パニック症の症状と身体的・精神的特徴

パニック症の症状

パニック症の4つの中核症状

パニック発作

突然の激しい恐怖と身体症状が10分以内にピークに達し、20~30分で治まる発作

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予期不安

「また発作が起きるのではないか」という持続的な不安と心配

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広場恐怖

発作時に逃げられない、助けが得られない場所や状況への恐怖と回避行動

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身体感覚過敏

わずかな身体変化を過度に警戒し、発作の前兆と解釈してしまう状態


パニック症は突然の激しい恐怖と身体症状が繰り返し起こる不安障害で、日常生活に大きな支障をきたす精神疾患です。DSM-5の診断基準では、予期しないパニック発作が繰り返され、少なくとも1回の発作後に1か月以上持続する予期不安や回避行動が認められることが必要とされています。

参考)パニック症状の代表的な症状から考えられる4つの中核症状や治療…


パニック症には大きく分けて4つの中核症状があります。パニック発作は突然起こり、10分以内にピークに達して通常20~30分程度で治まりますが、その間は「このまま死んでしまうのではないか」と感じるほどの強烈な恐怖に襲われます。発作を繰り返すうちに「またあの恐ろしい発作が起きたらどうしよう」という予期不安が生じ、さらに発作が起きそうな場所や状況を避ける広場恐怖へと進展していきます。

参考)パニック障害href=”https://sleep-mental-tsukuba.com/medical/anxiety/panic/” target=”_blank”>https://sleep-mental-tsukuba.com/medical/anxiety/panic/amp;laquo; つくばねむりとこころのクリニック


医療従事者として注目すべき点は、身体感覚過敏という症状です。パニック症の患者さんは、乳酸・炭酸ガス・カフェインなどに過敏で、実験的に発作が誘発されやすいことが研究で明らかになっています。この身体感覚過敏により、わずかな動悸や息苦しさなどの身体変化を過度に警戒し、「発作の前兆だ」と解釈してしまう悪循環が生まれるんです。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9745203/

パニック症の身体症状13項目

DSM-5によるパニック発作の診断では、以下の13項目のうち4項目以上が同時に起こることが基準となっています。

参考)DSM5によるパニック障害の診断基準について|クリニックブロ…

症状カテゴリ 具体的な症状 医学的メカニズム
循環器 動悸・心悸亢進・心拍数増加 ノルアドレナリン系の過剰活性化

参考)パニック障害の医学的メカニズム:生物学的要因と最新の研究成果…

呼吸器系 息切れ感・息苦しさ・窒息感 化学受容体の過敏性とCO₂感受性亢進

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4471296/

自律神経系 発汗・身震い・震え 交感神経系の過度な賦活​
胸部症状 胸痛・胸部不快感 過換気による筋緊張と血管収縮

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11109415/

消化器系 吐き気・腹部不快感 副交感神経反応の変動​
神経系 めまい・ふらつき・気が遠くなる感じ 脳血流の変化と前庭系への影響

参考)パニック発作とパニック症 – 10. 心の健康問題 – MS…

体温調節 冷感・熱感 自律神経による体温調節異常

参考)パニック障害の原因や症状・診断・治療法を医師が解説|医療法人…

知覚異常 異常感覚・しびれ・うずき感 過換気による血中CO₂低下と電解質変化

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10671099/

認知症 現実感消失・離人感 前頭前野扁桃体の機能異常

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5371170/

恐怖感 抑制力を失う恐怖・死への恐怖 恐怖ネットワークの過剰反応

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4252820/

これらの身体症状は、心臓発作や呼吸器疾患などの重篤な身体疾患と類似しているため、患者さんは救急医療機関を繰り返し受診することが多いんです。医療従事者としては、適切な鑑別診断と患者教育が重要になります。​
厚生労働省の診断基準では、強い恐怖または不快を感じる期間において、上記の症状のうち4つ以上が突然発現し、10分以内にその頂点に達することが定義されています。

参考)表2 パニック発作の診断基準|メンタルヘルス|厚生労働省


厚生労働省「パニック発作の診断基準」

パニック症の予期不安と広場恐怖

予期不安は、パニック発作を繰り返し経験した結果として生じる二次的な症状です。「またあの苦しい発作が起きるのではないか」という持続的な不安に加えて、「発作のせいでコントロールを失ってしまうのではないか」「人前で恥をかくのではないか」といった多様な心配が含まれます。

参考)よくみられる症状


予期不安が強まると、発作が起きた場所や状況を避けるようになり、これが広場恐怖へと発展します。広場恐怖では、電車やバスなどの公共交通機関、映画館や教室の中央座席、行列に並ぶこと、自宅から出ることなど、すぐに逃げられない、または助けが得られない状況を恐れます。

参考)https://www.kawata-cl.jp/mentalcare/html/information.cgi?id=1462444727


研究によると、広場恐怖症を持つ人の約30~50%がパニック症を併発しており、両者は密接に関連しています。広場恐怖が進行すると、日常生活に著しい支障をきたし、極端な場合には自宅に引きこもる状態にまで至ることがあります。

参考)広場恐怖症 – 10. 心の健康問題 – MSDマニュアル家…


医療従事者としての対応では、患者さんが「またあの発作が起きたらどうしよう」という予期不安を訴えた際に、発作そのものへの恐怖だけでなく、「死んでしまうのではないか」「気を失うのではないか」「他人に迷惑をかけるのではないか」といった多層的な不安を理解することが大切です。​

パニック症の神経生物学的メカニズム

パニック症の発症には、複数の神経伝達物質の異常が関与しています。特に重要なのは、セロトニン・ノルアドレナリン・γ-アミノ酪酸(GABA)の3つのモノアミン系です。​
セロトニン神経系の機能不全がパニック症の中心的な病態として指摘されています。セロトニンは不安や覚醒を調整する役割を持ち、その不足や過剰によって神経伝達のアンバランスが生じます。興味深いことに、縫線核のセロトニン作動性ニューロンは、二酸化炭素(CO₂)濃度の変化を感知する化学受容体として機能し、体内のpH恒常性を調節するとともにパニック発作の引き金に関与することが報告されています。​
ノルアドレナリン系も重要な役割を果たします。脳幹の青斑核(LC)はストレスに反応して過剰に賦活され、全脳へのノルアドレナリン放出が増大します。パニック症患者ではこのLC-ノルアドレナリン系が過敏となっており、扁桃体・前頭前野・海馬への過剰なノルアドレナリン放出が「戦うか逃げるか」の自律神経反応を増幅し、動悸や過呼吸などの身体症状を引き起こします。​
GABA系については、脳内の主要な抑制性神経伝達物質であるGABAの働きが低下している可能性が指摘されています。ストレスによってDBI(ジアゼパム結合阻害物質)という脳内物質が増えると、GABAの働きを阻害し、神経細胞の興奮を抑えることができなくなります。

参考)パニック障害


さらに、コレシストキニン(CCK)・ニューロペプチドY(NPY)・オレキシンなどのペプチド系も関与します。CCK-4の投与がパニック様発作を誘発することから研究モデルに利用され、NPYの低下はストレス・恐怖反応への過敏性と関連しています。最近の研究では、視床下部外側野のオレキシン/グルタミン酸ニューロンがパニックと恐怖反応の調整に重要な役割を果たすことが明らかになっています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4729192/


国立衛生研究所「パニック発作の病因とトリガー、神経化学回路」

パニック症の診断と鑑別すべき身体疾患

パニック症の診断では、身体疾患の除外が必須です。パニック発作の症状は、心臓疾患・呼吸器疾患・内分泌疾患など多くの身体疾患と類似するため、適切な医学的評価が必要となります。

参考)パニック障害とは?原因や症状・治療法について解説 – 福岡天…


診断時に実施する検査には以下のものが含まれます。​

  • 問診:DSM-5の診断基準に基づき、13項目の症状のうち4つ以上が同時に起こるかを確認
  • 血液検査・尿検査:甲状腺機能亢進症低血糖などの内分泌疾患の除外
  • 心電図・心エコー:不整脈心筋症などの心臓疾患の除外
  • 胸部レントゲン:呼吸器疾患の除外

鑑別が必要な主な身体疾患として、心筋梗塞・不整脈・甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・低血糖・喘息・慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがあります。これらの疾患を除外した上で、DSM-5-TRの診断基準を満たす場合にパニック症の診断が下されます。

参考)パニック発作およびパニック症 – 08. 精神疾患 – MS…


DSM-5-TRの診断基準では、患者がパニック発作を繰り返しており、そのうちの少なくとも1回の発作後に以下のいずれかが1か月以上続いていることが求められます。​

  • さらなるパニック発作を起こすことに関する持続的な心配、またはパニック発作の結果に関する心配
  • パニック発作に対する不適応な行動的反応(例:さらなる発作を防ごうとして運動や社交場面などの一般的活動を避ける)

MSDマニュアル プロフェッショナル版「パニック発作およびパニック症」

医療従事者によるパニック症への対応と治療アプローチ

パニック症の治療には、薬物療法と精神療法(認知行動療法)の併用が推奨されています。医療従事者としての対応では、患者さんがパニック発作を経験している最中の緊急対応と、長期的な治療管理の両面が重要です。

参考)パニック障害の治療法は行動療法と認知療法が存在


薬物療法では、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)と抗うつ薬(SSRI)の2種類が主に使用されます。抗不安薬は脳の誤作動を改善して発作を抑える即効性があり、頓服薬として用いられることが多いです。一方、SSRIは数日から数週間かけて効果を発揮し、気分や不安を調整する脳内神経伝達物質のセロトニンの作用を高めることで、予期不安や心配を軽減します。

参考)https://www.kawata-cl.jp/mentalcare/html/information.cgi?id=1467452809


SSRIの作用機序について、投与直後は急速にセロトニンレベルが上昇し、吐き気などの副作用が現れます。しかし、フィードバック機構により一時的にセロトニン分泌が低下し、数週間の継続服用で最終的に治療効果のレベルに達します。副作用は開始直後に強く現れますが、数日から1週間程度で収まる場合が多いです。

参考)セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)によるパニック障害の治…


精神療法では、認知療法と行動療法を組み合わせた認知行動療法が有効です。認知療法では、「この動悸は心臓発作ではなく、パニック発作の症状だ」といった身体感覚や認識の解釈を修正します。行動療法では、段階的に恐怖場面に暴露することで回避行動を減らし、「発作が起きても大丈夫だ」という体験を積み重ねていきます。​
訪問看護による支援も重要な役割を果たします。訪問看護師は患者の症状を観察し、安心感を提供する関わりを通じて、パニックを起こさず生活できるようサポートします。万が一パニック発作が起こった場合は、穏やかでわかりやすい言葉で「大丈夫」と声をかけ、不安感が和らぐようケアします。

参考)パニック障害の支援方法を徹底解説:症状別アプローチと回復に向…

パニック発作時の医療従事者の対応ポイントは以下の通りです。

  • ゆっくりと耳を傾け、相手の感情を尊重し、否定せずに話を聞く
  • 穏やかな口調でわかりやすい言葉を使い、安心感を与える
  • 「これは一時的な発作で、まもなく治まります」と説明する
  • 深呼吸を促し、呼吸のペースをゆっくりにするよう誘導する
  • 静かで安全な環境を提供し、刺激を最小限にする

家族への支援も不可欠です。家族は患者が発作時に安心できる環境を提供し、発作の兆候に早く気づけるよう支援することが求められます。適切な知識を持つことや、患者が孤独感を抱かないようにすることが重要なんです。​
職場からの支援では、ストレス軽減のための環境整備が必要です。業務の調整や勤務時間の変更など、患者の症状に配慮した対応が社会復帰を後押しします。​
国立精神・神経医療研究センター「パニック障害」