APTT延長の疾患と診断・治療の進め方

APTTが延長する疾患と検査の進め方

APTT延長の基本知識
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APTTとは

活性化部分トロンボプラスチン時間の略で、内因系凝固機能を評価する検査です

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延長の意義

凝固因子活性の40~50%以下への低下を意味し、出血傾向や血栓傾向の可能性があります

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鑑別疾患

血友病、von Willebrand病、抗リン脂質抗体症候群など様々な疾患の可能性があります

APTTの基本と延長が示す凝固異常

APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)は内因系凝固機能を評価する重要な検査です。この検査は、PTとともに止血機能のスクリーニング検査として広く用いられています。APTTが延長する場合、凝固因子活性が40~50%以下に低下していることを意味し、臨床的に重要な意味を持ちます。

APTTの正常値は施設によって異なりますが、一般的に25~40秒程度とされています。しかし、PT-INRとは異なり標準化が難しく、試薬メーカーやロット、測定機器により測定秒数が変動するという特徴があります。同一検体であっても測定結果が大きく乖離することがあるため、解釈には注意が必要です。

APTTが延長する場合、以下のような凝固異常が考えられます:

  • 内因系凝固因子(第VIII、IX、XI、XII因子)の欠乏や異常

  • 共通系凝固因子(第I、II、V、X因子)の欠乏や異常

  • 凝固因子に対するインヒビター(阻害物質)の存在

  • ループスアンチコアグラント(LA)などの循環抗凝血素

特に臨床的に重要なのは、APTTのみが延長し、PTが正常範囲内である場合です。この場合、内因系凝固経路に特異的な問題が存在する可能性が高く、血友病などの出血性疾患や抗リン脂質抗体症候群などの血栓性疾患を鑑別する必要があります。

APTTが延長する先天性疾患と後天性疾患の特徴

APTTが延長する疾患は、先天性と後天性に大別できます。それぞれの特徴を理解することが、適切な診断と治療につながります。

【先天性疾患】

  1. 血友病A:第VIII因子の欠乏または機能異常により、APTTが延長します。関節内出血や筋肉内出血が特徴的です。

  2. 血友病B:第IX因子の欠乏または機能異常により、APTTが延長します。臨床症状は血友病Aと類似しています。

  3. von Willebrand病:von Willebrand因子の量的・質的異常により、APTTが延長することがあります。粘膜出血や術後出血が特徴的です。

  4. 第XI因子欠乏症:比較的稀な疾患で、APTTが延長しますが、出血症状は軽度であることが多いです。

  5. 第XII因子欠乏症:APTTは延長しますが、出血傾向はなく、むしろ血栓傾向を示すことがあります。

【後天性疾患】

  1. 後天性血友病A:第VIII因子に対する自己抗体(インヒビター)が出現し、APTTが延長します。高齢者や自己免疫疾患悪性腫瘍、妊娠・出産後の女性に多く見られます。

  2. 抗リン脂質抗体症候群(APS):ループスアンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体により、試験管内ではAPTTが延長しますが、生体内では血栓傾向を示します。

  3. 肝疾患:凝固因子は主に肝臓で合成されるため、肝硬変や重症肝障害ではAPTTが延長します。

  4. DIC(播種性血管内凝固症候群):凝固因子の消費性欠乏により、APTTとPTがともに延長します。

  5. ビタミンK欠乏症:ビタミンK依存性凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の活性低下により、APTTが延長することがあります。

  6. 抗凝固薬の影響ヘパリンやダビガトランなどの抗凝固薬の使用により、APTTが延長します。

これらの疾患の鑑別には、臨床症状、家族歴、薬剤使用歴などの詳細な問診と、適切な追加検査が必要です。

APTT延長時の診断アプローチと検査の進め方

APTTの延長を認めた場合、系統的なアプローチで原因を特定することが重要です。以下に診断の進め方を示します。

1. 採血手技や検体の問題を除外する

まず、採血手技や検体の問題によるAPTT延長の可能性を検討します:

  • 規定量の血液が採血できていない(抗凝固剤との混合比が不適切)

  • 多血症(ヘマトクリット値が高い)

  • クエン酸ナトリウム以外の抗凝固剤の使用

  • ヘパリンロックされたラインからの採血

  • 検体内で凝固が進行している

これらの問題が疑われる場合は、再採血して検査を行います。

2. PTとの関係を確認する

次に、PTの結果と合わせて評価します:

  • APTTのみ延長:内因系凝固因子(VIII、IX、XI、XII)の異常や内因系に特異的なインヒビターの存在

  • PTとAPTTともに延長:共通系凝固因子(I、II、V、X)の異常、ビタミンK欠乏、肝疾患、DICなど

3. 薬剤や基礎疾患の影響を確認する

以下の要因を検討します:

  • 抗凝固薬(ヘパリン、ワルファリン、DOACなど)の使用

  • 抗菌薬の使用

  • 肝疾患の有無

  • ビタミンK欠乏の可能性

  • DICの可能性

4. クロスミキシング試験を実施する

APTTの延長が凝固因子の欠乏によるものか、インヒビターの存在によるものかを鑑別するために、クロスミキシング試験を行います。患者血漿と正常血漿を様々な比率で混合し、凝固時間曲線のパターンから原因を推測します:

  • 凝固因子欠乏:正常血漿の添加により凝固時間が正常化する

  • インヒビター存在:正常血漿を添加しても凝固時間が正常化しない、または時間経過とともに再び延長する

5. 特異的凝固因子活性の測定

クロスミキシング試験の結果に基づいて、特定の凝固因子の活性を測定します:

  • 内因系凝固因子(VIII、IX、XI、XII)

  • 共通系凝固因子(I、II、V、X)

  • von Willebrand因子関連検査

6. インヒビターの検索

インヒビターが疑われる場合は、以下の検査を行います:

  • 特異的凝固因子インヒビター(ベセスダ法)

  • ループスアンチコアグラント検査

  • 抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体

これらの系統的なアプローチにより、APTTが延長している原因を特定し、適切な治療方針を立てることができます。

後天性血友病Aの診断と鼻出血からの発見例

後天性血友病Aは、凝固第VIII因子に対する自己抗体(インヒビター)が出現し、出血症状を呈する後天性の出血性疾患です。比較的稀な疾患ですが、早期診断・治療が重要であり、見逃すと致命的な出血を引き起こす可能性があります。

臨床的特徴

後天性血友病Aの特徴は以下の通りです:

  • 高齢者(60歳以上)に多い

  • 男女比はほぼ同等

  • 約半数は基礎疾患を持たない(特発性)

  • 基礎疾患としては自己免疫疾患、悪性腫瘍、妊娠・出産後などがある

  • 皮下や筋肉内の広範な出血が特徴的

  • 先天性血友病と異なり、関節内出血は比較的稀

鼻出血からの発見例

興味深いことに、後天性血友病Aの初発症状として鼻出血が見られることがあります。73歳男性の症例では、繰り返す鼻出血を契機に受診し、APTT延長を認めたことから血液内科に紹介され、後天性血友病Aと診断された例が報告されています。

この症例では、出血点を焼灼しても再出血を繰り返したことが特徴的でした。通常の止血処置に反応しない難治性の出血がある場合、凝固異常、特にAPTT延長を確認することが重要です。

また、別の81歳男性の症例では、意識消失と右前胸部の腫脹を主訴に救急搬送され、貧血とAPTTの延長から後天性血友病Aによる右大胸筋内血腫と診断された例も報告されています。この症例では、APTTの延長が増悪した翌日に貧血が進行しており、APTTの延長と出血の関連性が示唆されました。

診断のポイント

後天性血友病Aの診断には以下のポイントが重要です:

  1. APTTの延長(PTは正常)

  2. 第VIII因子活性の著明な低下(通常1%未満)

  3. 第VIII因子インヒビターの存在(ベセスダ法で測定)

  4. クロスミキシング試験でインヒビターパターンを示す

治療アプローチ

後天性血友病Aの治療は、以下の2つの柱からなります:

  1. 出血のコントロール:バイパス療法(活性型プロトロンビン複合体製剤、遺伝子組換え活性型第VII因子製剤)、高用量第VIII因子製剤、デスモプレシンなど

  2. インヒビターの除去:免疫抑制療法(ステロイド、シクロホスファミド、リツキシマブなど)

早期診断・治療により、多くの患者で良好な予後が期待できます。しかし、診断の遅れは致命的な出血につながる可能性があるため、原因不明の出血傾向やAPTT延長を認めた場合は、後天性血友病Aを鑑別診断に含めることが重要です。

APTTが延長する血栓性疾患と膠原病の関連性

APTTの延長は一般的に出血傾向を示唆しますが、興味深いことに血栓傾向を示す疾患でもAPTTが延長することがあります。特に抗リン脂質抗体症候群(APS)は、臨床的には血栓症を特徴とするにもかかわらず、検査上はAPTTが延長するという一見矛盾した所見を示します。

抗リン脂質抗体症候群(APS)とAPTT延長

APSは、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体など)が陽性で、動静脈血栓症や妊娠合併症を特徴とする自己免疫疾患です。APSでAPTTが延長する機序は以下の通りです:

  • 試験管内(in vitro)では、患者血漿中の抗リン脂質抗体がAPTT試薬中のリン脂質と反応し、凝固反応を阻害してAPTTを延長させる

  • 生体内(in vivo)では、抗リン脂質抗体が血小板や血管内皮細胞に作用し、凝固促進状態を引き起こして血栓形成を促進する

このように、APSでは検査結果と臨床症状に乖離が見られることが特徴です。

膠原病とAPTT延長

全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの膠原病患者では、APTTが延長していることがしばしば見られます。これには以下の要因が関与しています:

  1. 抗リン脂質抗体の存在:膠原病、特にSLE患者の約30~40%に抗リン脂質抗体が検出されます。

  2. 凝固因子に対する自己抗体:膠原病患者では、特定の凝固因子(特に第VIII因子)に対する自己抗体が産生されることがあり、後天性血友病Aを合併することがあります。

  3. 免疫複合体の影響:膠原病で形成される免疫複合体が凝固系に影響を与え、APTTを延長させることがあります。

血栓も出血もない膠原病患者のAPTT延長への対応

血栓症状も出血症状も認めないが、APTTが延長している膠原病患者に対しては、以下のアプローチが推奨されます:

  1. 再検査:APTTは標準化が難しく、試薬や採血手技により変動するため、まず再検査を行います。

  2. クロスミキシング試験:凝固因子欠損とインヒビターの鑑別のために実施します。

  3. ループスアンチコアグラント検査:希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)やカオリン凝固時間(KCT)などの特異的検査を行います。

  4. 抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体の測定:APSの診断に必要です。

  5. 凝固因子活性の測定:特に第VIII因子、第IX因子の活性を測定します。

  6. 定期的なフォローアップ:血栓症状や出血症状の出現に注意しながら、定期的に凝固検査を行います。

APSと診断された場合、血栓症の既往がなくても、他の危険因子(喫煙、高血圧、脂質異常症など)の管理が重要です。また、手術や長期臥床などの血栓リスクが高まる状況では、予防