急性腹症の原因と診断と治療の最新知見

急性腹症の定義と原因疾患

急性腹症の基本情報
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定義

発症1週間以内の急性発症で、手術などの迅速な対応が必要な腹部疾患の総称

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緊急度

救急外来の腹痛患者は約5%、初期対応の遅れによる急速な病状悪化を防ぐため迅速な対応が必須

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診断アプローチ

詳細な病歴聴取、身体診察、画像診断(特にCT)を組み合わせた総合的評価が重要

急性腹症とは、発症1週間以内の急性発症で、手術などの迅速な対応が必要な腹部疾患の総称です。明確な定義はありませんが、一般的に突然発症した急激な腹痛の中で緊急手術やそれに代わる迅速な初期対応を求められる腹部疾患群のすべてを指します。

救急外来では腹痛を主訴とする受診者が5%に達すると報告されており、初期対応の遅れによる急速な病状悪化を防ぐために迅速かつ的確な病態の解釈と緊急の処置を要する疾患群として対応する必要があります。

急性腹症の診療において重要なのは、腹痛の発生メカニズムを理解することです。痛みには、体性痛、内臓痛、関連痛、神経因性疼痛があり、病態により以下の4つに分類されます。

  1. 壁側腹膜の炎症(体性痛)
  2. 管腔臓器の閉塞(内臓痛)
  3. 血管障害(体性痛、内臓痛)
  4. 非特異的腹痛(内臓痛、関連痛)

これらの分類に基づいて、治療方針も異なってきます。1と3は緊急手術やIVR治療、2や4はドレナージや保存的治療を考慮することが多いです。

急性腹症の主な原因疾患と頻度

急性腹症の原因となる疾患は多岐にわたります。主な原因疾患とその特徴を以下に示します。

  • 急性虫垂炎(盲腸):虫垂が細菌感染し腫れる。若年者に多く、右下腹部痛が特徴的。
  • 急性胆嚢炎:胆嚢が細菌感染し腫れる。胆石を有する中高年に多く、右上腹部痛と発熱が特徴。
  • 急性胆管炎:胆管が閉塞して、細菌感染する。Charcotの三徴(右上腹部痛、黄疸、発熱)が特徴。
  • 腸閉塞:小腸や大腸などの腸管が閉塞する。腹部手術歴のある患者に多く、腹痛、嘔吐、腹部膨満が特徴。
  • 消化管穿孔:胃、十二指腸、小腸、大腸などに穴が開く。激烈な腹痛と腹部板状硬が特徴。
  • ヘルニア嵌頓:ヘルニア嚢にはまり込んだ腸が戻らなくなり虚血になる。
  • 憩室炎:腸管にできた憩室に細菌感染する。高齢者に多く、左下腹部痛が特徴的。
  • 急性腸炎:腸の細菌またはウイルス感染。下痢、腹痛、発熱が主症状。
  • 尿管結石:腎臓と膀胱をつなぐ尿管に石が詰まる。激烈な疝痛発作が特徴。
  • 急性膵炎:膵臓が消化液で溶ける。上腹部痛と血清アミラーゼ上昇が特徴。
  • 腹部大動脈瘤破裂:お腹の大動脈が破裂する。突然の激烈な腹痛と血圧低下が特徴。
  • 腹部血管の閉塞:お腹の血管が閉塞して臓器が虚血になる。
  • 婦人科疾患:卵巣茎捻転や子宮外妊娠、卵巣出血、骨盤内炎症性疾患など。

これらの疾患の頻度は年齢や性別によって異なりますが、急性虫垂炎、急性胆嚢炎、腸閉塞は比較的頻度の高い疾患です。また、高齢者では憩室炎や腹部大動脈瘤破裂などの頻度が増加します。

急性腹症の痛みのメカニズムと特徴

急性腹症における腹痛のメカニズムを理解することは、診断の手がかりとなります。腹痛のメカニズムは主に以下の4つに分類されます。

  1. 体性痛(壁側腹膜の炎症)
    • 特徴:局在が明確で鋭い痛み、呼吸や体動で増強
    • 例:腹膜炎、消化管穿孔
  2. 内臓痛(管腔臓器の閉塞)
    • 特徴:局在が不明確でうずくような痛み、周期的な痛み
    • 例:腸閉塞、胆石症、尿管結石
  3. 関連痛(内臓からの痛みが別の部位に放散)
    • 特徴:内臓の支配神経と同じ脊髄分節に入る体性神経の支配領域に痛みを感じる
    • 例:胆嚢炎による右肩痛、膵炎による背部痛
  4. 神経因性疼痛(神経自体の障害)

急性腹症の痛みは、その性質、部位、放散痛の有無、増悪・寛解因子などの特徴から原因疾患を推測することができます。例えば、突然発症する激烈な腹痛は消化管穿孔や腹部大動脈瘤破裂を、周期的に増強する疝痛は腸閉塞や尿管結石を示唆します。

また、痛みの部位も重要な手がかりとなります。

  • 右上腹部:胆嚢炎、胆石症、肝疾患
  • 心窩部:胃潰瘍、膵炎、心筋梗塞
  • 左上腹部:脾臓破裂、胃潰瘍
  • 右下腹部:虫垂炎、回腸末端炎、卵巣疾患(女性)
  • 左下腹部:S状結腸憩室炎、卵巣疾患(女性)
  • 下腹部全体:膀胱炎、前立腺炎、婦人科疾患

急性腹症の診断アプローチと最新の画像診断技術

急性腹症の診断は、詳細な病歴聴取、身体診察、検査所見を総合的に評価して行います。特に近年は画像診断技術の進歩により、より正確な診断が可能になっています。

病歴聴取のポイント

  • 痛みの発症様式(突然か徐々にか)
  • 痛みの性質(鋭い、鈍い、疝痛性など)
  • 痛みの部位と放散痛
  • 増悪・寛解因子
  • 随伴症状(発熱、嘔吐、下痢、血便など)
  • 既往歴(手術歴、基礎疾患など)

身体診察のポイント

  • バイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸数、体温)
  • 腹部視診(膨満、陥凹、蠕動不穏など)
  • 腹部聴診(腸蠕動音の亢進または減弱)
  • 腹部触診(圧痛、反跳痛、筋性防御、腫瘤など)
  • 直腸診、婦人科的診察(必要に応じて)

検査所見

  • 血液検査:白血球数、CRP、肝・胆道系酵素、膵酵素、腎機能など
  • 尿検査:尿潜血、尿中アミラーゼなど
  • 画像検査:超音波検査、CT、MRI、内視鏡検査など

特に画像診断技術の進歩は急性腹症の診断精度を大きく向上させています。CTは急性腹症の診断において最も有用な検査の一つであり、多くの疾患の診断に役立ちます。最新の多列検出器CT(MDCT)は短時間で高精細な画像を得ることができ、造影剤を使用することで血管病変や臓器の血流評価も可能です。

MRIは放射線被曝がなく、軟部組織のコントラスト分解能に優れているため、特に妊婦や若年者、腎機能障害のある患者に有用です。MRCPは胆道系疾患の評価に優れています。

超音波検査はベッドサイドで簡便に行え、リアルタイムに観察できる利点がありますが、検者の技量に依存する面があります。急性胆嚢炎や急性虫垂炎の診断に有用です。

近年注目されている画像診断技術として、造影超音波検査や拡散強調MRI、PET-CTなどがあります。これらの技術を適切に組み合わせることで、より正確な診断が可能になっています。

急性腹症の治療法と緊急度の判断基準

急性腹症の治療は、原因疾患と重症度に応じて異なります。治療方針の決定には、緊急度の判断が極めて重要です。

緊急度の判断基準

急性腹症の緊急度は以下の要素から総合的に判断します。

  1. バイタルサインの異常(ショック状態、頻脈、発熱など)
  2. 腹部所見の重症度(腹膜刺激症状の有無と程度)
  3. 検査所見(白血球増多、CRP上昇、臓器障害の程度など)
  4. 画像所見(遊離ガス像、腹水、臓器虚血所見など)
  5. 基礎疾患や年齢(高齢者や免疫不全患者はより注意が必要)

治療法の選択

急性腹症の治療は、大きく以下の3つに分類されます。

  1. 緊急手術
    • 適応:消化管穿孔、絞扼性腸閉塞、腹部大動脈瘤破裂、虚血性腸炎など
    • 手術方法:開腹手術または腹腔鏡手術(患者の状態や施設の状況による)
    • 術前準備:全身状態の安定化(輸液、抗菌薬投与、循環動態の安定化)
  2. 緊急IVR(Interventional Radiology)治療
    • 適応:腹部動脈瘤、消化管出血、急性膵炎に伴う仮性動脈瘤など
    • 方法:血管塞栓術、ステント留置、ドレナージなど
  3. 保存的治療
    • 適応:単純性腸閉塞、軽症の急性膵炎、軽症の急性胆嚢炎など
    • 方法:絶食、輸液、抗菌薬投与、経鼻胃管留置、疼痛管理など
    • 経過観察:定期的な身体診察、検査所見の確認、画像検査の再評価

重要なのは、保存的治療を選択した場合でも、定期的に再評価を行い、病状の悪化があれば速やかに治療方針を変更することです。特に高齢者では症状が非典型的であることが多く、病状の進行が速いため、より慎重な経過観察が必要です。

急性腹症で最も大切なことは、我慢せずにすぐに病院に受診することです。今までにない腹痛や、冷汗をかくような腹痛、突然の腹痛、歩くとお腹に響く腹痛の時は、急いで受診することが重要です。重症化を減らし救命するためには、早期診断による早期治療が不可欠です。

急性腹症における筋肉トレーニングと身体機能の関連性

急性腹症の予防や回復において、筋肉トレーニングと身体機能の関連性は近年注目されている分野です。特に腹部筋群の適切なトレーニングは、急性腹症の予防や術後回復に重要な役割を果たす可能性があります。

腹部筋群の役割と急性腹症の関連

腹部筋群(腹直筋、腹斜筋、腹横筋など)は、単に体幹を支えるだけでなく、内臓の保護や腹腔内圧の調整にも重要な役割を果たしています。これらの筋肉が適切に機能することで、以下のような効果が期待できます。

  1. 内臓のサポートと保護:腹部筋群が適切に発達していると、内臓の位置を正常に保ち、ヘルニアなどのリスクを減少させる可能性があります。
  2. 腹腔内圧の適切な調整:腹部筋群は腹腔内圧を調整する役割があり、これが適切に機能することで、便秘や腸閉塞などのリスクを軽減する可能性があります。
  3. 術後回復の促進:腹部手術後のリハビリテーションにおいて、適切な腹部筋群のトレーニングは回復を促進し、術後合併症のリスクを減少させることが報告されています。

筋肉トレーニングの効果と方法

最近の研究では、筋肉トレーニングの効果が部位によって異なることが明らかになっています。Nunesらの2024年の研究によれば、筋肉の大きさや構造の変化は、トレーニング後に部位によって異なることが示されています。つまり、単一部位の測定だけでは筋肉適応の全体像を把握できない可能性があります。

急性腹症の予防や術後のリハビリテーションにおいては、以下のような筋肉トレーニングが推奨されます。

  1. コアスタビリティトレーニング:腹部深層筋(特に腹横筋)を強化