Ib群抗不整脈薬の作用機序と副作用、使い分け

Ib群抗不整脈薬の作用機序と適応

アプリンジンは心房細動にも効く例外薬剤です

この記事の3ポイント
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Ib群薬は心室性不整脈専門

Naチャネル遮断作用で活動電位持続時間を短縮し、主に心室性不整脈に使用される薬剤群です

催不整脈作用が比較的少ない

Ia群やIc群と比較してQT延長やQRS幅増大のリスクが低く、安全性が高いのが特徴です

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アプリンジンは心房筋にも作用

Ib群の中で例外的に心房細動にも効果を示し、リドカインやメキシレチンとは異なる特性を持ちます

Ib群抗不整脈薬のNaチャネル遮断作用の特徴

Ib群抗不整脈薬は、心筋細胞のナトリウムチャネルを遮断することで抗不整脈作用を発揮します。心筋細胞が興奮する際、ナトリウムイオンが細胞内に流入して活動電位が立ち上がりますが、Ib群薬はこのナトリウムチャネルに結合して、ナトリウムイオンの流入を抑制するのです。

この薬剤群の最大の特徴は、チャネルとの結合・解離が非常に速いという点にあります。心拍数が速いときにのみ効果を発揮する「使用依存性」を持っているため、正常な洞調律ではほとんど影響を与えません。つまり、異常な頻拍が起こっているときだけ選択的に作用するということですね。

また、Ib群薬はカリウムチャネルの開口を促進する作用も併せ持っています。カリウムイオンが細胞外へ出ることで、活動電位持続時間(APD)が短縮されます。心電図上では、Ia群薬がQT間隔を延長させるのに対し、Ib群薬はQT間隔を短縮させるか、ほとんど変化させません。QT延長が少ないということは、トルサード・ド・ポワンツのような致死的不整脈のリスクが低いことを意味します。

心房筋の活動電位持続時間は150~200ミリ秒と短く、心室筋は300~400ミリ秒と長いという違いがあります。Ib群薬は結合・解離が速いため、活動電位持続時間の短い心房筋ではチャネルとの結合時間が不十分で、十分な効果を発揮できません。

これが原則です。

一方で、心室筋では活動電位持続時間が長いため、Ib群薬がチャネルに結合する時間が十分に確保され、期外収縮を抑制する効果が得られます。これがIb群薬が主に心室性不整脈に使用される理由なのです。

日本麻酔科学会の抗不整脈薬の作用機序に関する詳細な解説資料(PDF)

Ib群抗不整脈薬の代表的な薬剤と特性の違い

Ib群抗不整脈薬には、リドカイン、メキシレチン、アプリンジンの3つの代表的な薬剤があります。同じIb群に分類されていても、それぞれ異なる特性を持っていることを理解する必要があります。

リドカインは静脈注射のみで使用される薬剤で、急性心筋梗塞時の心室性不整脈や、手術中の不整脈予防に広く使われてきました。作用発現が速く、半減期が比較的短いため、緊急時の対応に適しています。通常、成人には50~100mg(1~2mg/kg)を1~2分間かけて緩徐に静脈内注射し、効果が不十分な場合は5分後に同量を追加投与します。効果が得られれば、1~4mg/分の持続点滴で維持することができます。

メキシレチンは経口投与が可能なリドカイン誘導体で、慢性的な心室性不整脈の管理に使用されます。リドカインと同様に結合・解離が速い「fast型」に分類され、心房筋への作用はほとんどありません。通常、1日300~450mgを分割投与しますが、食後に服用することで消化器症状を軽減できます。

アプリンジンは他の2剤と大きく異なる特徴を持っています。結合・解離の速度が中間的(intermediate型)であるため、リドカインやメキシレチンとは違い、心房筋にも作用を示すのです。

これは例外と言えます。

さらに、アプリンジンは弱いながらもカルシウムチャネルやカリウムチャネルへの遮断作用も併せ持っています。そのため、心房細動や異所性心房頻拍など、上室性不整脈に対しても効果を発揮することがあり、最近では成人領域で持続性心房細動に対してベプリジルとの併用療法として注目されています。心機能抑制作用が比較的少ないことも、術後患者などで選択される理由となっています。

通常、成人には1日40mgから投与を開始し、効果が不十分な場合は60mgまで増量します。半減期が約50時間と長いため、定常状態に達するまで7~14日かかりますが、1日2~3回の分割投与で済むというメリットがあります。

小児循環器学会誌に掲載されたアプリンジンの特性に関する論文(PDF)

Ib群抗不整脈薬が心室性不整脈に有効な理由

心室性不整脈は生命を脅かす可能性のある重篤な病態です。心室頻拍や心室細動といった致死的不整脈は、急性心筋梗塞や心筋症などの基礎疾患で発生しやすく、迅速な対応が求められます。

Ib群抗不整脈薬が心室性不整脈に特に有効なのは、前述の通り心室筋の活動電位持続時間が長いという生理学的特性に基づいています。心室筋では活動電位が300~400ミリ秒続くため、Ib群薬がナトリウムチャネルに結合する時間が十分に確保されます。結合時間が長くなれば、それだけチャネル遮断効果が強くなり、異常な興奮を抑制できるのです。

急性心筋梗塞の際には、虚血によって心室筋の電気的安定性が失われ、心室性期外収縮や心室頻拍が頻発します。このような状況では、リドカインの静注が第一選択として長年使用されてきました。ただし、近年の研究では、アミオダロンやニフェカラントの方がリドカインよりも蘇生率や24時間生存率が有意に高いことが示されており、治療戦略が変化しつつあります。

それでも問題ありません。

心室性不整脈に対するIb群薬の使用で重要なのは、投与速度とモニタリングです。リドカインを急速投与すると、中枢神経系の副作用として、せん妄、めまい、振戦、痙攣などが出現する可能性があります。必ず1~2分間かけて緩徐に静注し、心電図モニターで不整脈の変化を観察しながら投与することが求められます。

また、肝機能障害がある患者では、リドカインの代謝が遅延し、血中濃度が上昇しやすくなります。

減量や投与間隔の延長を考慮すべきです。

高齢者でも同様に、薬物代謝能力が低下しているため、慎重な用量調整が必要となります。このような場合、通常量より低用量から開始し、効果と副作用を慎重に評価しながら調整していく姿勢が大切です。

Ib群抗不整脈薬の副作用と催不整脈作用の特徴

抗不整脈薬全般に共通する問題として、催不整脈作用があります。不整脈を治療するための薬が、逆に新たな不整脈を引き起こしてしまうという矛盾した現象です。しかし、Ib群薬は他の群と比較して、この催不整脈作用が少ないという大きな利点を持っています。

Ia群薬では、QT間隔の延長によってトルサード・ド・ポワンツという致死的な心室性不整脈が発生するリスクがあります。Ic群薬では、QRS幅の増大により心室内伝導が遅延し、新たなリエントリー回路が形成されやすくなります。特に、心筋梗塞後の患者にIc群薬を使用すると、死亡率が上昇することが大規模臨床試験で明らかになっています。

これに対して、Ib群薬はQT間隔をほとんど延長させず、QRS幅への影響も軽微です。つまり、催不整脈作用が問題になることは少ないということですね。

ただし、Ib群薬にも注意すべき副作用があります。最も多いのは中枢神経系の症状で、特にリドカインの静注時に顕著です。血中濃度が治療域を超えると、めまい、ふらつき、眠気、多幸感、しびれ感などが出現します。さらに濃度が上昇すると、振戦、構音障害、痙攣などの重篤な症状に進展することがあります。

厳しいところですね。

メキシレチンでも同様に、めまいや振戦といった中枢神経症状が副作用として報告されています。また、消化器症状として悪心、嘔吐、食欲不振が起こることがあり、特に投与開始初期に多く見られます。食後投与や制酸剤の併用で症状を軽減できる場合があるため、患者指導の際に伝えておくと良いでしょう。

アプリンジンは、治療域と中毒域の幅が狭い薬剤です。副作用として、中枢神経症状のほかに、肝機能障害や顆粒球減少症が報告されています。特に初期負荷時や維持量調整時に副作用が出やすいため、血中濃度のモニタリングが推奨されます。ただし、必ずしも有効血中濃度に到達していなくても効果を認める症例があるため、臨床症状と心電図所見を総合的に評価することが重要です。

Ib群抗不整脈薬と他のI群薬との使い分けの実践

臨床現場で抗不整脈薬を選択する際には、不整脈のタイプ、基礎疾患の有無、心機能の状態、薬剤の副作用プロファイルなど、多くの要素を考慮する必要があります。I群抗不整脈薬の中でも、Ia群、Ib群、Ic群それぞれに適した使用場面があるのです。

上室性不整脈、特に心房細動や心房粗動に対しては、Ia群薬(キニジン、プロカインアミド、ジソピラミドなど)やIc群薬(フレカイニド、プロパフェノンなど)が選択されます。これらの薬剤は心房筋にも十分な作用を示すためです。Ib群薬は心房筋への作用がほとんどないため、通常は使用されません。

ただし、アプリンジンは例外的に上室性不整脈にも効果を示すことがあります。特に異所性心房頻拍に対しては、フレカイニドやアミオダロンの代替選択肢として検討されることがあります。フレカイニドの陰性変力作用やアミオダロンの重篤な副作用(肺線維症、甲状腺機能異常など)が問題となる場合、アプリンジンの相対的な安全性が評価されるのです。

心室性不整脈に対しては、Ia群、Ib群、Ic群すべてが適応となりますが、選択基準は基礎疾患によって大きく異なります。器質的心疾患のない患者、特に若年者の特発性心室性期外収縮に対しては、Ib群薬が比較的安全に使用できます。催不整脈作用が少なく、心機能への影響も軽微だからです。

一方、急性心筋梗塞や陳旧性心筋梗塞の患者では、Ic群薬の使用は避けるべきとされています。心筋梗塞患者を対象とした大規模試験(CAST試験)で、Ic群薬が死亡率を増加させることが示されたためです。このような患者にはβ遮断薬やIII群薬(アミオダロンなど)が推奨され、Ib群薬も選択肢の一つとなります。

心不全患者では、陰性変力作用(心収縮力を低下させる作用)の強い薬剤は避ける必要があります。Ia群薬の中でもジソピラミドは強い陰性変力作用を持つため、心不全患者には禁忌です。Ib群薬は陰性変力作用が比較的弱いため、心不全合併例でも慎重に使用できる場合があります。

QT延長症候群の患者では、QT間隔をさらに延長させるIa群薬やIII群薬は使用できません。このような場合、QT間隔を短縮させるか不変に保つIb群薬が選択されることがあります。薬剤選択の際には心電図で必ずQT間隔を測定し、QTc(補正QT時間)が男性で450ms以上、女性で470ms以上の場合は特に注意が必要です。

実際の処方を検討する際には、まず不整脈のタイプを心電図で確認し、次に基礎疾患と心機能を評価します。その上で、各薬剤の特性と副作用プロファイルを比較検討して、最適な薬剤を選択するという手順を踏むことで、安全で効果的な治療が実現できるのです。

日本循環器学会の不整脈薬物治療ガイドライン2020年改訂版(PDF)