T細胞選択的共刺激調節薬とは
オレンシア投与後3年以内に14.3%で抗体が産生されます
T細胞選択的共刺激調節薬アバタセプトの基本構造
T細胞選択的共刺激調節薬の代表的な薬剤であるアバタセプト(商品名オレンシア)は、ヒト細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcドメインより構成された遺伝子組換え可溶性融合タンパク質です。関節リウマチの治療薬として国内では2010年7月に点滴静注用製剤が既存治療で効果不十分な関節リウマチの治療薬として製造販売承認を取得し、2013年6月には皮下注シリンジ製剤も承認されました。その後、2018年には多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎(JIA)への適応も追加されています。
この薬剤が「T細胞選択的共刺激調節薬」と呼ばれるのには理由があります。従来の生物学的製剤がTNFαやIL-6といった炎症性サイトカインを直接標的としているのに対し、アバタセプトは関節リウマチにおける炎症発生のより上流に位置する抗原提示細胞とT細胞間の相互作用を阻害するという独自の作用機序を持っているからです。
具体的には、抗原提示細胞表面に存在するCD80およびCD86分子に特異的に結合することで、これらの分子とT細胞上のCD28分子との相互作用による共刺激シグナルを阻害します。この共刺激シグナルはT細胞の完全な活性化に必須であるため、アバタセプトの投与によってT細胞の活性化が抑制され、結果として炎症性サイトカインの産生が抑制されることが_in vitro_で示されています。
つまり炎症の元栓を締めるわけですね。
国内で使用可能な生物学的製剤の中で、T細胞そのものを標的とする薬剤はアバタセプトのみです。TNF阻害薬が5種類、IL-6阻害薬が2種類存在する中で、異なるアプローチを提供する唯一の選択肢となっています。
T細胞選択的共刺激調節薬の作用機序とCD28シグナル阻害
関節リウマチの病態形成において、T細胞の活性化は極めて重要な役割を果たしています。T細胞が完全に活性化するためには、抗原提示細胞から2つのシグナルを受け取る必要があります。第一シグナルは抗原提示細胞上のMHC分子と抗原ペプチドの複合体がT細胞受容体(TCR)に結合することで伝達されます。しかし、これだけではT細胞は十分に活性化されません。
第二シグナル、すなわち共刺激シグナルが必要です。この共刺激シグナルは、抗原提示細胞表面のCD80(B7-1)またはCD86(B7-2)分子がT細胞表面のCD28分子に結合することで伝達されます。この2つのシグナルが揃って初めて、T細胞は完全に活性化され、増殖し、炎症性サイトカインを産生するようになります。
アバタセプトはこの共刺激経路を選択的にブロックします。アバタセプトは可溶性のCTLA-4とIgGの融合タンパク質であり、CD80/CD86に対してCD28よりも高い親和性で結合します。アバタセプトがCD80/CD86に結合すると、CD28はこれらの分子に結合できなくなり、共刺激シグナルが遮断されます。結果としてT細胞の活性化が抑制されるということですね。
さらに興味深いことに、マウスの細胞を用いた研究では、アバタセプトが抗CCP抗体(ACPA)産生に関与するT細胞とB細胞の相互作用も阻害したことが報告されています。ACPAは関節リウマチの診断マーカーであると同時に、関節破壊の進行にも関与すると考えられているため、この作用は臨床的にも意義があると考えられます。
このように炎症発生の上流で作用することから、従来の生物学的製剤とは異なる治療効果が期待できます。TNF阻害薬やIL-6阻害薬がすでに産生されたサイトカインの作用を抑えるのに対し、アバタセプトはサイトカインが産生される前の段階で介入するわけです。
T細胞選択的共刺激調節薬の投与方法と用量設定
アバタセプトには点滴静注用製剤と皮下注製剤の2つの剤形があり、患者の状態や生活様式に応じて選択することができます。
これは患者にとって大きなメリットです。
点滴静注用製剤は、患者の体重に応じて用量を調整します。体重60kg未満の場合は1回500mg、60kg以上100kg以下の場合は750mg、100kgを超える場合は1gを投与します。投与スケジュールは初回投与後、2週、4週に投与し、以後4週間の間隔で投与を行います。
1回の点滴には約30分を要します。
皮下注製剤は週1回125mgを皮下注射します。点滴静注用製剤からの切り替えの場合、次回の点滴予定日に最初の皮下注射を行います。初めて皮下注製剤から治療を開始する場合は、初日に負荷投与として点滴静注用製剤を体重に応じた用量で投与した後、同日中に皮下注射を開始することも可能ですが、負荷投与なしで皮下注射のみから開始することもできます。
皮下注製剤には通常のシリンジ製剤に加えて、オートインジェクターも用意されています。オートインジェクターは針が見えず、ボタンを押すだけで自動的に注射できる装置で、注射に対する不安が強い患者や、自己注射が初めての患者にとって使いやすい選択肢となります。週1回の自己注射ですから通院の負担が軽減されますね。
点滴か皮下注かの選択は、患者の通院可能性、自己注射への抵抗感、ライフスタイルなどを総合的に考慮して決定します。例えば、仕事が忙しく定期的な通院が困難な患者には皮下注製剤が適しているかもしれませんし、自己注射に不安がある患者や、医療機関でのモニタリングを重視する場合は点滴静注用製剤が選択されることが多いです。
T細胞選択的共刺激調節薬と他の生物学的製剤の使い分け
関節リウマチの生物学的製剤は現在、大きく分けて3つのカテゴリーに分類されます。TNF阻害薬、IL-6阻害薬、そしてT細胞選択的共刺激調節薬です。それぞれに特徴があり、使い分けが重要となります。
TNF阻害薬は最も多くの種類が使用可能で、国内では9種類(バイオシミラー含む)が承認されています。インフリキシマブ(レミケード)、エタネルセプト(エンブレル)、アダリムマブ(ヒュミラ)、ゴリムマブ(シンポニー)、セルトリズマブ・ペゴル(シムジア)などがこれに該当します。TNFαは炎症性サイトカインの中でも中心的な役割を果たしており、これを阻害することで強力な抗炎症効果が得られます。多くの臨床試験データが蓄積されていることも特徴です。
IL-6阻害薬はトシリズマブ(アクテムラ)とサリルマブ(ケブザラ)の2種類があります。IL-6は炎症反応の調節や急性期タンパク質の産生に関与しており、関節破壊を進める原因にもなります。IL-6阻害薬はCRP(C反応性タンパク)を強力に低下させることが特徴で、TNF阻害薬効果不十分例に対しても有効性が示されています。
これらに対してアバタセプトは、炎症発生のより上流で作用する点が大きな違いです。TNFやIL-6がすでに産生された後にそれらの作用を抑えるのではなく、サイトカイン産生の引き金となるT細胞の活性化自体を抑制します。
作用機序が根本的に異なるわけですね。
臨床的には、メトトレキサート(MTX)との併用が推奨されることが多いですが、アバタセプトは単剤での有効性も報告されており、MTXが使用できない患者においても選択肢となります。特に高齢者、腎機能障害のある患者、間質性肺炎のある患者など、MTXの使用が制限される状況では、比較的安全に使用できる可能性があります。
TNF阻害薬で効果不十分だった症例に対しても、作用機序が異なるアバタセプトへの切り替えで効果が得られることがあります。また、生物学的製剤の減量・中止を検討する際には注意が必要です。TNF阻害薬の一部では減量・中止が比較的検討しやすいですが、IL-6阻害薬やアバタセプトは中止後に再燃率が高い可能性があるため、まずは投与間隔の延長を考慮することが推奨されています。
T細胞選択的共刺激調節薬の安全性と結核スクリーニング
生物学的製剤全般に共通する最も重要な副作用は感染症です。アバタセプトも免疫系に作用する薬剤であるため、感染症のリスクには十分な注意が必要です。添付文書には警告として、敗血症、肺炎、真菌感染症を含む日和見感染症等の致命的な感染症が報告されていることが記載されています。
特に結核に関しては、投与開始前に慎重なスクリーニングが必須です。問診および胸部X線検査に加え、インターフェロンγ遊離試験(IGRA:QFT検査やT-SPOT検査)またはツベルクリン反応検査を実施します。IGRAは結核菌特異抗原を用いた検査で、BCG接種の影響を受けないため、結核感染診断において有用です。
胸部画像検査で陳旧性結核に合致するか推定される陰影を有する患者、または結核の治療歴がある患者、IGRA等の検査で陽性を示した患者には、原則として抗結核薬を投与した上でアバタセプトを投与することとされています。また、投与中も結核の再燃に注意し、定期的な観察が必要です。
間質性肺炎についても注意が必要です。添付文書には重大な副作用として間質性肺炎(0.4%)が記載されており、間質性肺炎の既往歴のある患者には定期的に問診を行うなど注意が必要です。関節リウマチ自体が間質性肺炎を合併しやすいことから、薬剤性か疾患関連かの鑑別が重要となります。
重篤な感染症の患者は禁忌です。感染症(重篤な感染症を除く)の患者または感染症が疑われる患者には慎重投与とされています。投与中に発熱、咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は、速やかに医療機関を受診するよう患者指導が重要です。
国内臨床試験では、投与期間中のアバタセプトに対する抗体陽性率が231例中7例(3.0%)、投与中断(最長約3年)または中止例を含めた全体の陽性率が231例中33例(14.3%)であったと報告されています。抗体が産生されると薬剤の効果が減弱する可能性があるため、効果不十分となった場合には抗体産生の可能性も考慮する必要があります。
生ワクチンについては、投与中および投与中止後3ヵ月間は接種を行わないこととされています。これは生ワクチン接種により感染する潜在的リスクがあるためです。不活化ワクチンの接種は可能ですが、免疫応答が減弱する可能性があることを理解しておく必要があります。
新型コロナウイルスワクチンに関しては、アバタセプトを使用中の患者では中和抗体陽性率が一般集団と比較して減弱することが報告されていますが、接種自体は推奨されています。ワクチン接種のタイミングについては、可能であれば投与直前よりも投与直後の方が望ましいとされています。
これらの安全性情報を踏まえた上で、感染症予防のために日頃からうがいや手洗いを徹底し、規則正しい生活を心がけるよう患者教育を行うことが重要です。