定型抗精神病薬一覧と分類別特徴解説

定型抗精神病薬一覧

定型抗精神病薬の分類と概要
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ブチロフェノン系

ドパミン遮断作用が強く、陽性症状に効果的だが錐体外路症状のリスクが高い

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フェノチアジン系

鎮静作用が強く、様々な受容体に作用するが陽性症状への効果は限定的

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ベンズアミド系

低用量で抗うつ作用、高用量で抗精神病作用を示す穏やかな薬剤群

定型抗精神病薬のブチロフェノン系薬剤

ブチロフェノン系定型抗精神病薬の中でも最も強力なドパミンD2受容体遮断作用を持つ薬剤群です。この系統の代表的な薬剤は以下の通りです。

  • セレネース(ハロペリドール):最も広く使用されている薬剤で、強力な抗精神病作用を示します
  • インプロメン(ブロムペリドール):セレネースと類似した作用機序を持ちます
  • トロペロン(チミペロン):比較的軽度の錐体外路症状を示すとされています

ブチロフェノン系の特徴として、幻覚や妄想などの陽性症状に対して優れた効果を発揮する一方で、錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用が多く見られることが挙げられます。特にセレネースは急性期の興奮状態や激しい幻覚・妄想に対して即効性が期待できるため、救急医療の現場でも頻繁に使用されています。

持続性注射剤として、ハロマンス/ネオペリドール(セレネースの持続注射剤)が利用可能で、服薬コンプライアンスの問題がある患者に対して有効です。これらの薬剤は4週間に1回の投与で効果を維持できるため、外来通院治療における重要な選択肢となっています。

定型抗精神病薬のフェノチアジン系薬剤

フェノチアジン系は定型抗精神病薬の中で最も歴史が古く、多様な受容体に作用することで幅広い治療効果を示します。主な薬剤には以下があります。

  • コントミン/ウィンタミン(クロルプロマジン):世界初の抗精神病薬として1950年代に導入されました
  • レボトミン/ヒルナミン(レボメプロマジン:強い鎮静作用を持ち、不眠や興奮に効果的です
  • フルメジン(フルフェナジン):統合失調症や躁うつ病の治療に使用され、1日1-10mgで投与されます
  • PZC(ペルフェナジン):1日8-32mgで使用され、口渇や便秘の副作用が報告されています

フェノチアジン系の特徴は、ドパミン受容体以外にもヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、セロトニン受容体など多様な受容体に作用することです。この多受容体作用により、強い鎮静効果が得られる反面、陽性症状に対する効果は他の系統と比較して限定的とされています。

特にコントミンは、統合失調症治療の歴史を変えた革命的な薬剤として位置付けられており、現在でも重篤な興奮状態や混乱状態の患者に対して使用されています。持続性注射剤としてフルデカシン(フルメジンの持続注射剤)が利用可能です。

定型抗精神病薬のベンズアミド系薬剤

ベンズアミド系は他の定型抗精神病薬と異なり、用量依存性の作用特性を示すユニークな薬剤群です。この系統の代表的な薬剤は。

  • ドグマチール/アビリット/ミラドール(スルピリド):最も汎用性の高い薬剤の一つです
  • バルネチール(スルトピリド):スルピリドの改良型として開発されました

ベンズアミド系の最大の特徴は、低用量(50-150mg/日)では抗うつ作用を示し、高用量(300-600mg/日以上)では抗精神病作用を発揮することです。この二相性の作用により、うつ状態を併発した統合失調症患者や、陰性症状が顕著な患者に対して特に有効とされています。

副作用としては高プロラクチン血症が比較的多く見られますが、錐体外路症状は他の定型抗精神病薬と比較して軽度である傾向があります。また、ドグマチールは胃腸薬としても使用されており、消化器症状を併発する患者には一石二鳥の効果が期待できます。

統合失調症の陰性症状に対する効果については、従来の定型抗精神病薬の中では比較的良好な成績を示しており、非定型抗精神病薬が普及する以前は陰性症状治療の主力薬剤として位置付けられていました。

定型抗精神病薬の副作用と注意点

定型抗精神病薬の使用において最も注意すべきは副作用の管理です。主要な副作用は以下の通りです。

錐体外路症状

  • パーキンソン様症状(振戦、筋固縮、無動)
  • アカシジア(座位不能)
  • ジストニア(筋の異常収縮)
  • 遅発性ジスキネジア(口周囲の不随意運動)

内分泌系副作用

  • 高プロラクチン血症による月経不順、乳汁分泌
  • 性機能障害
  • 体重増加

自律神経系副作用

  • 口渇、便秘、排尿障害
  • 起立性低血圧
  • 心電図異常

錐体外路症状は用量依存性が高く、特にブチロフェノン系で頻発します。これらの症状に対しては抗パーキンソン病薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジルなど)の併用が一般的ですが、長期使用による認知機能への影響も考慮する必要があります。

高プロラクチン血症は特にベンズアミド系で多く見られ、女性患者では月経異常、男性患者では性機能障害を引き起こす可能性があります。定期的なプロラクチン値のモニタリングが推奨されています。

定型抗精神病薬選択時の臨床判断基準

定型抗精神病薬の選択は、患者の症状プロファイル、既往歴、併用薬、生活環境などを総合的に考慮して決定されます。以下に実臨床での判断基準を示します。

急性期治療での選択基準

興奮が強く即効性が必要な場合は、ブチロフェノン系(特にセレネース)が第一選択となることが多いです。一方、不眠や不安が前景に立つ場合は、鎮静作用の強いフェノチアジン系が適しています。

維持期治療での選択基準

陰性症状が顕著な場合や軽度のうつ状態を併発している場合は、ベンズアミド系の使用を検討します。また、服薬コンプライアンスに問題がある患者には持続性注射剤の選択が重要になります。

特殊状況での考慮事項

高齢者では錐体外路症状のリスクが高いため、より低用量から開始し、慎重な用量調整が必要です。また、心疾患患者では心電図への影響を考慮し、定期的なモニタリングが不可欠です。

非定型抗精神病薬との使い分け

現在の治療ガイドラインでは非定型抗精神病薬が第一選択とされていますが、複数の非定型抗精神病薬で効果不十分な場合や、特定の副作用により継続困難な場合には、定型抗精神病薬への変更が検討されます。

臨床現場では、患者個々の特性に応じたオーダーメイド治療の観点から、定型抗精神病薬の特性を熟知し、適切な選択を行うことが重要です。また、副作用モニタリングと適切な対症療法により、患者のQOL維持と治療継続を図ることが求められています。