目次
TTP診断基準の変遷と最新知見
TTPの古典的5徴候と診断の変遷
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断は、長年にわたり変化してきました。かつては、以下の古典的5徴候に基づいて診断が行われていました。
- 血小板減少
- 細血管障害性溶血性貧血(MAHA)
- 腎機能障害
- 発熱
5. 動揺性精神神経症状
しかし、これらの徴候は必ずしも全てが揃わないことが多く、診断の遅れにつながる可能性がありました。特に、腎機能障害、発熱、精神神経症状は初期段階では見られないことがあります。
現在では、ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)の発見により、診断基準が大きく変更されました。ADAMTS13は、von Willebrand因子(VWF)を切断する酵素で、TTPの病態に深く関与しています。
TTP診断基準におけるADAMTS13活性の重要性
最新の診断基準では、ADAMTS13活性の測定が中心的な役割を果たしています。具体的には。
- ADAMTS13活性が10%未満に著減している場合、TTPと診断されます。
- 抗ADAMTS13自己抗体が陽性の場合、後天性TTPと診断されます。
この新しい診断基準により、TTPの早期診断と適切な治療開始が可能になりました。ADAMTS13活性の測定は、血小板減少と溶血性貧血という2つの主要な臨床所見と組み合わせて行われます。
ADAMTS13活性測定の重要性に関する詳細な情報はこちらで確認できます。
TTP診断における血小板減少と溶血性貧血の評価
TTPの診断において、血小板減少と溶血性貧血は重要な指標です。
1. 血小板減少。
- 血小板数が10万/μL未満が基準とされます。
- 多くの症例では1-3万/μLの範囲にあります。
- 日本人のTTP患者では、中央値が1万/μLという報告もあります。
2. 溶血性貧血。
- 破砕赤血球の存在が特徴的です。
- ヘモグロビン値は通常8-10g/dLの範囲ですが、日本人では中央値7.3g/dLとやや低い傾向があります。
- LDH上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下などの所見も重要です。
これらの所見は、TTPの診断において非常に重要ですが、ADAMTS13活性の測定と組み合わせて評価することが必要です。
TTPと他の血栓性微小血管障害(TMA)の鑑別診断
TTPの診断において、他の血栓性微小血管障害(TMA)との鑑別が重要です。主な鑑別疾患には以下があります。
1. 溶血性尿毒症症候群(HUS)。
- 典型HUS:大腸菌O157などの感染に関連
- 非典型HUS:補体制御因子の異常に関連
2. HELLP症候群:妊娠高血圧腎症に関連する多臓器障害
3. 播種性血管内凝固症候群(DIC):凝固系の全般的な活性化
4. Evans症候群:自己免疫性溶血性貧血と免疫性血小板減少症の合併
これらの疾患との鑑別には、ADAMTS13活性の測定が非常に有用です。TTPではADAMTS13活性が10%未満に低下しているのに対し、他のTMAではそこまでの低下は見られません。
TTP診断基準の国際的な動向と日本の指針
TTPの診断基準は国際的にも統一されつつあります。国際血栓止血学会(ISTH)のガイドラインでは、ADAMTS13活性10%未満をTTPの診断基準としています。
日本では、2017年に発表された「TTP診療ガイド」が基準となっています。この指針では。
- 原因不明の血小板減少と溶血性貧血を認めた場合にADAMTS13活性を測定
- ADAMTS13活性が10%未満に著減している症例をTTPと診断
3. 抗ADAMTS13自己抗体が陽性であれば後天性TTPと診断
という流れが示されています。
また、日本の指定難病の診断基準もこれに準じており、ADAMTS13活性10%未満がTTPの診断基準となっています。
日本の指定難病におけるTTPの診断基準の詳細はこちらで確認できます。
TTP診断における新たな指標と将来の展望
TTPの診断基準は、研究の進展とともに進化し続けています。最近の研究では、以下のような新たな指標や方法が注目されています。
1. PLASMICスコア。
- TTPの可能性を予測するスコアリングシステム
- 血小板数、LDH、平均赤血球容積(MCV)などの項目を評価
- ADAMTS13活性測定結果が出るまでの間の判断に有用
2. 遺伝子検査。
- 先天性TTPの診断に重要
- ADAMTS13遺伝子の変異を同定
3. バイオマーカー。
- VWF多量体の測定
- 血中のADAMTS13-VWF複合体の検出
4. 画像診断。
- 脳MRIによる微小血栓の検出
- 心エコーによる心機能評価
これらの新しい指標や方法は、TTPの早期診断や病態の理解を深めるのに役立つ可能性があります。特に、遺伝子検査は先天性TTPの診断において重要な役割を果たすようになっています。
また、TTPの治療法の進歩も診断基準に影響を与える可能性があります。例えば、遺伝子組換えADAMTS13製剤の開発が進んでおり、これが実用化されれば、ADAMTS13活性の測定がさらに重要になる可能性があります。
TTPの新たな治療法と診断基準の関係についての詳細はこちらで確認できます。
TTPの診断基準は、臨床所見とADAMTS13活性の測定を中心に発展してきました。古典的5徴候から始まり、現在ではADAMTS13活性10%未満という明確な基準が確立されています。しかし、TTPの病態は複雑であり、診断基準も今後さらに進化していく可能性があります。
医療従事者は、最新の診断基準を理解し、適切に活用することが重要です。同時に、個々の患者の臨床像を慎重に評価し、他の血栓性微小血管障害との鑑別を行うことも必要です。TTPの早期診断と適切な治療開始は、患者の予後を大きく改善する可能性があるため、常に最新の知見を取り入れながら診療にあたることが求められます。