強い鎮痛剤の種類と副作用とは?処方薬のランキングと効果

強い鎮痛剤の種類と効果

記事の要点まとめ
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オピオイドの適正使用

WHO方式がん疼痛治療法に基づく段階的な薬剤選択と、強オピオイドへのスイッチングのタイミングを解説。

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副作用と対策の徹底

便秘、悪心、呼吸抑制などの必発副作用に対する予防的投与と、患者指導における重要なポイント。

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難治性疼痛への視点

薬剤抵抗性の神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬の活用や、オピオイド誘発性痛覚過敏(OIH)への対応。

強い鎮痛剤の分類とWHO方式がん疼痛治療法の基礎

 

「強い鎮痛剤」を定義する上で、最も基本となるのがWHO(世界保健機関)が提唱する除痛ラダー(WHO方式がん疼痛治療法)です。臨床現場において、「強い」という言葉は単に力価(Potency)が高いことを指す場合もあれば、患者の主観的な鎮痛効果(Efficacy)が高いことを指す場合もありますが、薬理学的には主にオピオイド鎮痛薬の強弱で分類されます。

  • 第一段階(非オピオイド鎮痛薬):

    NSAIDs(ロキソプロフェン、ナプロキセン等)やアセトアミノフェンが該当します。これらはシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害によるプロスタグランジン産生抑制や、中枢性の鎮痛作用を機序とします。天井効果(Ceiling effect)があるため、増量しても効果に限界がある点が特徴です。
  • 第二段階(弱オピオイド):

    コデインやトラマドールが含まれます。これらは軽度から中等度の痛みに対して、非オピオイドと併用されます。特にトラマドールは、μオピオイド受容体への作用に加え、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用(SNRI様作用)を持つ「デュアルアクション」が特徴であり、神経障害性疼痛の要素を含む痛みにも有効性が期待されます。
  • 第三段階(強オピオイド):

    モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール、メサドンなどが分類されます。これらには天井効果がなく、副作用が許容される限り、鎮痛効果を得るまで増量が可能である点が「最強」たる所以です。

臨床において重要なのは、これらの薬剤を単独で最強のものを使うのではなく、「ベースの鎮痛薬(徐放性製剤)」と「レスキュー・ドーズ(速放性製剤)」を組み合わせ、血中濃度を安定させながら突発痛に対応する戦略です。

日本緩和医療学会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)

ガイドラインの最新版では、初期からの強オピオイド導入の是非や、非がん性疼痛への適応についても詳細に記述されており、薬剤選択の根拠となります。

意外と知られていない点として、アセトアミノフェンの高用量投与(1日4000mgまで)の有用性があります。肝機能障害のリスクばかりが注目されがちですが、NSAIDsが無効あるいは禁忌(腎機能障害消化性潰瘍など)の場合、定期的な高用量アセトアミノフェンは、オピオイドの増量を抑えるための「縁の下の力持ち」として極めて重要です。

強い鎮痛剤の代表的な処方薬とオピオイドの副作用対策

強オピオイドの中でも、薬剤ごとにプロファイルが異なり、患者の状態に合わせた選択が求められます。ここでは代表的な処方薬の特徴と、切り離せない副作用対策について深掘りします。

主な強オピオイドの特徴比較:

成分名 特徴 注意点
モルヒネ 標準的なオピオイド。呼吸困難感に対する緩和効果も強い。 腎代謝排泄型のため、腎機能障害患者では活性代謝物(M6G)が蓄積しやすく、傾眠やミオクローヌスのリスク増。
オキシコドン μ受容体だけでなくκ受容体への関与も示唆され、内臓痛に強いとされる。 CYP3A4およびCYP2D6で代謝されるため、薬物相互作用に注意が必要。
フェンタニル 脂溶性が高く、貼付剤として使用可能。消化器症状や便秘が比較的少ない。 効果発現までに時間がかかるため、痛みの急激な変化への追従性は低い。で吸収が促進されるため発熱時注意。
タペンタドール μ受容体作動+ノルアドレナリン再取り込み阻害。消化器症状が少ない。 強オピオイドの中では比較的新しく、神経障害性疼痛への効果も期待される。

副作用対策の重要性:

「強い鎮痛剤」を使用する際、最大の障壁となるのが副作用です。特に以下の3点については、予防的処置が必須です。

  1. 便秘(ほぼ必発):

    オピオイドは腸管のμ受容体に作用し、蠕動運動を抑制します。これに対し、酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤や、センノシドなどの刺激性下剤の併用が基本ですが、近年では末梢性μオピオイド受容体拮抗薬である「ナルデメジン(スインプロイク)」が非常に有効です。中枢の鎮痛作用を阻害することなく、便秘のみを改善できるため、QOL維持の鍵となります。

  2. 悪心・嘔吐(初期に多い):

    CTZ(化学受容器引金帯)への刺激により発生します。投与開始後1〜2週間で耐性ができることが多いですが、初期にはプロクロルペラジン(ノバミン)やドンペリドンなどの制吐剤を定時処方することが推奨されます。

  3. 眠気・呼吸抑制

    痛みがコントロールされていない状態では呼吸抑制は起きにくい(痛み刺激が拮抗するため)とされていますが、急激な増量や腎機能低下時の代謝物蓄積には厳重な注意が必要です。ナロキソンの準備は常に意識しておくべきです。

厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル

オピオイドによる呼吸抑制やアナフィラキシーなど、緊急性の高い副作用への対応フローが具体的に記載されており、リスク管理の参考になります。

強い鎮痛剤におけるオピオイドローテーションと換算の実際

あるオピオイドで十分な鎮痛効果が得られない場合や、副作用が強く発現して増量できない場合に行われるのが「オピオイドローテーション(スイッチング)」です。これは単に薬を変えるだけでなく、受容体サブタイプの親和性の違いや、交差耐性の不完全さを利用して、鎮痛効果を維持・向上させつつ副作用を軽減する高度なテクニックです。

換算の基本と落とし穴:

オピオイドの変更時には、等力価換算表(Equianalgesic Table)を用いますが、これはあくまで目安であり、個体差が非常に大きいことに留意する必要があります。

  • 標準的な換算比(経口モルヒネを1とした場合):
    • 経口オキシコドン:約1.5倍の力価(モルヒネ30mg ≒ オキシコドン20mg)
    • フェンタニル貼付剤:経口モルヒネの約1/100〜1/150(モルヒネ60mg/日 ≒ フェンタニル25μg/hrパッチ ≒ 0.6mg/日)
  • 一方向性の換算:

    ある薬剤から別の薬剤へ切り替える際、交差耐性が完全に成立していないため、計算上の等力価よりも少なめ(通常30〜50%減量)から開始するのが安全とされています(これを「不完全交差耐性への配慮」と呼びます)。しかし、フェンタニルから他のオピオイドへ変更する場合や、痛みが非常に強い場合は、減量幅を小さく設定するなど、臨床的な判断が求められます。

メサドンという「切り札」:

他の強オピオイドでコントロール不良な場合、メサドンへの変更が検討されます。メサドンはμ受容体作動作用に加え、NMDA受容体拮抗作用を持つため、オピオイド耐性が形成された痛みや、神経障害性疼痛の要素が強い痛みに劇的な効果を示すことがあります。しかし、血中半減期が長く(15〜60時間)、体内蓄積による遅発性の呼吸抑制やQT延長のリスクがあるため、使用には専門医の資格(メサドン適正使用講習修了)が必要です。

オピオイド誘発性痛覚過敏(OIH)の考慮:

「強い鎮痛剤」を増量しても痛みが悪化する場合、あるいは全身の皮膚の知覚過敏(アロディニア)が出現する場合、OIHを疑う必要があります。これはオピオイドのパラドキシカルな反応であり、漫然と増量することで逆に苦痛を増強させてしまいます。この場合、オピオイドの減量や、NMDA拮抗作用を持つケタミン(専門的緩和ケアにおいて)、あるいはメサドンへのローテーションが奏功するケースがあります。

J Pain Symptom Manage: Opioid Rotation in Cancer Pain

オピオイドローテーションの臨床的エビデンスと実践的なプロトコルに関する論文へのリンクです(英語)。

強い鎮痛剤が効かない難治性疼痛への多角的アプローチ

ここまでは「薬剤」に焦点を当ててきましたが、臨床現場では「どんなに強い薬を使っても痛みが取れない」症例に遭遇します。このセクションでは、検索上位の一般的な記事ではあまり触れられない、薬剤抵抗性の痛みに対する独自視点のアプローチを解説します。

「痛み」の質の再評価と鎮痛補助薬:

オピオイドは侵害受容性疼痛(組織の損傷による痛み)には著効しますが、神経障害性疼痛(神経自体の損傷による痛み)には効果が限定的です。「強い薬=オピオイド」という図式に固執すると、治療が行き詰まります。

  • Ca²⁺チャネルα2δリガンド プレガバリンリリカ)やミロガバリンタリージェ)。過剰興奮した神経からの神経伝達物質の放出を抑制します。
  • 抗うつ薬SNRI・三環系): デュロキセチンやアミトリプチリン。下行性疼痛抑制系を賦活化させることで、脳から脊髄への「痛みを抑えるブレーキ」を強化します。これらは「精神的な痛み」に使うのではなく、明確な鎮痛メカニズムを持っています。
  • 抗不整脈薬 メキシレチンなどのNaチャネル遮断薬も、神経の異常発火を抑えるために使用されることがあります。

トータルペイン(全人的苦痛)の概念:

緩和ケアの母、シシリー・ソンダースが提唱したように、痛みには身体的苦痛だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛が複雑に絡み合っています。例えば、死への恐怖や家族への負担感といった精神的苦痛が、痛みの閾値を著しく低下させている場合があります。この場合、最強のオピオイドを投与するよりも、抗不安薬の併用や、ソーシャルワーカーによる社会的支援、あるいは傾聴による精神的ケアが、結果として「痛みの数値(NRS)」を下げる特効薬となることが多々あります。

インターベンション(神経ブロック)という選択肢:

薬物療法の限界を感じた場合、早めに麻酔科・ペインクリニックとの連携を模索すべきです。

腹部内臓痛に対する「腹腔神経叢ブロック」や、脊髄くも膜下に直接微量のモルヒネ等を投与する「脊髄鎮痛法」は、全身投与に比べて極めて少ない量で強力な鎮痛効果を得ることができ、全身性の副作用(眠気など)を回避できるメリットがあります。

強い鎮痛剤の適正使用と患者指導における注意点

最後に、これらの強力な薬剤を扱う医療従事者が必ず押さえておくべき、適正使用とコンプライアンス(アドヒアランス)の管理について述べます。

依存とケミカルコーピングの識別:

「強い鎮痛剤」=「麻薬中毒になる」という誤解は、患者や家族の間で依然として根深いです。医療用麻薬を痛みの治療のために適切に使用する場合、精神依存(陶酔感を求めて渇望すること)は極めて稀であることを、繰り返し説明する必要があります。

一方で、注意すべきは「ケミカルコーピング」です。これは、本来の適応である身体的な痛みに対してではなく、不安や不眠、ストレスといった精神的な苦痛を紛らわせるためにオピオイドを使用(過剰摂取)してしまう行動です。

「薬が切れると不安になる」「嫌なことがあると痛くなる」といった患者の訴えには注意が必要であり、単なる増量ではなく、背景にある心理的要因へのアプローチが求められます。

患者指導のポイント:

  • レスキュー薬のタイミング: 「痛くなってから」ではなく「痛くなりそうな時(動作前など)」に使用することで、ADL(日常生活動作)を維持できることを指導します。
  • 自己調節の禁止と許可: 医師の指示範囲内でのレスキュー使用は推奨されますが、徐放性製剤(ース薬)を自己判断で噛み砕いたり、増減したりすることは危険(ダンプ現象による急激な血中濃度上昇のリスク)であることを厳重に指導します。
  • 保管と廃棄: オピオイドは紛失や盗難が重大な問題となります。子供の手の届かない場所への保管や、不要になった際の医療機関への返却を徹底させます。

多職種連携の要:

強い鎮痛剤の管理は医師だけでは完結しません。薬剤師による残薬確認や副作用モニタリング、看護師による日々の痛みのパターンの観察と共有が不可欠です。特に在宅医療においては、訪問看護師や保険薬局との連携ツール(麻薬使用確認ノートなど)を活用し、チーム全体で「痛みの軌跡」を追うことが、安全かつ効果的な疼痛管理につながります。

PMDA:医療用麻薬の適正使用について

規制や法的な取り扱い、医療従事者向けの啓発資材などがまとめられており、実務的な確認に役立ちます。


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