複合性局所疼痛症候群タイプ1と診断と治療

複合性局所疼痛症候群 タイプ1

この記事の概要
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診断は「除外」+「ブダペスト基準」

症状の派手さに引きずられず、他疾患の除外と、症状・徴候のカテゴリ評価をセットで行います。

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治療目標は鎮痛より機能回復

運動療法を根幹に、病態(炎症・浮腫・痛覚過敏・心理面など)に合わせて併用療法を組み立てます。

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見落としやすい臨床の落とし穴

「検査で決める」より「診察で拾う」疾患であり、温度差・発汗・可動域・皮膚変化などの取りこぼしが誤診を招きます。

複合性局所疼痛症候群 タイプ1のブダペスト基準と診断

 

医療従事者向けに要点を先に述べると、CRPSタイプ1の診断は「臨床診断」であり、症状・徴候のカテゴリを系統立てて拾い上げることが中心になります。ブダペスト基準(Budapest clinical criteria)の骨格は、①誘因に不釣り合いな持続痛、②4カテゴリ中3カテゴリで症状(患者申告)を少なくとも1つ、③4カテゴリ中2カテゴリで徴候(診察で確認)を少なくとも1つ、④他の診断でよりよく説明できない、の4点です。これは、従来のIASP基準が「感度は高いが特異度が低い(過剰診断を招きやすい)」という課題を踏まえて改良された枠組みです(IASP 1.00/0.41に対し、Budapest clinicalは感度0.99、特異度0.68と報告)。

カテゴリは次の4つです。

・感覚(Sensory):痛覚過敏、アロディニア、知覚過敏など

・血管運動(Vasomotor):皮膚温左右差、皮膚色変化・左右差

・発汗/浮腫(Sudomotor/edema):浮腫、発汗変化・左右差

・運動/栄養(Motor/trophic):可動域低下、運動障害(筋力低下、振戦、ジストニア)、爪・毛・皮膚の栄養変化

ポイントは「症状」だけでなく、診察で「徴候」を取ることです。典型的には、患側の温度差や色調、浮腫、発汗左右差、可動域制限、ピンプリックでの痛覚過敏、軽擦・関節運動でのアロディニアなどを、意図的に確認します。診察室の短時間で確認しにくい場合は、同一条件での左右比較(触診、簡易的な皮膚温評価、観察)をルーチン化すると取りこぼしが減ります。

一方で、日本の文脈では「厚生労働省研究班による判定指標(臨床用/研究用)」も参照されます。これは、専門施設紹介の判断や臨床研究の対象選定を意図し、「診断基準」ではなく「判定指標」とされている点に注意が必要です。判定指標には、萎縮性変化、関節可動域制限、不釣り合いな痛み・知覚過敏、発汗異常、浮腫といった項目が並びますが、補償や訴訟、重症度判定の目的に使うべきではないという但し書きが明記されています。

また、タイプ1は「明らかな末梢神経損傷を伴わない」病型として定義されてきましたが、臨床症状だけでタイプ1とタイプ2を明確に分けにくい、神経損傷の有無を断定するバイオマーカーがない、といった議論がある点も押さえておくと、説明の一貫性が保てます。

複合性局所疼痛症候群 タイプ1の鑑別診断と検査

CRPSタイプ1は「診断名がつくと安心」になりやすい一方で、診断の本質は“除外診断”にあります。ブダペスト基準自体にも「他の診断でよりよく説明できない」ことが含まれており、ここが曖昧だと、CRPSに似た病態(感染、血栓、炎症性疾患、神経絞扼、骨折の遷延、固定具トラブルなど)を見逃します。特に外傷後・術後の四肢痛では、局所の器質的問題(偽関節、虚血、神経圧迫など)を見極め、外科的に修復可能な要素が残っていないか評価する重要性が指摘されています。

検査は「CRPSを確定する検査」ではなく、鑑別や病態推定の補助として位置づけるのが安全です。たとえば骨シンチは一定の文脈で取り上げられますが、診断基準に直結する“金標準”ではありません。過度に画像や特殊検査へ依存すると、「臨床所見の集積」をすり抜けて、診断が遅れたり、逆に誤診が固定化したりします。現場では、まずブダペスト基準に沿った診察でカテゴリ所見を集め、次に鑑別のために必要最小限の検査を当てていく、という順序が実務的です。

固定(不動化)に関しても落とし穴があります。橈骨遠位端骨折後などでは、ギプス固定の圧がCRPS発症と因果関係を持ちうることが示唆され、固定中に浮腫や痛みが出た場合は抜去や修正が必要とされています。つまり、CRPS“らしさ”が出たときに「難治な病気だから」と静観するのではなく、むしろ可逆的な誘因(固定具、循環障害、圧迫)を先に潰す、という姿勢が診断と治療の双方に効きます。

複合性局所疼痛症候群 タイプ1の治療と運動療法

治療の中心は、鎮痛そのものよりも「機能回復を重視」するという考え方です。日本ペインクリニック学会の指針でも、運動療法が治療の根幹とされ、病態に合わせて物理療法、薬物療法、心理療法神経ブロック療法、侵襲的治療を併用する枠組みが示されています。重要なのは、痛みが完全に消えてから動かすのではなく、「安全に動かせる形」を設計して動かすことです。

実際の組み立て例(入れ子にしない箇条書き)

・急性期で熱感・浮腫が強い:温熱/温冷交代浴などで前処置→自動運動中心→必要に応じて抗炎症薬を短期で検討

・アロディニア/痛覚過敏が強い:患部から離れた部位の運動や曝露を段階づけ→恐怖回避行動の教育→必要に応じて心理的介入

・可動域制限が目立つ:他動ROMは痛み誘発が少ない形から、段階的に拡大→拘縮予防を最優先

・機能不全が慢性化:運動療法+補助療法を再設計(効果が乏しい介入の漫然継続を避ける)

運動療法の現場で「意外に効く」論点として、目標設定の言語化があります。指針では、運動療法は「正常に治す」ではなく「より良い状態になる」を医療者と患者の共通目的にする重要性が述べられており、過剰な完治志向が回避行動や失望を強めるケースでは、治療同盟の再構築が疼痛そのものに影響します。

さらに、段階的運動イメージ(GMI:左右識別訓練→運動イメージ→鏡療法)は、CRPS type Iで有効性が示された報告がある一方、多施設で効果が出なかったとする報告もあり、万能ではありません。したがって「GMIをやる/やらない」よりも、「どの患者のどの段階で、何を指標に続けるか」を決めて導入する方が、実装としてうまくいきます。

複合性局所疼痛症候群 タイプ1の薬物療法と神経ブロック

薬物療法は、病態推定に基づく“補助輪”として設計します。指針では、神経障害性疼痛の第一選択薬として知られる三環系抗うつ薬やプレガバリンについて「CRPSに対するエビデンスがない」一方、神経障害の存在が疑われる症例では検討し、効果がなければ漫然と投与せず中止する、という現実的な姿勢が示されています。つまり「CRPSだからこの薬」ではなく、「この患者の主要ドライバー(炎症、浮腫、神経障害性要素、不眠・抑うつなど)に対して合理的か」で組みます。

急性期の炎症徴候(皮膚温上昇、浮腫など)が強い場合は、NSAIDsやステロイド投与が合理的とされますが、NSAIDs無効の報告もあるため、効果判定をしながら止め時を決めることが推奨されています。ビスホスホネート製剤は、骨萎縮を伴う比較的早期のCRPS type Iで有効性を示す報告が複数あるものの、エビデンスレベルは低いと整理されており、「早期・骨萎縮が疑われる」など条件を絞って検討するのが筋です。

神経ブロックに関しては、交感神経ブロックは以前から行われているものの、手技の画一化やブロック成否の評価が難しく、質の高いRCTが少ないためエビデンスが十分に確立されていない、と指針は率直に述べています。そこで実務上は、ブロックの“実施そのもの”より、効果判定の設計が重要です。指針では、ブロック効果が出ている間に、自発痛減少、運動時痛減少、可動域改善、筋力改善のいずれかが観察されれば「効果あり」と判断し、改善が頭打ちになったら中止する、といった運用が示されています。

なお、侵襲度の高い治療(例:脊髄刺激療法など)は、複数治療を同時併用しがちなCRPSにおいて副作用・合併症の観点から慎重な判断が必要、とされています。治療アルゴリズムを考える際は、段階づけ(リハ中心→補助療法→侵襲的治療)と、各段階の“継続基準/中止基準”をセットで持つと、過剰医療を避けやすくなります。

複合性局所疼痛症候群 タイプ1の医療者の説明と心理社会的因子(独自視点)

検索上位の解説は「診断基準」「治療法(薬・ブロック・リハ)」に偏りがちですが、臨床で結果を分けるのは“説明の設計”であることが少なくありません。日本の指針では、心理社会的因子がCRPSの発症や維持の要因であるとの強いエビデンスはないとしつつも、相互作用が広く認識され、カテコラミン放出や炎症性メディエーターとの相互作用を通じて痛みに関連しうる、という位置づけが示されています。つまり、心理面を「原因扱い」してしまうと患者の不信感や怒りを増やしますが、「痛みの回路を増幅しうる要素」として丁寧に扱うと、治療参加(運動・セルフマネジメント)を引き出せます。

特に重要なのが、“安易な病名告知”の副作用です。指針では、外傷後の痛みが強い患者に対して安易に「CRPSの疑いがある」「CRPSなので治療が難しい」と説明すると、不必要な不安や恐怖を呼び起こし、怒りや不信感につながり、痛みの遷延化や痛み顕示行動の強化につながることがある、と注意喚起しています。ここは医療者向け記事として強調したい実務ポイントです。診断名を伝える場合でも、次のような枠組みで“行動可能な情報”に変換すると臨床が回りやすくなります。

説明フレーズの設計例(箇条書き、入れ子なし)

・「いま起きているのは、ケガの治りとは別に痛みや腫れ、温度差などが続くタイプの反応が疑われます。」

・「重要なのは、痛みをゼロにしてから動かすのではなく、悪化させない形で動きを取り戻すことです。」

・「今日の診察では、温度差、浮腫、触れた時の痛み、動かしにくさといった項目を整理しました。次回は“動きの指標”で効果判定します。」

また、患者と家族への教育(不動化の悪影響、活動の重要性、セルフマネジメント)が発症早期に強く推奨される点も見逃せません。病態説明が「恐怖を減らす」方向に働けば、運動療法の実行率が上がり、結果として疼痛・機能の双方に波及します。

(ブダペスト基準の原著的内容として参照される論文)

Validation of proposed diagnostic criteria (the “Budapest Criteria”) for Complex Regional Pain Syndrome

(日本語で、判定指標・治療指針・但し書きの注意点までまとまっている参考リンク)

CRPSを「診断基準」ではなく「判定指標」とする理由、治療の根幹(運動療法)、薬物療法・神経ブロック・侵襲的治療の位置づけが確認できる。

日本ペインクリニック学会:複合性局所疼痛症候群(CRPS)治療指針(PDF)

複合性局所疼痛症候群(CRPS)をもっと知ろう‐病態・診断・治療から後遺障害診断まで‐