アンピシリン・スルバクタム配合剤の適応と使い分け

アンピシリン・スルバクタム配合剤の特徴と使用法

尿路感染症の6割で治療失敗します。

この記事の3ポイント
💊

βラクタマーゼ阻害剤の配合効果

アンピシリンにスルバクタムを配合することでブドウ球菌や嫌気性菌をカバーし、幅広い抗菌スペクトラムを実現

⚠️

大腸菌の耐性化が進行中

腸内細菌への感受性率は60~70%程度まで低下し、尿路感染症などでは第一選択から外れる傾向に

🎯

適応疾患の見極めが重要

誤嚥性肺炎や腹腔内感染症には有効だが、腎機能に応じた用量調整と施設のアンチバイオグラム確認が必須

アンピシリン・スルバクタム配合剤の基本的な構成と作用機序

アンピシリン・スルバクタム配合剤は、アンピシリンナトリウムとスルバクタムナトリウムを2:1の比率で配合したβラクタマーゼ阻害剤配合抗生物質です。商品名はユナシンS、スルバシリンなどとして知られています。kegg+1

この薬剤の特徴は、アンピシリンが細菌の細胞壁合成を阻害する一方で、スルバクタムが細菌の産生するβラクタマーゼという酵素を阻害することにあります。

つまり組み合わせが基本です。

参考)ユナシンS(アンピシリンナトリウム/スルバクタムナトリウム)…

βラクタマーゼは細菌がペニシリン系抗菌薬を分解するために産生する防御酵素ですが、スルバクタムがこの酵素の働きを抑えることでアンピシリンの抗菌効果を保護します。この仕組みにより、単独のアンピシリンではカバーできなかったブドウ球菌、一部の大腸菌、横隔膜より下の嫌気性菌に対しても効果を発揮できるようになりました。gene-navi.igaku-shoin+1

ただし理論と現実には差があります。

アンピシリン・スルバクタム配合剤の投与量と薬物動態

通常成人には1日6g(力価)を2回に分けて静脈内注射または点滴静注します。重症感染症の場合は適宜増量も可能ですが、1回3gを1日4回まで投与することもあります。pins.japic+1

小児の場合は体重1kgあたり1日60~150mg(力価)を3~4回に分けて投与します。健康成人に本剤を投与したときの血中半減期(t1/2)は約1時間と短く、投与後速やかに血中濃度が上昇し、その後急速に低下します。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065456.pdf

腎機能が低下している患者では薬剤の排泄が遅延するため、用量調整が必須となります。例えばeGFRが30~50mL/分/1.73㎡の場合は2g/回を1日3回または1g/回を1日4回に減量し、eGFRが10~30の場合はさらに投与間隔を延長します。

参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/koukinyaku/jinkinoubetusuisyoutouyoryou.files/jinkinoubetusuisyoutouyoryou.xlsx

高齢者では一般的に生理機能が低下しているため、副作用のリスクが高まります。投与量および投与間隔に留意し、患者の状態を観察しながら慎重に投与することが原則です。

参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00059888.pdf

腎機能別推奨投与量の詳細(鹿児島大学病院)

腎機能に応じた具体的な投与量調整の表が掲載されており、臨床での用量設定の参考になります。

アンピシリン・スルバクタム配合剤の耐性化の実態

近年、大腸菌をはじめとする腸内細菌のアンピシリン・スルバクタムに対する耐性化が急速に進行しています。国内サーベイランス(JANIS)のデータでは、大腸菌の耐性率は3~4割に及んでおり、地域によっては感受性率が70%程度、あるいはそれ以下まで低下している状況です。doctor-vision+1

この耐性化の背景には、本剤の過剰使用があります。理論上は幅広いスペクトラムをカバーできるため、発熱患者に対して安易に投与されるケースが増え、その結果として耐性菌が選択されてしまったのです。

ESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)産生大腸菌による感染症では、アンピシリン・スルバクタムの感受性率が低く、使用は推奨されません。このような場合には、ピペラシリン・タゾバクタムやカルバペネム系抗菌薬が第一選択として考慮されます。

参考)https://www.radionikkei.jp/kansenshotoday/__a__/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-170920.pdf

耐性率30%を超える地域では慎重になるべきです。

アンピシリン・スルバクタム配合剤の適応疾患と効果的な使い分け

本剤が効果的に使用できる感染症は、嫌気性菌が関与する病態です。具体的には誤嚥性肺炎、腹腔内感染症(胆管炎、虫垂炎など)、蜂窩織炎などが挙げられます。

誤嚥性肺炎では口腔内の嫌気性菌や連鎖球菌が起因菌となることが多く、本剤は有効な選択肢となります。ただしセフトリアキソンとの明確な優劣は現時点で証明されておらず、今後の研究が待たれます。

一方で、尿路感染症に対する使用には注意が必要です。尿路感染症の主要起因菌は大腸菌ですが、前述の通り大腸菌の耐性率が高いため、本剤は第一選択として推奨されません。尿路感染症で嫌気性菌をカバーする必要があるのは、膿瘍病変、気腫性病変、消化管と泌尿器の交通がある場合など例外的な状況に限られます。

参考)第42回 尿路感染症にアンピシリン・スルバクタムはいまひとつ…

つまり感染部位の細菌叢を想定することが重要です。

アンピシリン・スルバクタム配合剤の副作用と注意事項

本剤の禁忌は明確です。本剤の成分に対して過敏症の既往歴がある患者、および伝染性単核症の患者には投与してはいけません。伝染性単核症の患者にアンピシリンを投与すると、高頻度で発疹が出現することが報告されています。

参考)スルバシリン静注用3gの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品…

セフェム系抗生物質に対して過敏症の既往歴がある患者には慎重投与が必要です。投与前にペニシリン系、セフェム系、その他の抗生物質によるアレルギー歴を必ず確認しなければなりません。

ショック、アナフィラキシーなどの重篤な副作用が起こる可能性があるため、投与に際しては救急処置がとれる準備をしておく必要があります。投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うことが必須です。

その他の副作用としては、肝機能障害、血液障害、消化器症状(下痢、口内炎、食欲不振)、神経炎などが報告されています。偽膜性大腸炎を発症した症例もあり、腹痛や下痢が出現した場合には速やかに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。igaku-shoin+1

定期的な検査で異常を早期発見すべきです。

スルバシリンの添付文書(PDF)

副作用の詳細な記載と対処法が含まれており、安全使用のための重要な情報源です。

アンピシリン・スルバクタム配合剤を使用する際の医療従事者の判断ポイント

本剤を適切に使用するためには、まず施設や地域のアンチバイオグラム(薬剤感受性率データ)を確認することが最優先です。大腸菌の感受性率が60%を下回る環境では、大腸菌が起因菌として疑われる感染症に対して本剤を第一選択とすることは避けるべきです。chemotherapy+1

感染症の種類によって使い分けを明確にすることも重要です。嫌気性菌の関与が強く疑われる誤嚥性肺炎や腹腔内感染症では本剤の使用を検討する価値がありますが、尿路感染症や市中肺炎では他の選択肢を優先すべきです。

可能であればグラム染色を実施し、起因菌を推定してから抗菌薬を選択することが理想的です。グラム陰性桿菌が検出された場合、大腸菌の可能性を考慮して本剤以外の選択を検討する必要があります。

治療開始後も効果判定を怠らないことが大切です。投与開始から3~5日経過しても解熱しない場合や症状が改善しない場合には、耐性菌や起因菌の推定ミスを疑い、抗菌薬の変更や追加検査を検討すべきです。

参考)失敗ケースから学ぶ! 最初の抗菌薬治療に失敗したら(前編)(…

効果がないなら早めに変更するということですね。

併用療法を考慮する場面もあります。重症例や緑膿菌感染のリスクがある場合には、本剤単独ではなくピペラシリン・タゾバクタムやカルバペネム系への変更、あるいは他剤との併用が必要になります。

アンピシリン・スルバクタム配合剤の今後の位置づけと代替薬の選択

耐性化が進行する現状において、本剤の臨床的な位置づけは変化しつつあります。かつては幅広いスペクトラムを持つ便利な抗菌薬として多用されていましたが、今では「嫌気性菌のカバーが必要で、かつ大腸菌の関与が少ない感染症」という限定的な使用が推奨されます。gene-navi.igaku-shoin+1

大腸菌が主要起因菌となる感染症では、セフトリアキソンなどの第3世代セファロスポリンフルオロキノロン系抗菌薬が代替薬として選択されることが増えています。ただしセフトリアキソンは一部の嫌気性菌に対するカバーが不十分という弱点があるため、感染部位に応じた選択が必要です。

より幅広いカバーが必要な重症例では、ピペラシリン・タゾバクタムカルバペネム系抗菌薬が選択肢となります。これらの薬剤は大腸菌に対する感受性率が高く、嫌気性菌もカバーできるため、特に腹腔内感染症や重症市中肺炎では有用です。

抗菌薬適正使用(antimicrobial stewardship)の観点からも、本剤の適応を厳密に評価し、必要最小限の使用にとどめることが耐性菌の抑制につながります。感受性検査の結果が判明したら、可能な限り狭域スペクトラムの抗菌薬へのde-escalationを行うことが推奨されます。mhlw+1

抗微生物薬適正使用の手引き 第四版(厚生労働省)

国が定める抗菌薬適正使用の指針で、各感染症に対する推奨薬剤と使用方法が記載されています。

現場の判断力が試される時代になったわけです。

💡 医療現場での実践的なアプローチ

  • ✅ 自施設のアンチバイオグラムを定期的に確認する習慣をつける
  • ✅ 大腸菌感受性率60%未満なら尿路感染症への使用を避ける
  • 誤嚥性肺炎では嫌気性菌カバーの利点を活かす
  • ✅ 投与3日後の効果判定を必ず行い、無効なら速やかに変更する
  • 腎機能低下患者では必ず用量調整を実施する

これらのポイントを押さえることで、アンピシリン・スルバクタム配合剤を適切に使用し、治療効果を最大化しつつ耐性菌の発現を抑制できます。臨床現場では常に最新のエビデンスとローカルデータを参照しながら、個々の患者に最適な抗菌薬を選択することが求められています。