薬局の時間外加算の算定要件と平日や休日の違い解説

薬局の時間外加算

薬局の時間外加算

算定要件の厳格化

開局時間外の緊急対応が原則であり、常態化している場合は算定不可となるケースも。

📊

基礎額の計算構造

調剤基本料に加え、調剤管理料や薬剤調製料も基礎額に含まれるため負担増になりやすい。

⚠️

夜間・休日等加算との区別

地域支援体制加算の届出有無や、開局時間内か外かで適用される加算が明確に異なります。

薬局業務において、患者様からのお問い合わせが特に多く、また算定要件が複雑で誤請求の原因となりやすいのが「時間外加算」です。令和6年度の調剤報酬改定を経ても、その基本的な考え方は維持されていますが、実務の現場では「夜間・休日等加算」との混同や、基礎額の計算範囲についての誤解が依然として見受けられます。特に、かかりつけ薬局としての機能が求められる中で、時間外対応は避けて通れない業務ですが、適切な算定を行わなければ個別指導での指摘事項となるリスクも孕んでいます。本記事では、医療従事者が確実に理解しておくべき時間外加算の算定要件から、患者トラブルを未然に防ぐための実務的な運用フローまでを深掘りして解説します。

薬局の時間外加算の算定要件と対象となる営業時間

 

時間外加算は、文字通り薬局が定めている「開局時間」以外の時間に、緊急等の理由で調剤を行った場合に算定できるものです。しかし、単に「店を開けていれば算定できる」というものではなく、以下の厳格な要件を満たす必要があります。

まず、大前提として「当該薬局が常態として調剤応需体制をとっている時間(開局時間)」以外であることが条件です。都道府県知事に届け出ている開局時間が基準となりますが、実態として広く患者を受け入れている時間帯であれば、それは開局時間とみなされます。算定可能な具体的な時間帯は、概ね以下の通り定められています。

区分 対象となる時間帯の目安 算定点数(基礎額に対して)
時間外加算
  • 平日:午前8時前、午後6時以降
  • 土曜:午前8時前、正午以降
  • 休日加算の対象日以外で、当該薬局が休業としている日(輪番制など)
100%加算
休日加算
  • 日曜、祝日
  • 12月29日~1月3日
140%加算
深夜加算
  • 午後10時~翌日午前6時
200%加算

ここで重要な注意点があります。「概ね」という表現が使われていますが、これは地域の慣習や医療機関の診療時間を考慮して判断されるためです。しかし、一般的には上記の時間が基準となります。

また、時間外加算を算定する最大のポイントは、「開局時間外に急患等に対応するために、店舗を開けて調剤した場合」であることです。もし、あなたの薬局が「平日は夜20時まで営業」と届出をしており、看板も掲げている場合、平日19時に来局した患者様に対して「時間外加算」を算定することは原則できません。なぜなら、それは「開局時間内」だからです。この場合、要件を満たしていれば後述する「夜間・休日等加算」の対象となります。

さらに、以下の厚生労働省の資料にもある通り、時間外加算等は重複して算定することはできません。例えば、休日の深夜に調剤を行った場合、「休日加算」と「深夜加算」を足すことはできず、点数の高い「深夜加算(200%)」のみを算定することになります。

参考:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】

薬局の時間外加算と夜間・休日等加算の違いと併算定

現場で最も混乱を招くのが、「時間外加算」と「夜間・休日等加算」の使い分けです。これらは似て非なるものであり、両方を同時に算定することは絶対にできません。優先順位と適用条件を整理しましょう。

1. 優先順位の原則

原則として、時間外加算(休日・深夜含む)が優先されます。時間外加算の要件を満たす場合(閉局後に呼び出されて調剤した場合など)は、夜間・休日等加算ではなく、時間外加算を算定します。

2. 夜間・休日等加算の特徴

この加算は、地域医療への貢献を評価するものであり、主に「開局時間内」であっても、以下の特定の日時に調剤を行った場合に算定できる「40点」の定額加算です。

  • 平日の午後7時~午前8時
  • 土曜の午後1時~午前8時
  • 日曜日及び祝日(終日)

ここで、「あれ?」と思った方もいるかもしれません。時間外加算の目安時間(平日18時以降)と、夜間・休日等加算の対象時間(平日19時以降)にはズレがあります。また、夜間・休日等加算を算定するには、地域支援体制加算の届出を行っているか、あるいはそれに準ずる体制を整えている必要があります。

違いを明確にするための比較リスト:

  • 店舗の状態:
    • 時間外加算 → 原則として「閉まっている」店を開けて対応した場合(または、地域の一般的慣行を超えた営業時間外)。
    • 夜間・休日等加算 → 「開いている」店で、夜間や休日に対応した場合。
  • 算定点数:
    • 時間外加算 → 基礎額の100%~200%増(非常に高額)。
    • 夜間・休日等加算 → 処方箋1枚につき40点(一律)。
  • 対象薬局:
    • 時間外加算 → 全ての薬局が対象(届出不要だが、掲示は必要)。
    • 夜間・休日等加算 → 地域支援体制加算届出薬局など、一定の施設基準を満たす薬局。

間違いやすいケースとして、「24時間開局薬局」があります。24時間営業している場合、当然ながら「開局時間外」が存在しません。したがって、24時間開局薬局では、原則として時間外加算(深夜加算含む)は算定できません。その代わり、夜間・休日等加算の要件を満たす時間帯であれば、そちらを算定することになります。

薬局の時間外加算における基礎額と患者負担金額の計算

時間外加算が患者様にとって「高い」と感じられる原因は、その計算方法にあります。通常の加算(例えば一包化加算など)は、特定の技術に対して点数が上乗せされますが、時間外加算は「基礎額」全体に対してパーセンテージを掛けて算出します。

基礎額に含まれる項目(令和6年改定準拠):

  1. 調剤基本料(地域支援体制加算や連携強化加算などの各種加算を含む)
  2. 薬剤調製料(旧調剤料)
  3. 無菌製剤処理加算
  4. 調剤管理料

ここで特に注意が必要なのは、「調剤管理料」が含まれるという点です。調剤報酬改定により、対物業務の評価が「薬剤調製料」と「調剤管理料」に再編されましたが、この両方が基礎額の対象となります。一方で、薬学管理料(服薬管理指導料など)や、特定薬剤管理指導加算などは基礎額に含まれません。

計算例(平日20時に緊急対応し、時間外加算100%を算定する場合):

  • 調剤基本料1(45点)+地域支援体制加算2(47点) = 92点
  • 薬剤調製料(内服30日分) = 80点(仮定)
  • 調剤管理料(内服) = 50点(仮定)
  • 基礎額合計 = 222点

この場合、時間外加算の点数は222点の100%、つまり222点(2,220円)が加算されます。

これが深夜加算(200%)であれば444点、休日加算(140%)であれば311点となります。これに通常の薬学管理料や薬剤料が加わるため、患者様の窓口負担額(3割負担)は、通常時よりも数百円~千円以上高くなることが一般的です。

「いつもと同じ薬なのに、なんでこんなに高いの?」と聞かれた際、単に「時間外だからです」と答えるのではなく、「夜間の緊急対応にかかる費用として、国の定めた計算式で、基本料や調製料などが2倍(100%加算の場合)計算になるためです」と、基礎額の概念を噛み砕いて説明できるスキルが求められます。

薬局の時間外加算に関する掲示義務と患者への説明同意

時間外加算を算定するためには、施設基準の届出は不要ですが、「掲示」は必須要件です。薬局の内側および外側の見えやすい場所に、以下の内容を掲示しなければなりません。

  • 開局時間
  • 時間外加算、休日加算、深夜加算を算定する時間帯
  • それぞれの加算の取り扱い(緊急時の対応方針など)

掲示がない場合、原則として算定は認められません。個別指導においても、掲示物の写真や設置場所は必ず確認される項目の一つです。

また、患者様への「説明と同意」についても触れておく必要があります。

緊急時であっても、金銭的な負担増が発生する以上、事前の説明はトラブル回避のために不可欠です。特に、処方箋を受け付けた時点で「本日は時間外の受付となりますので、時間外加算として別途費用がかかりますがよろしいでしょうか?」と一言確認を入れるオペレーションを徹底してください。

最近では、マイナンバーカード(マイナ保険証)での受付時や、電子処方箋の対応時においても、画面上で費用に関する同意を求めるケースが増えていますが、やはり対面での口頭説明に勝るものはありません。同意を得た証拠として、薬歴に「時間外加算について説明し、了承を得た上で調剤」といった記載を残すことも、指導対策として有効です。

参考:厚生労働省 薬局による夜間・休日対応について

薬局の時間外加算で発生する未収金トラブルと予防策

最後に、検索上位の記事ではあまり触れられていない、しかし現場で頻発する実務的な課題である「未収金トラブル」について解説します。時間外対応は往々にして緊急時であり、患者様も慌てて来局されます。手持ちの現金が少ないケースも珍しくありません。

通常2,000円程度で済むと思っていた会計が、時間外加算や深夜加算によって4,000円、5,000円となると、「お金が足りない」という事態が発生します。ここで「お金がないなら薬は渡せない」と突っぱねることは、応招義務の観点や人道的な配慮から難しい場合がほとんどです。結果として、「後で払いに来てください」と薬を渡し、そのまま回収不能(未収金)になるケースが後を絶ちません。

効果的な予防策と対応フロー:

  1. 処方箋受付時の概算提示

    入力前、処方箋を受け取った瞬間に「今は深夜加算がつきますので、お薬代が通常より高くなり、概算で〇〇円ほどになりますが、お持ち合わせは大丈夫でしょうか?」と必ず確認します。レジ打ちが終わってから伝えるのでは遅すぎます。

  2. キャッシュレス決済の導入と明示

    現金の持ち合わせがない場合でも、クレジットカードや電子マネーが使えれば解決するケースは多いです。時間外対応を行う薬局こそ、キャッシュレス対応は必須と言えます。

  3. 確約書の記入

    やむを得ず未収とする場合は、口約束ではなく、必ず「支払確約書」に署名・捺印をもらいます。氏名、住所、電話番号に加え、身分証明書の提示を求めて番号を控える等の厳格な対応姿勢を見せることで、回収率が高まります。

  4. SMS請求や振込対応

    後日持参を促すだけでなく、銀行振込や、最近ではスマホにSMSを送って決済してもらうサービスなどを活用し、患者様の再来局の手間を省くことも回収促進につながります。

時間外加算は、薬剤師の献身的な労働に対する正当な対価です。しかし、その高さゆえに患者様との軋轢を生む原因にもなります。制度(算定要件)を完璧に理解し、正しく計算するだけでなく、その対価を確実に回収するための接遇と仕組み作りこそが、薬局経営を守るためには不可欠なのです。


異世界薬局