紫斑病の症状と種類
紫斑病とは、皮膚に紫色の斑点や出血斑が現れる疾患の総称です。これらの紫斑は、血管の異常や血小板の減少などさまざまな原因で発生します。紫斑病は単なる皮膚症状だけでなく、全身に影響を及ぼす重篤な疾患の一症状であることも少なくありません。
医療従事者として紫斑病の症状を正確に把握することは、早期診断と適切な治療につなげるために非常に重要です。本記事では、紫斑病の主な種類とその特徴的な症状、診断方法、治療法について詳しく解説します。
紫斑病の症状と皮膚の特徴的な変化
紫斑病の最も特徴的な症状は、皮膚に現れる紫色の斑点や出血斑です。これらの紫斑は、皮下の毛細血管からの出血によって生じます。紫斑の特徴は疾患によって異なりますが、一般的には以下のような特徴があります。
- 押しても消えない赤紫色~青紫色の斑点
- 大きさは点状から斑状までさまざま
- 主に下肢(特に下腿や足首)に多く出現
- 左右対称に出現することが多い
- かゆみを伴うことがある
IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)では、わずかに盛り上がった赤紫色~青紫色の斑点が、足のスネや甲などに左右対称に複数現れます。多くの場合かゆみも伴い、ひどくなると紫斑の部分で水ぶくれをおこしたり、ただれたりすることもあります。
免疫性血小板減少症(ITP)では、打撲の覚えがなくても皮膚にあざができやすく、鼻血や歯ぐきからの出血が止まりにくいといった症状が特徴的です。
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)では、皮膚の紫斑に加えて、発熱、倦怠感、脱力感、食欲不振、悪心などの全身症状が現れ、急激に症状が悪化することが特徴です。
紫斑病の症状と内臓障害の関連性
紫斑病は皮膚症状だけでなく、内臓にも障害を引き起こすことがあります。特にIgA血管炎では、全身の小血管に炎症が生じるため、様々な臓器に症状が現れます。
IgA血管炎の主な内臓障害には以下のようなものがあります。
- 消化器症状。
- 腹痛(特に筋けいれんを伴う腹痛)
- 吐き気・嘔吐
- 下痢
- 血便(タール状の黒色便)
- まれに腸重積(特に小児)
- 腎臓障害。
- 関節症状。
- 膝関節や足関節など下肢の大きな関節の疼痛
- 関節の腫れ
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)では、微小血管に血栓が形成されることで、以下のような重篤な内臓障害が生じることがあります。
これらの内臓障害は紫斑病の重症度を示す重要な指標となるため、皮膚症状だけでなく全身症状にも注意を払う必要があります。
紫斑病の症状と血小板減少の関係
紫斑病の中には、血小板の減少が主な原因となるものがあります。血小板は止血に重要な役割を果たしているため、その数が減少すると出血傾向が強まり、紫斑が生じやすくなります。
免疫性血小板減少症(ITP)は、血小板に対する自己抗体が産生されることで血小板が破壊され、減少する自己免疫疾患です。主な症状には以下のようなものがあります。
- 皮下出血(紫斑)
- 粘膜からの出血(歯肉出血、鼻出血、性器出血など)
- 血小板が1万/μl以下になると消化管出血や頭蓋内出血のリスクが高まる
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)も血小板減少を特徴とする疾患ですが、ITPとは異なり、ADAMTS13という止血因子切断酵素の機能低下が原因です。TTPでは血小板減少に加えて、微小血管に血栓が形成されるという特徴があります。
血小板減少による紫斑病の症状の重症度は、血小板数に関連していることが多く、血小板数が著しく低下すると(通常10,000/μL未満)、重篤な出血のリスクが高まります。
紫斑病の症状と年齢・性別による違い
紫斑病の症状や経過は、年齢や性別によって異なる特徴を示すことがあります。
免疫性血小板減少症(ITP)の年齢による違い。
- 小児の急性型ITP。
- 上気道などのウイルス感染後2~3週間で急激に発症
- 多くは3~6カ月以内に自然回復
- 男女差はあまりない
- 成人の慢性型ITP。
- 数カ月~数年の経過で徐々に発症
- 成人女性に比較的多い
- 慢性的な経過をたどることが多い
IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)の年齢による違い。
- 小児。
- 発症率が高く、年間10万人あたり10~20人程度
- 主に3~10歳の小児に多い
- 男児に多い
- 上気道炎(特に溶連菌)や胃腸炎後に発症することが多い
- 予後は比較的良好
- 成人。
- 発症率は小児より低い
- 腸重積はまれ
- 慢性腎臓病のリスクが小児より高い
年齢や性別による症状の違いを理解することは、診断や治療方針の決定に重要な情報となります。特に小児と成人では疾患の経過や予後が異なることが多いため、年齢に応じた適切な対応が求められます。
紫斑病の症状と感染症の意外な関連性
紫斑病の発症には、感染症が重要な引き金となることがあります。特に注目すべきは、一見関連性がないように思える動物との接触が原因となる稀な紫斑病の存在です。
カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症は、犬や猫の口腔内に常在する細菌による感染症で、敗血症性ショックや急性感染性電撃性紫斑病を引き起こすことがあります。この感染症の特徴は以下の通りです。
- 犬や猫に噛まれたり、舐められたりすることで感染
- 感染頻度は少ないが、一度感染すると全身状態が急激に悪化
- 敗血症性ショックやDIC(播種性血管内凝固症候群)に至ることが多い
- 電撃性紫斑病を合併すると生命予後が極めて悪い
- 明らかな咬傷痕がなくても感染することがある
実際の症例では、70歳の女性が犬に指を軽く噛まれた4日後に発熱し、翌日に意識障害が生じて敗血症性ショックと診断されました。集中治療により救命できたものの、手指や耳介、鼻尖、口唇の壊死に至り、最終的に四肢切断が必要となりました。
この例からわかるように、動物との接触歴がある場合、明らかな咬傷痕がなくても、カプノサイトファーガ感染症を鑑別診断に含めることが重要です。特に高齢者や脾臓摘出後、アルコール依存症、免疫不全状態の患者では注意が必要です。
また、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も上気道感染症(特に溶連菌感染)や胃腸炎などの感染症後に発症することが多く、感染から1~3週間後に紫斑や関節症状、腹部症状が現れることが特徴です。
このように、一見関連性がないように思える感染症が紫斑病の重要な原因となることがあるため、詳細な病歴聴取が診断の鍵となります。
紫斑病の症状から考える診断と治療のアプローチ
紫斑病の診断は、症状の特徴、血液検査、皮膚生検などを総合的に評価して行われます。治療は原因疾患によって大きく異なるため、正確な診断が重要です。
診断アプローチ。
- 詳細な病歴聴取。
- 紫斑の出現時期と経過
- 全身症状の有無
- 感染症や薬剤使用の既往
- 動物との接触歴
- 家族歴
- 身体診察。
- 紫斑の分布と性状(盛り上がりの有無、色調など)
- 関節症状の有無
- 腹部症状の有無
- 神経学的所見
- 検査。
- 血液検査(血小板数、凝固機能、ADAMTS13活性など)
- 尿検査(蛋白尿、血尿の有無)
- 皮膚生検(IgA血管炎では小血管へのIgA沈着)
- 骨髄検査(ITPでは骨髄での血小板産生は正常~増加)
治療アプローチ。
- 免疫性血小板減少症(ITP)。
- IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)。
- 軽症例:対症療法
- 重症例:副腎皮質ステロイド薬
- 腎症合併例:免疫抑制剤の併用
- 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)。
- 血漿交換療法(緊急治療)
- 副腎皮質ステロイド薬
- リツキシマブ
- カプラシズマブ
- カプノサイトファーガ感染症。
- 適切な抗菌薬治療
- 敗血症性ショックに対する集中治療
- 壊死組織の外科的切除
紫斑病の治療は原因疾患によって大きく異なるため、早期の正確な診断が予後を左右します。特に血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)やカプノサイトファーガ感染症による電撃性紫斑病は致死的となる可能性があるため、迅速な診断と治療が必要です。
また、紫斑病の症状が現れた場合は、単なる皮膚症状と軽視せず、潜在的な全身疾患の可能性を考慮して総合的な評価を行うことが重要です。特に内臓症状を伴う場合や、急速に進行する場合は、早急に専門医の診察を受けることをお勧めします。
紫斑病の症状は多岐にわたり、その背景にある疾患も様々です。医療従事者は紫斑病の症状を正確に評価し、適切な診断と治療につなげることで、患者の予後改善に貢献することができます。
紫斑の種類と病因についての詳細な情報(日本血栓止血学会の資料)
IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)の症状と治療に関する詳細情報(慶應義塾大学病院)