アンジオテンシンII受容体拮抗薬一覧と効能・薬価比較

アンジオテンシンII受容体拮抗薬一覧と特徴

ARB薬剤の基本情報
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作用機序

アンジオテンシンII受容体に結合して血管収縮を抑制し、降圧効果を発揮します

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主な適応症

高血圧症、腎疾患、心不全など(薬剤により適応が異なります)

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特徴

副作用が少なく、長時間作用型が多いため服薬コンプライアンスが良好

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、血圧治療の第一選択薬として広く使用されている薬剤群です。これらの薬剤は、レニン-アンジオテンシン系に作用し、アンジオテンシンIIがその受容体に結合するのを阻害することで血圧を下げる効果を示します。日本では現在、7種類のARBが臨床で使用されており、それぞれに特徴があります。

ARBは副作用が比較的少なく、1日1回の服用で効果が持続するものが多いため、患者さんの服薬コンプライアンスが良好であるという利点があります。また、ACE阻害薬でよく見られる空咳などの副作用が少ないことも特徴です。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の種類と商品名

日本で現在使用されている7種類のARBとその商品名は以下の通りです。

  1. ロサルタン(商品名:ニューロタン)
    • 最初に開発されたARBで、1995年に日本で承認
    • 半減期:約2時間(活性代謝物は6-9時間)
    • 1日1回投与
  2. バルサルタン(商品名:ディオバン)
  3. カンデサルタンシレキセチル(商品名:ブロプレス)
    • 半減期:約9時間
    • 1日1回投与
    • 小児(1歳以上)適応あり
    • 腎性高血圧症、慢性心不全(軽症〜中等症)にも適応あり
  4. テルミサルタン(商品名:ミカルディス)
    • 半減期:約24時間と長い
    • 1日1回投与
    • 脂溶性が高く、組織移行性に優れる
    • 100%胆汁排泄
  5. オルメサルタンメドキソミル(商品名:オルメテック)
    • 半減期:約13時間
    • 1日1回投与
    • 承認用量での降圧効果が高い
  6. イルベサルタン(商品名:アバプロ/イルベタン)
    • 半減期:約11-15時間
    • 1日1回投与
  7. アジルサルタン(商品名:アジルバ
    • 最も新しいARB
    • 半減期:約14時間
    • 1日1回投与
    • 承認用量での降圧効果が高い

これらの薬剤はすべて「-サルタン」という共通の語尾を持っており、同じ薬理学的分類に属していることを示しています。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の薬価比較と経済性

ARBは先発品と後発品(ジェネリック医薬品)で薬価に大きな差があります。例えば、ロサルタンの場合。

ロサルタンの薬価比較表

製品名 規格 薬価(1錠あたり)
ニューロタン錠(先発品) 25mg 22.8円
ニューロタン錠(先発品) 50mg 42.2円
ニューロタン錠(先発品) 100mg 64.2円
ロサルタンK錠「タカタ」(後発品) 25mg 10.4円
ロサルタンK錠「オーハラ」(後発品) 50mg 14.7円
ロサルタンK錠「DSEP」(後発品) 100mg 28.5円

このように、後発品は先発品と比較して大幅に安価であり、医療経済的にも重要な選択肢となっています。特に長期間服用する高血圧治療薬では、この価格差が患者負担や医療費全体に大きな影響を与えます。

各ARBの薬価は製薬会社や規格によって異なりますが、一般的に新しい世代のARB(アジルサルタンなど)は比較的高価である傾向があります。しかし、降圧効果や副作用プロファイルなども考慮して、総合的に薬剤を選択することが重要です。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の効能・効果と適応症

ARBの主な適応症は高血圧症ですが、薬剤によって適応症が異なります。

主な適応症一覧

  • 高血圧症:すべてのARBに共通する適応症
  • 腎障害を伴う高血圧症:特にカンデサルタンなどで効果が認められている
  • 慢性心不全:カンデサルタン、バルサルタンなど一部のARBで適応あり
  • 心筋梗塞後の二次予防:バルサルタンなど
  • 糖尿病性腎症:ロサルタンなど

ARBは単剤で使用されるだけでなく、利尿薬カルシウム拮抗薬との配合剤としても多く使用されています。配合剤は服薬錠数の減少によるコンプライアンス向上や、相補的な作用機序による効果増強が期待できます。

例えば、以下のような配合剤があります。

  • ロサルタン+ヒドロクロロチアジド(プレミネント、ロサルヒド)
  • カンデサルタン+アムロジピン(ユニシア)
  • テルミサルタン+アムロジピン(ミカムロ)
  • オルメサルタン+アゼルニジピン(レザルタス)

これらの配合剤は、単剤で十分な降圧効果が得られない場合や、複数の作用機序による治療が望ましい患者さんに選択されます。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の推奨薬と選択基準

日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」では、ARBは高血圧治療の第一選択薬として位置づけられています。しかし、7種類あるARBの中でどれを選択するかについては、明確な使い分けの基準は示されていません。

臨床現場での選択基準としては、以下のような点が考慮されます。

  1. 降圧効果:アジルサルタン、オルメサルタンは承認用量での降圧効果が高いとされています
  2. 半減期:テルミサルタンは半減期が長く、24時間にわたる安定した降圧効果が期待できます
  3. 代謝経路:テルミサルタンはCYP2C19の寄与率が低く、薬物相互作用が少ない傾向があります
  4. 排泄経路:テルミサルタンは100%胆汁排泄であり、腎機能障害患者でも用量調整が不要です
  5. 特定の合併症:心不全や腎疾患など、特定の合併症がある場合はそれに適応を持つARBが選択されます
  6. 小児への適応:カンデサルタンは1歳以上の小児に適応があります

地域フォーミュラリ(医薬品の使用指針)などでは、効能・効果や薬価を考慮して推奨薬が設定されていることがあります。例えば、八尾市地域フォーミュラリでは、高血圧症に対してオルメサルタン、テルミサルタン、アジルサルタン、カンデサルタンが推奨薬として挙げられています。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬の独自処方パターンと臨床的考察

ARBの処方パターンには、医療機関や医師によって独自の傾向が見られることがあります。これは単なる処方習慣だけでなく、各ARBの特性を活かした臨床的な判断に基づいていることが多いです。

処方パターンの臨床的背景

  1. 朝食後服用と就寝前服用の使い分け
    • 早朝高血圧が問題となる患者には、半減期の長いテルミサルタンを就寝前に服用させることで、早朝の血圧上昇を抑制する処方パターンがあります
    • 一方、日中の活動性を重視する患者には、朝食後服用で日中の血圧をコントロールするパターンが選択されます
  2. 年齢層による使い分け
    • 高齢者では腎機能低下を考慮し、腎排泄率の低いテルミサルタンが選択されることがあります
    • 若年者では長期服用の可能性を考慮し、長期安全性データが豊富なロサルタンやカンデサルタンが選択されることもあります
  3. 合併症パターンによる選択
    • メタボリックシンドロームを合併する患者では、PPARγ活性化作用を持つテルミサルタンが選択されることがあります
    • 糖尿病性腎症では、エビデンスのあるロサルタンが選択されることがあります
  4. 薬物相互作用を考慮した選択
    • 多剤併用が必要な患者では、薬物相互作用の少ないテルミサルタンやオルメサルタンが選択されることがあります
  5. 服薬アドヒアランスを考慮した選択
    • 服薬コンプライアンスに問題がある患者では、半減期の長いテルミサルタンが選択されることがあります。服薬を忘れた場合でも、効果の持続時間が長いため、血圧コントロールへの影響が比較的小さいと考えられます

これらの処方パターンは、教科書的な適応だけでなく、実臨床での経験や患者個々の特性を考慮した「アート」としての医療の側面を反映しています。

また、近年では医療経済的な観点から、費用対効果の高いARBの選択も重要視されています。後発品の普及により、薬剤費を抑えつつ適切な降圧効果を得ることが可能になっています。

ARBの選択は、単に降圧効果だけでなく、患者の生活パターン、合併症、併用薬、薬物動態特性、経済的側面など、多角的な視点から総合的に判断することが重要です。そして、選択した薬剤の効果と副作用を定期的に評価し、必要に応じて薬剤の変更や用量調整を行うことが、最適な高血圧治療につながります。

医療従事者は、ARBの特性を十分に理解し、個々の患者に最適な薬剤を選択することで、高血圧治療の質を向上させることができるでしょう。また、患者教育を通じて服薬アドヒアランスを高め、長期的な血圧コントロールを達成することも重要な課題です。

日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」- ARBの位置づけと使用法について詳細な情報が記載されています
日本薬剤師会雑誌「ARBの特徴と使い分け」- 各ARBの薬物動態学的特徴と臨床的な使い分けについて解説されています