早発卵巣不全と不妊治療の選択肢
早発卵巣不全における診断基準と検査方法
早発卵巣不全は40歳未満で卵巣機能が著しく低下し、閉経状態になる疾患です。診断には血液検査と超音波検査が用いられ、FSH(卵胞刺激ホルモン)値が25U/ml以上、AMH(抗ミュラー管ホルモン)値が0.1ng/ml未満という基準が重要な指標となります。
参考)早発卵巣不全(POI)|不妊治療はローズレディースクリニック…
診断のプロセスでは、月経2~4日目にFSH値とLH値を測定し、2回以上連続してFSHが40mIU/mLを超える場合に診断基準を満たします。AMH検査は月経周期に関係なく実施でき、卵巣内に残存する卵子の数を推定する指標として活用されています。
参考)早発卵巣不全(POF)|不妊について|愛群生殖医療センター
超音波検査では卵巣内の初期卵胞数を確認し、年齢相応の基準値と比較することで卵巣予備能を評価します。30歳未満の女性では0.1%、40歳未満では1%の割合で発症し、近年の晩婚化により早発卵巣不全(POF: premature ovarian …
愛群生殖医療センター|早発卵巣不全の詳細な検査方法について
早発卵巣不全に対するカウフマン療法と排卵誘発
カウフマン療法は早発卵巣不全の不妊治療において基盤となる治療法です。エストロゲン製剤を約10日間、その後エストロゲン+プロゲステロン製剤を約11日間投与することで、正常な月経周期を擬似的に作り出します。
この療法の目的は、高値を示すFSH値を低下させ、卵巣を休ませることでリバウンド効果を期待することにあります。カウフマン療法を3~6ヵ月程度継続することで、体内が正常な月経周期を記憶し、治療終了後に自然排卵が起こる可能性が高まります。
ローズレディースクリニックで開発されたローズ法では、カウフマン療法の変法と体外受精を組み合わせることで、早発卵巣不全患者の25%で卵胞発育が得られ、そのうち約70%から卵子が採取できるという成績が報告されています。無月経から1~2年以内に治療を開始した患者では、一般不妊症とほぼ同等の妊娠率が得られています。
参考)早発卵巣不全(早発閉経)って?妊娠できるの?第一人者の石塚文…
早発卵巣不全における体外受精と卵巣刺激法
早発卵巣不全患者の体外受精では、個々の卵巣状態に合わせた卵巣刺激法が重要です。排卵誘発剤を用いた卵巣刺激により、受精能の高い成熟卵子を誘導し、排卵時期を一定に整えることで妊娠率が向上します。
参考)卵巣刺激法|小平市花小金井の花小金井レディースクリニック
ローズ式卵巣高刺激法では、注射の量や期間を患者ごとに調整し、残存する卵胞から効率的に卵子を採取します。採卵に至った患者の約80%で受精が成功し、凍結胚を得られた患者の割合は48.3%と報告されています。
参考)ローズレディースクリニックからのお知らせ|お知らせtop|世…
卵巣刺激法では、GnRHアゴニストやアンタゴニストを使用する方法があり、年齢や卵巣予備能に応じて最適な刺激プロトコルが選択されます。高齢患者ではアンタゴニスト法により囊胚形成率が向上するというデータもあり、治療成績の改善が期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11211777/
早発卵巣不全では貴重な卵子を失わないために、顕微授精の技術を用いて受精能が高い精子を選別し、少しでも高い受精率を追求することが推奨されています。
早発卵巣不全の原始卵胞活性化療法(IVA)
原始卵胞体外活性化法(IVA: in vitro activation)は、早発卵巣不全患者が自らの卵子で妊娠するための最新の治療技術です。この方法は聖マリアンナ医科大学で開発され、2013年に世界初の妊娠・出産例が報告されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5095246/
IVAの原理は、原始卵胞の活性化を制御しているPTENを抑制し、PI3K-Aktシグナルを活性化することで、休眠状態の原始卵胞を発育させることにあります。腹腔鏡下で卵巣を摘出し、卵巣組織を断片化することでHippoシグナルを抑制し、同時にPTEN阻害剤とPI3K活性化剤で処理することで卵胞の活性化を促します。
参考)2.POIでの卵子再生 (臨床婦人科産科 69巻8号)
処理した卵巣組織は患者に自家移植され、数ヶ月後に卵胞の発育が確認されると採卵を行います。IVAは早発卵巣不全患者のみならず、加齢により残存卵胞が減少した患者においても応用可能な技術として期待されています。
参考)https://yamaguchi-endocrine.org/pdf/kawamura_201708.pdf
スウェーデンのグループによる追試でも安全性が確認されており、国際的に注目される治療法となっています。
参考)https://www.jsbmg.jp/backnumber/pdf/BG39-1/39-1-7.pdf
早発卵巣不全患者のホルモン補充療法と健康管理
早発卵巣不全では、挙児希望の有無にかかわらずホルモン補充療法(HRT)が推奨されます。エストロゲン欠乏状態が続くと、更年期症状だけでなく骨粗鬆症や心血管疾患のリスクが高まるためです。
参考)早発卵巣不全の場合、主にどのような治療をしますか? |早発卵…
ホルモン補充療法ではエストロゲンとプロゲステロンを組み合わせて投与し、女性ホルモン不足による症状を緩和します。生殖年齢女性がHRTを受けている場合でも、22%しか骨密度検査を実施しておらず、検査を受けた女性の24%に骨密度減少、23%に骨粗鬆症が認められたという報告があります。
参考)https://hama-med.repo.nii.ac.jp/record/3292/files/jsog_7_2_12.pdf
早発卵巣不全患者では、甲状腺疾患やアジソン病などの自己免疫疾患を合併するリスクが高いため、定期的な検査が必要です。特に家族に自己免疫疾患の罹患者がいる場合は注意が必要とされています。
原因の10~20%は遺伝的要因が関与し、ターナー症候群やフラジャイルX症候群の前変異などX染色体異常が重要な役割を果たします。また、がん治療による化学療法や放射線療法、卵巣嚢腫の手術なども早発卵巣不全のリスク要因となります。
早発卵巣不全患者の心理的サポートと治療継続
早発卵巣不全の患者は一般女性と比較して、うつや不安の程度が格段に高いことが聖マリアンナ医科大学の調査で明らかになっています。若年で生殖機能を失う可能性に直面することは、精神的に大きなショックを伴うため、心理的ケアが不可欠です。
参考)妊娠できる?できない?『早発卵巣不全』の原因と治療について
治療選択のプロセスでは、患者自身が治療方針を理解し納得することが重要です。一般的な不妊治療では妊娠出産できたのは半数以下であり、体外受精を経験した患者のストレスは非常に高いことが報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/29/2/29_189/_pdf/-char/en
早発卵巣不全の不妊治療では、頻回の血液検査や超音波検査により卵巣状態を慎重に評価し、最適なホルモン状態を維持しながら治療を進めます。貴重な卵子の発育を逃さないために、患者と医療者の綿密なコミュニケーションが求められます。
カウンセリングを含めた一生涯のサポート体制を整えることで、不妊治療終了後も患者の健康を支えることが医療機関の使命とされています。
早発卵巣不全の治療成績と妊娠率
早発卵巣不全の治療成績は、無月経となってからの期間が短いほど良好です。自然月経がなくなって1~2年以内の患者では、一般不妊症の妊娠率とほぼ変わらない成績が得られています。
ローズレディースクリニックの報告では、35歳までの特発性早発卵巣不全患者で卵巣手術経験がない場合、30%が妊娠し24%が出産に至っています。これらの患者の多くは、すでに無月経になって2~3年以上経過していた症例です。
2015年に排卵誘発を開始した62名の患者のうち、採卵に至ったのは62.9%、受精に至ったのは53.3%、凍結胚が得られたのは48.3%でした。62名から合計80個の凍結胚が得られ、20%以上の患者が妊娠・分娩に至るという成績が第62回日本医学会で報告されています。
原始卵胞活性化療法を組み合わせることで、さらに多くの卵子が採取でき、妊娠率が飛躍的に上がることが期待されています。早期発見と適切な治療により、早発卵巣不全でも妊娠の可能性は十分にあることが示されています。
ローズレディースクリニック|早発卵巣不全患者の妊娠率データ
治療法 | 特徴 | 適応 |
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カウフマン療法 | FSH値を低下させ卵巣を休ませる | 早発卵巣不全の基本治療 |
ローズ式高刺激法 | 個別化した排卵誘発 | 残存卵胞からの採卵 |
原始卵胞活性化法(IVA) | 休眠卵胞を活性化 | 重度の卵巣機能低下 |
ホルモン補充療法 | 更年期症状の緩和 | 骨粗鬆症予防 |
体外受精 | 顕微授精との併用 | 受精率の向上 |
早発卵巣不全の予防と早期発見のために
早発卵巣不全の早期発見には、定期的なホルモン検査が重要です。特に卵巣嚢腫の手術経験、がん治療歴、自己免疫疾患の家族歴がある場合は、FSHやAMHの検査を定期的に受けることが推奨されます。
月経周期の変化も重要なサインです。定期的だった月経が突然止まる、または月経周期が短くなった後に間隔が長くなるといった変化が見られた場合は、速やかに産婦人科を受診すべきです。
参考)早発閉経(早発卵巣機能不全)に関する話題|クリニックブログ|…
ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)や大量の汗をかくといった更年期様症状が若年で出現した場合も、卵巣機能低下の可能性があります。喫煙は閉経を約2年早めるというデータがあり、卵巣の血流を低下させ卵子の減少を加速させるため、禁煙が推奨されます。
月経不順でピルを服用している場合は、1~2年に1度、3ヶ月程度服用を休止し、自然月経の有無を確認することが重要です。ピル服用中は卵巣機能低下に気づきにくいため、定期的なFSHやAMHの検査も併せて行うべきです。
ブライダルチェックにAMH検査を追加することで、将来の妊娠に向けた準備ができます。女性の妊孕性は37歳頃から急速に低下し、40歳以上では著しく低下するため、ライフプランを立てる際にこれらの情報を考慮することが大切です。