脂質異常症薬一覧と分類別特徴解説

脂質異常症薬一覧と分類

脂質異常症治療薬の主要分類
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スタチン系薬剤

HMG-CoA還元酵素阻害によりコレステロール合成を抑制し、LDL-Cを効果的に低下

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フィブラート系薬剤

PPARα活性化により中性脂肪を低下させ、HDL-Cの上昇効果も期待

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EPA製剤・オメガ3脂肪酸

中性脂肪低下作用と抗血栓・抗炎症作用により心血管イベント予防効果を発揮

脂質異常症の薬物療法は、動脈硬化性疾患の予防において極めて重要な位置を占めています。現在使用されている脂質異常症治療薬は、作用機序や薬理学的特徴により複数のカテゴリーに分類され、患者の病態や合併症に応じて適切な選択が求められます。

本邦では、日本動脈硬化学会の「脂質異常症治療ガイド」に基づき、第一選択薬としてスタチン系薬剤が推奨されていますが、中性脂肪高値例や混合型脂質異常症では、フィブラート系薬剤やEPA製剤の併用も重要な治療選択肢となります。

近年、PCSK9阻害薬や小腸コレステロールトランスポーター阻害剤などの新しい作用機序を持つ薬剤も登場し、治療選択肢が大幅に拡大しています。これらの薬剤は、従来の治療では効果不十分な難治性症例や家族性高コレステロール血症患者において、新たな治療の可能性を提供しています。

脂質異常症薬一覧スタチン系薬剤の特徴

スタチン系薬剤は、HMG-CoA還元酵素の競合的阻害により肝臓でのコレステロール生合成を抑制し、LDLコレステロールを効果的に低下させる第一選択薬です。現在本邦で使用可能なスタチン系薬剤は以下の通りです。

親水性スタチン

  • プラバスタチンナトリウム(メバロチン):10-40mg/日
  • ロスバスタチンカルシウム(クレストール):2.5-20mg/日

脂溶性スタチン

  • シンバスタチン(リポバス):5-20mg/日
  • アトルバスタチンカルシウム(リピトール):10-40mg/日
  • ピタバスタチンカルシウム(リバロ):1-4mg/日

各スタチンの薬物動態学的特徴には重要な違いがあります。親水性スタチンは肝選択性が高く、筋肉への移行が少ないため横紋筋融解症のリスクが相対的に低いとされています。一方、脂溶性スタチンは組織移行性が良好で、強力なLDL-C低下作用を示しますが、CYP3A4との相互作用に注意が必要です。

特にシンバスタチンは、CYP3A4阻害薬との併用時に血中濃度が上昇しやすく、横紋筋融解症のリスクが増加する可能性があります。一方、ピタバスタチンは主にUGTにより代謝されるため、薬物相互作用が少なく、腎機能低下例でも用量調整が不要という特徴があります。

日本動脈硬化学会脂質異常症治療ガイド2022年版

脂質異常症薬一覧フィブラート系の使い分け

フィブラート系薬剤は、PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor α)の活性化により、中性脂肪の低下とHDLコレステロールの上昇を主作用とする薬剤群です。本邦で使用可能なフィブラート系薬剤は以下の通りです。

主要なフィブラート系薬剤

  • ベザフィブラート(ベザトールSR):400mg/日(徐放製剤)
  • フェノフィブラート(リピディル、トライコア):106.6-320mg/日
  • クリノフィブラート(リポクリン):600-900mg/日

フィブラート系薬剤の適応は、主に中性脂肪値が300mg/dL以上の高中性脂肪血症、または150mg/dL以上でHDL-C低値を合併する混合型脂質異常症です。特に2型糖尿病を合併する患者では、インスリン抵抗性の改善効果も期待できます。

ベザフィブラートは、日本で最も使用経験が豊富なフィブラート系薬剤で、BIP study(Bezafibrate Infarction Prevention study)では冠動脈疾患の二次予防効果が示されています。一方、フェノフィブラートは、FIELD試験やACCORD-Lipid試験において、糖尿病患者での微小血管合併症予防効果が報告されています。

注意すべき副作用

  • 腎機能低下(可逆性)
  • 胆石症のリスク増加
  • ワルファリンとの相互作用
  • スタチンとの併用時の横紋筋融解症リスク

フィブラート系薬剤とスタチンの併用は、横紋筋融解症のリスクが増加するため、慎重な監視が必要です。特にゲムフィブロジルは、スタチンの血中濃度を上昇させるため併用禁忌とされています。

脂質異常症薬一覧EPA製剤の臨床効果

EPA(エイコサペンタエン酸)製剤は、ω-3系多価不飽和脂肪酸の一種で、中性脂肪低下作用に加えて、抗血栓・抗炎症作用を有する特徴的な薬剤です。本邦で使用可能なEPA製剤には以下があります。

EPA製剤の種類

EPA製剤の最大の特徴は、JELIS試験(Japan EPA Lipid Intervention Study)において、スタチン併用時の冠動脈疾患予防効果が明確に示されていることです。この大規模臨床試験では、EPA群でプライマリーエンドポイントが19%有意に減少し、EPA製剤の心血管イベント抑制効果が証明されました。

EPA製剤の作用機序

  • 肝臓での中性脂肪合成抑制
  • VLDLの産生・分泌抑制
  • リポ蛋白リパーゼ活性増強
  • 血小板凝集抑制
  • 炎症性サイトカイン抑制

EPA製剤は食直後服用が原則で、空腹時服用では吸収率が大幅に低下します。また、抗凝固薬服用患者では出血傾向の増強に注意が必要です。EPA製剤の特筆すべき点は、中性脂肪低下作用だけでなく、血管内皮機能改善や動脈硬化進展抑制作用を有することです。

最近の研究では、EPA/AA比(アラキドン酸比)が心血管イベントの予測因子として注目されており、EPA製剤投与によりこの比率を改善することで、より効果的な動脈硬化性疾患の予防が期待されています。

JELIS試験の詳細な結果と解析

脂質異常症薬一覧配合剤の選択指針

近年、脂質異常症治療において配合剤の使用が増加しており、服薬アドヒアランスの向上と治療効果の最適化を目的として開発されています。現在使用可能な主要な配合剤は以下の通りです。

スタチン・エゼチミブ配合剤

  • アトーゼット配合錠(アトルバスタチン・エゼチミブ
  • ロスーゼット配合錠(ロスバスタチン・エゼチミブ)

オメガ3脂肪酸配合剤

  • ロトリガ粒状カプセル(EPA・DHA配合)

スタチン・エゼチミブ配合剤は、異なる作用機序を持つ薬剤の組み合わせにより、単剤では達成困難なLDL-C低下効果を実現します。エゼチミブは小腸でのコレステロール吸収を阻害するため、スタチンによる内因性コレステロール合成抑制と相補的に作用します。

IMPROVE-IT試験では、スタチン単独群と比較してスタチン・エゼチミブ併用群で心血管イベントが6.4%相対リスク減少し、配合剤の臨床的有用性が確立されています。

配合剤選択の指針

  • LDL-C管理目標値未達成例
  • 服薬錠数の簡素化が必要な例
  • アドヒアランス不良例
  • 高リスク患者での積極的脂質管理

配合剤使用時の注意点として、各成分の用量調整が困難であることが挙げられます。特に腎機能低下例や高齢者では、個別の用量調整が必要な場合があり、配合剤の適応を慎重に検討する必要があります。

また、新しい配合剤として、EPA・DHA配合のロトリガ粒状カプセルは、より高い中性脂肪低下効果を示し、特に高度の高中性脂肪血症患者において有用な選択肢となっています。

脂質異常症薬一覧副作用モニタリング方法

脂質異常症治療薬の安全性確保には、体系的な副作用モニタリングが不可欠です。各薬剤群で注意すべき副作用と監視方法について詳述します。

スタチン系薬剤のモニタリング

横紋筋融解症は最も重篤な副作用で、以下の検査項目を定期的に監視します。

  • CK(CPK):投与開始前、2週間後、1ヶ月後、その後3-6ヶ月毎
  • AST、ALT:投与開始前、2週間後、1ヶ月後、その後3-6ヶ月毎
  • 血清クレアチニン、eGFR:3-6ヶ月毎

患者には筋肉痛、脱力感、尿の色調変化などの症状について十分に説明し、症状出現時の速やかな受診を指導します。特に、発熱時や激しい運動後、アルコール多飲時にはCK上昇のリスクが高まるため注意が必要です。

フィブラート系薬剤のモニタリング

フィブラート系薬剤では以下の項目に注意します。

  • 血清クレアチニン:投与開始後2-4週間で一過性上昇することがある
  • 胆道系酵素(ALP、γ-GTP):胆石症のリスク評価
  • PT-INR:ワルファリン併用時

フィブラート系薬剤による腎機能低下は通常可逆性ですが、10-15%程度の血清クレアチニン上昇は許容範囲とされています。ただし、30%以上の上昇や進行性の悪化がある場合は減量・中止を検討します。

EPA製剤のモニタリング

EPA製剤では主に出血傾向に注意します。

  • PT、APTT抗凝固薬併用時
  • 血小板数、出血時間:長期投与時
  • 消化器症状の確認:胃腸障害の早期発見

新規薬剤のモニタリング

PCSK9阻害薬エボロクマブ、アリロクマブ)では、注射部位反応や感冒様症状に注意し、極端なLDL-C低下時の安全性についても継続的な観察が必要です。

医薬品医療機器総合機構による脂質異常症治療薬の安全性情報

効果的な副作用モニタリングには、患者教育と医療従事者間の情報共有が重要です。薬剤師による服薬指導や定期的な面談を通じて、患者の症状変化を早期に察知し、適切な対応を行うことで、より安全で効果的な脂質異常症治療を実現できます。

治療薬の選択と副作用管理は、患者の病態、合併症、併用薬、ライフスタイルを総合的に考慮して個別化する必要があり、定期的な見直しと調整が治療成功の鍵となります。