無精子症とは何か?原因と種類・治療

無精子症とは

📋 無精子症の基本情報
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定義

精液検査で精子が全く確認できない状態。2回の検査で診断が確定されます。

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頻度

一般男性の約100人に1人、男性不妊症では約10人に1人の割合で見られます。

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分類

閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症の2つのタイプに大別されます。


無精子症とは、射精した精液中に精子が全く見られない状態を指します。精液検査を最低でも2回実施し、いずれの検査でも精子が確認できない場合に無精子症と診断されます。一般男性の約100人に1人、男性不妊症の方では約10人に1人の割合でみられるとされており、男性不妊の重要な原因の一つです。

参考)無精子症|生殖医療科 杉山産婦人科


精子は精巣内の精細管と呼ばれる組織で作られ、精管へ運ばれていきます。精細管の中で精祖細胞という細胞が、セルトリ細胞から栄養をもらいながら精母細胞、精子細胞へ成長し、精子となります。この精子形成のプロセスや精子の輸送経路に問題が生じると、無精子症が発症します。​
無精子症は大きく分けて「閉塞性無精子症」と「非閉塞性無精子症」の2つのタイプに分類されます。閉塞性無精子症は無精子症全体の15〜20%を占め、非閉塞性無精子症がそれ以外の大部分を占めます。この分類によって治療方針が大きく異なるため、正確な診断が重要です。

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無精子症の検査と診断方法

無精子症の診断には、まず精液検査が行われます。2〜3日間の禁欲期間を経た後、マスターベーションにて精液全量を採取し、顕微鏡で精子の有無を確認します。射精した翌日に採取した精液での検査は推奨されていません。これは前回の射精から時間を空けていないと、本来の精液を正しく評価できないためです。

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精子所見は日々変動するため、1回の精液検査の結果だけで全てを判断することはできません。そのため、期間をおいて再検査を行い、2回とも精子を確認できない場合に無精子症の正式な診断となります。

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診断後は、ホルモン検査や画像検査を実施して原因を探ります。ホルモン検査では、血液中のFSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)、テストステロンなどの値を測定します。非閉塞性無精子症の場合、FSHやLHが高値を示すことが多いですが、例外もあります。​
画像検査では、超音波検査やMRI検査により精巣や精路の形態に異常がないかを確認します。精巣の大きさも重要な判断材料で、非閉塞性無精子症では精巣が萎縮して小さく柔らかい傾向があり、閉塞性無精子症では正常な大きさと硬さを保っていることが多いです。

参考)https://sophia-lc.jp/blog/azoospermia-appearance/

無精子症の種類:閉塞性と非閉塞性の違い

閉塞性無精子症は、精巣で精子は正常に作られているものの、精子の通り道が欠損または閉塞しているために精子が出てこない状態です。この場合、精巣の大きさや硬さは正常で、ホルモン値(FSH、LH、テストステロン)も正常範囲内であることが一般的です。​

閉塞性無精子症の原因としては、以下のようなものがあります:

発生頻度としては、精管結紮術後が44%、ヘルニア手術後が9%、精巣上体管が18%、原因不明が24%と報告されています。​
一方、非閉塞性無精子症は、精子の通り道は正常ですが、精巣での精子形成が低下しているために精子が出てこない状態です。この場合、精巣は萎縮して縮小傾向にあり柔らかく、FSHは10以上の高値を示すことが多いです。​

無精子症の原因:遺伝子異常と染色体異常

無精子症の原因には遺伝的要因が深く関与しています。国立成育医療研究センターの研究により、日本人の非閉塞性無精子症40例を解析した結果、10%以上の症例において既知疾患原因遺伝子変異および染色体構造変化が同定されました。この研究により、非閉塞性無精子症男性における既知遺伝子変異と染色体構造変化の頻度が初めて明らかとなりました。

参考)無精子症男性における遺伝子変異および染色体構造変化の頻度を解…


特に重要な遺伝的要因として、Y染色体微小欠失が挙げられます。これはクラインフェルター症候群に次いで2番目に多く見られる遺伝的な男性不妊症の原因です。Y染色体のAZF(Azoospermia factor)領域は精子形成に大きく関わっており、無精子症の患者様ではこのAZF領域が欠けている(欠失)ケースが報告されています。

参考)Y染色体微小欠失分析検査について


AZF領域はAZFa、AZFb、AZFcの3領域から構成されており、どの部分が欠失しているかによって、精巣内精子採取術(TESE)での精子回収率が予測できます。Y染色体微小欠失分析検査により、AZF領域の欠失の有無およびその部位を特定することで、治療方針の決定に役立てることができます。

参考)Y染色体微小欠失分析検査


その他、無精子症の原因遺伝子として、SYCP3、DAZ、FKBP6、MEISEZ、CDK2、HOP2、MEI1、SPAT17、SEPTIN12などが研究により同定されており、精子形成における減数分裂や細胞分化の過程に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0ac7ebd0e4e18fcd643b3ebb24238a0957066210


国立成育医療研究センター:無精子症男性における遺伝子変異および染色体構造変化の頻度を解明した研究の詳細

無精子症の治療法:TESEとMicro-TESE

無精子症の治療において最も重要な技術が、精巣から直接精子を採取する精巣内精子採取術です。閉塞性無精子症の場合、精管の閉塞部分を手術で修復することで自然妊娠を目指せる場合がありますが、手術が困難な場合や成功率が低い場合には、TESEやMicro-TESEなどの技術により精巣から精子を直接採取して顕微授精(ICSI)を行う方法が選択されます。

参考)無精子症とは?種類(閉塞性・非閉塞性)と原因について href=”https://kensui-mc.jp/blog/infertility/678/” target=”_blank”>https://kensui-mc.jp/blog/infertility/678/amp;#8…


通常のTESE(Testicular sperm extraction)は、精巣組織を一部採取して精子を探す方法です。一方、Micro-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)は、手術用顕微鏡を使用して20〜30倍の拡大視野で精巣内を観察し、精子を作る能力が残っていそうな部分とダメになってしまっている部分を見分けながら、精子が存在しそうな部分を集中的に採取する技術です。

参考)無精子症 日帰り顕微鏡下精巣精子採取術 | 烏丸御池院 いち…

Micro-TESEの手順は以下の通りです:

  1. 局所麻酔の注射後、陰嚢に約1cmの切開を入れる
  2. 精巣を体表近くに引き出し、手術用顕微鏡をセッティング
  3. 顕微鏡下で精子が存在しそうな部分を組織ごとに少量切除
  4. 胚培養士がその場で組織を処理し、顕微鏡で精子を探索
  5. 十分量の精子が採取できれば手術終了

    参考)顕微鏡下精巣精子採取術(micro-TESE)

精子の採取率は患者様の病態にもよりますが、約45〜46%程度と報告されています。非閉塞性無精子症の場合、精巣全体が一様にダメージを受けているとは限らず、内部で細々と精子を作っている一部分が残っていることがあります。​
採取された精子は凍結保存され、パートナーが体外受精を受ける予定のクリニックへ輸送されます。液体窒素で精子を凍結したまま輸送する専用容器(ドライシッパー)が使用され、全国のあらゆる体外受精クリニックへ届けることができます。​
顕微鏡下精巣精子採取術(micro-TESE)の詳細な解説と手術実績

無精子症における生活習慣改善と予防策

無精子症の治療においては、医療的介入だけでなく、生活習慣の改善も重要な補助療法となります。禁煙、適度な運動、ストレス管理、過度な飲酒の回避、適切な体重管理などが、精子の質や回収率の向上に寄与することがあります。​

精子の質を高めるための具体的な生活習慣のポイントは以下の通りです:

運動と身体活動

睡眠と休息

喫煙と飲酒

  • 禁煙する(喫煙は精液量・精子濃度・精子運動率・正常形態率に悪影響を及ぼす)
  • 過度の飲酒を避ける​

体重管理

  • 過度の肥満を避ける(BMIが25以上で精液量や総精子数は減少傾向)
  • 適正体重を維持する​

下着と体温管理

  • 陰部を締め付けるようなタイトな下着を避ける
  • 通気性の良い下着を身に着ける(精巣機能は体温より2〜3℃低い状態が正常)​

食事面では、以下の点に注意が必要です:

  • トランス脂肪酸(マーガリンなど)を避ける
  • 加工肉(ハム、スパムなど)を避ける
  • ビタミンB(緑黄色野菜、牡蠣、シジミ)を積極的に摂取
  • ビタミンC(果物、アセロラ、ブロッコリー)を積極的に摂取
  • ビタミンEが豊富な食物を積極的に摂取​

ストレス管理も精子形成に重要です。心理的なストレスによる内分泌系の機能低下は、精子の形成や性機能に影響を及ぼします。リラックスできる時間を確保し、軽い運動や気晴らしなどでストレスを発散することが、精子の健康とパートナーとの良好な関係を保つコツです。

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また、AGA治療薬(プロペシア、ザガーロ)は性欲の減退や精液所見を悪化させる可能性があるため、妊活中は中断することが推奨されます。性感染症の予防も重要で、精巣上体炎前立腺炎などの炎症は精子の通り道に閉塞を引き起こす可能性があります。

参考)男性不妊症


特に注意すべき疾患として、ムンプスウイルスによる精巣炎(ムンプス精巣炎)があります。大人になってからおたふく風邪にかかると約20〜25%の方が精巣炎を発症し、無精子症を引き起こす可能性があります。片側の精巣炎では約10%、両側では約30%の方が不妊になると言われており、男性不妊症の原因として注意が必要です。​
良い精子を増やすための生活習慣と食事の詳細ガイド