成人スティル病 症状と治療
成人スティル病の主な症状と特徴的な発熱パターン
成人スティル病(Adult-onset Still’s disease: AOSD)は、発熱、皮疹、関節症状を三主徴とする全身性の炎症疾患です。この疾患の最も特徴的な症状は、独特の発熱パターンにあります。
患者さんの約80〜100%に見られる発熱は、一日のうちに39℃以上の高熱が1〜2回出現し、その間は解熱するという「スパイク状」の発熱パターン(弛張熱)を示します。この発熱は通常、夕方から早朝にかけて出現し、日中は解熱するという特徴があります。興味深いことに、このような高熱が長期間続いても、一般的な感染症と比較して体力の消耗感が少なく、解熱時には比較的元気であることが多いです。
皮膚症状としては、発熱に伴って出現し解熱とともに消失する「サーモンピンク疹」と呼ばれる薄いピンク色の皮疹が特徴的です。この皮疹はかゆみなどの自覚症状に乏しく、主に体幹や四肢に出現します。
関節症状については、関節痛や関節炎が見られ、手首、肘、肩、膝などの大関節に多く発症します。関節リウマチとは異なり、手指などの小関節よりも大きな関節を中心に症状が現れる点が特徴です。これらの関節症状も発熱に一致して出現し、解熱とともに改善することが多いですが、一部の患者さんでは持続性の関節炎に移行することもあります。
その他の症状としては、咽頭痛(約70%)、リンパ節腫脹(約65%)、脾腫(約55%)、肝腫大(約45%)などが見られます。また、まれに胸膜炎、心膜炎、間質性肺炎などの臓器病変を合併することもあります。
成人スティル病の診断基準と血液検査での特徴的な所見
成人スティル病の診断は非常に難しく、特異的な検査所見がないため、他の疾患を除外しながら総合的に診断する必要があります。日本では「山口の分類基準」が広く用いられており、この基準は大項目と小項目から構成されています。
【山口の分類基準】
大項目 | 1. 発熱(39℃以上、1週間以上) 2. 関節痛(2週間以上持続) 3. 定型的皮疹 4. 80%以上の好中球増加を含む白血球増加(10,000/mm³以上) |
---|---|
小項目 | 1. 咽頭痛 2. リンパ節腫脹かつ/または脾腫 3. 肝機能異常 4. リウマトイド因子陰性および抗核抗体陰性 |
判定 | 大項目2項目以上を含み、合計5項目以上で成人スティル病と分類する(除外項目を除く) |
参考項目 | 血清フェリチン著増(正常上限の5倍以上) |
除外項目 | 感染症、悪性腫瘍(リンパ腫など)、その他リウマチ性疾患 |
血液検査では、以下のような特徴的な所見が見られます。
- 白血球増多:10,000/mm³以上の白血球増加と80%以上の好中球増加
- 炎症マーカーの上昇:CRP、赤沈の著明な上昇
- 血清フェリチンの著増:正常上限の5倍以上、時に数万ng/mlに達することも
- 肝機能異常:AST、ALT、LDHの上昇
- IL-18の上昇:特に血球貪食症候群合併例で顕著
特に血清フェリチンの著明な上昇は診断の重要な手がかりとなります。一方で、リウマトイド因子や抗核抗体は通常陰性であり、これは他の膠原病との鑑別点となります。
診断においては、感染症、悪性腫瘍(特にリンパ腫)、他のリウマチ性疾患などの除外が重要です。不明熱の鑑別診断として成人スティル病を考慮する際には、これらの検査所見と臨床症状を総合的に評価することが必要です。
成人スティル病の治療法とステロイド療法の実際
成人スティル病の治療の中心は、副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)療法です。患者さんの症状の重症度に応じて、治療戦略が決定されます。
ステロイド療法の基本方針。
- 初期治療では、中等量から大量のステロイド(プレドニゾロン換算で0.5〜1mg/kg/日)を使用します
- 通常、初期投与量を2週間程度継続し、症状や検査所見の改善を確認します
- 症状が安定したら、2〜4週間ごとに5〜10%ずつ慎重に減量していきます
重症例への対応。
- 初期投与量で効果不十分な場合や、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血球貪食症候群などの重篤な合併症がある場合は、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500〜1000mg/日を3日間点滴静注)を行うこともあります
ステロイド減量時の注意点。
- 減量中に症状が再燃した場合は、ステロイドを1.5〜2倍程度に増量します
- 症状によっては初期治療と同程度まで増量することもあります
- 約40%の患者さんがステロイド依存性となり、完全な離脱が困難となることがあります
ステロイド治療中は、以下の副作用に注意が必要です。
これらの副作用を予防・管理するために、骨粗鬆症予防薬(ビスホスホネート製剤など)、胃粘膜保護剤、感染予防対策などが併用されることがあります。
ステロイド治療は効果的である一方、長期使用による副作用や減量困難例の存在が課題となっています。そのため、近年では次に述べる免疫抑制剤や生物学的製剤の併用療法が重要な選択肢となっています。
成人スティル病における免疫抑制剤と生物学的製剤の役割
ステロイド治療に抵抗性を示す場合や、ステロイド減量時に再燃を繰り返す症例では、免疫抑制剤や生物学的製剤の追加が検討されます。これらの薬剤は、ステロイド依存性の軽減や長期的な疾患コントロールに重要な役割を果たします。
メトトレキサート(MTX)
- 主に関節リウマチに使用される薬剤ですが、成人スティル病でも有効性が報告されています
- 特に関節炎の持続例やステロイド減量困難例に効果的です
- 通常、週1回7.5〜15mg程度を投与します
- 副作用として肝機能障害、骨髄抑制、間質性肺炎などに注意が必要です
シクロスポリン
- カルシニューリン阻害薬に分類される免疫抑制剤です
- 血中濃度をモニタリングしながら投与量を調整します(通常2.5〜5mg/kg/日)
- 特に血球貪食症候群合併例に有効とされています
- 副作用として腎機能障害、高血圧、神経毒性などがあります
生物学的製剤
- トシリズマブ(アクテムラ®)
- IL-6受容体阻害薬で、日本で開発された生物学的製剤です
- 2019年に成人スティル病に対して保険適用が承認されました
- 通常8mg/kgを2〜4週間ごとに点滴静注します
- 特にステロイド抵抗性例や重症例に有効です
- 副作用として感染症リスクの上昇、肝機能障害、好中球減少などがあります
- アナキンラ、カナキヌマブ
- IL-1阻害薬で、海外では成人スティル病に対して使用されています
- 日本では現在、成人スティル病に対する保険適用はありません
- 特に全身症状の強い症例に効果的とされています
- TNF阻害薬
- インフリキシマブやエタネルセプトなどが含まれます
- 成人スティル病に対する効果は限定的で、第一選択とはなりません
治療選択の考え方としては、疾患の病型(全身症状優位型か関節症状優位型か)や重症度、合併症の有無などを考慮して最適な治療法を選択します。全身症状優位型ではIL-1/IL-6阻害薬が、関節症状優位型ではMTXやTNF阻害薬が比較的有効とされています。
近年の研究では、早期からの積極的な治療介入(ステロイドと免疫抑制剤/生物学的製剤の併用)が、長期的な予後改善に寄与する可能性が示唆されています。特に難治例や重症例では、専門医による多角的な治療アプローチが重要です。
成人スチル病の診断と治療の進歩に関する最新の総説(日本内科学会雑誌)
成人スティル病患者の日常生活での注意点と長期予後
成人スティル病と診断された患者さんは、疾患そのものの管理だけでなく、治療に伴う副作用や日常生活での注意点を理解することが重要です。また、長期的な予後についても知っておくことで、より良い疾患管理が可能になります。
日常生活での注意点
- 感染症予防
- ステロイドや免疫抑制剤による治療中は免疫力が低下するため、感染症のリスクが高まります
- 手洗い・うがいの徹底、人混みの回避、マスク着用などの基本的な感染対策を心がけましょう
- 発熱や咳などの症状が出現した場合は、早めに医療機関を受診することが重要です
- 薬剤アレルギーへの注意
- 成人スティル病の患者さんは薬剤アレルギーが出やすいとされています
- 新たな薬剤を処方される際は、主治医に成人スティル病であることを伝え、相談しましょう
- 骨粗鬆症対策
- 定期的な通院と検査
- 症状が安定していても定期的な通院と検査が必要です
- 血液検査では炎症マーカー(CRP、フェリチンなど)をモニタリングします
- 薬剤の副作用をチェックするための肝機能検査や血球数検査も重要です
- 生活習慣の改善
- 規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠をとりましょう
- バランスの良い食事を心がけ、特にステロイド使用中は塩分・糖分の過剰摂取に注意しましょう
- 過度の疲労やストレスは症状悪化の誘因となることがあるため、適度な休息を取りましょう
長期予後について
成人スティル病の長期予後は、病型によって異なります。
- 単周期型(約30%):1回の発症エピソードのみで完全寛解する
- 多周期型(約30%):寛解と再燃を繰り返す
- 慢性関節炎型(約40%):持続的な関節症状を呈する
予後に影響する因子としては、以下が報告されています。
- 発症時の高齢(65歳以上)
- 脾腫の存在
- 持続的な疾患活動性
- 血球貪食症候群の合併
近年の治療法の進歩により、全体的な予後は改善傾向にあります。特に生物学的製剤の導入により、従来のステロイド依存例や難治例でも良好な疾患コントロールが得られるようになってきました。
しかし、約10〜20%の患者さんでは重篤な合併症(血球貪食症候群、DIC、多臓器不全など)を発症するリスクがあり、早期診断と適切な治療介入が重要です。特に血清フェリチン値が極めて高値(10,000ng/ml以上)の症例では、重症化リスクが高いとされています。
長期的な疾患管理においては、患者さん自身が疾患について理解し、医療チームと協力して治療に取り組むことが重要です。症状の変化に注意し、異常を感じたら早めに医療機関に相談することで、より良い予後につながります。
成人スティル病と小児スティル病(全身型若年性特発性関節炎)の違い
成人スティル病と小児スティル病(全身型若年性特発性関節炎)は、臨床像が非常に類似していますが、いくつかの重要な違いがあります。これらの違いを理解することは、診断や治療アプローチを考える上で重要です。
発症年齢による定義
- 小児スティル病:16歳未満で発症する全身型若年性特発性関節炎(systemic juvenile idiopathic arthritis: sJIA)
- 成人スティル病:16歳以上で発症する成人発症スティル病(adult-onset Still’s disease: AOSD)
臨床症状の違い
- 発熱パターン
- 両者とも特徴的な弛張熱(スパイク状発熱)を呈しますが、小児では発熱の規則性がより顕著な傾向があります
- 小児では発熱に伴う全身状態の悪化が成人よりも強く現れることがあります
- 皮疹の特徴
- 両者ともサーモンピンク疹が特徴的ですが、小児ではより鮮やかな色調を示すことが多いです
- 小児では発熱時に皮疹が出現し解熱時に消失するという関連性がより明確です
- 関節症状
- 小児では関節炎の持続性が高く、成長期の関節に影響を及ぼすため、成長障害や関節変形のリスクがより高いです
- 成人では一過性の関節症状にとどまる例も多く見られます
- 合併症
- 小児では成長障害、アミロイドーシスのリスクがより高いです
- 成人では肝機能障害、DIC、血球貪食症候群などの重篤な合併症の頻度が相対的に高いとされています
検査所見の違い
- 血清フェリチン値
- 両者とも上昇しますが、成人でより著明な上昇(数万ng/ml)を示す傾向があります
- 遺伝的背景
- 小児では特定の遺伝子多型(IL-6、IL-1関連遺伝子など)との関連がより強く示唆されています
- 成人では遺伝的要因よりも環境因子の影響が相対的に大きいと考えられています
治療反応性の違い
- ステロイド反応性
- 小児では成人よりもステ