XaおよびIIa阻害薬(DOAC)一覧と特徴および使い分け

XaおよびIIa阻害薬(DOAC)一覧と特徴

DOACの基本情報
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作用機序

DOACは血液凝固因子を直接阻害し、トロンビン阻害薬とXa阻害薬の2種類に分類されます

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効果発現

服用後1時間程度から効果が現れ、ワルファリンより迅速に作用します

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安全性

頭蓋内出血リスクがワルファリンの約半分と報告されています

DOACは「Direct Oral AntiCoagulants(直接経口抗凝固薬)」の略称で、従来のワルファリンに代わる新しい経口抗凝固薬として広く普及しています。これらは血液凝固カスケードの特定の因子を直接阻害することで抗凝固作用を発揮します。DOACは大きく分けて、トロンビン(第IIa因子)を阻害するものとXa因子を阻害するものの2種類に分類されます。

ワルファリンが間接的にビタミンK依存性凝固因子の産生を抑制するのに対し、DOACは凝固因子を直接阻害するため、効果の発現が早く、食事の影響を受けにくいという特徴があります。また、定期的な血液凝固能のモニタリングが不要であり、併用禁忌薬剤も少ないことから、患者さんの負担軽減にも貢献しています。

XaおよびIIa阻害薬(DOAC)の作用機序と分類

DOACは作用機序によって大きく2つのカテゴリーに分類されます。

  1. トロンビン(第IIa因子)阻害薬
    • トロンビンは血液凝固カスケードの最終段階でフィブリノーゲンをフィブリンに変換する重要な酵素です
    • トロンビン阻害薬はこの過程を直接阻害することで抗凝固作用を発揮します
  2. Xa因子阻害薬(抗Xa薬)
    • Xa因子はプロトロンビンをトロンビンに変換する過程に関与します
    • Xa因子を阻害することでトロンビン生成を抑制し、結果的に血栓形成を防ぎます

血液凝固カスケードにおいて、Xa因子はプロトロンビン(第II因子)をトロンビン(第IIa因子)に変換する役割を担っています。一方、活性化したトロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンに変換し、最終的に血栓を形成します。DOACはこの凝固カスケードの特定のポイントを直接阻害することで、効率的に血栓形成を防止します。

XaおよびIIa阻害薬(DOAC)の国内承認薬剤一覧と特徴

現在、日本で承認されているDOACは以下の4種類です。

1. トロンビン(IIa)阻害薬

  • ダビガトラン(プラザキサ)
    • 用量:75mg、110mgカプセル
    • 特徴:腎排泄率が約80%と高く、腎機能低下患者では注意が必要
    • 投与回数:1日2回
    • 中和薬:イダルシズマブ(プリズバインド)が使用可能

    2. Xa阻害薬

    • リバーロキサバン(イグザレルト)
    • アピキサバン(エリキュース)
      • 用量:2.5mg、5mg錠
      • 特徴:腎排泄率が約27%と低く、腎機能低下患者にも比較的使いやすい
      • 投与回数:1日2回
      • 世界的に最も売れているDOAC(2021年に167億ドルの売上)
    • エドキサバン(リクシアナ)
      • 用量:15mg、30mg、60mg錠/OD錠
      • 特徴:日本国内ではシェアトップのDOAC(2022年7~9月期時点で41.4%)
      • 投与回数:1日1回
      • 適応:非弁膜症性心房細動、静脈血栓塞栓症、下肢整形外科手術後の静脈血栓塞栓症予防

      各DOACは薬物動態や排泄経路、投与回数などに違いがあり、患者の状態や併用薬、コンプライアンスなどを考慮して選択する必要があります。

      薬剤名 標的因子 投与回数 腎排泄率 中和薬
      ダビガトラン(プラザキサ) トロンビン(IIa) 1日2回 約80% イダルシズマブ(プリズバインド)
      リバーロキサバン(イグザレルト) Xa因子 1日1回 約33% アンデキサネット アルファ(オンデキサ)
      アピキサバン(エリキュース) Xa因子 1日2回 約27% アンデキサネット アルファ(オンデキサ)
      エドキサバン(リクシアナ) Xa因子 1日1回 約50% アンデキサネット アルファ(オンデキサ)

      XaおよびIIa阻害薬(DOAC)とワルファリンの比較と使い分け

      DOACとワルファリンには、それぞれ特徴があり、患者の状態に応じた使い分けが重要です。

      ワルファリンの特徴:

      • 作用機序:ビタミンK依存性凝固因子(II、VII、IX、X)の産生を抑制
      • 効果発現:服用から効果発現まで2~3日かかる
      • モニタリング:定期的なPT-INR測定による用量調整が必要
      • 食事制限:納豆や青汁などビタミンKを多く含む食品の摂取制限がある
      • 薬物相互作用:多くの薬剤と相互作用がある
      • 価格:比較的安価

      DOACの特徴:

      • 作用機序:特定の凝固因子(トロンビンまたはXa因子)を直接阻害
      • 効果発現:服用後1時間程度から効果が現れる
      • モニタリング:定期的なモニタリングが不要
      • 食事制限:基本的に食事制限がない
      • 薬物相互作用:ワルファリンより少ない
      • 価格:比較的高価

      DOACが適している患者:

      • PT-INRコントロールが困難な患者
      • 食事制限を守ることが難しい患者
      • 定期的な通院が困難な患者
      • 頭蓋内出血リスクが高い患者

      ワルファリンが適している患者:

      • 人工弁置換術後の患者(機械弁)
      • 重度の腎機能障害患者(CrCl<30mL/min)
      • 経済的負担を考慮する必要がある患者
      • 妊婦または妊娠の可能性がある女性

      DOACは頭蓋内出血リスクがワルファリンの約半分と報告されており、安全性の面で優れていますが、腎機能障害患者や特定の併用薬がある場合には注意が必要です。

      XaおよびIIa阻害薬(DOAC)の中和薬と緊急時の対応

      DOACによる抗凝固療法中に出血や緊急手術が必要となった場合の対応策は重要です。

      トロンビン阻害薬(ダビガトラン)の中和薬:

      • イダルシズマブ(プリズバインド)
        • ダビガトラン特異的な中和抗体
        • 投与後数分以内に効果発現
        • 緊急手術や生命を脅かす出血時に使用

        Xa阻害薬の中和薬:

        • アンデキサネット アルファ(オンデキサ)
          • 抗Xa薬に対する初の中和薬
          • 第Xa因子のおとりとして作用
          • リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの効果を中和

          これまでXa因子阻害薬に対する特異的な中和薬が存在せず、出血時には止血処理に加えて、保険適応外でプロトロンビン複合体製剤や遺伝子組換え第VII因子製剤が投与されていました。アンデキサネット アルファの登場により、Xa阻害薬使用中の重篤な出血に対する特異的な対応が可能になりました。

          DOACの術前休薬期間:

          薬剤名 通常の手術 重大な手術 作用持続時間
          ワルファリン 3~5日前 48~72時間
          ダビガトラン 24時間前 2日前 24~36時間
          リバーロキサバン 24時間前 2日前 24時間
          アピキサバン 2~4日前 24時間
          エドキサバン 24時間前 24時間

          腎機能障害患者では、特にダビガトランのような腎排泄率の高い薬剤では、休薬期間を延長する必要があります。また、出血リスクの高い手術では、より長い休薬期間が推奨されます。

          XaおよびIIa阻害薬(DOAC)の次世代開発動向とFXIa阻害薬

          現在のDOACにも課題があり、特に出血リスクは完全には解決されていません。そのため、より安全性の高い「次世代DOAC」の開発が進んでいます。

          FXIa阻害薬の開発状況:

          • バイエルのasundexian
            • 臨床第3相試験進行中
            • 心房細動患者を対象としたP2試験でアピキサバンと比較して出血リスクが有意に低い結果
            • 2026年頃の発売が期待される
            • ピーク時に年間50億ユーロを超える売上予測
          • ブリストル・マイヤーズスクイブとJ&Jのmilvexian
            • 臨床第3相試験開始予定
            • 脳卒中急性冠症候群、心房細動を対象とした試験を計画
            • 年間50億ドル超の売上が期待される
          • アンソス・セラピューティクスのabelacimab
            • FXIとFIXaの両方を阻害する抗体医薬
            • がん関連血栓症と心房細動を対象とした第3相試験進行中

            FXI/FXIa阻害薬の特徴は、血液凝固に関与しつつも止血には必須ではないとされる因子を標的としているため、出血リスクを伴わずに抗凝固作用を得られる可能性があります。これにより、現在のDOACで課題となっているアンダードーズ(出血を恐れた低用量使用)の問題解決が期待されています。

            現在のDOACの特許切れと後発医薬品の参入が近づいており、各製薬企業はFXIa阻害薬を次世代製品として位置付けています。これらの新薬が承認されれば、抗凝固療法の選択肢がさらに広がり、より患者個々の状態に合わせた治療が可能になるでしょう。

            日本血栓止血学会誌でのFXI阻害薬に関する詳細な解説

            XaおよびIIa阻害薬(DOAC)のモニタリング指標と臨床検査

            DOACはワルファリンのような定期的なモニタリングが不要とされていますが、特定の状況では血中濃度の評価が必要となる場合があります。

            DOACのモニタリングが必要となる状況:

            • 緊急手術や侵襲的処置前の薬剤効果の評価
            • 重篤な出血時の薬剤効果の評価
            • 腎機能障害患者での薬物動態の確認
            • 薬物相互作用が疑われる場合
            • 極端な体重(低体重または肥満)の患者
            • 治療効果不十分または過剰が疑われる場合

            各DOACのモニタリング指標:

            DOAC分類 スクリーニング検査 定量検査
            トロンビン阻害薬(ダビガトラン) APTT、TT 希釈TT、ECT
            Xa阻害薬(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン) PT 抗FXaアッセイ

            トロンビン阻害薬であるダビガトランは、APTTやTT(トロンビン時間)が延長することが知られており、特にTTは高感度でダビガトランの存在を検出できます。一方、Xa阻害薬はPTに影響を与えますが、その感度は薬剤や試薬によって異なります。

            抗FXaアッセイは各Xa阻害薬に特異的な検量線を用いることで、より正確な血中濃度の評価が可能です。ただし、これらの特殊検査は一般的な医療機関では実施困難な場合もあります。

            DOACの血中濃度は服用後2~4時間でピークに達し、その後徐々に低下します。そのため、検査のタイミングによって結果が大きく異なる点に注意が必要です。

            日本血液学会誌でのDOACモニタリングに関する詳細情報

            以上、XaおよびIIa阻害薬(DOAC)について、その分類、特徴、使い分け、中和薬、次世代薬の開発動向、モニタリング方法まで詳細に解説しました。DOACは抗凝固療法に革命をもたらした薬剤であり、今後も進化を続けることが期待されます。患者さんの状態や併用薬、ライフスタイルなどを総合的に考慮し、最適なDOACを選択することが重要です。