胃神経鞘腫 治療
胃神経鞘腫 治療 適応と方針決定(粘膜下腫瘍)
胃神経鞘腫は、内視鏡で「粘膜下腫瘍(SMT/SEL)」として偶然みつかる場面が多く、無症状のまま経過する例も少なくありません。島根県立中央病院の症例報告でも、検診の上部消化管内視鏡で約25mmの隆起性病変として発見され、自覚症状がない状態から診療が始まっています。
一方で、胃粘膜下腫瘍の多くはGISTが占めるため、「神経鞘腫である確率は低いがゼロではない」という前提で鑑別に入る必要があります。
治療適応の考え方は施設・症例で差が出やすく、胃神経鞘腫“専用”の確立した治療方針は明確ではない、とされています。
実臨床では、サイズ・増大傾向・症状(出血、疼痛、通過障害)・悪性を疑う画像所見の有無などから「経過観察か、切除か」を決め、判断枠組みとしてGISTガイドラインの発想を参照する運用が多い、という立て付けになります。
大森赤十字病院の解説では、胃SEL/SMTの標準的な流れとして、2cm未満で悪性所見が乏しければ年1〜2回の経過観察、増大傾向や悪性所見があれば精査・手術、5cm超は原則手術と記載されています。
これは胃神経鞘腫だけに限定した話ではないものの、「まずSEL/SMTとしてのリスク層別化を行い、必要なら確定診断を目指す」という現実的な運用を示しており、方針決定の説明材料として使いやすいポイントです。
臨床での落とし穴は、「神経鞘腫=良性」という先入観で判断が甘くなることです。症例報告では、悪性度の頻度は低いとされつつも一定割合があり、転移を伴う悪性例があるため鑑別として念頭に置く重要性が述べられています。
したがって、治療適応は“腫瘍名”で固定せず、画像・臨床所見・組織学的所見(取れるなら)で総合評価し、患者説明では「現時点の確からしさ」と「切除の目的(診断+治療)」を分けて語るのが安全です。
参考:胃SEL/SMTの標準的フロー(経過観察・精査・手術の目安、LECSや内視鏡治療の説明)

胃神経鞘腫 治療 診断(EUS・CT・EUS-FNAB)
胃神経鞘腫の存在診断(どの層由来の病変か)はEUSで比較的容易でも、器質的診断(何の腫瘍か)は難しい、と症例報告で整理されています。
実際、島根県立中央病院の症例でもEUSで筋層(第4層)から連続するように見える腫瘤として捉えられ、内部は低エコーでモザイク状、血流は乏しいという所見が示されています。
しかしEUS所見だけでGIST・平滑筋腫・神経鞘腫を分けるのは困難で、報告では形態・発育方向・内部エコーの不均一性などで有意差が出なかったという文献にも言及されています。
この「EUSで“筋層由来の低エコー腫瘍”までは言えるが、その先が難しい」というギャップが、治療(切除)の適応判断を悩ませる最大の理由になります。
そこで重要になるのが組織診断の導入です。症例報告では、器質的診断方法としてEUS-FNABが推奨され、免疫組織化学的検索と組み合わせることで検体採取率・正診率が比較的良好と述べられています。
ただし現場感としては、腫瘍サイズや穿刺の難易度、抗血栓薬、穿刺ルート、病理リソースなどでEUS-FNABが“毎回ベスト”にならないこともあり、EUS-FNABをしない場合は「切除して初めて診断が確定する」流れが現実的です。
CTは病変の壁外発育、造影パターン、リンパ節腫大や遠隔転移の有無の評価に有用で、症例報告でも遠隔転移なし・リンパ節腫大なしが確認され、GIST疑いとして手術方針に至っています。
ここで押さえたいのは、胃神経鞘腫でもリンパ節腫大を伴い悪性腫瘍と誤認されうる、という点で、画像所見が“悪そう”に見えたときほど拙速に決めつけず、EUS-FNABや切除検体での確定診断を優先する姿勢が重要です。
参考)<sup>18</sup>F-FDGの高集積とリンパ節腫大を…
胃神経鞘腫 治療 手術(腹腔鏡・LECS・局所切除)
胃神経鞘腫の治療は、現状「切除」が中心になります。症例報告でも、確立された治療方針は示されていないが、GISTガイドラインに準じて腫瘍径に応じ外科的切除が行われた報告が多い、と述べられています。
島根県立中央病院の例では、約25mmでGIST疑いとして腹腔鏡下胃部分切除術が実施され、術後は合併症なく術後3日で退院と記載されています。
術式選択のキーワードは「胃機能温存」と「過不足ない切除」です。大森赤十字病院では、外科手術が標準である一方、腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS)により切除範囲を最小限にし、狭窄や胃変形を抑えて機能温存が期待できる、と説明されています。
胃神経鞘腫は筋層由来で壁外発育もあり得るため、腫瘍位置(噴門近傍、小弯、幽門近傍など)で単純な楔状切除が難しいことがあり、LECSのような“内腔側からの位置同定”が効いてくる場面があります。
また、近年の内視鏡治療の進歩として、大森赤十字病院では3cm以下の胃粘膜下腫瘍に対して、内視鏡のみで全層切除と縫縮まで行う「内視鏡的胃局所切除術」が先進医療として承認され、侵襲を抑え機能温存が期待されると記載されています。
これは主にGISTなどを想定した説明ですが、胃神経鞘腫も鑑別に上がるSEL/SMTの枠組みで治療選択肢を説明する際、患者が「内視鏡で取れるのか/手術が必要か」を理解する助けになります。
臨床での実務ポイントとして、胃神経鞘腫は“リンパ節郭清が標準で必要”という位置づけではない一方、悪性が疑われる状況ではサンプリングや近傍リンパ節の評価をどうするかが論点になります。症例報告では悪性例でリンパ節転移も一定割合が示されており、術前に「悪性疑い」を否定し切れない場合は、術中所見・画像所見を踏まえた柔軟な方針(過剰郭清は避けつつ見落とさない)が求められます。
胃神経鞘腫 治療 病理・免疫染色(S-100、KIT、DOG-1)
胃神経鞘腫の最終診断は病理で決まります。症例報告では、腫瘍が単調な紡錘形細胞の増生で構成され、腫瘍周囲にリンパ球集簇巣を伴い、免疫組織化学でS-100陽性、KIT/CD34/DOG-1/Desmin/αSMA陰性、Ki-67 index 5–10%で良性胃神経鞘腫と診断されています。
この「S-100陽性+GISTマーカー陰性」という免疫パターンは、胃の間葉系腫瘍鑑別の中で非常に実用的です。
意外と見落とされやすい“形態学的ヒント”が、腫瘍周囲のリンパ球集簇(lymphoid cuff)です。症例報告でも特徴として明記されており、胃神経鞘腫の典型像の一つとして押さえておく価値があります。
細胞診・病理の現場では「背景にリンパ球が目立つ」ことが胃神経鞘腫の重要な特徴とされる、という細胞検査士会の解説もあり、EUS-FNAB検体を読む場面での“気づき”につながります。
また、臨床側の説明で有用なのは「GISTはKIT陽性が多いが、神経鞘腫はKIT陰性でS-100が強陽性」という対比です。日本消化器内視鏡学会の資料(GISTに関するPDF)でも、神経鞘腫はKIT陰性でS-100蛋白が強陽性を示すことから鑑別される、と記載されています。
参考)https://www.jsge.or.jp/committees/intractable_cancer/pdf/GIST.pdf
つまり、術前にGIST疑いで切除したとしても、術後病理で神経鞘腫と確定すれば「薬物療法(分子標的薬)の対象ではない」ことが明確になり、患者の長期計画をシンプルにできます。
参考:GISTと神経鞘腫の鑑別(KITとS-100の位置づけなど、内視鏡領域での鑑別視点)
https://www.jsge.or.jp/committees/intractable_cancer/pdf/GIST.pdf
胃神経鞘腫 治療 独自視点:FDG-PET・リンパ節腫大で「悪性疑い」になった時の説明
検索上位の一般向け解説では「良性で予後良好」と一言で片づけられがちですが、現場で厄介なのは“悪性に見える良性”のシナリオです。医書系の症例報告タイトルにもあるように、消化管の神経鞘腫では18F-FDGの高集積や近傍リンパ節腫大を伴い、悪性腫瘍との鑑別が困難になることがある、と指摘されています。
この状況では、画像だけで断定的に説明すると、術後に良性だった場合も悪性だった場合も「説明の整合性」が崩れ、患者不信につながります。
医療従事者向けには、説明の軸を「診断の不確実性のマネジメント」に置くのが有効です。具体的には、①画像所見は“疑い”であり確定診断ではない、②確定には組織が必要、③切除は診断と治療を同時に満たす手段、④術式は胃機能温存を意識して選ぶ、という順序で話すと、患者も家族も理解しやすくなります。
さらに、悪性度が低い腫瘍でも「大きさ」「核分裂像」などでリスクが上がる概念は、GISTだけでなく間葉系腫瘍一般のコミュニケーションに応用できます。胃神経鞘腫でも、症例報告では悪性の判定要素として核分裂像(5個/10HPF以上)と腫瘍径(10cm以上)を挙げた文献が引用され、悪性度進行でS-100が陰性化する報告にも触れています。
つまり、術前に「良性らしいが断言できない」場合でも、術後病理で“何を見て良性と判断したのか(免疫、核分裂、壊死、潰瘍など)”を言語化して共有できれば、フォロー計画(間隔、検査内容)を合理的に組み立てられます。
臨床の小技としては、病理部門と「術前の鑑別(GIST疑い、神経鞘腫疑い、リンパ節腫大あり等)」を共有し、免疫パネル(S-100、KIT、DOG-1、CD34、Desmin、αSMAなど)を最初から想定しておくと、報告が早くなり患者説明のタイミングを逃しにくいです。
EUS-FNABを行う場合も、単に「間葉系腫瘍の可能性」と返るより、免疫まで回して“言い切れる材料”が増えるほど治療選択が透明になります。
参考:胃神経鞘腫の臨床像・病理像(リンパ球集簇、免疫染色、悪性化や転移の話まで含む症例報告)
https://www.spch.izumo.shimane.jp/hospital/pr/igaku/igakuzassi-41-10.pdf