多発性のう胞腎とは何か、原因と症状、診断と治療法

多発性のう胞腎とは

この記事のポイント
🧬

遺伝性の腎疾患

PKD1遺伝子やPKD2遺伝子の変異が原因で、両側の腎臓に多数ののう胞が形成される

📊

患者数と頻度

国内患者数は約31,000人で、約4,000人に1人が発症する最も頻度の高い遺伝性嚢胞性腎疾患

💊

治療の進歩

トルバプタンによる腎容積増加抑制と腎機能低下の進展抑制が可能になった


多発性のう胞腎は、腎臓にのう胞(液体が詰まった袋状の構造物)が無数にできる遺伝性の病気です。正常な腎のう胞が1個~数個程度であるのに対し、多発性のう胞腎では両側の腎臓に多数ののう胞が形成され、年齢とともに増加・増大していきます。

参考)多発性のう胞腎 (たはつせいのうほうじん)とは


この疾患は遺伝性腎疾患の中で最も患者数が多く、国内では約31,000人の患者がいると推定されており、約4,000人に1人の頻度で発症します。のう胞が徐々に大きくなることで正常な腎組織が圧迫され、腎機能低下が進行していく点が大きな特徴です。

参考)301 Moved Permanently


通常の腎臓は握りこぶし大(約150g)ですが、多発性のう胞腎では嚢胞の増大により腎臓の大きさが数倍になることもあります。60歳までに約半数の患者が末期腎不全に至り、透析療法や腎移植などの腎代替療法が必要になります。​

多発性のう胞腎の遺伝形式と分類

多発性のう胞腎は遺伝形式によって常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)と常染色体劣性多発性のう胞腎(ARPKD)に分類されます。​
常染色体優性遺伝では、両親のどちらか一方が疾患を有している場合、子どもに遺伝する確率は性別に関係なく50%です。ただし、4人の子どもがいる場合でも必ず2人に遺伝するわけではなく、全員に遺伝することも1人も遺伝しないこともあります。一方、常染色体劣性遺伝では両親ともに遺伝子異常があることが発症の条件となり、新生児期から小児期に症状が出現することが多いです。

参考)小倉第一病院


難病情報センター:多発性嚢胞腎(指定難病67)
ADPKDは臨床的に最も頻度が高く、30~40代までは無症状であることがほとんどです。一方、ARPKDは出生前の胎児エコー検査で発見されることもあり、より早期から症状が現れる傾向にあります。​

多発性のう胞腎の原因遺伝子

ADPKDの原因遺伝子としてPKD1遺伝子とPKD2遺伝子の2つが同定されています。

参考)どのように発症するの?


ADPKD患者の約85%はPKD1遺伝子のヘテロ変異、残りの約15%はPKD2遺伝子のヘテロ変異によって引き起こされます。PKD1遺伝子のヘテロ変異を持つ患者の方がより重症な経過をたどり、60歳までに約半数が腎不全に至ることが知られています。

参考)ヒトiPS細胞から多発性嚢胞腎の病態を再現することに成功—病…


PKD1遺伝子がコードするポリシスチン-1は大型の受容体様タンパク質であり、PKD2遺伝子がコードするポリシスチン-2はカルシウムチャネルとして機能します。これらのタンパク質は腎尿細管の一次繊毛に局在し、機械受容センサーとして尿細管上皮細胞の分化状態を維持する役割を担っています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2834200/


近年の研究では、PKD1、PKD2以外にもIFT140、GANAB、HNF1Bの機能喪失変異がADPKDの診断と関連していることが明らかになり、遺伝的基盤は予想以上に多彩であることが示されています。

参考)常染色体優性多発性嚢胞腎の遺伝的基盤は予想以上に多彩/JAM…

多発性のう胞腎の主な症状

多発性のう胞腎の自覚症状として、肉眼的血尿(31%)、側腹部・背部痛(30%)、易疲労感(9%)などが報告されています。

参考)多発性嚢胞腎(指定難病67) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/295″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/295amp;#8211; 難病情報センタ…


肉眼的血尿は尿に血液が混じることを目視で確認できる状態で、のう胞内出血によって生じます。腹部腫瘤やお腹の張り感(腹部膨満)による食欲不振も認められ、嚢胞の増大により腎臓が大きくなることで引き起こされます。​
しかし、30~40代までは無症状の患者がほとんどで、家族に多発性のう胞腎の人がいるために健康診断や人間ドックを受診し、偶然診断されることも少なくありません。このため、家族歴のある方は定期的な画像検査による早期発見が重要です。​
発熱を伴う腹痛や背中の痛みはのう胞感染による可能性があるため、発熱が続く場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。​

多発性のう胞腎の合併症

多発性のう胞腎は腎臓だけでなく、全身に様々な合併症を引き起こす疾患です。​
高血圧は特に頻度の高い合併症であり、腎機能が低下する前からすでに大半の患者に認められます。心臓や脳などの血管障害を招く可能性があるため、早期からの降圧治療が必要です。

参考)多発性嚢胞腎の合併症にはどのようなものがありますか? |多発…

合併症 頻度 特徴
高血圧 大半の患者 腎機能低下前から出現し、心血管障害のリスク因子となる
肝のう胞 約80% 症状が出るのは10%以下で、多くは無症状
脳動脈瘤 約10% 破裂によりクモ膜下出血を起こすリスクがある
常染色体優性多発性嚢胞腎の合併症

多発性のう胞腎の診断基準と画像検査

多発性のう胞腎の診断は、家族歴の問診と画像検査による嚢胞の確認により行われます。

参考)301 Moved Permanently


診断には厚生労働省の研究班によって作成された診断基準が用いられ、家族内発生が確認されている場合と確認されていない場合で基準が異なります。家族内発生が確認されている場合、超音波検査で両腎に嚢胞が各々3個以上、CTやMRIでは各々5個以上確認されることがADPKDの診断基準となります。​
日本腎臓学会:エビデンスに基づく多発性囊胞腎(PKD)診療ガイドライン2020
家族歴がない場合は、15歳以下と16歳以上で嚢胞数の基準が異なり、他の腎疾患を除外して診断されます。若年者では診断基準に合致するだけの嚢胞が確認できない場合もあり、30歳を目安に再検査が推奨されています。​
画像検査としては超音波検査、CT、MRIなどが用いられ、腎臓に嚢胞があるかどうかを確認します。遺伝子診断は診断確定に重要ですが、現状では家族歴と両腎の嚢胞個数が診断基準の中心となっており、遺伝性疾患でありながら遺伝子診断は診断基準に含まれていません。

参考)多発性嚢胞腎について

多発性のう胞腎のトルバプタン治療

2014年にバソプレシンV2受容体拮抗薬であるトルバプタン(商品名サムスカ)がADPKDの腎嚢胞形成・進展抑制、腎機能低下抑制に対して保険適応となりました。

参考)https://www.ohashi.med.toho-u.ac.jp/iryokan/vk7ie40000000l26-att/rhlvl80000002ja5.pdf


国際共同試験(TEMPO 3:4試験)では、世界15カ国129施設から1,445例のADPKD患者が登録され、トルバプタン投与により総腎容積増加と腎機能低下が抑制されることが示されました。この薬は嚢胞が大きくなるのを抑え、腎機能が悪化するスピードを遅くします。

参考)富山大学第二内科 公式ホームページ


トルバプタン治療を開始する際には入院が必要で、飲水量・尿量を確認しながら血液検査でモニタリングを行います。内服中は尿の量や回数が増えるため、脱水にならないよう水分を多く摂取する必要があり、高ナトリウム血症や肝機能異常などが起こっていないか定期的な受診が求められます。​
使用には腎臓のサイズ、のう胞が大きくなる速さ、腎機能などの条件を満たす必要があり、高額な治療であるため難病医療費助成制度が利用できます。

参考)多発性嚢胞腎

多発性のう胞腎の保存的治療と腎代替療法

根本的な治療法はまだ確立されていないため、腎機能保護を目的とした保存的治療が基本となります。

参考)多発性嚢胞腎|東京女子医科大学病院 腎臓内科


高血圧を合併することが多いため、降圧剤による血圧管理が重要です。降圧療法は腎機能障害の進行予防のためにも早期からの治療が必要であり、他の慢性腎臓病と同様に末期腎不全への進展抑制が治療の基本となります。​
腎機能低下が進行して末期腎不全に至った場合は、腎移植または透析療法(血液透析腹膜透析)を行います。血液透析は機械を通して血液中の老廃物や不要な水分を除去する方法で、1週間に2~3回、1回に4時間以上かけて実施されます。腹膜透析は自分の腹膜をフィルターとして利用する方法で、連続携行式腹膜透析と自動腹膜透析があります。​
ADPKDのために透析を始めた患者の予後は、他の疾患が原因で透析を始めた患者と比べて良好で、長生きする可能性が高いことが報告されています。腹部膨満感が強い場合は、腎動脈塞栓療法や腎のう胞穿刺吸引療法が検討されることもあります。​

多発性のう胞腎患者の日常管理と予後

多発性のう胞腎の経過は個人差が非常に大きく、腎機能低下のスピードは患者によって異なります。​
若い頃から腎機能が低下している患者もいれば、中年になって低下する患者、生涯にわたり腎機能が保たれる患者も存在します。同じ家系内でも腎機能低下のスピードには個人差が見られるため、定期的な経過観察が重要です。​
家族に多発性のう胞腎と診断された人がいる場合は、画像検査(腹部エコー、腹部CT、MRIなど)を受けることが推奨されます。遺伝子の突然変異で発症することもあるため、家族歴がなくても症状がある場合は検査が必要です。​

  • 定期的な血圧測定と降圧療法の継続
  • 脱水予防のための適切な水分摂取
  • 発熱を伴う腹痛や背部痛がある場合の速やかな受診
  • 脳動脈瘤スクリーニングを含む合併症の定期チェック
  • 30歳までに発症がなければその後の発症可能性は低い

腎不全、高血圧、のう胞感染、のう胞出血、脳動脈瘤などの合併症を予防するため、定期的に病院を受診するようにしましょう。幸い日本の透析医療は進歩しており、腎不全のために亡くなる患者はほぼ見られなくなっています。​

HTMLの記事が完成しました。医療従事者向けに「大動脈解離 症状」をテーマにした、3000文字以上の詳細な記事を作成しました。