胆汁酸排泄促進薬一覧と効能や特徴

胆汁酸排泄促進薬一覧と作用機序

胆汁酸排泄促進薬の基本情報
💊

作用機序

胆汁酸の再吸収を阻害し、大腸内の胆汁酸量を増加させることで排便を促進

🔍

主な適応症

慢性便秘症、胆汁うっ滞、高コレステロール血症など

⚠️

注意点

薬剤によって効果や副作用が異なるため、適切な選択が重要

胆汁酸排泄促進薬は、体内のコレステロール代謝や便通の改善に重要な役割を果たす医薬品群です。これらの薬剤は、胆汁酸の再吸収を阻害することで腸管内の胆汁酸濃度を高め、水分分泌の促進や腸管運動の活性化を通じて様々な効果をもたらします。

胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され、胆汁の主要成分として小腸に分泌されます。通常、分泌された胆汁酸の約95%は回腸末端で再吸収され、門脈を通じて肝臓に戻る「腸肝循環」を形成しています。胆汁酸排泄促進薬はこの再吸収過程に介入し、より多くの胆汁酸が大腸に到達するようにすることで治療効果を発揮します。

現在、日本で使用されている胆汁酸排泄促進薬には、慢性便秘症治療薬、高コレステロール血症治療薬、胆汁うっ滞改善薬など、様々な適応を持つものがあります。それぞれ作用機序や効果に特徴があり、患者の症状や病態に合わせて選択されています。

胆汁酸排泄促進薬グーフィス錠の特徴と効能

グーフィス錠(一般名:エロビキシバット水和物)は、2018年4月に日本で発売された世界初の胆汁酸トランスポーター阻害剤です。この薬剤は、回腸末端で胆汁酸の再吸収に関わるトランスポーター(IBAT/ASBT)を選択的に阻害することで作用します。

グーフィス錠の主な特徴は以下の通りです。

  • 効能・効果:慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
  • 用法・用量:通常、成人にはエロビキシバットとして10mgを1日1回食前に経口投与。症状により適宜増減するが、最高用量は1日15mg
  • 薬価:5mg錠 1錠 105.80円(2018年4月時点)

グーフィス錠の作用機序は、従来の便秘治療薬とは異なります。胆汁酸の再吸収を阻害することで大腸内の胆汁酸量を増加させ、水分分泌促進と大腸運動亢進という2つの作用によって自然な排便を促します。

国内の第3相臨床試験では、自発排便回数や完全自発排便回数の増加、初回自発排便発現までの時間の短縮、便の硬さの改善などで、プラセボと比較して統計学的に有意な効果が確認されています。

グーフィス錠は、EAファーマ株式会社と持田製薬株式会社が共同開発し、両社が同一製品名で販売しています。また、EAファーマとエーザイ株式会社はコプロモーション契約を締結し、適正使用情報を共同提供しています。

胆汁酸製剤の一覧と薬価比較

胆汁酸製剤は、胆汁酸そのものを投与することで治療効果を得る薬剤群です。以下に、日本で使用されている主な胆汁酸製剤を一覧にまとめました。

【胆汁酸製剤一覧表】

総称名 販売名 薬価 主な適応
チノ チノカプセル125 (先発品) 22.4円/カプセル 胆道系疾患
ウルソ ウルソ顆粒5% 7.5円/g 胆石溶解、肝機能改善
ウルソ ウルソ錠50mg (準先発品) 9円/錠 胆石溶解、肝機能改善
ウルソ ウルソ錠100mg (準先発品) 10.1円/錠 胆石溶解、肝機能改善
ウルソデオキシコール酸 ウルソデオキシコール酸錠100mg「ZE」 (後発品) 7.2円/錠 胆石溶解、肝機能改善
ウルソデオキシコール酸 ウルソデオキシコール酸錠50mg「JG」 (後発品) 6.1円/錠 胆石溶解、肝機能改善
ウルソデオキシコール酸 ウルソデオキシコール酸錠100mg「JG」 (後発品) 7.2円/錠 胆石溶解、肝機能改善
ウルソデオキシコール酸 ウルソデオキシコール酸錠100mg「サワイ」 (後発品) 8.7円/錠 胆石溶解、肝機能改善
ウルソデオキシコール酸 ウルソデオキシコール酸錠50mg「トーワ」 (後発品) 6.1円/錠 胆石溶解、肝機能改善
ウルソデオキシコール酸 ウルソデオキシコール酸錠100mg「トーワ」 (後発品) 8.7円/錠 胆石溶解、肝機能改善
オファコル オファコルカプセル50mg (先発品) 12,596円/カプセル 原発性胆汁性胆管炎
デヒドロコール酸 10%デヒドロコール酸注「ニッシン」 480円/管 胆道造影、利胆

ウルソデオキシコール酸製剤は、最も広く使用されている胆汁酸製剤の一つです。この薬剤は胆石溶解作用や肝機能改善作用を持ち、様々な肝・胆道系疾患の治療に用いられています。ウルソデオキシコール酸は後発品も多く発売されており、比較的安価に治療を受けることが可能です。

一方、オファコルカプセル(一般名:オベチコール酸)は、原発性胆汁性胆管炎(PBC)に対して使用される比較的新しい薬剤で、薬価が高額であることが特徴です。

デヒドロコール酸は注射剤として提供されており、強力な速効性の胆汁分泌促進作用を持ちます。胆汁量は増加しますが、胆汁中の固形分の増加は伴わないため、低比重の胆汁分泌が起こるという特徴があります。

胆汁酸排泄促進薬のコレステロール低下作用

胆汁酸排泄促進薬の中には、コレステロール低下作用を持つものがあります。これらの薬剤は、胆汁中へのコレステロール排泄を促進することで血中コレステロール値を減少させる効果があります。

プロブコール製剤は、その代表的な薬剤の一つです。プロブコールには以下のような特徴があります。

  1. LDLコレステロールの酸化を防止する作用
  2. LDLコレステロールの数を減少させる作用
  3. 胆汁中へのコレステロール排泄を促進する作用
  4. トリグリセリド低下作用(個人差が大きい)

主なプロブコール製剤には、以下のものがあります。

  • シンレスタール(プロブコール)
  • ロレルコ(プロブコール)

プロブコール製剤の注意点として、善玉コレステロールであるHDLコレステロールも減少させてしまう点が挙げられます。このため、すべての高コレステロール血症患者に適しているわけではなく、特にHDLコレステロールが低い患者では使用が制限される場合があります。

胆汁酸排泄促進薬によるコレステロール低下作用のメカニズムは、コレステロールの主要な排泄経路である胆汁への分泌を促進することにあります。コレステロールは肝臓で胆汁酸に変換されて胆汁中に排泄されますが、胆汁酸排泄促進薬はこの過程を活性化することで、体内のコレステロール量を減少させます。

胆汁酸の種類と生理的役割

胆汁酸は、哺乳類の胆汁に広範に認められるコレステロールの排泄形態であり、ステロイド骨格を有したコラン酸骨格を持つ有機化合物の総称です。胆汁酸の理解は、胆汁酸排泄促進薬の作用機序を理解する上で重要です。

胆汁酸は大きく分けて以下のように分類されます。

  1. 一次胆汁酸:肝臓で生合成された胆汁酸
    • コール酸
    • ケノデオキシコール酸
  2. 二次胆汁酸:腸内細菌による一次胆汁酸の代謝産物
    • デオキシコール酸
    • リトコール酸
  3. 抱合胆汁酸:グリシンやタウリンと結合した胆汁酸
    • グリココール酸
    • タウロコール酸
    • グリコケノデオキシコール酸
    • タウロケノデオキシコール酸

胆汁酸の主な生理的役割には以下のものがあります。

  • 脂肪の消化吸収:胆汁酸は界面活性作用により脂肪を乳化し、消化酵素の作用を助ける
  • コレステロールの排泄:コレステロールの主要な排泄経路として機能
  • 胆汁流の維持:胆汁の主要成分として胆汁流を維持
  • 腸管運動の調節:大腸内の胆汁酸は腸管運動を促進する
  • シグナル分子としての機能:核内受容体FXRなどを介して様々な代謝過程を調節

胆汁酸は腸肝循環と呼ばれる効率的なリサイクルシステムによって体内で再利用されています。小腸で吸収された脂肪酸やコレステロールの乳化に使われた後、胆汁酸の約95%は回腸末端で再吸収され、門脈を通じて肝臓に戻ります。胆汁酸排泄促進薬はこの再吸収過程を阻害することで、より多くの胆汁酸を大腸に送り込み、治療効果を発揮します。

胆汁酸排泄促進薬の臨床応用と将来展望

胆汁酸排泄促進薬は、現在主に慢性便秘症と高コレステロール血症の治療に用いられていますが、その臨床応用は今後さらに広がる可能性があります。

現在の主な臨床応用。

  1. 慢性便秘症治療
    • グーフィス錠(エロビキシバット水和物)は、慢性便秘症患者に対して効果的な治療選択肢となっています
    • 従来の便秘治療薬と異なり、水分分泌と大腸運動の両方に作用するため、自然な排便を促すことができます
  2. 高コレステロール血症治療
    • プロブコール製剤などが、コレステロールの胆汁中への排泄を促進することで血中コレステロール値を低下させます
    • 特に他の脂質異常症治療薬との併用で効果を発揮することがあります
  3. 胆汁うっ滞性疾患
    • ウルソデオキシコール酸などの胆汁酸製剤が、胆汁の流れを改善し、肝機能を保護する目的で使用されています

将来的な研究・開発の方向性。

  1. 新規胆汁酸トランスポーター阻害剤の開発
    • より選択性の高い阻害剤や、副作用の少ない薬剤の開発が進められています
    • 様々な投与経路や剤形の開発も期待されています
  2. 代謝性疾患への応用拡大
    • 非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの代謝性肝疾患への応用研究が進んでいます
    • 2型糖尿病や肥満などの代謝性疾患への効果も検討されています
  3. 腸内細菌叢との相互作用研究
    • 胆汁酸と腸内細菌叢の相互作用に着目した新たな治療アプローチの開発が期待されています
    • プレバイオティクスやプロバイオティクスとの併用効果なども研究されています

胆汁酸排泄促進薬の分野は比較的新しく、グーフィス錠のような世界初の胆汁酸トランスポーター阻害剤が登場したのは2018年のことです。今後の研究開発によって、より効果的で副作用の少ない薬剤が開発されることが期待されています。

また、胆汁酸が単なる脂質の消化吸収に関わる物質ではなく、様々な代謝過程を調節するシグナル分子としての役割も持つことが明らかになってきており、胆汁酸シグナリングを標的とした新たな治療薬の開発も進められています。

胆汁酸排泄促進薬の適正使用のためには、患者の病態や症状に合わせた薬剤選択が重要です。また、食事や生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的な治療成果が期待できます。医療従事者は、これらの薬剤の特性や使用上の注意点を十分に理解し、患者に適切な情報提供と指導を行うことが求められています。

日本内科学会雑誌での胆汁酸シグナルに関する最新研究

以上、胆汁酸排泄促進薬の一覧と作用機序について解説しました。これらの薬剤は、胆汁酸の生理的な役割を利用して様々な疾患の治療に貢献しています。今後の研究開発によって、さらに多くの疾患に対する治療選択肢が広がることが期待されます。