前立腺がんホルモン療法薬
ADT治療を受けた患者は認知症リスクが2倍になります。
前立腺がんホルモン療法薬の作用機序と分類
前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)に依存して成長するため、ホルモン療法ではテストステロンの分泌や作用を抑えることで癌の進行を遅らせます。薬剤は大きく分けて「男性ホルモンの分泌を抑える薬」と「男性ホルモンの作用発現を抑える薬」の2種類があります。zenritsusen+1
男性ホルモンの分泌を抑える薬には、LH-RH(GnRH)アゴニストとLH-RH(GnRH)アンタゴニストがあります。これらは精巣からのテストステロン分泌を抑制する薬剤です。一方、男性ホルモンの作用発現を抑える薬には、抗アンドロゲン剤やARSI(新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬)があります。az-oncology+1
抗アンドロゲン剤はDHTがアンドロゲン受容体に結合する過程を阻害することで、前立腺がんの増殖を抑制します。精巣と副腎両方から分泌されるDHTをブロックできる点が特徴です。
前立腺がんホルモン療法における薬剤の種類と特徴
LH-RHアゴニストには1ヵ月持続型、3ヵ月持続型、6ヵ月持続型があり、下腹部などに皮下注射します。代表的な薬剤は酢酸リュープロレリンや酢酸ゴセレリンです。初回投与直後にテストステロンの一過性上昇を認めるため、一過性の症状悪化(骨痛増強、排尿困難など)がみられることがあります。doctor-sato+1
LH-RHアンタゴニストはデガレリクス酢酸塩が代表的で、アゴニストと異なり初回投与時のテストステロン上昇がない点が利点です。ただし年間治療費は約27万円(3割負担で約8万円)と、アゴニストより高額になります。
参考)がん治療におけるホルモン療法について、有効ながんの種類や費用…
ARSIには、アパルタミド、エンザルタミド、ダロルタミド、アビラテロンなどがあります。これらは去勢抵抗性前立腺がんに対して非常に効果的ですが、年間治療費は約300~530万円と高額です。3割負担でも約90~160万円の自己負担となります。
抗男性ホルモン剤には、ビカルタミドやフルタミドがあり、比較的安価で年間約6.5~13万円(3割負担で約2~4万円)です。単独使用またはLH-RHアゴニストとの併用(CAB療法)で用いられます。az-oncology+1
前立腺がんホルモン療法によるCAB療法の効果と適応
CAB療法(Combined Androgen Blockade)は、LH-RHアゴニストまたはアンタゴニスト、あるいは精巣摘除術と抗男性ホルモン剤を併用する治療法です。男性ホルモンの分泌と作用の両方を抑えることで、より強力な治療効果を狙います。
参考)https://www.az-oncology.jp/zenritsusengan/treat/secretion/
転移のある前立腺がんでは、CAB療法にARSIや細胞傷害性抗がん薬の併用が検討されます。昔は転移性前立腺がんのホルモン療法単独での5年生存率は約30~40%でしたが、新たなホルモン薬や化学療法(ドセタキセル)を組み合わせることで約65%に上昇しています。つまり生存率が約1.6倍に改善したということですね。ubie+1
ホルモン療法の効果持続期間には個人差がありますが、グリソンスコアが高い人、PSA値が最初から高い人、転移をすでに認める人は比較的早期に効かなくなる傾向があります。効果が弱まってきた場合は、治療戦略の変更が必要です。
参考)前立腺がんの薬物療法
前立腺がんホルモン療法で発生する副作用と発現頻度
ホルモン療法の主な副作用には、性欲低下、勃起障害、ほてり、女性化乳房、肝機能障害などがあります。特に注意すべきは骨密度低下と認知機能への影響です。
骨密度低下はホルモン療法そのものが引き起こし、骨折リスクを増加させます。治療開始時点で骨転移がある患者は、骨折や骨の痛みを生じやすいとされています。骨密度低下は治療を続ける限り進行するため、早期からの対策が必須です。
ADT(アンドロゲン遮断療法)を受けた患者は、ADTを受けなかった患者より治療後5年以内に認知症と診断される可能性がほぼ2倍です。認知症の絶対リスクは、ADT治療を受けた場合7.9%、受けなかった場合3.5%でした。特に70歳以上の男性では、ADT治療を受けた場合の認知症リスクは13.7%に達します。
参考)Clinical Newswire » MNT …
間質性肺炎やアナフィラキシーなどの重篤な副作用も報告されています。日々の体調管理が重要で、いつもと体の調子が違うことに気づけば、医師に早めに相談できます。
参考)https://www.bethel-uc.jp/post-397/
前立腺がんホルモン療法における骨密度低下への対策
ホルモン療法開始と同時に、骨密度を補う治療薬デノスマブ(製品名:プラリア)による予防や治療を行うことが推奨されます。プラリアはもともと骨粗しょう症の予防・治療薬として、更年期以降の女性などにも用いられている薬です。
参考)https://cancer.qlife.jp/prostate/prostate_feature/article2763.html
骨転移のない患者でも、ホルモン療法中に骨密度が低下した場合、骨密度を補って骨折を予防する薬剤(プラリア、リクラストなど)を使用します。リクラストは年1回の点滴投与で済むため、患者の負担が少ないのが特徴です。hosp.juntendo+1
ただし歯の副作用が出ることがあるため、投与前と投与後も定期的に歯科受診が必要です。これは顎骨壊死というまれですが重篤な副作用を予防するためです。早期から骨密度の評価を行い、骨粗鬆症対策を実施することで、生活の質の低下を防げます。
参考)泌尿器科|前立腺がんの薬物療法|順天堂大学医学部附属順天堂医…
カルシウム製剤やビタミンD製剤の併用も一般的な対策です。前立腺がんの内分泌治療後の骨密度低下には十分な対処が必要ということですね。
前立腺がんの去勢抵抗性における治療選択
ホルモン療法を続けているうちに、PSA値が再上昇してくる状態を去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)と呼びます。CRPCに対しては、抗がん剤による全身化学療法、または新規の抗アンドロゲン薬による治療を行います。cancer.qlife+1
治療選択の基準として、初回ホルモン療法の奏効期間が12か月以上なら新規抗アンドロゲン薬(ARSI)、以下なら抗がん剤を優先します。抗がん剤は先にドセタキセルを使い、効果が弱まったときにカバジタキセルを使います。ドセタキセルは2008年から前立腺がんへの適応が認められており、生存期間を延ばすことが証明されています。
参考)https://cancer.qlife.jp/prostate/prostate_feature/article2689.html
ARSIは非常に効果的ですが、初期投与から効果を示さない患者が約3割いるのが現状です。また、投与継続中にだんだん効果が落ちてきて、下がっていたPSA値が再度上昇してくることもあります。効果が弱まった場合の次の一手を想定しておくことが重要です。
最近では、PSMA陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する放射性リガンド療法(プルヴィクト)も承認されました。これは国内初のRLTとして期待されています。
参考)ノバルティス、PSMA陽性転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療に…
前立腺がんホルモン療法の費用と治療期間の目安
LH-RHアゴニストの年間治療費は約13~30万円(3割負担で約4~10万円)です。LH-RHアンタゴニストは約27万円(3割負担で約8万円)、抗アンドロゲン薬のビカルタミドは約6.5万円(3割負担で約2万円)となります。
ARSIは非常に高額で、アパルタミド、エンザルタミド、ダロルタミドが年間約300万円(3割負担で約90万円)、アビラテロンは約530万円(3割負担で約160万円)です。つまり月額で7.5~13.3万円の自己負担が発生します。高額療養費制度は1カ月ごとの計算のため、所得区分によってはさらに負担が軽減される可能性があります。hokencospa+1
放射線治療との併用では、IMRTは3割負担で約35~45万円、重粒子線治療は自費で約280万円(保険分あわせて320万円程度)かかります。治療期間は放射線治療を行う場合、前立腺に限局したがんで約6週間、骨盤内リンパ節転移を認める場合は約8週間です。chiba-u.ac+2
ホルモン療法単独の場合、10年以上継続的または断続的に治療を受けている患者に出会うことは珍しくありません。長期的な費用負担を考慮した治療計画が必要です。
参考)転移性前立腺癌の治療における黄体形成ホルモン放出ホルモン(L…
前立腺がんホルモン療法における間欠療法の有効性
間欠的ホルモン療法は、休薬期間を設けることで副作用を軽減しながら治療効果を維持する方法です。この治療法は、前立腺がん治療後にPSA濃度が上昇した無症状の男性において、持続的ホルモン療法と同等に有効であることが研究で示されています。
参考)前立腺癌の治療において間欠的ホルモン療法は持続的ホルモン療法…
間欠的ホルモン療法群の患者の全生存期間の中央値は8.8年で、持続的ホルモン療法群は9.1年でした。
統計的な有意差はありません。
一方で、間欠的ホルモン療法を受けた患者では、特に身体機能、倦怠感、排尿障害、ホットフラッシュ、性欲および勃起機能に関して、よりよい生活の質が認められました。
前立腺がんに関連した7年死亡率の推計は、間欠的ホルモン療法群で18%、持続的ホルモン療法群で15%であり、統計的な有意差はありませんでした。つまり生活の質を改善しつつ、生存期間に差がないということですね。患者の状態や希望に応じて、間欠療法を検討する価値があります。
前立腺がんホルモン療法の詳細な治療法と薬剤の種類について、より詳しい情報が掲載されています。
がん治療におけるホルモン療法について、有効ながんの種類や副作用
ホルモン療法の副作用と対処法、具体的な薬剤費用について参考になる情報が記載されています。
去勢抵抗性前立腺がんに対する最新の治療選択と切り替えのタイミングについて詳細な解説があります。
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