ヒドロキシジン作用機序の理解
ヒドロキシジンの抗コリン作用は他の第一世代抗ヒスタミン薬より実は少ない特徴があります。
ヒドロキシジンのH1受容体インバースアゴニスト作用の詳細
ヒドロキシジンは、一般的な抗ヒスタミン薬とは異なる作用メカニズムを持っています。多くの医療従事者は「H1受容体拮抗薬」という言葉から、単にヒスタミンが受容体に結合するのを競合的に阻害する薬剤だと理解しているかもしれません。しかし実際には、ヒドロキシジンはH1受容体に対して「インバースアゴニスト(逆作動薬)」として作用します。
つまり単なる拮抗薬ではないのです。
H1受容体は、ヒスタミンが存在しない状態でも約5〜15%の基礎活性を示すことが近年の研究で明らかになっています。インバースアゴニストは、この受容体の基礎活性自体を抑制することで、より強力な抗アレルギー効果を発揮します。ヒドロキシジンのH1受容体への結合親和性(Ki値)は約2nMという非常に高い値を示しており、これは第一世代抗ヒスタミン薬の中でも特に強力な部類に入ります。
この作用機序により、ヒドロキシジンは標的細胞のヒスタミン受容体においてヒスタミンと競合し、ヒスタミンが受容体に結合するのを阻害します。さらに受容体の不活性型を安定化させることで、アレルギー反応そのものを根本から抑制する働きを持っています。
臨床的には、蕁麻疹や湿疹、皮膚炎などのアレルギー性疾患に対して効果を発揮します。皮膚疾患に伴うかゆみの原因となるヒスタミンの作用を強力にブロックすることで、患者のQOL改善に貢献しているわけです。
ヒドロキシジンの中枢神経系への作用機序の特徴
ヒドロキシジンは、末梢だけでなく中枢神経系にも強力に作用する薬剤です。第一世代抗ヒスタミン薬の特徴として、脂溶性が高く血液脳関門を容易に通過することが知られていますが、ヒドロキシジンもその例外ではありません。
中枢における主な作用部位は、視床、視床下部、大脳辺縁系などです。
これらの脳領域に作用することで、中枢抑制作用を示すと考えられています。具体的には、視床下部のヒスタミン神経系を抑制することで覚醒レベルを低下させ、鎮静効果を生み出します。大脳辺縁系は情動や不安に関わる重要な領域であり、ここへの作用が抗不安効果に寄与していると推測されます。
さらに注目すべき点は、ヒドロキシジンがセロトニン5-HT2A受容体に対しても拮抗作用を持つことです。第一世代抗ヒスタミン薬は多少の抗セロトニン作用を持っていますが、ヒドロキシジンは特にこの5-HT2A受容体への親和性が高いことが報告されています。5-HT2A受容体の遮断は、不安感や緊張感の軽減に重要な役割を果たしており、これがヒドロキシジンの抗不安作用の主要なメカニズムの一つとなっています。
この複合的な作用により、ヒドロキシジンは神経症における不安・緊張・抑うつの治療や、術前の鎮静目的で広く使用されています。通常、神経症に対しては1日75〜150mgを3〜4回に分割投与することで、患者の精神的な緊張を和らげることが期待されます。
動物実験では、電気刺激によるマウス情動行動に対して優れた静穏効果を示すことが確認されています。また、ラットのアポモルヒネによるそしゃく運動を抑制する一方で、カタレプシー作用(筋硬直を伴う昏迷状態)は認められていません。つまり強い鎮静作用を持ちながらも、錐体外路症状のリスクが少ないということです。
ヒドロキシジンの抗コリン作用とムスカリン受容体への影響
第一世代抗ヒスタミン薬の多くは、抗コリン作用という副作用が問題となることが知られています。抗コリン作用とは、アセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを阻害する作用のことで、口渇、便秘、尿閉、緑内障の悪化、認知機能の低下などを引き起こします。
しかしヒドロキシジンは例外的です。
他の第一世代抗ヒスタミン薬と比較して、ヒドロキシジンはムスカリン性アセチルコリン受容体への親和性が非常に低いことが特徴となっています。Wikipediaの記載によれば、ヒドロキシジンは「他の第一世代抗ヒスタミン薬とは異なり、ムスカリン性アセチルコリン受容体への親和性は非常に低い」とされています。
この特性は臨床的に重要な意味を持ちます。例えば、第一世代抗ヒスタミン薬の多くは緑内障患者や前立腺肥大患者への使用が禁忌とされますが、ヒドロキシジンは慎重投与という位置づけになっています。完全に禁忌ではないため、これらの基礎疾患を持つ患者にも慎重に使用できる可能性があるわけです。
ただし、抗コリン作用がゼロというわけではありません。添付文書には「本剤の抗コリン作用により症状が悪化するおそれがある」との記載があり、緑内障、前立腺肥大、重症筋無力症、認知症、狭窄性消化性潰瘍などの患者には慎重投与が求められています。
高齢者では特に注意が必要です。抗コリン作用による認知機能低下のリスクがあるため、高齢者への処方時には減量を考慮し、認知機能への影響を慎重にモニタリングする必要があります。日本版抗コリン薬リスクスケールなどのツールを活用して、複数の抗コリン作用を持つ薬剤の併用を避けることが推奨されます。
ヒドロキシジン代謝経路とCYP酵素の関与
ヒドロキシジンの体内動態を理解することは、薬物相互作用や副作用リスクの予測に不可欠です。ヒドロキシジンは主に肝臓で代謝される薬剤であり、in vitro試験において主としてCYP3A4、CYP3A5、そしてアルコール脱水素酵素によって代謝されることが報告されています。
CYP3A4は肝臓の薬物代謝酵素の中で最も重要なものの一つです。
多くの医薬品がこの酵素で代謝されるため、CYP3A4を阻害する薬剤との併用には注意が必要となります。例えば、H2受容体拮抗薬のシメチジンは、CYP1A2、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4、CYP3A5など複数のシトクロムP450酵素を阻害します。シメチジンとヒドロキシジンを併用すると、ヒドロキシジンの血中濃度が上昇し、鎮静作用や副作用が増強される可能性があります。
ヒドロキシジンの主要代謝物は、セチリジンという活性物質です。セチリジンは中枢抑制作用はないものの、抗ヒスタミン作用を持つため、ヒドロキシジンの効果の一部はこの代謝物によるものと考えられています。セチリジン自体が第二世代抗ヒスタミン薬として単独で処方されることもあり、より眠気の少ない選択肢として位置づけられています。
健康成人にヒドロキシジン塩酸塩0.7mg/kgを単回経口投与した場合、最高血中濃度到達時間(Tmax)は約2時間、消失半減期(t1/2)は約20時間と報告されています。
つまり効果が比較的長く持続する薬剤です。
しかし腎機能障害患者や肝機能障害患者では、薬物の排泄や代謝が遅延します。中等度から重度の腎障害患者では、セチリジンの半減期が延長することが知られており、ヒドロキシジンの作用も延長する可能性があります。原発性胆汁性肝硬変患者では、ヒドロキシジンの半減期が36.6時間、セチリジンの半減期が25.0時間と、健康成人と比較して大幅に延長したとの報告があります。
高齢者でも薬物動態が変化します。加齢による分布容積の増加から半減期が約29時間に延長するため、高齢者には減量が推奨されています。
ヒドロキシジンのQT延長リスクと心毒性の臨床的意義
2015年、欧州規制当局(EMA)からヒドロキシジン含有製剤に関する重要な安全性情報が発出されました。ヒドロキシジンがQT間隔延長および心室頻拍(torsades de pointesを含む)のリスクを有するというものです。
QT延長は致死的不整脈につながる可能性があります。
この警告を受けて、日本でも添付文書が改訂され、「QT延長、心室頻拍(torsades de pointesを含む)」が重大な副作用として追記されました。これは医療従事者にとって非常に重要な情報です。
QT延長のリスクが高い患者群として、先天性QT延長症候群、著明な徐脈、低カリウム血症などの電解質異常を持つ患者が挙げられます。これらの患者には慎重投与が必要であり、心電図モニタリングを考慮すべきです。
さらに注意すべきは薬物相互作用です。QT延長を起こすことが知られている薬剤との併用により、QT延長作用が相加的に増強されるおそれがあります。例えば、抗不整脈薬のシベンゾリンコハク酸塩、一部の抗精神病薬、マクロライド系抗生物質などがこれに該当します。
臨床現場では、ヒドロキシジンを処方する前に必ず患者の心疾患の有無、併用薬、電解質状態を確認することが求められます。特に高齢者や心疾患の既往がある患者、複数の薬剤を服用している患者では、心電図検査を実施してQT間隔を評価することが望ましいでしょう。
第一世代抗ヒスタミン薬は、ムスカリン受容体、αアドレナリン受容体、セロトニン受容体、心筋イオンチャネルを阻害することが知られており、ヒドロキシジンも心筋のカリウムチャネルに影響を与える可能性が示唆されています。
この作用がQT延長の機序と考えられます。
不整脈を引き起こすおそれのある薬剤との併用により、心室性不整脈などの副作用があらわれたとの報告もあります。したがって、ヒドロキシジンを処方する際は、単なるアレルギー薬としてではなく、潜在的な心毒性リスクを持つ薬剤として認識し、適切なリスク評価と患者モニタリングを行うことが医療従事者の責務となります。
患者への説明も重要です。動悸や息切れ、めまいなどの症状が出現した場合は速やかに医療機関を受診するよう指導し、定期的な心電図検査の必要性についても理解を得ることが、安全な薬物療法を実現する鍵となるでしょう。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)による「ヒドロキシジン塩酸塩及びヒドロキシジンパモ酸塩の使用上の注意の改訂について」では、QT延長リスクに関する詳細な情報が記載されています。

【第2類医薬品】レスタミンUコーワ錠 120錠