涙のう瘻 病態と治療 合併症と対応

涙のう瘻 病態と診療の実際

涙のう瘻の診療ポイント概要
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病態と解剖の整理

涙道閉塞や先天異常と関連する涙のう瘻の基本病態と解剖学的理解のポイントを整理します。

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診断と検査のコツ

漏涙の評価、涙道造影や涙道内視鏡の使い分け、眼内手術前評価の注意点を解説します。

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治療選択と合併症対策

涙嚢鼻腔吻合術や瘻管切除などの治療オプションと術後フォロー、全身合併症への備えを取り上げます。

涙のう瘻 病態と涙道閉塞・涙嚢炎との関係

 

涙のう瘻は、涙嚢と皮膚表面などが異常な交通を形成し、涙や膿が瘻孔から漏出する状態を指し、多くは鼻涙管閉塞や慢性涙嚢炎と密接に関連して発生します。

慢性的な鼻涙管閉塞により涙嚢内に涙が貯留し感染すると、急性・慢性涙嚢炎を繰り返し、その過程で涙嚢壁が菲薄化し皮膚側へ破れ、結果として涙のう瘻を形成するケースが少なくありません。

先天性に外涙嚢瘻として生じるタイプも報告されており、この場合は出生直後から内眼角付近の小孔より持続的な漏涙を認め、鼻涙管の通過障害の有無に応じて治療方針が変わる点が特徴的です。

涙道は涙点・涙小管・涙嚢・鼻涙管から構成され、どの部位の閉塞かによって症状や治療法が変わるため、涙のう瘻を診る際にも解剖学的イメージを正確に持つことが重要です。

参考)涙道内視鏡検査・手術、涙嚢鼻腔吻合術、先天性鼻涙管閉塞開放術…

鼻涙管閉塞症では流涙だけでなく、涙嚢内に細菌が定着することで目脂増加や眼瞼腫脹などを伴うことがあり、涙のう瘻はこうした病態が慢性化した「出口」の一つとして理解できます。

参考)https://www.hosp.u-toyama.ac.jp/amc/topic67/

なお、白内障手術や硝子体手術前に未治療の涙道閉塞・涙嚢炎が存在すると眼内炎リスクが上昇するため、涙のう瘻を見つけた場合には眼内手術の有無も含めて全身・全体の治療計画を見直す必要があります。

涙のう瘻 診断プロセスと検査の実際

涙のう瘻の診断では、まず問診と視診で漏出部位・性状・経過を丁寧に確認し、圧迫により涙嚢部から瘻孔へ涙や膿が排出されるかを観察することで、瘻孔の起源を大まかに推定します。

鑑別として、皮膚嚢胞や皮膚瘻、先天鼻涙管閉塞単独による流涙などが挙がるため、瘻孔の位置、周囲皮膚の炎症、反復する腫脹の有無などを組み合わせて評価することが求められます。

涙道評価では、涙道洗浄やブジーによる通過性確認に加え、涙道造影や涙道造影CTを実施することで、どの部位で造影剤が貯留し、瘻孔にどのように流出しているかを把握できます。

特に涙道造影CTでは、鼻涙管末端での閉塞や涙嚢の拡張の程度が可視化され、軽症か重症かを客観的に区別して治療方針を決める上で有用とされています。

さらに涙道内視鏡を用いると、涙小管から鼻涙管、下鼻道の出口まで直接観察でき、閉塞部位の正確な局在診断と同時に閉塞部の穿破やチューブ留置まで一貫して行える点が大きな利点です。

参考)涙道の病気 「涙道閉塞症(鼻涙管閉塞症)・涙嚢炎」|ふくおか…

涙のう瘻 先天性外涙嚢瘻と鼻涙管閉塞の特徴

先天性外涙嚢瘻は比較的まれな病態ですが、出生時から内眼角付近の小孔からの漏涙を認め、フルオレスセイン試験や洗浄試験で鼻涙管に明らかな通過障害がなければ、瘻管切除のみで漏涙が改善することが報告されています。

この場合、瘻管を全切除しても正常な涙道を温存できるため、通常の流涙を新たに生じさせるリスクは低く、審美的観点からも早期の手術介入が検討されます。

一方、先天鼻涙管閉塞は乳児の約5〜20%程度にみられ、生後1年頃までに多くが保存的加療で自然治癒するとされていますが、自然治癒が得られない場合にはブジーによるプロービングが有効です。

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/nasolacrimal_obstruction.pdf

日本眼科学会の先天鼻涙管閉塞診療ガイドラインでは、生後6〜15か月の片側性症例に対して即時プロービングと待機プロービングの治療成績が検討されており、生後18か月時点での治癒率はいずれも80%以上と良好であるものの、片側性と両側性で治癒率が異なる点が示されています。

先天性外涙嚢瘻では、鼻涙管の通過障害の有無を見極めることで、瘻管切除単独か、涙嚢鼻腔吻合術などを組み合わせるかといった外科的戦略が変わるため、ガイドラインに準拠した評価と術式選択が重要になります。

こちらは先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン原本へのリンクで、プロービング時期や治療成績の詳細なエビデンスが記載されています(先天性外涙嚢瘻の評価にも参考になる部分)。

日本眼科学会 先天鼻涙管閉塞診療ガイドラインPDF

涙のう瘻 涙嚢鼻腔吻合術・涙道内視鏡治療と合併症

成人の後天性涙のう瘻の多くは、背景に鼻涙管閉塞症や慢性涙嚢炎を有しているため、根本治療としては涙嚢鼻腔吻合術(DCR:Dacryocysto-rhinostomy)が選択されることが多くなります。

DCRでは、眼窩内側壁の骨を削除し、涙嚢と鼻腔を直接吻合して新たな涙の排出口を作ることで、閉塞した鼻涙管をバイパスする仕組みであり、鼻外法と内視鏡下鼻内法が代表的な手技です。

近年は耳鼻咽喉科と連携した内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術が普及しており、顔面皮膚に切開創を残さずに手術可能である一方、術野が狭く、鼻疾患の併存を十分に考慮する必要があります。

参考)涙道閉塞症

慶應義塾大学病院などの報告では、涙道内視鏡下で閉塞部を穿破しシリコンチューブを留置する涙管チューブ挿入術で改善が得られない場合にDCRへ移行する段階的戦略がとられており、閉塞部位によって難易度と改善率が大きく異なることが示されています。

合併症としては、鼻出血や術創からの出血、感染症、眼瞼・皮膚蜂窩織炎などが挙げられますが、適切な手技と術後管理により発生頻度は低く抑えられるとされています。

ブジーやプロービングに伴う合併症として特に注意すべきなのが敗血症であり、鼻涙管末端に存在する細菌が血流に乗ることで全身臓器障害をきたしうるため、発熱や全身状態の変化に敏感であることが求められます。

参考)群馬で涙道(なみだ目)治療・手術について

また、涙道チューブ留置では、脱落・埋没・位置異常などが約半数に生じるとの報告があり、一見軽微なトラブルでも再閉塞や感染の温床になりうるため、定期的な位置確認と早期のトラブルシュートが重要なポイントです。

こちらは涙道閉塞に対する涙嚢鼻腔吻合術の概要と代表的な合併症について解説したページで、術前説明やインフォームドコンセントの資料作成時に役立ちます。

西眼科病院 涙道閉塞と涙嚢鼻腔吻合術

涙のう瘻 術後フォローと眼内手術前評価の独自ポイント

涙のう瘻を伴う患者では、術後フォローの目的を「流涙・漏出の改善」だけに限定せず、眼内手術リスク低減や周囲組織への感染拡大予防まで含めた広い視点で設定することが重要です。

急性涙嚢炎を併発していた症例では、症状改善後も涙嚢内に細菌が残存し再燃することがあるため、術後もしばらくは涙道洗浄や感染徴候のチェックを継続し、瘻孔部皮膚の状態も合わせて観察します。

白内障手術や硝子体手術などを予定している患者では、涙のう瘻を含む涙道感染巣の有無を早期に確認し、必要に応じて涙道内視鏡下治療やDCRを先行させることで術後眼内炎のリスクを下げられると報告されています。

特に高齢者や糖尿病患者では、局所感染が全身合併症につながる可能性も否定できないため、眼科だけでなく内科や耳鼻咽喉科と連携し、周術期の全身管理を意識したフォローアップ体制を構築することが推奨されます。

さらに、患者教育として、流涙や目脂の再増悪、発熱、瘻孔部からの膿性排液増加などの「受診すべきサイン」を具体的に伝えておくことで、合併症の早期発見・早期治療につながり、結果として視機能とQOLを守ることにつながります。

こちらは涙道疾患全般の病態と治療、眼内手術との関係について分かりやすくまとめられており、涙のう瘻患者の長期フォローを考える上で参考になります。

慶應義塾大学病院KOMPAS 涙道閉塞症

涙くんさよなら