トラニラストの副作用と効果を医療従事者向けに解説

トラニラストの副作用と効果

トラニラスト概要
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効能・効果

気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、ケロイド・肥厚性瘢痕の治療

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重大な副作用

膀胱炎様症状、肝機能障害、腎機能障害、血液障害に注意が必要

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作用機序

ケミカルメディエーター遊離抑制によるⅠ型アレルギー反応の抑制

トラニラストの効果と作用機序の詳細

トラニラストは、多様なアレルギー性疾患と瘢痕性疾患の治療に用いられる重要な薬剤です。その効能・効果は以下の4つの疾患に適応されています。

トラニラストの作用機序は複数の経路で発現します。第一に、肥満細胞や各種炎症細胞からのヒスタミン、ロイコトリエンをはじめとする多くのケミカルメディエーターの遊離を抑制することにより、Ⅰ型アレルギー反応を抑制します。

さらに重要なのは、サイトカイン(TGF-β1)や活性酸素の産生・遊離抑制作用を有することです。この作用により、ケロイド及び肥厚性瘢痕由来線維芽細胞のコラーゲン合成を抑制し、異常な瘢痕形成を防ぐことができます。

動物実験では、トラニラストはラットやモルモットのIgE様抗体による同種受身皮膚アナフィラキシー、ラットの抗原誘発実験的喘息、ラットの実験的鼻アレルギー反応に対して、経口投与で著明な抑制作用を示すことが確認されています。

トラニラストの重大な副作用と対処法

トラニラストの使用において、医療従事者が特に注意すべき重大な副作用が複数報告されています。これらの副作用は頻度不明とされていますが、早期発見と適切な対処が重要です。

膀胱炎様症状は最も注意すべき副作用の一つです。頻尿、排尿痛、血尿、残尿感等の症状があらわれることがあり、これらの症状が認められた場合は直ちに投与を中止する必要があります。

肝機能障害・黄疸も重要な副作用です。黄疸、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P等の著しい上昇を伴う肝機能障害または肝炎があらわれることがあります。実際の症例報告では、トラニラスト投与により混合型、胆汁うっ滞型、肝細胞障害型の肝機能障害が報告されており、投与中止後平均37日で総ビリルビンとALTの正常化が認められています。

腎機能障害では、BUN、クレアチニンの上昇等を伴う腎機能障害があらわれることがあります。定期的な腎機能検査による監視が重要です。

血液障害として、白血球減少(0.14%)、血小板減少(頻度不明)が報告されています。これらの症状が認められた場合は、投与を中止するなど適切な処置を行う必要があります。

トラニラストの好酸球性膀胱炎と緑色尿

トラニラストの特徴的な副作用として、好酸球性膀胱炎と緑色尿があります。これらは他の薬剤では見られない特異的な症状として重要です。

好酸球性膀胱炎は、膀胱壁への好酸球性浸潤を特徴とする稀な膀胱炎症性疾患です。原因薬剤として、トラニラストが24例と最も多く報告されており、医療従事者として特に注意が必要です。

好酸球性膀胱炎の症状には以下があります。

  • 頻尿
  • 血尿
  • 排尿困難
  • 尿閉
  • 恥骨上の痛み
  • 骨盤の痛み

診断には、検尿、尿培養、採血、超音波検査、生検を伴う膀胱鏡検査などが用いられます。好酸球は血液、尿中に見つかる場合がありますが、常に存在するとは限りません。

緑色尿は、トラニラストの特徴的な副作用として添付文書にも記載されています。この症状は患者にとって驚きの原因となることが多いため、事前の説明が重要です。緑色尿は薬剤の代謝産物によるものと考えられており、通常は投与中止により改善します。

治療には、既知のアレルギーを起こすものや誘発物質を避け、抗炎症剤、抗アレルギー剤、ステロイドなどの内科的治療が主となります。

トラニラストの薬物相互作用と注意点

トラニラストの薬物相互作用において、特に重要なのはワルファリンカリウムとの併用です。この相互作用は臨床的に重大な影響を与える可能性があります。

ワルファリンカリウムとの相互作用では、本剤との併用(又は併用中止)により、ワルファリンカリウムの作用が増強(又は減弱)し、トロンボテスト値が低下(又は上昇)したとの報告があります。

この相互作用の機序は、ヒト肝ミクロソームを用いたin vitroの試験で、ワルファリンカリウムの代謝を抑制することが確認されていることから、凝血能を変動させる可能性があるためです。

併用時の注意点。

  • 本剤との併用(又は併用の中止)を行う場合には、凝血能の変動に十分注意すること
  • 定期的なプロトロンビン時間(PT-INR)の測定
  • 必要に応じてワルファリンの用量調整

特定の患者群での注意も重要です。妊婦(特に約3ヵ月以内)又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと、高齢者では生理機能が低下しているので副作用があらわれた場合は減量するなど慎重に投与することが求められます。

長期間ステロイドによる治療を受けている患者、腎臓や肝臓に障害がある患者では、特に慎重な監視が必要です。

トラニラストの副作用発現頻度と臨床データ

トラニラストの副作用発現状況について、大規模な臨床データが蓄積されています。添付文書によると、トラニラストが投与された24,788例中、副作用(臨床検査値の異常を含む)が報告されたのは645例(2.60%)、870件でした。

主な副作用の発現頻度

消化管障害。

  • 嘔気:61件(0.25%)
  • 腹痛:48件(0.19%)
  • 胃部不快感:43件(0.17%)
  • 食欲不振:31件(0.13%)
  • 下痢:27件(0.11%)

肝臓・胆管系障害。

  • 肝機能異常:95件(0.38%)
  • ALT(GPT)上昇:42件(0.17%)
  • AST(GOT)上昇:39件(0.16%)
  • Al-P上昇:32件(0.13%)

皮膚・皮膚付属器障害。

  • 発疹:37件(0.15%)

泌尿器系障害。

  • 頻尿:35件(0.14%)

臨床試験での副作用データも参考になります。小児気管支喘息患者を対象とした国内二重盲検比較試験では、トラニラスト群4.3%(3/69例)、クロモグリク酸ナトリウム群12.0%(9/75例)、プラセボ群9.5%(7/74例)の副作用発現割合が報告されています。

アトピー性皮膚炎患者を対象とした試験では、トラニラスト群2.3%(2/86例)、クレマスチンフマル酸塩群14.1%(11/78例)、プラセボ群2.4%(2/82例)という結果が得られています。

ケロイド・肥厚性瘢痕の予防的効果検討試験では、トラニラスト群9.7%(3/31例)、プラセボ群10.3%(3/29例)で副作用が認められ、胃部不快感6.4%(2/31例)、発疹3.2%(1/31例)が主な副作用でした。

これらのデータから、トラニラストは比較的安全性の高い薬剤であることが示されていますが、定期的な検査による監視と適切な患者指導が重要です。特に長期投与が必要な場合は、肝機能、腎機能、血液検査の定期的な実施が推奨されます。

医療従事者向けのトラニラスト使用指針

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