多発性のう胞腎とは
多発性のう胞腎は、腎臓にのう胞(液体が詰まった袋状の構造物)が無数にできる遺伝性の病気です。正常な腎のう胞が1個~数個程度であるのに対し、多発性のう胞腎では両側の腎臓に多数ののう胞が形成され、年齢とともに増加・増大していきます。
この疾患は遺伝性腎疾患の中で最も患者数が多く、国内では約31,000人の患者がいると推定されており、約4,000人に1人の頻度で発症します。のう胞が徐々に大きくなることで正常な腎組織が圧迫され、腎機能低下が進行していく点が大きな特徴です。
通常の腎臓は握りこぶし大(約150g)ですが、多発性のう胞腎では嚢胞の増大により腎臓の大きさが数倍になることもあります。60歳までに約半数の患者が末期腎不全に至り、透析療法や腎移植などの腎代替療法が必要になります。
多発性のう胞腎の遺伝形式と分類
多発性のう胞腎は遺伝形式によって常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)と常染色体劣性多発性のう胞腎(ARPKD)に分類されます。
常染色体優性遺伝では、両親のどちらか一方が疾患を有している場合、子どもに遺伝する確率は性別に関係なく50%です。ただし、4人の子どもがいる場合でも必ず2人に遺伝するわけではなく、全員に遺伝することも1人も遺伝しないこともあります。一方、常染色体劣性遺伝では両親ともに遺伝子異常があることが発症の条件となり、新生児期から小児期に症状が出現することが多いです。
参考)小倉第一病院
難病情報センター:多発性嚢胞腎(指定難病67)
ADPKDは臨床的に最も頻度が高く、30~40代までは無症状であることがほとんどです。一方、ARPKDは出生前の胎児エコー検査で発見されることもあり、より早期から症状が現れる傾向にあります。
多発性のう胞腎の原因遺伝子
ADPKDの原因遺伝子としてPKD1遺伝子とPKD2遺伝子の2つが同定されています。
参考)どのように発症するの?
ADPKD患者の約85%はPKD1遺伝子のヘテロ変異、残りの約15%はPKD2遺伝子のヘテロ変異によって引き起こされます。PKD1遺伝子のヘテロ変異を持つ患者の方がより重症な経過をたどり、60歳までに約半数が腎不全に至ることが知られています。
参考)ヒトiPS細胞から多発性嚢胞腎の病態を再現することに成功—病…
PKD1遺伝子がコードするポリシスチン-1は大型の受容体様タンパク質であり、PKD2遺伝子がコードするポリシスチン-2はカルシウムチャネルとして機能します。これらのタンパク質は腎尿細管の一次繊毛に局在し、機械受容センサーとして尿細管上皮細胞の分化状態を維持する役割を担っています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2834200/
近年の研究では、PKD1、PKD2以外にもIFT140、GANAB、HNF1Bの機能喪失変異がADPKDの診断と関連していることが明らかになり、遺伝的基盤は予想以上に多彩であることが示されています。
参考)常染色体優性多発性嚢胞腎の遺伝的基盤は予想以上に多彩/JAM…
多発性のう胞腎の主な症状
多発性のう胞腎の自覚症状として、肉眼的血尿(31%)、側腹部・背部痛(30%)、易疲労感(9%)などが報告されています。
参考)多発性嚢胞腎(指定難病67) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/295″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/295amp;#8211; 難病情報センタ…
肉眼的血尿は尿に血液が混じることを目視で確認できる状態で、のう胞内出血によって生じます。腹部腫瘤やお腹の張り感(腹部膨満)による食欲不振も認められ、嚢胞の増大により腎臓が大きくなることで引き起こされます。
しかし、30~40代までは無症状の患者がほとんどで、家族に多発性のう胞腎の人がいるために健康診断や人間ドックを受診し、偶然診断されることも少なくありません。このため、家族歴のある方は定期的な画像検査による早期発見が重要です。
発熱を伴う腹痛や背中の痛みはのう胞感染による可能性があるため、発熱が続く場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。
多発性のう胞腎の合併症
多発性のう胞腎は腎臓だけでなく、全身に様々な合併症を引き起こす疾患です。
高血圧は特に頻度の高い合併症であり、腎機能が低下する前からすでに大半の患者に認められます。心臓や脳などの血管障害を招く可能性があるため、早期からの降圧治療が必要です。
参考)多発性嚢胞腎の合併症にはどのようなものがありますか? |多発…
合併症 | 頻度 | 特徴 |
---|---|---|
高血圧 | 大半の患者 | 腎機能低下前から出現し、心血管障害のリスク因子となる |
肝のう胞 | 約80% | 症状が出るのは10%以下で、多くは無症状 |
脳動脈瘤 | 約10% | 破裂によりクモ膜下出血を起こすリスクがある |
常染色体優性多発性嚢胞腎の合併症
多発性のう胞腎の診断基準と画像検査多発性のう胞腎の診断は、家族歴の問診と画像検査による嚢胞の確認により行われます。 参考)多発性嚢胞腎について 多発性のう胞腎のトルバプタン治療2014年にバソプレシンV2受容体拮抗薬であるトルバプタン(商品名サムスカ)がADPKDの腎嚢胞形成・進展抑制、腎機能低下抑制に対して保険適応となりました。 参考)https://www.ohashi.med.toho-u.ac.jp/iryokan/vk7ie40000000l26-att/rhlvl80000002ja5.pdf 参考)多発性嚢胞腎 多発性のう胞腎の保存的治療と腎代替療法根本的な治療法はまだ確立されていないため、腎機能保護を目的とした保存的治療が基本となります。 多発性のう胞腎患者の日常管理と予後多発性のう胞腎の経過は個人差が非常に大きく、腎機能低下のスピードは患者によって異なります。
腎不全、高血圧、のう胞感染、のう胞出血、脳動脈瘤などの合併症を予防するため、定期的に病院を受診するようにしましょう。幸い日本の透析医療は進歩しており、腎不全のために亡くなる患者はほぼ見られなくなっています。 HTMLの記事が完成しました。医療従事者向けに「大動脈解離 症状」をテーマにした、3000文字以上の詳細な記事を作成しました。 |