抗核抗体 ANAと膠原病の関連性と検査の意義

抗核抗体 ANAと膠原病の関係

 

抗核抗体(ANA)の基本情報
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定義

真核細胞の核内に含まれる抗原性物質に対する自己抗体の総称

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検査方法

主に間接蛍光抗体法(IFA/FAT)で測定され、染色パターンと抗体価で評価

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臨床的意義

膠原病・自己免疫疾患のスクリーニング検査として重要

 

抗核抗体 ANAとは何か:基本的な定義と構造

抗核抗体(Antinuclear Antibody: ANA)は、真核細胞の核内に含まれる抗原性物質に対する自己抗体の総称です。細胞核内のDNAやRNAと複合体を形成している蛋白質(遺伝子複製や蛋白合成に関わる酵素や調節因子)に対して産生される抗体群を指します。

現在では50種類以上の様々な自己抗体が同定されており、これらは膠原病や自己免疫疾患の診断において重要な役割を果たしています。抗核抗体は当初「核」の構成成分に対する抗体として定義されていましたが、現在では細胞内の様々な成分(細胞質内の成分を含む)に対する自己抗体も含めて広く捉えられています。

抗核抗体の対応抗原となる主な細胞内成分には以下のようなものがあります。

  • 核内成分:DNA-ヒストン複合体、dsDNA、ssDNA、ヒストンなど
  • 核質:U1 RNP/nRNP、U2 RNP、Sm(U1-U6RNP)、SS-B/La、Ki、PCNAなど
  • 核小体:RNA polymerase I/II/III、PM-Scl、NOR-90など
  • 細胞質:SS-A/Ro、Jo-1、PL-7、PL-12、リボゾーム、SRP、ミトコンドリアなど

これらの抗原に対する抗体は、特定の自己免疫疾患と関連していることが多く、診断の手がかりとなります。

抗核抗体 ANAの検査方法と染色パターンの意味

抗核抗体の検査は主に間接蛍光抗体法(Indirect Fluorescent Antibody method: IFA/FAT)によって行われます。この検査では、HEp-2細胞などのヒト培養細胞をスライドグラス上に固定し、患者血清を反応させます。さらに蛍光物質(FITCなど)で標識された抗ヒト免疫グロブリン(第2抗体)を反応させ、蛍光顕微鏡で観察します。

陽性の場合、細胞内の抗原と抗体の結合部位が特徴的な蛍光パターンとして観察されます。主な染色パターンには以下のようなものがあります。

  1. 均質型(Homogeneous):核全体が均一に染色されるパターン
    • 関連抗体:DNA-ヒストン複合体、ヒストンに対する抗体
    • 関連疾患:全身性エリテマトーデス(SLE)、薬剤誘発性ループスなど
  2. 辺縁型(Peripheral):核の周辺部が強く染色されるパターン
    • 関連抗体:抗dsDNA抗体
    • 関連疾患:SLE(特に腎症合併例)
  3. 斑紋型(Speckled):核内に斑点状の染色が見られるパターン
    • 関連抗体:抗ENA抗体(抗RNP抗体、抗Sm抗体、抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体など)
    • 関連疾患:混合性結合組織病(MCTD)、SLE、シェーグレン症候群など
  4. 核小体型(Nucleolar):核小体が強く染色されるパターン
    • 関連抗体:抗核小体抗体(抗PM-Scl抗体、抗RNA polymerase I抗体など)
    • 関連疾患:全身性強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎のオーバーラップ症候群など
  5. セントロメア型(Centromere):細胞分裂期に見られる染色体のセントロメア部分が点状に染色されるパターン
    • 関連抗体:抗セントロメア抗体
    • 関連疾患:限局性強皮症(CREST症候群)

これらの染色パターンは特定の自己抗体の存在を示唆するため、疾患特異的自己抗体の同定のためのスクリーニングとして有用です。

抗核抗体の染色パターンと関連疾患の詳細な写真集(医学生物学研究所)

抗核抗体 ANAと膠原病:疾患別の陽性率と臨床的意義

抗核抗体は様々な膠原病・自己免疫疾患で高率に検出されますが、疾患によって陽性率や臨床的意義が異なります。主な疾患における抗核抗体の陽性率と意義は以下の通りです。

1. 混合性結合組織病(MCTD)

  • 陽性率:100%
  • 特徴:抗U1RNP抗体が特異的に高力価で検出される
  • 診断的意義:診断基準に組み込まれており、診断に必須

2. 全身性エリテマトーデス(SLE)

  • 陽性率:95-100%
  • 特徴:多様な抗核抗体が検出され、特に抗dsDNA抗体、抗Sm抗体が特異的
  • 診断的意義:診断基準の重要項目であり、疾患活動性との関連も示唆される

3. 全身性強皮症

  • 陽性率:60-80%(文献によっては97%)
  • 特徴:抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体などが特異的
  • 診断的意義:病型分類や予後予測に有用

4. 皮膚筋炎/多発性筋炎

  • 陽性率:30-80%
  • 特徴:抗Jo-1抗体などの抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗TIF1-γ抗体などが特異的
  • 診断的意義:臨床病型の分類や悪性腫瘍合併リスクの評価に有用

5. シェーグレン症候群

  • 陽性率:40-70%(文献によっては48-96%)
  • 特徴:抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体が特異的
  • 診断的意義:診断基準の一項目として重要

6. 関節リウマチ

  • 陽性率:30-50%
  • 特徴:特異的な抗核抗体パターンはないが、他の膠原病の合併を示唆することがある
  • 診断的意義:関節リウマチ自体の診断には抗CCP抗体やRFが重要で、ANAの意義は低い

これらの疾患では、抗核抗体の検出が診断の第一歩となることが多く、陽性の場合は疾患特異的自己抗体の精査へと進みます。特に混合性結合組織病、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症では抗核抗体陽性が診断にほぼ必須となります。

一方、膠原病以外でも抗核抗体が陽性となる疾患があります。

  • 自己免疫性肝炎(100%)
  • 原発性胆汁性胆管炎(ミトコンドリア抗体陽性)
  • 甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病:30-50%)
  • 多発性硬化症(25%)
  • 特発性血小板減少性紫斑病(10-30%)
  • 慢性感染症(様々な陽性率)
  • 悪性腫瘍(様々な陽性率)

このように、抗核抗体陽性は膠原病を示唆する重要な所見ですが、それだけで診断が確定するわけではなく、臨床症状や他の検査結果と合わせて総合的に判断する必要があります。

抗核抗体 ANAの抗体価と陽性判定:健常人における陽性率

抗核抗体検査の結果は、蛍光が認められる最終希釈倍率(抗体価)で表されます。一般的に40倍以上で陽性と判定されますが、健常人でも一定の割合で陽性となることが知られています。

健常人における抗核抗体の陽性率は以下の通りです。

抗体価 健常人の陽性率
40倍以上 20-30%
80倍以上 10-12%
160倍以上 5%
320倍以上 3%

この数値から分かるように、抗体価が低い場合(40〜80倍程度)は健常人でも比較的高頻度に認められるため、臨床的意義は限定的です。一方、抗体価が高くなるほど(160倍以上)、病的意義を持つ可能性が高まります。

また、抗核抗体の陽性率には以下のような特徴があります。

  • 女性は男性の2〜3倍陽性率が高い
  • 高齢者ほど陽性率が高くなる傾向がある
  • 陽性者の約2割に疾患特異的自己抗体が検出されるが、実際に膠原病と診断されるのはごく一部

これらの特性を考慮すると、抗核抗体検査の結果解釈には注意が必要です。無症状で低力価(40〜80倍)の陽性であれば、必ずしも精査は必須ではありませんが、高力価(160倍以上)の場合や何らかの症状がある場合は、疾患特異的自己抗体の精査を行うことが推奨されます。

抗核抗体 ANAの経時的変動と治療モニタリングへの応用

抗核抗体の値は時間の経過とともに変動することがあり、この特性は臨床的に重要な意味を持ちます。抗核抗体の経時的変動に影響を与える主な要因には以下のようなものがあります。

1. 疾患活動性による変動

自己免疫疾患の活動性によって抗核抗体の値が変動することがあります。特に全身性エリテマトーデス(SLE)では、疾患が活動的な時期には抗dsDNA抗体などの抗核抗体が上昇し、寛解期(非常に落ち着いている時期)には低下することがあります。ただし、すべての抗核抗体が疾患活動性と相関するわけではなく、抗体の種類によって異なります。

2. 治療による変動

免疫抑制剤やステロイドなどの治療により、抗核抗体の値が変化することがあります。これらの薬剤が免疫系の活動を抑制するため、抗体産生が減少し、抗核抗体の値が低下する場合があります。特に高用量のステロイド治療や強力な免疫抑制療法を行った場合に顕著です。

3. 外的要因による変動

感染症、ストレス、ホルモンの変動(妊娠など)、紫外線曝露などの外的要因が抗核抗体の値に影響を与えることがあります。例えば、ウイルス感染後に一過性に抗核抗体が陽性になることがあります。

4. 自然経過による変動

長期間の経過観察中に、特に明らかな要因なく抗核抗体の値が自然に変動することもあります。特に低力価の場合、検査のたびに陽性と陰性を行き来することもあります。

治療モニタリングへの応用

抗核抗体自体は必ずしも疾患活動性や重症度と直接的に相関するわけではないため、治療効果のモニタリング指標としては限界があります。しかし、特定の抗体、特に抗dsDNA抗体(SLEの場合)などは疾患活動性と相関することが知られており、治療効果の判定に役立つことがあります。

臨床現場では、抗核抗体の値だけでなく、以下のような複数の指標を総合的に評価することが重要です。

  • 臨床症状の改善
  • 炎症マーカー(CRP、赤沈など)の変化
  • 補体値(C3、C4、CH50)の変化
  • 疾患特異的自己抗体の変化
  • 臓器機能検査の結果

抗核抗体の経時的変動を評価する際には、同一の検査施設で同一の方法を用いて測定することが望ましいです。検査施設や方法が異なると、結果に差が生じることがあります。

また、治療によって抗核抗体が陰性化しても、治療中止後に再び陽性化することがあるため、治療の中止や減量を検討する際には注意が必要です。

抗核抗体の変動に関する専門医の見解(福島県郡山市のリウマチ膠原病医による解説)

以上のように、抗核抗体の経時的変動は複雑であり、その解釈には専門的な知識が必要です。抗核抗体検査の結果に変動がみられた場合は、主治医に相談し、総合的な評価を受けることが重要です。