下降性疼痛抑制系とSNRIとトラマドール

下降性疼痛抑制系 薬

下降性疼痛抑制系に作用する薬の要点
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効く場所は「痛みの入力」だけではない

末梢の炎症を抑えるだけでなく、脳幹→脊髄後角へ下行する抑制回路を賦活して痛み信号の通り道を“絞る”薬がある。

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中心はSNRIと三環系抗うつ薬

セロトニン・ノルアドレナリンを増やして下行性疼痛抑制系を賦活するという説明が、痛覚変調性疼痛や神経障害性疼痛で重要になる。

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副作用は「機序の裏返し」で読む

抗コリン作用(TCA)や悪心・不眠(SNRI)など、なぜ起きるかを理解すると、導入・漸増・併用の設計が安定する。

下降性疼痛抑制系の機序とノルアドレナリン

下降性疼痛抑制系は、脳幹部から脊髄後角へ下行して痛みの伝達を抑制する仕組みとして説明され、ノルアドレナリンやセロトニンを伝達物質とする線維がよく知られています。

この系が「薬で狙える」ポイントは、脊髄後角での痛覚入力そのものを変えなくても、“入力のゲート”側(中枢側の抑制)を強められる点です。

臨床的には、画像や局所所見だけでは説明しきれない慢性痛、つまり末梢の侵害受容だけでなく中枢の増幅(痛覚変調)を疑う場面で、この概念が効いてきます。

・押さえたい臨床ヒント(医療者向け)

下降性疼痛抑制系とSNRIの薬(デュロキセチン)

日本ペインクリニック学会の解説では、抗うつ薬(特に三環系抗うつ薬とSNRI)は、ノルアドレナリンおよびセロトニンを増加させて下行性疼痛抑制系を賦活し、鎮痛作用を発揮すると考えられています。

同解説は、神経障害性疼痛をはじめとする慢性疼痛で三環系抗うつ薬とSNRIの有効性が証明され、広く臨床使用されていること、そして鎮痛効果は抗うつ作用より早く低用量で出現する可能性があることも述べています。

実務では「痛みの適応」と「精神症状の併存」を分けて考えるより、痛みの背景にある睡眠・抑うつ・不安の波を一体として評価し、SNRI導入の妥当性を判断すると処方の納得感が上がります。

・使い分けを荒くしないためのチェック項目

  • 痛みのタイプ:神経障害性疼痛(灼熱痛・電撃痛・アロディニアなど)成分があるか。

    参考)下降性疼痛抑制系とは?

  • 併存症:便秘が強い、前立腺肥大、緑内障疑いなど抗コリン負荷が問題になりそうならTCAよりSNRIを優先しやすい。​
  • 有害事象の説明:SNRIは三環系より副作用が少ない一方で、吐き気、口渇、不眠、性機能障害などが起こりうると整理されているため、導入時に“起こりやすい順”で具体的に伝える。​

(薬の説明の参考:デュロキセチンはSNRIとして慢性疼痛領域でも使われる旨の解説が複数あり、下行性疼痛抑制系を助けるという患者向け表現も見られます。)

参考)デュロキセチン(SNRI)|慢性疼痛+気分症状の“統合ケア”…

下降性疼痛抑制系とトラマドールの薬

トラマドールはオピオイド系鎮痛薬として扱われる場面が多い一方で、ノルアドレナリンおよびセロトニンの再取り込み阻害により下行性疼痛抑制系を活性化して鎮痛作用を発揮する、という説明が製造販売元の情報として示されています。

つまり、末梢~脊髄~脳のどこを主戦場にするかで見ると、トラマドールは「μ受容体を介する鎮痛」と「下行系賦活(モノアミン系)」が同居しうる薬として整理できます。

この二重性は便利な反面、併用薬(抗うつ薬など)次第で副作用の出方やリスクが変わるため、薬歴の確認が“鎮痛薬”以上に重要になります。

・臨床で起きやすい落とし穴

下降性疼痛抑制系と副作用(抗コリン作用)

三環系抗うつ薬では抗コリン作用による口渇、便秘、排尿障害、眼圧上昇、さらに抗ヒスタミン作用による眠気やふらつきが代表的副作用として挙げられ、高齢者では特に注意が必要とされています。

また、心機能障害(洞性頻脈、脚ブロック、ST・T波変化、起立性低血圧など)が起こりうるため、心疾患のある患者では慎重投与が必要という記載もあり、痛みの薬として使う際も「循環器の視点」を外さないことが重要です。

SNRIは三環系より副作用が少ないとされつつ、吐き気、口渇、不眠、性機能障害などが示され、さらに投与中に自殺行動のリスクが高くなる可能性が報告されている点も明記されています。

・副作用を減らす現場テク(考え方)

  • 「副作用が出たら中止」ではなく、どの副作用が“初期に出やすく自然軽快しうるか/用量依存で悪化しやすいか”を分類して説明し、漸増計画を共有する。​
  • 便秘・口渇・眠気などは、疼痛そのものの生活影響と相殺されやすく、患者が言い出しにくいので、問診項目として固定化する。​

下降性疼痛抑制系の独自視点(精神的集中)

日本ペインクリニック学会の解説では、下行性疼痛抑制系はオピオイドだけでなく、精神的興奮、精神的集中、恐怖などでも作動しうると説明されています。

この記載を臨床で“薬の話”に接続すると、薬物療法だけで下行系を立ち上げようとするより、患者の注意・期待・不安(=痛みの意味づけ)を調整する介入を同時に設計した方が、薬効の体感が安定しやすいという発想につながります。

たとえば、処方時に「この薬は末梢の炎症を直接叩くというより、脳と脊髄の抑制回路を助けるタイプ」と説明しておくと、患者が効果判定の時間軸を理解しやすくなり、早期中断を減らす一助になります。

・“意外に効く”実務の工夫(テーマから外れない範囲)

  • 服薬継続の敵は「副作用」だけでなく「期待と違う効き方」なので、下行性疼痛抑制系というコンセプトを短い言葉に翻訳して共有する。​
  • 痛覚変調性疼痛では薬剤より心理的アプローチや運動療法が基本になるという整理もあるため、「薬で完結させない計画」を明示する。​

日本語の権威性リンク(下行性疼痛抑制系と抗うつ薬・抗痙攣薬の機序/副作用の根拠として有用)

日本ペインクリニック学会

日本語の権威性リンク(下行性疼痛抑制系とオピオイドの位置づけ、下行系が精神的集中などでも作動する点の根拠として有用)

https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keyopioid.html