ボルビックスの効果と副作用:高カロリー輸液用微量元素製剤の適正使用ガイド

ボルビックスの効果と副作用

ボルビックス注の基本情報
💊

配合成分

亜鉛、鉄、銅、マンガン、ヨウ素を含む微量元素製剤

主な効果

高カロリー静脈栄養時の微量元素欠乏症予防・治療

⚠️

注意点

長期投与時のマンガン蓄積によるパーキンソン様症状

ボルビックス注の基本情報と配合成分

ボルビックス注(一般名:塩化マンガン・硫酸亜鉛水和物配合剤注射液)は、高カロリー静脈栄養(TPN)時に必要な微量元素を補給する注射製剤です。富士薬品とヤクルト本社から販売されており、2mL1管あたり94.00円の薬価が設定されています。

本剤の配合成分は以下の通りです。

  • 亜鉛:60μmol
  • :35μmol
  • :5μmol
  • マンガン:1μmol
  • ヨウ素:1μmol

これらの微量元素は、酵素の補酵素として働き、タンパク質合成、糖代謝、免疫機能などの重要な生理機能に関与しています。特に長期間の経口摂取が困難な患者では、これらの微量元素の欠乏が深刻な合併症を引き起こす可能性があります。

ボルビックス注の特徴として、マンガン配合量が1μmolと比較的少量に設定されている点が挙げられます。これは、マンガンの過剰摂取による神経毒性を考慮した配合設計となっています。

ボルビックスの効果と適応症例

ボルビックス注の効能・効果は、「経口栄養補給が不能又は不十分、経腸管栄養補給が不能又は不十分で高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない場合の亜鉛補給、鉄補給、銅補給、マンガン補給及びヨウ素補給」と規定されています。

主な適応症例:

各微量元素の生理作用:

元素 主な生理作用 欠乏症状
亜鉛 酵素活性、創傷治癒、免疫機能 味覚障害、皮膚炎、創傷治癒遅延
ヘモグロビン合成、酸素運搬 貧血、易疲労感
コラーゲン合成、鉄代謝 貧血、骨粗鬆症
マンガン 糖代謝、骨形成 糖代謝異常、骨格異常
ヨウ素 甲状腺ホルモン合成 甲状腺機能低下

臨床研究では、血漿中微量元素濃度の基準濃度範囲内維持効果により評価した結果、有効率は78.3%(141/180例)であったと報告されています。

ボルビックスの副作用と注意すべき症状

ボルビックス注の副作用発現頻度は、マンガン1μmol配合微量元素製剤について実施された特別調査において4.16%(21/505例)でした。一方、マンガンを除いた4元素配合製剤では5.41%(2/37例)という報告もあります。

主な副作用分類:

🔴 過敏症反応(頻度不明)

🟡 肝機能障害(頻度不明)

  • AST(GOT)上昇
  • ALT(GPT)上昇
  • Al-P(アルカリホスファターゼ)上昇
  • ビリルビン上昇

🟠 神経系副作用(頻度不明)

  • パーキンソン様症状
  • 振戦
  • 筋強剛
  • 歩行障害

🔵 その他の副作用

  • 血中マンガン上昇
  • 血管痛(投与部位)

特に注意が必要なのは、長期投与時に生じるマンガンの蓄積による神経毒性です。マンガンは主に胆汁を通じて排泄されるため、肝機能障害や胆道閉塞のある患者では蓄積しやすくなります。

実際の医療事故事例として、末梢静脈ルートからの誤投与による血管外漏出により、患者の左前腕に発赤、腫脹、熱感が生じた報告があります。高カロリー輸液製剤は高浸透圧であるため、末梢血管からの投与は避けるべきです。

ボルビックスの長期投与時のマンガン蓄積リスク

ボルビックス注の長期投与において最も重要な懸念事項は、マンガンの体内蓄積による神経毒性です。マンガンは脳内、特に大脳基底核に蓄積しやすく、パーキンソン病様の症状を引き起こす可能性があります。

マンガン蓄積の危険因子:

  • 長期間の連続投与(3ヶ月以上)
  • 肝機能障害の存在
  • 胆道閉塞の既往
  • 高用量投与
  • 腎機能低下(間接的影響)

モニタリング指標:

🔸 全血中マンガン濃度

  • 正常値:5-15 ng/mL
  • 注意値:20 ng/mL以上

🔸 脳MRI検査(T1強調画像)

  • 淡蒼球や視床下核での高信号
  • 蓄積の早期発見に有用

🔸 臨床症状の観察

  • 歩行の変化
  • 手指の振戦
  • 筋強剛
  • 認知機能の変化

厚生労働省の添付文書改訂において、「マンガン20μmol配合微量元素製剤の投与によりマンガンについては全血中濃度の上昇がみられたり、脳内蓄積によって脳MRI検査(T1強調画像)で高信号を示したり、パーキンソン様症状があらわれたとの報告がある」との記載が追加されています。

このような所見が認められた場合には、マンガンが配合されていない微量元素製剤(ボルビサール注など)への切り替えが推奨されています。

ボルビックスと他の微量元素製剤との使い分け

臨床現場では、患者の状態に応じて適切な微量元素製剤を選択する必要があります。ボルビックス注以外にも複数の選択肢があり、それぞれに特徴があります。

微量元素製剤の分類:

📋 マンガン含有製剤

  • ボルビックス注(マンガン1μmol配合)
  • ミネリック-5配合点滴静注シリンジ(マンガン20μmol配合)
  • エレジェクト注シリンジ

📋 マンガン非含有製剤

  • ボルビサール注(4元素配合:鉄、亜鉛、銅、ヨウ素)

使い分けのポイント:

🟢 ボルビックス注が適している場合

  • 短期間(1-2ヶ月以内)の使用
  • マンガン欠乏のリスクがある患者
  • 肝胆道系に異常のない患者

🟡 ボルビサール注への切り替えを考慮する場合

  • 3ヶ月以上の長期投与予定
  • マンガン濃度上昇の既往
  • 肝機能障害の存在
  • パーキンソン様症状の出現

🔴 使用を避けるべき場合

  • 胆道閉塞のある患者(禁忌)
  • 本剤成分に過敏症の既往

投与時の注意事項:

  • 高カロリー輸液用基本液に微量元素が含まれている場合は減量を検討
  • 中心静脈ルートからの投与が原則
  • 定期的な血中濃度測定(特に長期投与時)
  • 神経症状の早期発見のための定期評価

近年の臨床研究では、マンガン非含有製剤の使用により、神経毒性のリスクを回避しながら必要な微量元素補給が可能であることが示されています。特に長期TPN管理が必要な患者では、マンガン蓄積のリスクと効果のバランスを慎重に評価し、適切な製剤選択を行うことが重要です。

また、投与中は患者・家族への十分な説明と、多職種チームでの継続的なモニタリング体制の構築が、安全な微量元素補給療法の実施には不可欠です。

厚生労働省による医療事故防止対策資料