アミノグリコシド系抗生物質一覧
アミノグリコシド系抗生物質一覧:代表薬と臨床での位置づけ
アミノグリコシド系抗生物質は「アミノ糖を構成成分とする抗生物質の総称」で、グラム陽性菌・グラム陰性菌・結核菌などに有効とされ、複数の代表薬が含まれます。
日本薬学会(薬学用語解説)では、ストレプトマイシン、カナマイシン、ネオマイシン(フラジオマイシン)、ゲンタマイシン、トブラマイシン、ジベカシン、アミカシン等が挙げられています。
医療現場の「一覧」ニーズに合わせ、まずは代表薬を“用途の違い”が伝わる形で眺めます(同一患者での切替・代替検討の起点になるためです)。MSDマニュアル(プロフェッショナル版)では、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、フラジオマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンに加え、プラゾマイシン(plazomicin)もアミノグリコシド系薬剤として列挙されています。
参考)アミノグリコシド系 – 16. 感染症 – MSDマニュアル…
- ゲンタマイシン:重症グラム陰性桿菌感染でβ-ラクタム系と併用される場面が多く、腸球菌・レンサ球菌心内膜炎で他剤と併用されることもあります。
- トブラマイシン:緑膿菌に対する活性はトブラマイシンの方が高いとされ、緑膿菌が疑われる重症例で候補になります。
- アミカシン:ゲンタマイシン/トブラマイシン耐性の病原体に対して活性を示すことがある、と位置づけられています。
- ストレプトマイシン:耐性と毒性のため用途が限られ、ペスト・野兎病、結核の併用治療などに用いられるとされています。
- カナマイシン:他剤併用で一部の多剤耐性結核で役立つ可能性がある、とされています。
- フラジオマイシン(ネオマイシン):毒性のため少量外用が基本で、経口は腸内細菌叢に対する局所目的(術前腸管前処置や肝性昏睡など)に使うことがある、とされています。
ここでの注意点は、「一覧=全部同じように使える薬」ではない点です。緑膿菌に効く/効かない、全身投与が基本か外用中心か、耐性状況で代替になり得るか…といった差が、実務では重要になります。
アミノグリコシド系抗生物質一覧:作用機序と濃度依存の考え方
アミノグリコシド系薬剤は、細菌の30Sリボソームに結合してタンパク質合成を阻害し、濃度依存的な殺菌作用を示すとされています。
「濃度依存的」という性質は、単にピークを上げればよい、という短絡ではなく、“一定のルールで安全域を確保しながら曝露を設計する”ことに直結します。
もう一段、現場で役に立つ見方として「何に効きやすいか」を言語化しておきます。MSDマニュアル(プロフェッショナル版)では、主に好気性・通性嫌気性のグラム陰性桿菌に活性を示す一方、嫌気性菌や大半のグラム陽性菌には活性を示さない、と整理されています。
そのため、敗血症や院内肺炎などでグラム陰性桿菌が疑われる重症例において、広域β-ラクタム系薬との併用で使われる場面が多い、という運用になりやすいです。
また、単独使用は例外的で、ペストや野兎病などを除けば単独で使うことはまれ、と明記されています。
「一覧で薬剤名を覚える」段階から一歩進めて、併用前提(相乗・経験的治療)という使い方までセットで把握すると、治療提案や疑義照会の質が上がります。
アミノグリコシド系抗生物質一覧:腎毒性と聴器毒性のリスク整理
アミノグリコシド系は有害事象として、腎毒性(しばしば可逆的)と前庭・聴覚毒性(しばしば不可逆的)、さらに神経筋遮断作用の遷延が起こり得る、とされています。
とくに第VIII脳神経障害による聴力低下や前庭機能障害(めまい、平衡失調)といった共通の有害反応があること、そして腎排泄ゆえ腎障害者で蓄積しやすいことが、日本薬学会の解説でも強調されています。
「毒性の危険因子」は、チェックリスト化してチームで共有できる形が実務向きです。MSDマニュアル(プロフェッショナル版)では、危険因子として、高用量/頻回投与、非常に高い血中濃度、長い治療期間(特に3日超)、高齢、既存腎疾患、腎毒性物質の併用(例:バンコマイシン、シクロスポリン、アムホテリシンB、ヨード造影剤など)、聴覚毒性では遺伝的素因や既存の聴覚障害、ループ利尿薬併用などを挙げています。
ここで「意外に見落とされやすい」論点が、遺伝的素因です。日本薬学会の解説では、ミトコンドリアDNA塩基1555位の変異が、アミノ配糖体(アミノグリコシド)に感受性のある感音難聴の原因の一部と考えられている、と述べています。
つまり、同じ投与設計・同じ腎機能でも、患者側の要因で不可逆の聴力障害に至り得るため、「症状が出たら中止」だけでなく、事前説明・モニタリング設計が重要になります。
- 腎毒性:短期・低用量でも腎機能悪化の可能性があるため、漫然投与を避け、腎機能と血中濃度を合わせて見る必要があります。
- 聴器毒性:2週間を超える使用やリスクが高い患者では、定期的な聴力検査によるモニタリングを行うべき、とされています。
- 神経筋遮断:神経筋遮断薬の作用を延長し得て、重症筋無力症などでは筋力低下を悪化させ得るため、周術期・ICUで特に注意が要ります。
アミノグリコシド系抗生物質一覧:TDMと採血タイミングの実務
アミノグリコシド系は「効力は濃度依存的、毒性は最高濃度より治療濃度の持続時間に依存する」と整理され、頻回投与を避けるべきで、多くの適応では1日1回投与が望ましい、とMSDマニュアル(プロフェッショナル版)に記載されています。
一方で、心内膜炎で相乗効果を狙う場合や妊娠中、広範熱傷、腎不全などでは1日1回投与が望ましくない可能性がある、とも明記されており、「原則」と「例外条件」を並べて覚えるのが安全です。
採血ポイントは、現場の混乱が起きやすいので、言葉を揃えておくと事故が減ります。MSDマニュアル(プロフェッショナル版)では、最高濃度は筋注60分後または30分点滴終了から30分後、トラフ濃度は次回投与前30分以内、とされています。
また、治療が3日を超えたときや用量変更後に最高濃度とトラフ濃度を測定すること、血清クレアチニンは2~3日毎に測定することが推奨として記載されています。
さらに「少し意外だが大事」なのが、検体の取り扱いです。高用量β-ラクタム系と併用中の患者では、採取した血清検体が迅速に検査または凍結されないと、試験管内でβ-ラクタム系によりアミノグリコシドが不活化され、見かけ上の濃度低下が起こり得る、とMSDマニュアル(プロフェッショナル版)に書かれています。
TDM値が「低すぎる」場合、単に増量判断に飛びつくのではなく、採血時刻・点滴終了時刻・検体搬送/保管・併用薬まで確認することで、誤った投与設計変更を避けられます。
臨床でよく問われる「目標値」の考え方も、まずは公的・教科書的な表現に寄せます。MSDマニュアル(プロフェッショナル版)では、1日1回投与では最高血清中濃度がMICの10倍以上になるようにするのが望ましい、また一般的な“理想最高濃度”としてゲンタマイシン/トブラマイシンで15~20μg/mL、重症例ではゲンタマイシン/トブラマイシンで16~24μg/mL、アミカシンで56~64μg/mL等が示されています。
トラフについても、1日1回投与の18~24時間トラフは1μg/mL未満が目安、従来投与では1~2μg/mL、といった整理が記載されています。
アミノグリコシド系抗生物質一覧:独自視点として「一覧」を事故予防に変える運用
同じ「アミノグリコシド系抗生物質一覧」でも、薬剤名の羅列で終わると、実臨床の事故(腎障害、聴力障害、TDMの採血ズレ、併用薬相互作用)を減らせません。そこで“一覧を運用表に変換する”という視点を提案します(検索上位の一般的な一覧記事では、この運用設計まで踏み込まないことが多い領域です)。
- 薬剤名の横に「全身投与か外用中心か」を必ず付記:フラジオマイシンは外用または経口投与のみで使用すべき、とMSDマニュアル(プロフェッショナル版)で注意されています。
- 「緑膿菌に強い候補」を見える化:緑膿菌に対する活性はトブラマイシンの方が高い、など“同系統内の差”を一覧に埋め込みます。
- 「いつ中止できるか」を一覧に入れる:併用薬が感受性と判明し、アミノグリコシド感受性の緑膿菌が同定されない限り2~3日後に中止できる、とMSDマニュアル(プロフェッショナル版)にあります。
- 「危険因子チェック欄」をテンプレ化:高齢、既存腎疾患、腎毒性物質併用、ループ利尿薬併用などの項目を、処方監査やラウンド用チェックに落とし込みます。
- 「遺伝的素因」を説明文に含める:ミトコンドリアDNA 1555変異による感受性難聴の可能性を、日本薬学会の記載に基づいて患者説明・同意文書の論点に入れます。
この運用にすると、一覧が「覚えるための表」から「チームで安全に使うための表」へ変わります。とくにTDMは、採血タイミングのズレや検体取扱いによる誤差が起こり得るため、手順を一覧とセットにする価値があります。
権威性のある日本語の参考リンク(作用機序・代表薬・毒性の概説の参考)。
日本薬学会:アミノグリコシド系抗生物質(代表薬、腎毒性・聴器毒性、遺伝的素因の要点)
権威性のある日本語の参考リンク(適応・薬物動態・TDM手順や採血ポイントの参考)。