透析患者禁忌薬一覧
透析患者禁忌薬一覧の基本知識
透析患者における禁忌薬とは、使用することで病状悪化や重篤な副作用を引き起こす可能性が高い薬剤を指します。一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会が示す透析患者に禁忌とされている薬剤は80以上にのぼり、医療従事者にとって正確な知識の習得が不可欠です。
禁忌となる理由は主に以下の5つのカテゴリに分類されます。
- 薬の血中濃度が上昇するリスクがある薬剤
- 腎障害を悪化させるおそれや腎不全を起こすリスクがある薬剤
- 副作用が強く現れるリスクがある薬剤
- 低血糖を起こすリスクがある薬剤
- 出血を起こすリスクがある薬剤
透析患者では薬物動態のADME(吸収・分布・代謝・排泄)における排泄の部分で腎臓の果たす役割が著しく低下しているため、通常量の投与でも予期しない副作用が生じる可能性があります。
慢性腎臓病(CKD)の重症度分類において、透析導入の目安はeGFR15以下とされており、これは確実に高度から重度の腎障害に該当します。添付文書では「重篤・重度の腎障害」がeGFR10以下、「高度の腎障害」がeGFR11-30とされることが多く、透析患者はこれらの範囲に含まれます。
透析患者に血中濃度上昇リスクがある薬剤
腎排泄型薬剤は透析患者において血中濃度が上昇し、重篤な副作用を引き起こすリスクが高いため禁忌とされています。
主な薬剤には以下があります。
抗うつ薬・精神科領域薬剤
- ベンラファキシン塩酸塩(イフェクサーSRカプセル)
- デュロキセチン塩酸塩(サインバルタカプセル)
- パリペリドン(インヴェガ錠)
- パリペリドンパルミチン酸エステル(ゼプリオン水懸筋注シリンジ)
抗不整脈薬
- ジソピラミドリン酸塩(リスモダンR錠)
- ソタロール塩酸塩(ソタコール錠)
糖尿病治療薬
- メトホルミン塩酸塩(グリコラン錠、メトグルコ錠)
- メトホルミン塩酸塩配合剤(メタクト配合錠、エクメット配合錠など)
その他
- リザトリプタン安息香酸塩(マクサルト錠)- 片頭痛治療薬
- レボセチリジン(ザイザル錠)- 抗ヒスタミン薬
- アマンタジン塩酸塩(シンメトレル錠)- 抗パーキンソン病薬
これらの薬剤は透析による除去が困難で、血中濃度の急激な上昇により意識障害を伴う重篤な副作用が現れる可能性があります。
透析患者の腎障害悪化を招く薬剤
透析患者では残存腎機能の保護が重要であり、さらなる腎障害を引き起こす可能性のある薬剤は厳格に禁忌とされています。
造影剤
- ガドジアミド水和物(オムニスキャン静注シリンジ)
- ガドテリドール(プロハンス静注)
これらのMRI用造影剤は腎性全身性線維症(NSF)のリスクがあります。
抗がん剤
- ネダプラチン(アクプラ静注用)- 白金製剤
- メトトレキサート(リウマトレックスカプセル)- 骨髄障害が致死的となることがある
- ブレオマイシン塩酸塩(ブレオ注射用)- 重篤な肺症状のリスク
その他
- オーラノフィン(オーラノフィン錠)- 抗リウマチ薬
- ゾレドロン酸水和物(リクラスト点滴静注液)- ビスホスホネート製剤
- ヒドロキシエチルデンプン70000(サリンヘス輸液)- 血漿増量剤
これらの薬剤は腎機能をさらに悪化させ、透析患者の予後に重大な影響を与える可能性があります。
透析患者の副作用増強リスクがある薬剤
透析患者では薬剤の蓄積により副作用が増強されるリスクが高く、以下の薬剤群が特に注意を要します。
抗不整脈薬
- シベンゾリンコハク酸塩(シベノール錠)
透析でほとんど除去されず、急激な血中濃度上昇により意識障害を伴う低血糖等の重篤な副作用が現れるおそれがあります。
抗パーキンソン病薬
- プラミペキソール塩酸塩水和物(ミラペックスLA錠)
ドパミン受容体作動薬として作用し、透析患者では副作用が強く現れる可能性があります。
抗リウマチ薬
- バリシチニブ(オルミエント錠)- JAK阻害薬
免疫抑制作用により感染症リスクが増大し、透析患者では特に注意が必要です。
代謝拮抗薬
- フルダラビンリン酸エステル(フルダラ錠)
プリン代謝拮抗薬として作用し、透析患者では骨髄抑制等の副作用が増強される可能性があります。
糖尿病治療薬における低血糖リスク
以下の薬剤は透析患者で低血糖を起こすリスクが高いため注意が必要です。
- ブホルミン塩酸塩(ジベトス錠)
- グリベンクラミド(オイグルコン錠)
- ナテグリニド(ファスティック錠)
出血リスクのある薬剤
透析患者では出血傾向があるため、以下の抗凝固薬は特に慎重な使用が求められます。
- エノキサパリンナトリウム(クレキサン皮下注)
- ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサカプセル)
- エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ錠)
透析患者の市販薬使用時の注意点
透析患者では処方薬だけでなく、市販薬(OTC医薬品)やサプリメントにおいても重篤な副作用のリスクがあります。
アルミニウム・マグネシウム含有製剤
胃腸薬や便秘薬に含まれるアルミニウムやマグネシウムは透析患者にとって特に危険です。
アルミニウム含有薬剤の例。
- 太田胃散
- スクラート胃腸薬
- アバロンZ
- ガストール
- カイゲン感冒カプセル
長期投与によりアルミニウム脳症(言語障害、異常行動、精神障害)やアルミニウム骨症(骨軟化症による骨折リスク増大)を発症することがあります。
マグネシウムが蓄積すると高マグネシウム血症となり、不整脈、意識障害、心停止などの生命に関わる症状が現れる可能性があります。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
解熱鎮痛剤として広く使用されるNSAIDsは透析患者において以下のリスクがあります。
主な薬剤。
- ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニンS)
- イブプロフェン(ブルフェン)
- ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)
- アスピリン
これらは腎障害の悪化や消化管出血などの胃腸障害をもたらす場合があり、総合風邪薬にも含まれているため注意が必要です。
漢方薬・生薬
市販の漢方薬にも透析患者が注意すべき成分が含まれています。
- 麻黄:交感神経刺激作用
- 甘草:偽アルドステロン症のリスク(咳止めシロップにも含有)
- 附子:心毒性のリスク
その他の注意すべき市販薬・サプリメント
- ガスター10(ファモチジン):腎排泄型のため血中濃度上昇リスク
- ビタミンA・C・E:過量摂取による蓄積
- 青汁:カリウム、ビタミンK含有により電解質異常のリスク
- ハーブ(セント・ジョーンズ・ワート):薬物相互作用
服薬指導のポイント
透析患者への服薬指導では以下の点を重視すべきです。
- 市販薬購入前の医療従事者への相談の徹底
- 薬剤成分表示の確認習慣の指導
- 腎機能の状態や合併症に応じた個別対応
- 定期的な服薬状況の確認とモニタリング
透析患者の薬物療法において、医療従事者は常に最新の禁忌薬情報を把握し、患者の安全を最優先に考えた適切な薬剤選択と指導を行うことが重要です。