン量、薬価などを考慮して適切なものを選ぶことが重要です。
アルブミン製剤の効能効果と適応症
アルブミン製剤の主な効能効果は以下の通りです。
アルブミン製剤の用法・用量は、通常成人1回100~250mL(5%製剤の場合、人血清アルブミンとして5~12.5g)または20~50mL(20~25%製剤の場合、人血清アルブミンとして4~12.5g)を緩徐に静脈内注射または点滴静脈内注射します。なお、年齢、症状、体重により適宜増減します。
ただし、アルブミン製剤の使用にあたっては、以下の点に注意が必要です。
- 血清アルブミン濃度が2.5~3g/dLでは、末梢の浮腫等の臨床症状を呈さない場合も多く、単なる血清アルブミン濃度の維持を目的として使用すべきではありません。
- 肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症では、アルブミンを投与しても血管内に留まらず血管外に漏出するため、血清アルブミン濃度は期待したほどには上昇せず、かえってアルブミンの分解が促進される場合があります。
アルブミン製剤の効能効果の詳細については厚生労働省のガイドラインを参照
アルブミン低下の原因と低アルブミン血症の治療
血清アルブミン値が低下する主な原因には以下のようなものがあります。
- 低栄養
- タンパク質やエネルギーの摂取不足により、肝臓でのアルブミン合成が低下
- 高齢者や食事メニューに偏りがある人に多く見られる
- 肝疾患
- 肝硬変や肝炎などにより、肝臓でのアルブミン合成能が低下
- 慢性肝疾患では、アルブミン合成能の低下が長期間続く
- 腎疾患
- ネフローゼ症候群では、尿中へのアルブミン漏出が増加
- 大量のタンパク尿によりアルブミンが失われる
- 消化管からの喪失
- タンパク漏出性胃腸症などでは、消化管からアルブミンが漏出
- 炎症性腸疾患や腸リンパ管拡張症などが原因となる
- 体表からの喪失
- 広範囲の熱傷では、傷口からアルブミンが漏出
- 重度の皮膚疾患でも同様の現象が起こる
- 炎症・感染症
- 急性期反応として、アルブミン合成が低下し、他の急性期タンパク質の合成が優先される
- 敗血症や重症感染症で顕著
低アルブミン血症の治療は、原因疾患の治療が基本となります。例えば、低栄養が原因の場合は栄養状態の改善、肝疾患が原因の場合は肝機能の改善を図ります。
アルブミン製剤の投与は、以下のような場合に考慮されます。
- 血清アルブミン値が2.5g/dL未満で、臨床症状(浮腫、腹水など)を伴う場合
- 出血性ショックの治療
- 特定の病態(自発性細菌性腹膜炎、肝腎症候群など)の治療
ただし、アルブミン製剤の投与は一時的な対症療法であり、根本的な原因治療と併用することが重要です。
アルブミン製剤の適正使用と科学的根拠
アルブミン製剤は血液由来製剤であり、貴重な資源です。そのため、科学的根拠に基づいた適正使用が求められています。日本輸血・細胞治療学会が作成した「科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイドライン」では、病態別のアルブミン使用の有用性と推奨が示されています。
以下に、主な病態におけるアルブミン製剤使用の推奨度をまとめます。
強く推奨される使用(推奨度1)
- 大量腹水排液に伴う循環血液量減少の予防
- 特発性細菌性腹膜炎の治療
- 肝腎症候群の予防
弱く推奨される使用(推奨度2)
- 難治性腹水の治療
- 肝性脳症の治療
- 肝移植周術期の大量出血
推奨されない使用(推奨度D)
- 単なる血清アルブミン値の維持
- 栄養補給目的
- 非代償性肝硬変患者の浮腫・腹水に対する長期投与
アルブミン製剤の使用にあたっては、以下の点に注意することが重要です。
- 適応の明確化:アルブミン製剤の投与が本当に必要かどうかを慎重に判断する
- 投与量の適正化:必要最小限の投与量にとどめる
- 効果の評価:投与後の臨床症状や検査値の変化を評価する
- 原因疾患の治療:アルブミン製剤の投与と並行して、原因疾患の治療を行う
特に、慢性肝疾患患者における長期的なアルブミン投与については、その有効性に関するエビデンスが限られており、慎重な判断が必要です。一方、特発性細菌性腹膜炎の治療においては、抗菌薬とアルブミンの併用が肝腎症候群の発症や死亡率を低下させることが示されています。
「科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイドライン」の詳細はこちら
アルブミン値を増やすための栄養管理と臨床応用
低アルブミン血症の治療において、アルブミン製剤の投与だけでなく、アルブミン値を増やすための栄養管理も重要です。特に、低栄養が原因の低アルブミン血症では、適切な栄養管理によってアルブミン合成を促進することが可能です。
アルブミン値を増やすための栄養管理のポイント
- タンパク質摂取の増加
- 良質なタンパク質を含む食品(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品など)を積極的に摂取
- 1日あたり体重1kgあたり1.0~1.5gのタンパク質摂取を目標にする
- 動物性タンパク質と植物性タンパク質をバランスよく摂取し、アミノ酸バランスを整える
- 十分なエネルギー摂取
- タンパク質がエネルギー源として消費されないよう、十分なエネルギーを摂取
- 炭水化物や脂質からのエネルギー摂取も重要
- 肝機能をサポートする栄養素の摂取
- ビタミンB群(B1、B2、B6、B12など):肝臓の代謝機能をサポート
- 抗酸化物質(ビタミンC、E、βカロテンなど):肝細胞の酸化ストレスを軽減
- 亜鉛:タンパク質合成に必要な微量元素
- アルコール摂取の制限
- アルコールは肝機能を低下させ、アルブミン合成を阻害する
- 特に肝疾患がある場合は、アルコール摂取を厳格に制限する
- 経腸栄養・静脈栄養の活用
- 経口摂取が困難な場合は、経腸栄養や静脈栄養を検討
- 特に重症患者では、早期からの栄養サポートが重要
臨床応用例
- 周術期管理
- 術前からの栄養状態改善により、術後合併症リスクを低減
- 術後の創傷治癒促進のため、十分なタンパク質・エネルギー摂取を確保
- 高齢者の低栄養対策
- サルコペニア予防のための栄養介入
- 少量多食、栄養補助食品の活用
- 慢性疾患患者の栄養管理
- 慢性腎臓病:タンパク質制限と質の確保の両立
- 慢性肝疾患:分岐鎖アミノ酸(BCAA)の活用
- 重症感染症患者の栄養管理
- 異化亢進状態でのタンパク質・エネルギー必要量の増加に対応
- 免疫機能維持のための栄養素摂取
栄養管理によるアルブミン値の改善は、アルブミン製剤投与と比較して時間がかかりますが、より生理的かつ持続的な効果が期待できます。特に、慢性的な低アルブミン血症の患者では、長期的な栄養管理が重要です。
医療従事者は、患者の病態に応じて、アルブミン製剤の適正使用と栄養管理を組み合わせた総合的なアプローチを検討することが求められます。