乾癬性関節炎 治療 ガイドライン
乾癬性関節炎の診療ガイドラインと治療目標(T2T)
乾癬性関節炎(PsA)は、乾癬に関節症状を合併する慢性炎症性疾患で、診断や治療の遅れが不可逆的な関節破壊につながり得るため、早期の診断と治療開始が重要です。根拠として、日本皮膚科学会の「乾癬性関節炎診療ガイドライン2019」では、早期発見と適切な治療を通じたQOL向上を明確な目的に掲げています。
診療の現場での要点は「病態の多様性を前提に、評価指標を用いて治療目標を設定し、達成できなければ治療を調整する」という運用です。ガイドライン2019では、PsAは末梢関節炎、体軸病変、付着部炎、指趾炎、皮膚、爪といった複数ドメインの組み合わせで病像が形成されるため、単一の評価だけでは取りこぼしが生じると整理されています。
この“目標に向けて治療を調整する”考え方は、T2T(treat-to-target)として国際的にも推奨され、EULAR 2023 updateでも「寛解、または低疾患活動性を目標に、定期的評価と治療調整を行う」ことが強調されています(EULARの推奨文は末梢関節炎に限らず治療戦略全体の原則として提示)。
実務上のポイントは、目標の“定義”と“測定”です。ガイドライン2019では、DIP関節や足部を含まないDAS28の限界が指摘され、PsAに特化した複合評価指標としてDAPSAやCPDAI、PASDASなどが紹介されています。外来では、施設で採用している指標を固定し、皮膚評価(PASIやBSA、爪所見)と筋骨格評価を同日に一体として記録するだけで、治療調整の説明可能性が上がります。
さらに見落とされがちですが、PsAでは炎症マーカー(CRPなど)が上がらない患者も一定数いるため、「CRPが低い=病勢が低い」と短絡しないことが重要です。ガイドライン2019でも、急性期反応蛋白は特異性がなく、上昇しない患者もいる点が明記されています。
✅外来で使える一言例:
「PsAは皮膚と関節だけでなく付着部や体軸も含むので、毎回“同じ指標”で状態を見て、目標に届かなければ薬を調整します。」
乾癬性関節炎の治療における薬物療法(NSAID・csDMARD)
治療の入口でよく使われるのがNSAIDsですが、EULAR 2023では「NSAIDs単独は軽症例に限り、短期で用いるべき」と明確に釘を刺しています。また、経口グルココルチコイドは推奨しない、という点も同updateの重要なメッセージです。
一方、末梢関節炎がある場合は、csDMARD(従来型合成DMARD)を“速やかに開始”することが推奨され、メトトレキサートが好ましい選択肢として示されています。これは「関節破壊の予防」というPsA診療の目的に直結し、ガイドライン2019が強調する“遅れるほど予後が悪い”という観点とも整合します。
薬剤選択の現場では「皮膚が強いのに関節は軽い」「付着部炎が主体で腫脹関節は少ない」など、典型的なRAの枠組みでは説明しづらい症例が混じります。ガイドライン2019は、PsAの病態が付着部炎を基盤にし得ること、爪病変が非常に高頻度にみられ得ることなど、臨床像の“特徴”を明文化しており、ドメイン別に治療反応を評価する必要性が理解しやすい構成です。
ここで意外と重要なのが「鑑別」と「併存症」です。ガイドライン2019では、乾癬患者が関節痛を訴えた場合、PsAだけでなく変形性関節症(OA)や痛風、疼痛障害などが一定割合で混在することが示され、鑑別のポイントも表として整理されています。つまり、治療を強化する前に“炎症性”であることの再確認(圧痛・腫脹、朝のこわばり、画像、付着部所見、指趾炎、爪所見など)が、薬剤適正使用の土台になります。
📝実務メモ(箇条書き)
・NSAIDs:軽症・短期、単独で引っ張りすぎない(EULAR 2023)。
・csDMARD:末梢関節炎では早期導入、MTXが第一候補(EULAR 2023)。
・ステロイド内服:EULAR 2023では推奨しない。
・「CRP正常」でも活動性はあり得る(ガイドライン2019)。
乾癬性関節炎の生物学的製剤と分子標的薬(IL-17・IL-23・JAK)
csDMARDで治療目標に到達しない場合、EULAR 2023ではbDMARD(生物学的DMARD)を開始し、作用機序に明確な優先順位を置かない戦略が示されています。ただし、皮膚病変が“臨床的に重要”な場合は、IL-23p40、IL-23p19、IL-17A、IL-17A/F阻害など、皮膚への効果が期待できる標的を選好する、という実務的な方向付けが書かれています。
また、PsAは合併症で薬剤選択が変わります。EULAR 2023では、炎症性腸疾患やぶどう膜炎がある場合、単クローン抗体のTNF阻害薬が提案される、という“併存症ドリブン”の考え方が明確です。皮膚科・リウマチ科・眼科・消化器内科の連携が、薬剤の効かせ方だけでなく、再燃予防にも直結します。
JAK阻害薬については、EULAR 2023で「主にbDMARD不応後に検討する」位置づけが示され、リスク因子を考慮する必要性が強調されています。ここで言うリスク因子は、一般に血栓症、重篤感染、心血管イベントなどの懸念と結びつくため、導入前の既往・家族歴・喫煙・年齢・併用薬の棚卸しが、単なる注意事項ではなく“治療選択そのもの”になります。
国内の文脈に引き寄せると、ガイドライン2019はPsA治療が「日進月歩で更新が必要」とし、新規の生物学的製剤や分子標的薬の登場でエビデンスが増え続ける点を述べています。つまり、現場では「国内ガイドライン(2019)を軸に、国際推奨(EULAR 2023)で新しい薬剤群の位置づけと安全性運用を補完する」という二段構えが現実的です。
💡あまり知られていない臨床のヒント(独自の気づきに近いが、ガイドラインの記述から組み立てられる内容)
PsAは“滑膜炎中心”ではなく付着部炎を基盤にするという概念があり、関節腫脹が目立たないのに、踵部痛(アキレス腱付着部など)や骨盤周囲痛、指趾全体の腫れ(指趾炎)が強いことがあります(ガイドライン2019)。このタイプは「関節所見が乏しい=軽症」と誤解されやすく、実は早期から機能障害につながり得るため、問診で“負荷で悪化する痛み”だけでなく“安静で悪化・朝のこわばり・夜間痛”を丁寧に拾うのが治療強化の判断精度を上げます(ガイドライン2019)。
✅薬剤選択の整理(表)
| 状況(ドメイン/併存症) | ガイドライン的な考え方 | 臨床での具体化 |
|---|---|---|
| 末梢関節炎が主体 | csDMARDを早期導入、目標未達ならbDMARDへ(EULAR 2023) | MTX開始→3か月で改善度、6か月で目標到達を意識して調整(EULAR 2023) |
| 皮膚乾癬が強い | 皮膚を“薬剤選好”に反映(IL-23/IL-17系など)(EULAR 2023) | 皮膚科と同一指標で重症度共有し、関節と同時最適化 |
| ぶどう膜炎/炎症性腸疾患がある | 併存症が薬剤選択に影響、単クローン抗体TNF阻害薬が提案される(EULAR 2023) | 眼科・消化器と“再燃歴”を共有して選択 |
| bDMARD不応/選べない | JAK阻害薬を主にbDMARD不応後に検討、リスク因子考慮(EULAR 2023) | 血栓/感染/心血管リスクを導入前に棚卸し |
乾癬性関節炎の診断・スクリーニング(CASPAR・J-EARP)
治療ガイドラインの実装には「見逃さず、早く拾い上げる仕組み」が不可欠です。ガイドライン2019は、PsAが多彩で診断が難しく、皮膚科医・整形外科・内科など領域横断の連携が必要であることを背景として述べています。
診断の枠組みとして臨床研究でも広く参照されるのがCASPAR分類基準です。ガイドライン2019には、CASPARは診断基準ではなく分類基準であり、感度91.4%、特異度98.7%とされる一方、偽陰性/偽陽性もあり得る点が明記されています。この“割り切り”が重要で、外来では「乾癬が軽い」「関節症状が先行」「炎症マーカーが上がらない」といった例ほど、分類基準の外に落ちる可能性があるため、基準は補助線として扱うのが安全です。
スクリーニングツールについては、PEST、ToPAS、PASE、EARPなどが紹介され、日本語版としてJ-EARPが高い感度・特異度を示した報告があることも記載されています。多忙な外来では、乾癬患者の定期通院時に質問票を定期的に回すだけで、関節症状の拾い上げ効率が上がり、結果的に“早期治療”の達成確率を上げます。
さらに、鑑別の実務では「乾癬患者の関節痛=PsA」と即断しないことも同じくらい重要です。ガイドライン2019では、乾癬患者の関節痛の原因としてPsAのほかOA、痛風、分類不能(疼痛障害など)も一定割合であることが示されています。特に足趾の急性炎症では痛風との誤認が起きやすく、指趾炎(ソーセージ様腫脹)と痛風発作の区別を意識し、必要に応じて関節エコーや尿酸、既往歴で裏取りします。
📌スクリーニング運用のコツ(箇条書き)
・乾癬外来で年1回、J-EARP等の質問票を定期運用(ガイドライン2019)。
・「踵の痛み」「朝のこわばり」「指全体の腫れ」「爪の変化」を定型問診に入れる(ガイドライン2019)。
・CASPARは補助線。満たさなくても臨床的に疑えば専門科紹介。
乾癬性関節炎の合併症と安全性管理(感染症・心血管)【独自視点】
検索上位で多いのは薬剤カタログ的な説明ですが、実臨床で差が出るのは「合併症のマネジメントを治療戦略に組み込む」部分です。ガイドライン2019は、PsAでメタボリック症候群(高血圧・脂質異常・肥満・糖尿病など)が多いことを国内データとして示し、心血管系リスクが増加する可能性にも触れています。関節症状や皮疹の改善だけではなく、併存症を通じた長期予後の設計が、医療従事者向け記事として価値が高いポイントです。
ここで“意外に見落とされる”のが、治療選択と安全性評価が二者択一ではない点です。EULAR 2023では、JAK阻害薬の位置づけにおいてリスク因子を考慮することが明確化されており、逆に言えば、リスク評価(感染、血栓、心血管、悪性腫瘍既往など)を標準化できれば、治療選択の幅は狭まるのではなく、むしろ合理的に広がります。
またガイドライン2019が示すもう一つの示唆は、「PsAは診断までの遅れが6か月でも予後に影響し得る」という点です。つまり安全性のために慎重になりすぎて治療開始が遅れると、関節破壊という別の不可逆リスクを増やす可能性がある。安全性管理は“治療を遅らせる理由”ではなく、“治療を前に進めるための準備”として設計するとチーム全体の意思決定が整います。
📋チームで共有したい安全性チェック(例:運用の雛形)
・感染症:既往、ワクチン歴、潜在感染の評価(施設プロトコルに沿う)。
・心血管/代謝:血圧、脂質、HbA1c、BMI、喫煙、家族歴(ガイドライン2019)。
・眼・消化器:ぶどう膜炎、炎症性腸疾患の既往(EULAR 2023)。
・評価指標:皮膚(BSA/DLQI等)+筋骨格(DAPSA等)を同時記録(ガイドライン2019)。
・治療遅延の回避:疑えば早期紹介・早期介入を優先(ガイドライン2019)。
(論文引用リンク)
EULAR 2023推奨(PsA治療の全体戦略、NSAIDs短期、csDMARD早期導入、bDMARD、JAK位置づけ、併存症で薬剤選択)

(権威性のある日本語の参考リンク:国内ガイドライン原典、背景・診断・評価指標・スクリーニング・併存症・予後まで網羅)
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/PsAgl2019.pdf

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