前立腺がん治療薬一覧と効果的な使い分け

前立腺がん治療薬一覧と選び方

アボルブやザガーロを服用中の患者は、PSA値が本来の50%まで下がってしまい、前立腺がんの早期発見が遅れるリスクがあります。

この記事の3つのポイント
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前立腺がん治療薬の全体像

ホルモン療法薬(LH-RHアゴニスト・アンタゴニスト、抗アンドロゲン薬、新規ARSI剤)、抗がん剤(ドセタキセル、カバジタキセル)、放射性医薬品など多様な治療薬の特徴と使い分けを解説します

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最新の治療戦略

転移性前立腺がんに対するトリプレット療法(ADT+ARSI+ドセタキセル)やダブレット療法など、ガイドライン2023年版に基づく最新の治療アプローチを紹介します

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副作用管理と注意点

ホルモン療法による心血管疾患リスク上昇、認知機能低下、骨密度低下など、長期使用における副作用とその対策について医療従事者が知っておくべき情報を整理します

前立腺がん治療薬の分類と作用機序

 

前立腺がん治療薬は大きく分けて内分泌療法薬と細胞障害性抗がん剤に分類されます。内分泌療法薬はアンドロゲンの産生や作用を抑制することで前立腺がん細胞の増殖を抑えるもので、前立腺がんがアンドロゲン依存性の性質を持つことを利用した治療法です。一方、細胞障害性抗がん剤は去勢抵抗性前立腺がんに対して使用される薬剤で、直接がん細胞の分裂を阻害します。

内分泌療法薬はさらに、精巣からのアンドロゲン分泌を抑制する薬剤と、アンドロゲンの受容体への結合を阻害する薬剤に分けられます。前者にはLH-RHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックス)やLH-RHアンタゴニスト(ゴナックス)があり、後者には抗アンドロゲン薬(カソデックス、プロスタール)や新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)が含まれます。つまり、作用部位が異なる薬剤を組み合わせることで、より強力なアンドロゲン遮断が可能になるということですね。

新規ARSI剤には、エンザルタミドイクスタンジ)、アパルタミド(アーリーダ)、ダロルタミド(ニュベクオ)、アビラテロン酢酸エステル(ザイティガ)があり、従来の抗アンドロゲン薬よりも強力にアンドロゲン受容体経路を阻害します。これらの薬剤は去勢抵抗性前立腺がんだけでなく、転移性去勢感受性前立腺がんに対してもADT(アンドロゲン除去療法)との併用で生存期間の延長が証明されています。

日本泌尿器科学会の前立腺癌診療ガイドライン2023年版(PDF)では、転移性前立腺がんに対する薬物療法の最新のエビデンスと推奨が詳しく記載されています

前立腺がんホルモン療法薬の種類と特徴

LH-RHアゴニストは最も長く使用されてきたホルモン療法薬で、リュープリン(リュープロレリン)とゾラデックス(ゴセレリン)が代表的です。これらは脳の下垂体に作用して精巣からのテストステロン分泌を抑制しますが、投与初期にはフレアアップ現象と呼ばれるテストステロンの一時的な上昇が起こります。このため、投与開始2~3週間はPSA値や症状が悪化する可能性があり、特に骨転移が多い患者では注意が必要です。フレアアップ現象を避けるため、抗アンドロゲン薬を先行投与するか、LH-RHアンタゴニストを選択することが推奨されます。

LH-RHアンタゴニストであるゴナックス(デガレリクス)は、下垂体のLH-RH受容体を直接阻害するため、フレアアップ現象を起こさずに速やかにテストステロンを低下させます。心血管疾患のリスクが高い患者や、骨転移による脊髄圧迫のリスクがある患者には特に有用です。投与は4週ごとの皮下注射で、初回は240mgを2回に分けて投与し、その後は80mgを月1回投与します。

抗アンドロゲン薬には、ビカルタミド(カソデックス)、フルタミド(オダイン)、クロルマジノン酢酸エステル(プロスタール)があります。これらは単独で使用されることは少なく、通常はLH-RHアゴニストまたはアンタゴニストとの併用で、CAB(Combined Androgen Blockade)療法として使用されます。ビカルタミドは1日1回80mgの内服で、比較的副作用が少なく長期使用に適していますが、長期使用後に効果が減弱しPSA値が上昇することがあります。興味深いことに、この場合に抗アンドロゲン薬を中止すると、逆にPSA値が低下する「抗アンドロゲン薬離脱症候群」という現象が20~30%の患者で認められます。

これは使えそうです。

エストロゲン製剤であるエストラムスチンリン酸エステルナトリウム(エストラサイト)は、細胞障害性抗がん剤と抗アンドロゲン作用の両方を持つ薬剤です。1日2回313.4mgを経口投与しますが、血栓症や心血管系の副作用のリスクがあるため、現在では使用頻度は減少しています。心血管疾患の既往がある患者では特に慎重な投与が必要です。

NPO法人キャンサーネットジャパンの前立腺がん薬物療法ページでは、各ホルモン療法薬の副作用とその対策について患者向けに詳しく解説されています

前立腺がん新規ARSI剤の一覧と使い分け

新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)は、2014年以降に次々と承認され、前立腺がん治療のパラダイムを大きく変えました。エンザルタミド(イクスタンジ)は、1日1回160mg(40mg錠×4錠)を経口投与する薬剤で、アンドロゲン受容体への結合阻害、核内移行の阻害、DNA結合の阻害という3つの作用機序を持ちます。去勢抵抗性前立腺がんに対して生存期間を約5ヶ月延長することが示されており、転移性去勢感受性前立腺がんに対してもADTとの併用で有効性が証明されています。

アパルタミド(アーリーダ)は、1日1回240mg(60mg錠×4錠)を経口投与します。非転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する承認を最初に取得した薬剤で、転移または死亡までの期間を約2年延長することが示されました。その後、転移性去勢感受性前立腺がんに対しても適応が拡大されています。副作用として皮疹が約25%に出現することが特徴的で、ステロイド外用薬での管理が必要になる場合があります。

ダロルタミド(ニュベクオ)は、1日2回600mg(300mg錠×2錠)を経口投与する最も新しいARSI剤です。エンザルタミドやアパルタミドと比較して、血液脳関門を通過しにくい構造のため、痙攣や認知機能障害などの中枢神経系副作用が少ないことが特徴です。ARASENS試験では、転移性去勢感受性前立腺がんに対するトリプレット療法(ADT+ダロルタミド+ドセタキセル)の有効性が示され、2023年に保険適用となりました。

これは重要です。

アビラテロン酢酸エステル(ザイティガ)は、アンドロゲン合成酵素CYP17を阻害することでアンドロゲン産生を抑制する薬剤です。1日1回1000mg(250mg錠×4錠)を空腹時に経口投与し、プレドニゾロン5mgを1日2回併用する必要があります。プレドニゾロンの併用は、CYP17阻害によるミネラルコルチコイド過剰を防ぐために必須で、省略すると高血圧や低カリウム血症を引き起こす可能性があります。薬価が非常に高額で、月額の薬剤費は3割負担でも約13万円になるため、高額療養費制度の活用が重要になります。

4つのARSI剤の選択に関しては、作用機序の違いから交叉耐性が完全ではないと考えられています。ダロルタミドは中枢神経系副作用が少ないため、高齢者や認知機能に不安がある患者に適しており、アビラテロンは転移性去勢感受性前立腺がんに対するドセタキセルとの併用データが豊富です。エンザルタミドとアパルタミドは使用経験が長く、多くの臨床データが蓄積されています。

前立腺がん抗がん剤治療の実際

ドセタキセル(タキソテール)は、去勢抵抗性前立腺がんに対して生存期間の延長を証明した最初の抗がん剤です。通常、3週間ごとに75mg/㎡を点滴静注し、6~10サイクル実施します。プレドニゾロン5mgを1日2回併用することで、効果が増強され副作用が軽減されることが知られています。約50%の患者でPSA値の低下や疼痛の改善が認められ、生存期間中央値は19ヶ月程度です。

副作用としては、骨髄抑制による好中球減少が最も頻度が高く、約80%の患者で出現します。好中球減少性発熱は約10~15%で発生し、重症感染症のリスクがあるため、G-CSF製剤(フィルグラスチムなど)の予防的投与が推奨される場合があります。その他、脱毛、末梢神経障害、浮腫、爪の変化などが出現しますが、多くは可逆性です。浮腫はドセタキセル特有の副作用で、体液貯留によるもので、デキサメタゾンの前投与で予防できる場合があります。

カバジタキセル(ジェブタナ)は、ドセタキセル治療後に病勢進行した去勢抵抗性前立腺がんに対する二次化学療法として使用されます。3週間ごとに25mg/㎡を点滴静注し、プレドニゾロン5mgを1日2回併用します。ドセタキセルの構造を一部修飾した薬剤で、ドセタキセル抵抗性の腫瘍に対しても効果を示すことが特徴です。生存期間中央値は約15ヶ月で、ドセタキセル後の標準治療の一つとして確立されています。

カバジタキセルの副作用はドセタキセルよりも重篤になる傾向があり、特に好中球減少性発熱の頻度が高く約8~20%で発生します。このため、G-CSF製剤の予防的投与がより強く推奨されます。また、下痢が約50%の患者で出現し、重症例では脱水や電解質異常を引き起こす可能性があるため、早期からの下痢止め(ロペラミドなど)の使用と水分摂取の指導が重要です。重症下痢は命に関わることがあるため、患者教育が不可欠ですね。

近年、転移性去勢感受性前立腺がんに対して、ADTとARSI剤にドセタキセルを加えたトリプレット療法の有効性が示されています。PEACE-1試験とARASENS試験の結果から、特に転移病変が多い(高腫瘍量)患者では、トリプレット療法により全生存期間が有意に延長することが明らかになりました。ただし、ドセタキセルの副作用により治療強度が高くなるため、患者の全身状態やPS(Performance Status)が良好であることが前提条件となります。高齢者や併存疾患が多い患者では、ダブレット療法(ADT+ARSI剤)を選択することも合理的です。

順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科の薬物療法ページでは、ドセタキセルとカバジタキセルの使用方法と副作用管理について詳しく解説されています

前立腺がん治療薬の副作用とマネジメント

ホルモン療法の副作用は、アンドロゲン欠乏に伴う全身的な影響として現れます。最も頻度が高いのはホットフラッシュ(ほてり・発汗)で、約80%の患者で出現します。女性の更年期障害に似た症状で、突然の熱感と発汗が数分間続きます。多くは軽度ですが、QOLを著しく低下させる場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やビタミンE、漢方薬(桂枝茯苓丸など)が有効な場合があります。

長期的な副作用として特に注意が必要なのは、骨密度の低下と骨折リスクの上昇です。アンドロゲン欠乏により骨吸収が促進され、2~3年間のホルモン療法で骨密度が約5~10%低下することが報告されています。これは閉経後女性の骨密度低下率に匹敵します。骨折リスクが高い患者では、骨密度測定を定期的に行い、ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸、アレンドロン酸)やデノスマブ(ランマーク、プラリア)の投与を検討します。カルシウムとビタミンDの補充も基本的な対策として推奨されます。

ホルモン療法は心血管疾患のリスクを上昇させることが近年明らかになっています。2022年の大規模研究では、ホルモン療法を受けた患者の心血管疾患による死亡リスクが2倍以上に増加し、特に治療開始2年目以降にリスクが高まることが示されました。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの心血管リスク因子を持つ患者では、これらの管理を強化する必要があります。定期的な血圧測定、血糖値・HbA1c・脂質プロファイルのモニタリングが重要になります。

認知機能の低下もホルモン療法の副作用として報告されています。2008年の研究では、アンドロゲン除去療法を受けた患者で認知機能検査のスコアが低下することが示されました。完全に認知症を発症するケースは稀ですが、記憶力や集中力の低下を訴える患者は少なくありません。家族や介護者への情報提供と、認知機能を維持するための生活指導(運動、社会活動、知的活動の維持)が支援策として有用です。

筋力低下と筋肉量減少(サルコペニア)は、転倒リスクや日常生活動作の低下につながります。アンドロゲン欠乏により筋蛋白合成が低下し、筋肉量が減少します。これに対しては、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)と有酸素運動の組み合わせが効果的で、週2~3回の運動プログラムが推奨されます。また、十分なタンパク質摂取(体重1kgあたり1.0~1.2g)も筋肉量維持に重要です。運動療法は骨密度維持や心血管リスク低減にも寄与するため、可能な限り実施を促すべきです。

性機能障害と性欲減退は、ほぼ全例で出現する副作用です。勃起機能の完全な喪失、性欲の消失が起こり、パートナーシップやQOLに大きな影響を与えます。治療前に十分なインフォームドコンセントを行い、患者とパートナーの理解を得ておくことが重要です。PDE5阻害薬(バイアグラ、シアリスなど)はアンドロゲン欠乏下では効果が乏しく、根本的な解決策にはなりません。

前立腺がん治療薬選択における注意点

前立腺肥大症治療薬として使用されるデュタステリド(アボルブ、ザガーロ)やフィナステリド(プロペシア)は、5α還元酵素を阻害してジヒドロテストステロン(DHT)の産生を抑制します。これらの薬剤は前立腺容積を縮小させる効果がありますが、同時にPSA値を約50%低下させる作用があります。つまり、PSA値が2.0ng/mlと測定されても、実際には4.0ng/mlに相当する可能性があるということです。前立腺がんのスクリーニングや経過観察において、この影響を考慮せずにPSA値を評価すると、がんの発見が遅れたり、再発を見逃したりするリスクがあります。医療従事者は患者の服薬歴を必ず確認し、これらの薬剤を服用している場合は測定値を2倍にして評価する必要があります。

抗アンドロゲン薬の長期使用後にPSA値が上昇した場合、抗アンドロゲン薬を中止することでPSA値が低下する「抗アンドロゲン薬離脱症候群」が20~30%の患者で認められます。これは、長期使用により変異したアンドロゲン受容体が、抗アンドロゲン薬そのものをアゴニスト(刺激物質)として認識するようになるためと考えられています。このため、去勢抵抗性前立腺がんと診断した場合は、まず抗アンドロゲン薬を中止して4~8週間経過を観察し、PSAの動きを確認することが推奨されます。

中止だけで改善することもあります。

新規ARSI剤の使用順序についても注意が必要です。ARSI剤間には交叉耐性が存在する可能性があり、エンザルタミド治療後にアパルタミドやダロルタミドを使用しても効果が限定的な場合があります。2025年のDEAR試験では、非転移性去勢抵抗性前立腺がんに対するARSI3剤の実臨床における治療継続率が比較され、有害事象による中止率はダロルタミド群が10.2%、エンザルタミド群が14.4%、アパルタミド群が15.1%でした。忍容性の観点からダロルタミドが優れている可能性が示唆されています。

トリプレット療法の適応判断は、患者の全身状態、年齢、併存疾患、転移の程度を総合的に評価して行います。75歳以上の高齢者や、PS(Performance Status)が2以上の患者では、ドセタキセルの副作用リスクが高くなるため、ダブレット療法(ADT+ARSI剤)を選択することが一般的です。一方、65歳以下でPSが良好、転移病変が多い(高腫瘍量)患者では、トリプレット療法により最大限の効果が期待できます。患者の価値観や治療目標も考慮に入れ、共同意思決定(Shared Decision Making)のプロセスを経て治療方針を決定することが重要です。

薬剤の経済的負担も治療継続に大きく影響します。新規ARSI剤の薬価は月額約20~30万円(3割負担で約6~9万円)と高額で、年間では100万円を超える自己負担となる可能性があります。高額療養費制度を利用することで、自己負担額は所得に応じて月額約8万円~25万円の上限が設定されますが、それでも長期治療では大きな負担です。患者の経済状況を把握し、必要に応じて医療ソーシャルワーカーと連携して、利用可能な社会保障制度(高額療養費制度、障害年金、傷病手当金など)の情報提供を行うことが治療継続のために不可欠です。

日経メディカルの抗アンドロゲン薬解説ページでは、各薬剤の薬価と使用上の注意点が一覧表形式でまとまっています

前立腺がん治療薬は、病期や患者背景に応じて多様な選択肢があり、それぞれの特徴を理解した上で最適な薬剤を選択することが重要です。ホルモン療法の長期副作用、特に心血管リスクや骨密度低下に対する予防的介入を行いながら、患者のQOLを維持しつつ生存期間の延長を目指すことが医療従事者に求められます。最新のガイドラインやエビデンスを常にアップデートし、個々の患者に最適な治療を提供していく姿勢が不可欠です。




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