有毒物質の種類と分類
有毒物質の法的分類と毒物劇物取締法
毒物及び劇物取締法は、保健衛生上の見地から毒性の強い化学物質を規制する法律です。同法では、化学物質を毒性の強さによって特定毒物、毒物、劇物の3つに分類しており、医薬品および医薬部外品は除外されます。
参考)毒劇法 – NIHS
特定毒物には四アルキル鉛など極めて毒性の強い物質が指定され、毒物にはジクロルベンジジン及びその塩などが、劇物には無機亜鉛塩類、亜塩素酸ナトリウムなど多数の化学物質が該当します。これらの物質は、濃度による除外規定があり、一定濃度以下では規制対象外となる場合もあります。
参考)https://www.jaish.gr.jp/horei/hor1-1/hor1-1-7-1-4.html
医療従事者が扱う可能性のある物質としては、ホルムアルデヒド、硝酸、水酸化ナトリウム、臭素などが劇物に指定されており、適切な取り扱いと保管が求められます。
参考)http://www.chemeng.titech.ac.jp/private/gekibutsu.html
有毒物質のGHS分類による危険有害性評価
GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)は、化学物質の危険有害性を国際的に統一された基準で分類・表示する仕組みです。この分類システムは、物理化学的危険性(爆発物、可燃性ガスなど17項目)、健康に対する有害性(急性毒性、発がん性など10項目)、環境有害性(水生環境有害性2項目)の3つの大きなカテゴリーに分かれています。
参考)https://www.cerij.or.jp/chemical-management/img/studies03/studies03-02-pdf.pdf
健康有害性の評価項目には、急性毒性、皮膚腐食性・刺激性、眼に対する重篤な損傷・眼刺激性、呼吸器感作性または皮膚感作性、生殖細胞変異原性、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性(単回ばく露)、特定標的臓器毒性(反復ばく露)、誤えん有害性が含まれます。
参考)https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/doku/ghs/pamp.pdf
各危険有害性クラスは、さらに区分1から区分5などの有害性区分に細分化され、数字が小さいほど危険度が高くなります。例えば急性毒性には5つの区分があり、引火性液体には4つの区分が設定されています。GHS分類結果は絵表示とともにラベルやSDS(安全データシート)に記載され、化学物質を扱う全ての人に危険性を伝える重要な情報源となります。
参考)職場のあんぜんサイト:化学物質:GHSのシンボルと名称
厚生労働省は、令和6年度にGHS分類結果に基づくがん原性告示物質の見直しを行っており、リスクアセスメント対象物のうち発がん性区分1(細区分1A及び1Bを含む)に該当する物質を特定しています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001517917.pdf
有毒物質の特定化学物質障害予防規則による分類
労働安全衛生法の特定化学物質障害予防規則(特化則)は、作業環境において労働者の健康を守るため、特に有害性の高い化学物質を特定化学物質として指定し管理を義務付けています。特定化学物質は危険度に応じて第1類、第2類、第3類の3つに分類されます。
参考)特定化学物質障害予防規則(特化則)とは?対象の有機溶剤なども…
第1類特定化学物質は、がん等の慢性・遅発性障害を引き起こす物質のうち、特に有害性が高く労働者に重度の健康障害を生じるおそれがあるものが該当します。具体的にはジクロルベンジジン及びその塩などが含まれ、製造・使用が原則禁止または厳しく制限されています。
第2類特定化学物質には、がん原性物質や慢性障害を起こす化学物質が指定されており、発散源の密閉化、局所排気装置の設置、作業環境測定、特殊健康診断などが義務付けられます。第3類特定化学物質は、急性障害を引き起こす可能性のある物質で、第2類に準じた管理が求められます。
これらの規制により、医療現場や研究施設においても、特定化学物質を扱う際には適切な作業環境の整備と健康管理が不可欠となっています。
有毒物質による急性中毒と慢性中毒の症状
有毒物質による健康障害は、曝露の程度と期間により急性中毒と慢性中毒に大別されます。急性中毒は、人体にとって有毒な物質が体内に短時間で入り、急速に様々な症状を呈する状態を指します。
参考)職業病、有機溶剤中毒
急性中毒の主な症状として、全身症状では高体温・低体温、発汗過多または皮膚乾燥、倦怠感などが現れます。中枢神経症状は特に重篤で、軽度の傾眠状態から錯乱、痙攣、昏睡まで幅広い症状が出現し得ます。有機溶剤による急性中毒では、麻酔作用による意識障害が特徴的で、重症化すると呼吸不全や呼吸麻痺により致命的となる場合があります。
参考)http://ohtc.med.uoeh-u.ac.jp/yuukiyouzaikenkoushindan5.html
一方、慢性中毒は低濃度の有毒物質に長期間曝露されることで発症します。有機溶剤の慢性中毒では、「疲れやすい」「だるい」「頭が痛い」「めまいがする」といった非特異的な症状が持続します。さらに進行すると、頭重、頭痛、めまい、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛、体重減少、心悸亢進、不眠、不安感、焦燥感、集中力の低下、振戦、上気道または眼の刺激症状、皮膚や粘膜の異常、四肢末端部の疼痛、知覚異常、握力減退、視力低下などの多彩な症状が現れます。
参考)https://www.env.go.jp/chemi/communication/taiwa/text/2s.pdf
重金属による中毒も深刻で、カドミウムは腎臓障害とそれに伴う骨や関節の障害、貧血を引き起こし、有機水銀は中枢神経に障害を与え、感覚異常、視野狭窄、難聴、言語障害、運動障害といった深刻な障害をもたらします。鉛による中毒では、うつ病、吐き気、疲労、コミュニケーション能力や集中力の欠如、発育問題、神経系や運動障害などが報告されています。
参考)https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/suishitsu/pdf/s06.pdf
有毒物質曝露の医療従事者への独自リスクと予防戦略
医療従事者は、抗がん剤などのハザーダスドラッグ(HD)に職業的に曝露するリスクが高く、特別な予防対策が必要です。抗がん剤は発がん性等を有する化学物質を含有しており、厚生労働省労働基準局からばく露防止対策の通知が出されています。
参考)https://kanden-hsp.jp/files/departments/pharmacy/area_doctor/pharmacy_01-07.pdf
医療現場における曝露予防の基本は、組織全体で取り組むことです。個人の努力や責任だけでなく、施設全体で曝露対策の体制を整備し、適正な環境下で正しい手技を実行することが重要とされています。具体的には、ヒエラルキーコントロールという概念に基づき、危険源の除去、工学的対策(安全キャビネットの使用など)、管理的対策、個人防護具(PPE)の装着という優先順位で対策を講じます。
PPEの適切な使用が不可欠で、抗がん剤調製時には二重手袋(抗がん薬耐性試験済み)、ガウン、保護メガネまたはフェイスシールド、マスクの装着が推奨されます。手袋は3~4時間ごとに1重目を交換し、安全キャビネットを正しく使用することも重要です。
参考)抗がん薬の曝露予防と対策
ホルムアルデヒドなど、病理検査で使用される化学物質についても、低濃度・長期曝露による健康障害が懸念されており、健康診断において自覚症状・他覚症状の有無を記載することが重要です。
曝露対策の目標は完全なゼロではなく、合理的に低減することです。定期的な曝露現状調査を実施し、曝露評価では絶対値よりも傾向を重視して、継続的な改善を図ることが推奨されています。医療従事者一人ひとりが曝露に対する正しい理解を持ち、チームで取り組むことで、安全な医療環境を実現できます。
国際がん研究機関(IARC)によるGroup 1〜2Bの発がん性物質分類について詳細な情報が記載されており、有毒物質の発がん性評価の参考になります。
化学物質の危険有害性を表す絵表示の意味と分類について、医療従事者が化学物質ラベルを正しく理解するための基礎情報が掲載されています。
毒物、劇物、特定毒物の対象物質、各物質の濃度等による除外規定について、法令に基づく正確な情報を確認できます。

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