胃癌の症状と原因
胃癌の初期症状と自覚症状の特徴
胃癌の最大の特徴は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。これが早期発見を難しくしている大きな要因となっています。初期胃癌の多くは無症状であり、定期検診や他の胃疾患の検査中に偶然発見されることが多いのが現状です。
しかし、初期段階でも症状が現れる場合もあります。初期に現れる可能性のある症状としては以下のようなものがあります。
- 胃の不快感や違和感(特に食後)
- みぞおち周辺の軽い痛み
- 胸やけや軽度の胃もたれ
- 食欲の軽度低下
これらの症状は一般的な胃炎や胃潰瘍と非常に似ているため、胃癌特有の症状とは言えません。そのため、これらの症状が2週間以上続く場合は、胃癌の可能性も考慮して医療機関を受診することが推奨されます。
初期症状が乏しいからこそ、50歳以上の方は定期的な胃がん検診を受けることが非常に重要です。多くの自治体では、胃がん検診を無償または一部自己負担で受けられる制度があります。
胃癌の進行に伴う症状と変化
胃癌が進行してくると、より明確な症状が現れるようになります。進行胃癌では以下のような症状が見られることが多くなります。
- みぞおちや胃の痛み・不快感・張り感の増強
- 食欲不振の悪化
- 吐き気や嘔吐
- 食べ物が胃を通過しにくくなることによる飲み込みづらさ
- 体重減少(がんの進行による栄養吸収障害や食事量減少による)
特に胃の出口付近(幽門部)に胃癌がある場合、食べ物が十二指腸へ送られにくくなるため、みぞおちの痛みや胃の張り感が強く現れることがあります。また、胃の入り口(噴門部)に胃癌がある場合は、食べ物がつかえやすくなり、食欲不振や嘔吐などの症状が出やすくなります。
進行胃癌の特徴的な症状として、「シクシク」「キリキリ」といった表現される腹部の痛みがあります。この痛みは食事との関連が必ずしも明確ではなく、時間帯や体位に関係なく現れることもあります。
また、胃癌の中でも「スキルス胃癌」と呼ばれるタイプは、胃の壁を硬く厚くさせながら広がっていくため、早期発見が特に難しいとされています。スキルス胃癌は進行が早く、症状が現れた時には既に胃壁全体に広がっていることが多いため注意が必要です。
胃癌による出血症状と黒色便の関係
胃癌が進行すると、がん組織からの出血が起こることがあります。胃からの出血は以下のような症状として現れます。
- 黒色便(タール便)
- 貧血症状(めまい、ふらつき、倦怠感)
- まれに吐血
胃癌からの出血が便に混じると、特徴的な黒色便となります。これは胃から出血した血液が胃酸と接触することで黒く変化するためです。通常の赤い血便とは異なり、胃や上部消化管からの出血は黒色便として排出されることが特徴です。
黒色便が見られた場合は、胃癌の可能性を考慮して早急に医療機関を受診することが重要です。ただし、黒色便は鉄剤の服用でも起こることがあるため、服薬中の方は医師にその旨を伝える必要があります。
貧血症状は、慢性的な出血により体内の鉄分が失われることで起こります。特に高齢者では貧血による倦怠感やめまいが最初の症状となることもあります。定期的な血液検査で貧血が見つかり、その原因精査の過程で胃癌が発見されるケースも少なくありません。
胃癌の末期症状とステージ別の生存率
胃癌が末期(ステージⅣ)に進行すると、より重篤な症状が現れます。末期胃癌で見られる主な症状には以下のようなものがあります。
胃癌のステージ別の5年生存率は以下のようになっています。
ステージ | 5年生存率 |
---|---|
Ⅰ | 約95% |
Ⅱ | 約68% |
Ⅲ | 約30-45% |
Ⅳ | 約6.3% |
このデータからも明らかなように、胃癌は早期発見・早期治療が非常に重要です。ステージⅠで発見された場合の5年生存率は95%と非常に高く、適切な治療により完治が期待できます。
一方、末期(ステージⅣ)の胃癌では、治療の目標が完治から症状緩和(緩和ケア)へと変わることが多くなります。しかし、近年は化学療法の進歩により、末期胃癌でも生存期間の延長や生活の質の向上が期待できるようになってきています。
胃癌とピロリ菌感染の関連性と予防法
胃癌の最大のリスク因子として知られているのがヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染です。研究によれば、胃癌の約90%はピロリ菌が原因であるとされています。ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に慢性的な炎症が起こり(ピロリ菌感染胃炎)、長期間にわたってこの状態が続くと胃癌のリスクが高まります。
ピロリ菌陽性者は陰性者と比較して、胃癌の発症リスクが約5倍高いことが報告されています。特に、ピロリ菌感染により「萎縮性胃炎」が進行すると、胃癌のリスクがさらに高まります。
胃癌の予防において最も効果的な方法の一つが、ピロリ菌の検査と除菌です。ピロリ菌の除菌治療を受けることで、胃癌の発症リスクを大幅に低減できることが明らかになっています。「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」と診断された場合は、保険適用で除菌治療を受けることができます。
ピロリ菌以外の胃癌予防法としては、以下のような生活習慣の改善が推奨されています。
- 禁煙(喫煙は胃癌のリスクを高めます)
- 高塩分食品の摂取を控える
- 新鮮な野菜や果物を積極的に摂取する
- 適度な運動と適正体重の維持
- 過度の飲酒を避ける
また、胃癌の早期発見のためには、50歳以上の方は定期的な胃がん検診を受けることが重要です。特にピロリ菌感染の既往がある方や、胃癌の家族歴がある方は、より積極的に検診を受けることが推奨されます。
胃癌の家族歴がある場合、自分自身もピロリ菌に感染している可能性が高いため、検査を受けることをお勧めします。ピロリ菌は主に家族内感染することが知られており、特に衛生環境が十分でなかった時代に育った40〜50代以上の方では、3〜4割程度がピロリ菌に感染していると考えられています。
胃癌の診断方法と治療選択肢の最新情報
胃癌の診断には、主に以下の検査方法が用いられます。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):最も重要な検査で、直接胃の内部を観察し、組織を採取することができます
- 造影CT検査:胃癌の深達度や転移の有無を評価するために用いられます
- 超音波内視鏡検査:胃壁の層構造を詳細に観察し、癌の深達度を評価します
- PET-CT検査:全身の転移検索に有用です(保険適用外の場合あり)
胃癌と診断された後は、がんの進行度(ステージ)に応じて治療方針が決定されます。胃癌の治療選択肢には以下のようなものがあります。
- 内視鏡的治療
- 早期胃癌(粘膜内または粘膜下層までにとどまるもの)が対象
- EMR(内視鏡的粘膜切除術)やESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などの方法がある
- 体への負担が少なく、胃の機能を温存できる
- 外科的治療(手術)
- 胃の一部または全部を切除する(胃切除術、胃全摘術)
- リンパ節郭清を伴うことが多い
- 近年は腹腔鏡手術やロボット支援手術など低侵襲な手術も普及
- 化学療法(抗がん剤治療)
- 進行・再発胃癌が主な対象
- 術前・術後の補助療法としても用いられる
- 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など新しい薬剤も登場
- 放射線療法
- 単独で用いられることは少なく、化学療法と併用されることが多い
- 特定の部位の症状緩和にも用いられる
近年の胃癌治療の進歩として特筆すべきは、早期胃癌に対する内視鏡治療の発展です。従来は手術が必要だった早期胃癌の多くが、現在では内視鏡治療で根治が可能になっています。特に日本で開発されたESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、一括切除が可能で病理診断の精度が高いことから、世界的にも標準治療として認められています。
また、進行胃癌に対しても、新しい抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の登場により、治療成績が向上しています。特にHER2陽性胃癌に対するトラスツズマブ(ハーセプチン)や、PD-1/PD-L1阻害剤であるニボルマブ(オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)などの免疫チェックポイント阻害剤の導入により、これまで治療選択肢が限られていた患者さんにも新たな治療の可能性が広がっています。
胃癌の治療は日々進歩しており、特に日本は胃癌治療において世界をリードする立場にあります。治療法の選択に迷った場合は、セカンドオピニオンを求めることも検討しましょう。
胃癌の症状と類似する他の消化器疾患との見分け方
胃癌の症状は、他の消化器疾患と非常に似ていることが多く、症状だけで胃癌かどうかを判断することは困難です。以下に、胃癌と症状が類似する主な疾患と、その鑑別ポイントを解説します。
- 胃炎との鑑別
胃炎でも胃の痛みや不快感、胸やけなどの症状が現れます。胃炎と胃癌の大きな違いは症状の持続性と進行性にあります。胃炎の症状は食事や薬で改善することが多いのに対し、胃癌の症状は徐々に悪化する傾向があります。また、胃炎では体重減少や黒色便などの症状は通常見られません。
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍との鑑別
潰瘍の痛みは食事との関連が明確なことが多く(空腹時に痛み、食後に和らぐなど)、また制酸剤で症状が改善することが特徴です。一方、胃癌の痛みは食事との関連が必ずしも明確ではなく、制酸剤での改善も限定的です。ただし、胃潰瘍と胃癌は内視鏡検査でも見分けが難しいことがあり、必ず生検(組織検査)を行う必要があります。
- 逆流性食道炎との鑑別
逆流性食道炎では胸やけや呑酸(酸っぱい液体が喉まで上がってくる感覚)が主症状で、横になると症状が悪化することが特徴です。胃癌では胸やけの他に、みぞおちの痛みや食欲不振などの症状が現れることが多いです。
- 機能性ディスペプシアとの鑑別
機能性ディスペプシアは、器質的な異常がないにもかかわらず、上腹部の痛みや不快感が続く状態です。若年者に多く、症状の変動が大きいことが特徴です。胃癌は通常50歳以上に多く、症状が徐々に悪化する傾向があります。
以下の症状は、胃癌を疑うべ