低用量経口避妊薬一覧と種類
低用量経口避妊薬(低用量ピル)は、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)を含有する薬剤です。避妊効果だけでなく、生理痛の緩和やPMSの改善、ニキビや肌荒れの改善など、女性の健康に多くのメリットをもたらします。
低用量ピルは医師の処方が必要な医薬品であり、自分に合った種類を選ぶことが重要です。この記事では、2025年4月現在、日本で処方されている低用量ピルの種類と特徴、選び方について医療従事者向けに詳しく解説します。
低用量経口避妊薬の世代別分類と特徴
低用量ピルは含まれるプロゲステロン(黄体ホルモン)の種類によって、第一世代から第四世代まで分類されています。それぞれの世代によって特徴や効果、副作用の傾向が異なります。
【第一世代】ノルエチステロン(NET)
- 代表的な製品:シンフェーズ、フリウェルLD、フリウェルULD、ルナベルLD、ルナベルULD
- 特徴:生理時の出血量減少や生理痛緩和に効果的
- 不正出血のリスクが比較的低い
- 長期使用の安全性データが豊富
【第二世代】レボノルゲストレル(LNG)
- 代表的な製品:トリキュラー、アンジュ、ラベルフィーユ、ジェミーナ
- 特徴:第一世代よりも自然なホルモンバランスを実現
- 副作用が少ない傾向がある
- 不正出血を減らし、生理周期を安定させる効果が期待できる
【第三世代】デソゲストレル(DSG)
- 代表的な製品:マーベロン、フォボワール
- 特徴:男性ホルモンの抑制効果が強い
- ニキビや多毛症の改善に効果的
- 生理予定日のコントロールがしやすい
【第四世代】ドロスピレノン(DRSP)
- 代表的な製品:ヤーズ、ヤーズフレックス、ドロエチ
- 特徴:利尿ホルモンが主要ホルモンとして配合
- むくみなどの副作用が少ない
- 最新世代のため、より副作用が少ない傾向がある
各世代の低用量ピルは、開発時期が新しくなるにつれて副作用が軽減されるよう改良されていますが、個人の体質や症状によって最適なものは異なります。
低用量経口避妊薬の避妊目的と治療目的の違い
低用量ピルには「避妊目的」と「治療目的」の2種類があり、それぞれOC(Oral Contraceptives)とLEP(Low-dose Estrogen Progestin)と呼ばれています。
【避妊目的(OC)の低用量ピル】
- 保険適用外(自費診療)
- 主な目的:避妊
- 代表的な製品。
- 第一世代:シンフェーズ
- 第二世代:トリキュラー、アンジュ、ラベルフィーユ
- 第三世代:マーベロン、フォボワール
【治療目的(LEP)の低用量ピル】
- 保険適用可能(月経困難症や子宮内膜症の診断が必要)
- 主な目的:月経困難症や子宮内膜症の治療
- 代表的な製品。
- 第一世代:フリウェルLD、フリウェルULD、ルナベルLD、ルナベルULD
- 第二世代:ジェミーナ
- 第四世代:ヤーズ、ヤーズフレックス、ドロエチ
避妊目的と治療目的の低用量ピルは、含まれる成分自体は同じでも、処方される理由と保険適用の有無が異なります。治療目的の場合は、医師による月経困難症や子宮内膜症の診断があれば保険が適用され、費用を抑えることができます。
低用量経口避妊薬とエストロゲン含有量による分類
低用量ピルはエストロゲン(卵胞ホルモン)の含有量によっても分類されます。エストロゲン量が少ないほど副作用のリスクも低くなる傾向がありますが、不正出血などの副作用が出やすくなることもあります。
【低用量ピル】
- エストロゲン含有量:0.03mg〜0.05mg未満
- 代表的な製品。
- マーベロン(0.03mg)
- トリキュラー(0.03〜0.04mg、3相性)
- シンフェーズ(0.03〜0.04mg、3相性)
- フリウェルLD(0.035mg)
- ルナベルLD(0.035mg)
【超低用量ピル】
- エストロゲン含有量:0.03mg未満
- 代表的な製品。
- ヤーズ(0.02mg)
- ヤーズフレックス(0.02mg)
- フリウェルULD(0.02mg)
- ルナベルULD(0.02mg)
- ドロエチ(0.02mg)
また、ピルには「1相性」と「3相性」があります。1相性は全ての錠剤のホルモン量が同じですが、3相性は服用期間中にホルモン量が変化し、より自然な月経周期に近づけることができます。ただし、3相性は服用する順番を間違えないよう注意が必要です。
エストロゲン含有量が少ない超低用量ピルは、血栓症のリスクが低いというメリットがありますが、不正出血が起こりやすいというデメリットもあります。個人の体質や既往歴に合わせて選択することが重要です。
低用量経口避妊薬の選び方と目的別おすすめ
低用量ピルは個人の症状や目的、体質によって最適なものが異なります。以下に目的別のおすすめピルをご紹介します。
【生理痛・月経困難症の改善】
- おすすめ:フリウェルLD/ULD、ルナベルLD/ULD
- 理由:第一世代のノルエチステロンを含み、生理痛の緩和効果が高い
- 保険適用可能なため経済的
【ニキビ・多毛症の改善】
- おすすめ:マーベロン、フォボワール
- 理由:第三世代のデソゲストレルを含み、男性ホルモンの抑制効果が強い
- 肌荒れや多毛症の改善に効果的
【PMS(月経前症候群)の改善】
- おすすめ:ヤーズ、ヤーズフレックス、ドロエチ
- 理由:第四世代のドロスピレノンを含み、むくみや情緒不安定などのPMS症状を緩和
- 特にヤーズはPMDDの治療薬としてFDAに承認されている
【副作用が心配な方】
- おすすめ:超低用量ピル(フリウェルULD、ルナベルULD、ヤーズなど)
- 理由:エストロゲン量が少なく、血栓症などのリスクが低い
- 初めてピルを服用する方にも適している
【避妊が主な目的】
- おすすめ:マーベロン、トリキュラー
- 理由:避妊効果が高く、パール指数が低い(マーベロン:0.085、トリキュラー:0.073)
- 長期間の使用データがあり、安全性が確立されている
低用量ピルの選択は、医師との相談の上で行うことが重要です。自分の症状や体質、生活スタイルなどを医師に伝え、最適なピルを処方してもらいましょう。
低用量経口避妊薬の価格比較と保険適用条件
低用量ピルの価格は種類によって異なり、保険適用の有無によっても大きく変わります。2025年4月現在の価格情報と保険適用条件をご紹介します。
【避妊目的(OC)の低用量ピル価格(1ヶ月分)】
- シンフェーズ:約3,000〜4,000円
- トリキュラー:約2,500〜3,500円
- ラベルフィーユ(トリキュラーのジェネリック):約2,000〜3,000円
- アンジュ:約2,500〜3,500円
- マーベロン:約2,500〜3,500円
- フォボワール(マーベロンのジェネリック):約2,000〜3,000円
【治療目的(LEP)の低用量ピル価格(1ヶ月分、保険適用外の場合)】
- フリウェルLD:約4,000〜5,000円
- フリウェルULD:約4,000〜4,500円
- ルナベルLD:約5,000〜6,000円
- ルナベルULD:約5,000〜5,500円
- ジェミーナ:約4,000〜5,000円
- ヤーズ:約5,000〜6,000円
- ヤーズフレックス:約9,000〜10,000円
- ドロエチ(ヤーズのジェネリック):約4,000〜4,500円
【保険適用条件】
治療目的の低用量ピル(LEP)は、以下の条件を満たすと保険適用になります。
- 月経困難症または子宮内膜症の診断がある
- 医師が治療のために必要と判断している
- 保険適用のある医療機関で処方されている
保険適用された場合の自己負担額は、3割負担で約1,000〜2,000円程度になります。ただし、医療機関によって診察料や処方料が異なるため、実際の費用は変動します。
ジェネリック医薬品(後発医薬品)は先発品と同じ有効成分を含みながらも価格が安いため、経済的な選択肢となります。例えば、ルナベルLDのジェネリックであるフリウェルLDは、同等の効果を期待できながらも価格が抑えられています。
低用量経口避妊薬のオンライン処方と入手方法
近年、オンライン診療の普及により、低用量ピルをより手軽に入手できるようになりました。2025年4月現在のオンライン処方の状況と入手方法についてご紹介します。
【オンライン診療のメリット】
- 通院の手間が省ける
- 24時間いつでも診療を受けられるサービスもある
- 対面診療に抵抗がある方でも利用しやすい
- 処方薬を自宅まで配送してもらえる
【主なオンライン診療サービス】
- エニピル:24時間365日診療対応、産婦人科医による診療、低用量ピルの種類が豊富
- メデリピル:初回1シート無料、1,980〜2,970円で処方可能
- スマルナ:アプリで無料相談可能、1,880〜3,380円で処方可能
- 東京オンラインクリニック:保険適用も可能、1,935〜2,500円で処方可能
【オンライン処方の流れ】
- オンライン診療サービスに登録
- 問診票に記入(既往歴や現在の症状など)
- ビデオ通話やチャットで医師の診察を受ける
- 処方が決まったら支払い
- 薬が自宅に配送される
オンライン診療でも、避妊目的と治療目的の区別があり、治療目的であれば保険適用が可能な場合もあります。ただし、初診は対面診療が必要な場合もあるため、各サービスの規定を確認することをおすすめします。
また、低用量ピルは医師の処方が必要な医薬品であるため、個人輸入などの方法での入手は避け、必ず医師の診察を受けて処方してもらうようにしましょう。
低用量経口避妊薬の副作用と注意点
低用量ピルは多くの女性に有益な効果をもたらす一方で、副作用や注意すべき点もあります。医療従事者として患者さんに適切な情報提供ができるよう、主な副作用と注意点をご紹介します。
【主な副作用】
- 吐き気・嘔吐:服用初期に現れることが多く、通常は数ヶ月で改善
- 頭痛:エストロゲンの影響で起こることがあり、超低用量ピルへの変更で改善する場合も
- 不正出血:特に服用開始から3ヶ月程度は起こりやすい
- 乳房の張り・痛み:ホルモンの影響によるもので、通常は一時的
- むくみ:第四世代のピル(ヤーズなど)では比較的少ない
- 体重増加:軽度であることが多く、食生活の見直しで対応可能
【重大な副作用(まれ)】
- 血栓症:特に喫煙者、高血圧、肥満、35歳以上の女性でリスクが高まる
- 肝機能障害:既往歴のある方は注意が必要
- 高血圧:定期的な血圧測定が推奨される
【服用できない主な条件】
- 血栓症の既往歴がある
- 重度の高血圧がある
- 喫煙者で35歳以上
- 片頭痛(前兆を伴うもの)がある
- 乳がんや子宮体がんの既往歴がある
- 重度の肝疾患がある
- 妊娠中または妊娠している可能性がある
【服用時の注意点】
- 毎日同じ時間に服用する
- 服用を忘れた場合は、気づいたらすぐに1錠服用し、次の錠剤は通常の時間に服用
- 24時間以上経過している場合は、追加の避妊法(コンドームなど)を併用
- 嘔吐や下痢がひどい場合は、薬の吸収が不十分になる可能性があるため注意
- 抗生物質など一部の薬剤と併用すると効果が減弱する場合がある
低用量ピルの副作用は個人差が大きく、全ての方に現れるわけではありません。また、多くの副作用は服用を続けるうちに改善することが多いです。不安な症状がある場合は、自己判断で服用を中止せず、医師に相談することが重要です。
低用量経口避妊薬の最新動向と研究
低用量ピルは継続的に研究が進められており、より効果的で副作用の少ない製品の開発が行われています。2025年4月現在の最新動向と研究についてご紹介します。
【新世代ピルの開発】
- 天然エストロゲンを使用したピル:合成エストロゲンよりも血栓リスクが低いとされる
- 新しいプロゲスチン配合ピル:より選択的に作用し、副作用を軽減
- 連続投与型ピル:休薬期間を短くしたり、なくしたりすることで、月経関連症状を軽減
【ヤーズフレックスの特徴】
- 日本で初めて承認された連続投与型ピル
- 最長120日間の連続服用が可能
- 月経回数を年に4回まで減らすことができる
- 月経困難症やPMSの症状がある期間を減らせる
【男性用ピルの研究】
- 男性ホルモンを抑制する成分を含む経口避妊薬の臨床試験が進行中
- 女性だけでなく男性も避妊に参加できる選択肢として期待
【デジタルヘルスとの融合】
- ピル服用を管理するアプリの普及
- 服用リマインダー機能や副作用記録機能を備えたアプリが増加
- オンライン診療との連携による継続的なフォローアップ
【社会的動向】
- 低用量ピルの普及率:日本は約3%と欧米諸国(30〜40%)に比べて低い
- 認知度向上のための啓発活動が増加
- 保険適用範囲の拡大を求める声も
低用量ピルは単なる避妊薬ではなく、女性の健康管理や生活の質向上に貢献する重要な選択肢となっています。医療従事者は最新の研究や動向を把握し、患者さんに適切な情報提供と選択肢を提示することが求められています。
低用量経口避妊薬は女性のライフスタイルや健康に大きく貢献する医薬品です。種類や特徴を理解し、個々の患者さんに最適なピルを提案することで、より多くの女性が低用量ピルのメリットを享受できるようになるでしょう。医療従事者として、正確な知識と最新情報を持ち、患者さんの選択をサポートしていくことが重要です。