ヘパリン類似物質の一般名処方と切替表、後発品との薬価の違い

ヘパリン類似物質の一般名処方と切替表の活用ポイント

この記事でわかること

切替表の見方と注意点

2025年の改訂内容を含め、一般名処方における切替の基本を解説します。

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先発品と後発品の比較

薬価だけでなく、効果や使用感の違いまで詳しく比較します。

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患者さんへの説明方法

切替時の不安を解消し、納得を得るためのコミュニケーションのコツを紹介します。

ヘパリン類似物質の一般名処方における切替表の正しい見方と2025年改訂の注意点

 

近年、医療費適正化の観点から、ヘパリン類似物質は一般名処方される機会が非常に増えています 。一般名処方とは、医師が製薬会社を指定せず、有効成分名で処方箋を記載する方法です 。これにより、患者さんは薬局で先発医薬品か後発医薬品(ジェネリック)かを選択できます。この選択の際に役立つのが「切替表」ですが、その見方にはいくつかのポイントがあります。

まず基本として、切替表は先発医薬品と後発医薬品の対応関係を示したものです。ヘパリン類似物質の場合、代表的な先発品である「ヒルドイド」シリーズに対して、多数の後発品が存在します 。切替表では、これらの医薬品が剤形(クリーム、ローションなど)ごとに整理されており、どの後発品がどの先発品の代替となりうるのかを一目で確認できます。

特に注意すべきなのが、2025年8月の一般名処方マスタ改訂です 。この改訂により、これまで「ヘパリン類似物質外用液0.3%」として一つにまとめられていたローション剤が、基剤の違いによって「乳剤性」と「水性」の2つに明確に分割されました 。

  • 乳剤性ローション:先発品の「ヒルドイドローション」に代表される、白濁した乳液状のタイプです 。しっとりとした使用感で保湿力が高いのが特徴です。
  • 水性ローション:後発品に多い、化粧水のように透明でさっぱりとした使用感のタイプです 。べたつきが少ないため、広範囲に塗りやすい利点があります。

この改訂後、処方箋には「【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(乳剤性)」のように基剤が明記されるようになります 。もし基剤の記載がない場合は、医師の処方意図を確認するための疑義照会が推奨されています 。患者さんの好みや使用部位、季節に合わせて適切な基剤を選択することが、治療継続性と満足度向上の鍵となります。切替表を見る際は、単に製品名を照合するだけでなく、この「乳剤性」「水性」の区別を正確に理解しておくことが極めて重要です。

ヘパリン類似物質の後発品(ジェネリック)と先発品ヒルドイドの薬価・効果・使用感の比較

後発医薬品(ジェネリック)への切り替えを検討する際、医療従事者も患者さんも最も気にするのが「薬価」「効果」「使用感」の3つの違いでしょう。これらを正しく理解し、患者さんに説明することが求められます。

薬価の違いと選定療養

最大のメリットは薬価です。後発品は先発品に比べて開発費用が抑えられるため、薬価が低く設定されています 。例えば、ヒルドイドソフト軟膏0.3%の薬価が1gあたり18.5円であるのに対し、後発品のヘパリン類似物質油性クリームは3.2円~5.6円程度と、大きな価格差があります 。

ここで重要になるのが「選定療養」の制度です。2024年10月から、後発品がある医薬品について、患者さんが自らの希望で先発品を選択した場合、後発品との差額の一部(差額の4分の3)が自己負担となる制度が拡大されました 。例えば、ヒルドイドを50g処方された場合、320円~340円程度の追加負担が発生する可能性があります 。この制度について事前に説明し、患者さんの経済的負担も考慮した上で薬剤選択をサポートすることが大切です。

効果と使用感の比較

後発品は、有効成分の量や種類が先発品と同一であるため、基本的な効果(保湿、血行促進、抗炎症作用)は同等とされています 。しかし、使用感は必ずしも同じではありません。これは、医薬品の基剤となる添加物が異なるためです 。

ある研究報告によると、ヒルドイドと複数の後発品を比較したところ、興味深い結果が示されています 。

比較項目 先発品(ヒルドイド) 後発品(ジェネリック) 考察
伸びやすさ やや伸びが悪い傾向 伸びが良い製品が多い 後発品は使用感を改良している可能性がある。
保湿効果(角質水分量) 水分量の増加が大きい傾向 製品によるが、ヒルドイドに及ばない場合がある 基剤の違いが保湿の持続性に影響している可能性がある 。
匂い 保存剤「チモール」による特有の匂いがある製品も 無香料の製品が多い 匂いに敏感な患者さんには後発品が好まれることがある 。

このように、後発品は「効果は同じで安いが、使用感が異なる可能性がある」という点を正確に伝えることが重要です。特にアトピー性皮膚炎などで長期間使用する患者さんにとっては、テクスチャーや匂いはアドヒアランスに直結します。サンプルなどを活用し、実際に試してもらうのも有効な方法です。

ヘパリン類似物質の切替時に必須!患者さんへの上手な説明方法と同意形成

ヘパリン類似物質を先発品から後発品へ切り替える、あるいはその逆を行う際には、患者さんの不安を取り除き、納得の上で治療を進めるための丁寧な説明と同意形成(インフォームド・コンセント)が不可欠です 。一方的な変更は、不信感や治療コンプライアンスの低下につながりかねません。

説明の際には、以下の3つのステップを意識するとスムーズです。

  1. 切替の理由とメリットの提示

    まず、なぜ切替を提案するのかを明確に伝えます。一般名処方の趣旨や医療費の観点から後発品を推奨する場合が多いでしょう。「同じ有効成分のお薬で、国の制度としても推奨されており、お薬代の負担を軽くすることができますよ」といった形で、患者さん自身のメリットを提示することがポイントです 。

  2. 先発品と後発品の違いを正確に説明

    次に、効果は同等である一方、添加物の違いによる使用感(塗り心地、匂いなど)の差が生じる可能性について正直に伝えます 。「主成分は全く同じなので効き目は変わりませんが、少しさっぱりした使い心地になるかもしれません」のように、具体的なイメージが湧くように説明します。この時、前述した「乳剤性」「水性」の違いも踏まえて説明できると、より専門的で信頼性の高い情報提供になります。

  3. 患者さんの意向の確認と選択肢の提示

    最後に、患者さん自身の意向を確認します。「一度、後発品を試してみますか? もし合わないようでしたら、また元のお薬に戻すこともできますよ」と伝え、選択権が患者さんにあることを明確にします。また、選定療養についても触れ、「もしどうしても今のお薬が良い場合は、少し自己負担額が増えますが、続けることも可能です」と選択肢をすべて提示することで、患者さんは自己決定権を尊重されたと感じ、安心して治療に臨むことができます 。

  4. 特に皮膚疾患の治療では、薬剤のフィーリングが患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響します。医療者側の都合だけでなく、患者さんの価値観やライフスタイルに寄り添ったコミュニケーションを心がけることが、良好な信頼関係の構築と治療成功の鍵となります。

    ヘパリン類似物質の剤形(クリーム・ローション等)ごとの特徴と切替時の選択基準

    ヘパリン類似物質には多様な剤形があり、それぞれに特徴があります。患者さんの症状、使用部位、ライフスタイル、好みに合わせて最適な剤形を選択・提案することが、治療効果とアドヒアランスを高める上で非常に重要です 。

    以下に、主な剤形の特徴と選択基準をまとめます 。

    剤形 特徴 長所 👍 短所 👎 選択基準・適した使用シーン
    油性クリーム
    (ソフト軟膏)
    W/O型。軟膏に近い固めのテクスチャーで、油分が多い。 保湿力・皮膚保護力が最も高い。刺激が少ない。 べたつきが強い。 乾燥が強い部位、亀裂やびらんがある部位。夜間の重点的な保湿。
    クリーム O/W型。伸びが良く、保湿力と使用感のバランスが良い。 全身に使いやすい。適度なしっとり感。 油性クリームよりは保湿力が劣る。 最も標準的で、顔や体幹、四肢など広い範囲に。季節を問わず使用可能。
    ローション
    (乳剤性/水性)
    乳液状(乳剤性)または化粧水状(水性)。 伸びが非常に良く、広範囲に塗りやすい。べたつかない。 クリームより保湿の持続時間が短い傾向。 頭皮など毛の多い部位、夏場などさっぱりしたい時。広範囲への塗布 。
    フォーム(泡) 泡状で出てくるスプレータイプ。液だれしにくい。 柔らかく伸びが良い。べたつきが少ない。 ガスを使用するため、火気の近くで使えない。 広範囲に素早く塗りたい時。子供や、塗り薬を嫌がる患者さんにも受け入れられやすい 。
    スプレー 霧状に噴霧するタイプ。手が届きにくい部位にも使える。 背中などへの使用が容易。手が汚れない。 噴霧範囲が広がりやすく、局所への塗布には不向き。 背中や腰など、手が届きにくい部位の保湿。

    切替時には、患者さんが現在使用している剤形の使用感に満足しているかを確認することが第一歩です。もし不満(例:「べたつくのが嫌」「もっと広範囲に塗りたい」)があれば、それは剤形変更の良い機会です。逆に、現在の使用感に満足している場合は、後発品に切り替える際も同じ基剤タイプ(例:ヒルドイドソフト軟膏→ヘパリン類似物質油性クリーム)を選択するのが原則です。特にローション剤では、前述の「乳剤性」と「水性」の使用感の差が大きいため、患者さんの好みを丁寧にヒアリングすることが重要です。

    ヘパリン類似物質の切替で注意したい保湿以外の作用(血行促進作用)と副作用リスク

    ヘパリン類似物質は「優れた保湿剤」として広く知られていますが、その薬理作用は保湿だけにとどまりません 。特に重要なのが「血行促進作用」と「血液凝固抑制作用」であり、これらは治療効果をもたらす一方で、特定の患者さんにとっては禁忌となる、あるいは副作用のリスクを高める諸刃の剣でもあります 。後発品への切り替えを検討する際も、この基本的な薬理作用と関連リスクを再確認しておくことが極めて重要です。

    ヘパリン類似物質は、その名の通り、血液を固まりにくくする「ヘパリン」に似た構造を持っています 。このため、皮膚に塗布することで局所の血流を改善し、鬱血や血行障害による症状(しもやけ、ケロイドの治療と予防など)を改善する効果が期待できます。また、打撲後の腫れや内出血(紫斑)の消退を早める作用も報告されています 。

    しかし、この血液凝固抑制作用ゆえに、使用してはならない患者さんがいます。添付文書でも明確に「禁忌」として定められているのは、以下の疾患を持つ患者さんです 。

    これらの患者さんにヘパリン類似物質を使用すると、その血液凝固抑制作用が出血傾向を助長し、僅かな出血でも重大な結果につながる恐れがあります 。処方や調剤の際には、患者さんの既往歴にこれらの疾患がないか、必ず確認する必要があります。

    また、明らかな血液疾患がない場合でも、注意が必要なケースがあります。

    • ワーファリンなどの抗凝固薬や、アスピリンなどの抗血小板薬を内服中の患者さん。外用薬とはいえ、作用が相加的に増強され、皮下出血などを起こしやすくなる可能性があります 。
    • 頻繁に鼻血を出す、歯茎から出血しやすいなど、もともと出血傾向が見られる患者さん。
    • 広範囲のびらんや潰瘍面への使用。薬剤の吸収が高まり、全身的な影響を及ぼすリスクが増加します。

    ヘパリン類似物質は非常に安全性の高い外用薬ですが、「ただの保湿剤」という認識で安易に使用すると、思わぬ副作用を招くことがあります。先発品から後発品への切り替えは、単なる銘柄の変更ではなく、改めてその薬剤の特性とリスクを評価する良い機会です。患者さんの安全を最優先に考え、保湿というメリットだけでなく、血行促進作用に伴うリスクについても常に念頭に置いておくべきです。

    参考リンク:ヘパリン類似物質の添付文書では、禁忌として出血性血液疾患が明記されています。
    ヘパリン類似物質製剤の添付文書例(JAPIC)


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