ベラプロスト先発品の基本情報
先発品より後発品の方が高い薬価です
ベラプロスト先発品ドルナーとプロサイリンの製品概要
ベラプロストナトリウムの先発品には、ドルナー錠20μg(東レ、薬価20.8円)とプロサイリン錠20(科研製薬、薬価22.4円)の2製品が存在します。両製品とも有効成分は同一のベラプロストナトリウムで、規格も20μg錠と同じです。
これは一物二名称と呼ばれる状況です。
開発の経緯として、ベラプロストナトリウムは経口投与可能なプロスタサイクリン(PGI2)誘導体製剤として東レ株式会社が合成しました。この成分は血小板および血管平滑筋のプロスタサイクリン受容体に作用し、血小板の凝集を抑制するとともに血管を拡げることで血液の流れを改善する薬理作用を持ちます。1992年に慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善を適応症として製造承認を取得し、その後、原発性肺高血圧症の適応も追加されました。
KEGG医薬品データベース:ベラプロストナトリウムの製品一覧と薬価比較
両先発品の違いは販売会社のみで、製剤としての品質や効能効果、用法用量に違いはありません。ただし、薬価がドルナーの方が1.6円安く設定されている点は注目に値します。処方する際には、この薬価差が年間を通じて積み重なることを考慮すると、患者負担や医療経済的な観点から選択する必要があります。
現在、トーアエイヨーが販売提携を行っており、ドルナーの流通を担当しています。これにより安定供給体制が構築されていますが、後発品の出荷調整が頻発している状況下では、先発品の供給状況も確認しておくことが重要です。
ベラプロスト先発品と後発品の薬価比較と選択基準
ベラプロストナトリウム20μg錠の薬価を比較すると、興味深い逆転現象が見られます。先発品のドルナーが20.8円、プロサイリンが22.4円であるのに対し、後発品の多くは12.8円という低価格です。しかし、沢井製薬のベラプロストNa錠20μg「サワイ」は21.2円と、先発品のドルナーよりも高い薬価設定となっています。
つまり逆転が起きています。
この薬価の逆転現象は、後発医薬品への置換えが進まない先発品に対する薬価引き下げ措置(Z2ルール)が適用された結果と考えられます。通常、後発品は先発品の50〜70%程度の薬価に設定されますが、先発品の薬価が段階的に引き下げられた結果、一部の後発品よりも安価になるという珍しい状況が生まれました。
医療機関や薬局で採用を検討する際には、単純な薬価だけでなく、安定供給の観点も重要です。2022年以降、後発医薬品の出荷調整や限定出荷が相次いでおり、ベラプロスト製剤でも一部の後発品メーカーが限定出荷を実施した履歴があります。例えば、第一三共エスファのベラプロストNa錠20μg「YD」の一部包装が2022年末に販売終了となっています。
患者への説明においては、令和6年10月からの選定療養制度により、後発品があるにもかかわらず先発品を選択する場合、先発品と後発品の価格差の4分の1が追加負担となる可能性があることを伝える必要があります。ただし、ベラプロストの場合、先発品の薬価が一部後発品より安いため、この制度の適用がどうなるかは個別の状況によって異なります。
ベラプロスト先発品の適応症と臨床での使用実態
ベラプロストナトリウムの承認されている適応症は、慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善と、原発性肺高血圧症の2つです。慢性動脈閉塞症では、通常成人に1日120μgを3回に分けて食後に経口投与します。これは1回40μg、つまり20μg錠を2錠ずつ、1日合計6錠を服用する計算になります。
原発性肺高血圧症では1日60〜180μgが用量範囲です。
慢性動脈閉塞症は、手足の動脈が細くなったり詰まったりすることで血流が悪化し、冷感や疼痛、重症例では潰瘍や壊死を引き起こす疾患です。ベラプロストは血管拡張作用と抗血小板作用により、これらの症状を改善します。臨床試験では、潰瘍の縮小や疼痛の軽減といった効果が確認されています。
原発性肺高血圧症は、肺動脈の血管抵抗が増大し、数年で死に至る可能性のある重篤な疾患です。ベラプロストは肺血管を拡張させることで肺動脈圧を低下させ、右心不全の進行を抑制します。この適応では通常、1日60μgから開始し、症状を観察しながら漸次増量していく慎重な投与が求められます。最高用量は1日180μgまでとされています。
社会保険診療報酬支払基金:ベラプロストナトリウム錠の適正使用に関する審査の取扱い
臨床現場では、承認適応外ではありますが、レイノー現象に対する使用も広く行われています。レイノー現象は、寒冷刺激やストレスによって手指の血管が収縮し、指先が白色や紫色に変色する症状です。全身性強皮症では90%、混合性結合組織病では98%と高頻度で見られ、膠原病診療において重要な対処が必要な症状となっています。プロスタサイクリン誘導体であるベラプロストの血管拡張作用が、この症状の改善に有効とされ、日本皮膚科学会や日本循環器学会のガイドラインでも言及されています。
ただし、添付文書上の効能・効果は「慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善」であり、潰瘍を伴わない慢性動脈閉塞症やレイノー現象単独での使用は適応外処方となります。審査支払機関からの査定リスクもあるため、カルテ記載や患者説明を適切に行うことが重要です。
ベラプロスト先発品処方時の重要な禁忌と注意事項
ベラプロストナトリウムの絶対禁忌は、出血している患者と妊婦または妊娠している可能性のある女性の2つです。出血傾向のある患者に投与すると、血小板凝集抑制作用により出血を増大させる危険性があります。血友病、毛細血管脆弱症、上部消化管出血、尿路出血、喀血、眼底出血などの出血性疾患を有する患者には投与できません。
妊婦への投与は絶対禁忌です。
妊娠中の投与に関する安全性は確立しておらず、動物実験では妊娠期間および分娩時間の延長などが報告されています。プロスタサイクリン製剤は子宮平滑筋にも作用する可能性があり、胎児への影響が懸念されます。妊娠可能な年齢の女性患者に処方する際には、必ず妊娠の可能性を確認し、避妊の必要性について説明することが求められます。特に慢性動脈閉塞症は比較的高齢者に多い疾患ですが、原発性肺高血圧症は若年女性にも発症するため、注意が必要です。
授乳婦に関しては、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討する必要があります。ベラプロストナトリウムの乳汁中への移行に関するデータは限られているため、安全性の観点から慎重な判断が求められます。
併用注意として、抗凝固薬(ワーファリン等)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル等)との併用があります。これらの薬剤とベラプロストを併用すると、出血傾向が増強される可能性があります。しかし、実際の臨床では、慢性動脈閉塞症や心血管疾患のリスクが高い患者において、これらの薬剤との併用が必要となることも少なくありません。併用する場合は、出血症状の発現に注意し、定期的な血液検査でモニタリングを行うことが重要です。
PMDA:ベラプロストナトリウム錠の添付文書(禁忌・併用注意の詳細)
高齢者への投与では、一般に生理機能が低下していることを考慮し、慎重に投与する必要があります。腎機能や肝機能の低下により薬物代謝が遅延し、副作用が発現しやすくなる可能性があります。初回投与時から副作用の発現に注意し、必要に応じて減量も検討します。
意識障害等があらわれることがあるため、自動車の運転等危険を伴う機械の操作には注意が必要です。患者への服薬指導時には、この点を必ず説明し、特に初回投与時や増量時には注意を促すことが求められます。
ベラプロスト徐放製剤と通常錠の違いと切り替え時の注意点
ベラプロストナトリウムには、通常錠(速放性製剤)のドルナー・プロサイリンとは別に、徐放性製剤のケアロードLA錠60μg(東レ、薬価92.4円)とベラサスLA錠60μg(科研製薬、薬価115.8円)が存在します。これらの徐放製剤は、肺動脈性肺高血圧症のみが承認適応であり、慢性動脈閉塞症には使用できない点が大きな違いです。
用法用量も大きく異なります。
通常錠が1日3回食後投与であるのに対し、徐放製剤は1日2回食後投与です。徐放製剤の開発により、血中濃度の持続化と最高血中濃度の低減が実現され、服薬回数の減少によるアドヒアランス向上と、顔面紅潮や頭痛といった副作用の軽減が期待できます。
肺動脈性肺高血圧症の治療において、通常錠から徐放製剤への切り替えを行う際には、用量換算に注意が必要です。添付文書には、通常錠とLA錠の用法・用量が異なることが明記されており、単純な用量換算での切り替えは推奨されていません。切り替え時には患者の症状を十分に観察し、必要に応じて用量調整を行います。
逆に、徐放製剤から通常錠への変更も同様の注意が必要です。例えば、LA錠60μgを1日2回服用している患者(1日用量120μg)を通常錠に変更する場合、通常錠20μgを1日6錠(1回2錠×3回、1日用量120μg)とすることが考えられますが、添付文書では具体的な換算方法は示されていないため、慎重な判断が求められます。
おくすり110番:ベラプロスト徐放錠の詳細情報と通常錠との違い
徐放製剤は割ったり、砕いたり、すりつぶしたりしないで、そのままかまずに服用するよう指導することが重要です。これらの行為により徐放性が失われ、急激な血中濃度上昇によって副作用が発現しやすくなります。嚥下困難な患者には徐放製剤は適さず、通常錠の選択または他剤への変更を検討する必要があります。
後発品については、現時点で徐放製剤のジェネリック医薬品は発売されていません。ケアロードLAとベラサスLAは一物二名称の先発品であり、後発品への切り替えはできない状況です。肺動脈性肺高血圧症の治療において、薬剤費の負担が問題となる場合には、他のPGI2誘導体製剤(セレキシパグなど)や、異なる作用機序の肺高血圧症治療薬(エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬など)の併用や変更を検討することも選択肢となります。
国立循環器病研究センターの肺循環科では、肺動脈性肺高血圧症の治療薬として、ベラプロスト通常錠、ベラプロスト徐放剤、セレキシパグなどの経口PGI2製剤を使い分けています。患者の重症度、服薬アドヒアランス、副作用の発現状況などを総合的に評価し、最適な薬剤選択を行うことが重要です。