多発性関節痛と関節炎の症状と治療法

多発性関節痛の原因と症状

多発性関節痛の基本情報
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定義

複数の関節に痛みが生じる状態で、炎症を伴う関節炎と炎症を伴わない関節痛に分類されます

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主な原因

関節リウマチ、変形性関節症、ウイルス性感染症、痛風など多岐にわたります

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診断のポイント

関節の数、分布パターン、炎症の有無、全身症状の有無などから原因疾患を特定します

多発性関節痛の定義と分類方法

多発性関節痛とは、複数の関節に痛みが生じる状態を指します。医学的には、関節が単に痛むだけの「関節痛」と、炎症を伴う「関節炎」に分けられます。関節の炎症がある場合は、通常、熱感や腫れ(関節内の液体貯留)、まれに発赤などの症状を伴います。

多発性関節痛は、侵される関節の数によって以下のように分類されます。

  • 少関節型(オリゴ関節型):4つ以下の関節に症状がある
  • 多関節型:5つ以上の関節に症状がある

また、症状の持続期間によっても分類されます。

  • 急性:症状が6週間未満
  • 慢性:症状が6週間以上持続

この分類は診断や治療方針の決定に重要な役割を果たします。多発性関節痛の原因を特定するためには、どの関節が痛むのか、痛みのパターン(対称性か非対称性か)、朝のこわばりの有無などの特徴を詳しく調べる必要があります。

多発性関節痛を引き起こす主な疾患

多発性関節痛を引き起こす疾患は多岐にわたります。年齢や症状の特徴によって、疑われる疾患が異なります。

成人の慢性多発性関節炎の主な原因:

  • 関節リウマチ:最も一般的な原因の一つで、手や足の小関節を対称的に侵すことが多い
  • 変形性関節症:加齢に伴い発症し、体重を支える大関節(膝、股関節など)に多い
  • 血清反応陰性脊椎関節症:強直性脊椎炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎、腸炎性関節炎など

急性多発性関節炎の主な原因:

  • ウイルス性感染症:風邪やインフルエンザなどのウイルス感染後に一過性の関節炎が生じることがある
  • 痛風:尿酸結晶の沈着による激しい関節の炎症
  • ピロリン酸カルシウム関節炎(旧称:偽痛風):カルシウム結晶による関節炎
  • 全身性炎症性疾患の急性増悪全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病の急性増悪期

小児の慢性多発性関節炎の主な原因:

  • 若年性特発性関節炎:16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎

これらの疾患は、関節の痛みだけでなく、全身症状(発熱、倦怠感、体重減少など)や他の臓器の症状を伴うことがあり、総合的な診断が必要です。

多発性関節痛の症状と特徴的な痛みのパターン

多発性関節痛の症状は、原因となる疾患によって異なりますが、いくつかの特徴的なパターンがあります。これらのパターンを理解することで、原因疾患の特定に役立ちます。

痛みの特徴による分類:

  1. 対称性の関節痛
    • 関節リウマチに特徴的で、両手や両足の同じ関節が左右対称に侵されます
    • 朝のこわばりが1時間以上続くことが多い
  2. 非対称性の関節痛
    • 乾癬性関節炎や反応性関節炎などでみられます
    • 左右で異なる関節に症状が現れることが特徴
  3. 遊走性の関節痛
    • リウマチ熱などでみられる特徴で、痛みが関節から関節へと移動します
    • 一つの関節の症状が改善すると、別の関節に症状が現れる

関節の分布パターン:

  • 末梢関節型:手指や足趾の小関節に症状が現れる(関節リウマチなど)
  • 体軸関節型:脊椎や仙腸関節など体の中心部の関節に症状が現れる(強直性脊椎炎など)
  • 大関節型:膝、肩、股関節などの大きな関節に症状が現れる(変形性関節症など)

関節以外の症状:

多発性関節痛には、関節の症状だけでなく、以下のような全身症状を伴うことがあります。

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 体重減少
  • 皮疹
  • 朝のこわばり
  • むくみ

特に朝のこわばりは、炎症性の関節疾患を示唆する重要な症状です。関節リウマチでは朝のこわばりが1時間以上続くことが多いのに対し、変形性関節症では短時間(30分未満)で改善することが一般的です。

多発性関節痛と高齢者特有の注意点

高齢者の多発性関節痛には、若年者とは異なる特徴や注意点があります。加齢に伴う変化や複数の疾患の併存が診断を複雑にすることがあります。

高齢者の多発性関節痛の特徴:

  1. 変形性関節症の高頻度
    • 高齢者における関節炎の最も一般的な原因は変形性関節症です
    • 加齢に伴う軟骨の摩耗が主な原因で、体重を支える関節(膝、股関節)に多く見られます
  2. 高齢発症の関節リウマチ
    • 関節リウマチは通常30〜40歳代で発症することが多いですが、患者の約3分の1は60歳以降に発症します
    • 高齢発症の関節リウマチは、典型的な症状が現れにくいことがあり、診断が遅れる可能性があります
  3. リウマチ性多発筋痛症
    • 50歳以上、特に70〜80歳の高齢者に多い疾患です
    • 肩甲帯や骨盤帯の痛みとこわばりが特徴で、朝に症状が強くなります
    • 手をバンザイするような動作が困難になり、寝返りがつらくなるなどの症状があります
    • 発症は比較的急速で、数日から数週間で症状が進行します
  4. 腫瘍随伴性関節炎
    • 高齢者で新たに関節リウマチ様の症状が出現した場合、悪性腫瘍に伴う関節炎の可能性も考慮する必要があります
    • 特に発症が急性の場合や、下肢優位に症状が現れる場合、骨の圧痛がある場合には注意が必要です
  5. 高齢女性の痛風
    • 痛風は一般的に中年男性に多い疾患ですが、高齢女性では手の遠位指節間(DIP)関節に好発することがあります
    • 閉経後のホルモンバランスの変化が関与していると考えられています

高齢者の多発性関節痛の診断と治療においては、加齢に伴う身体機能の低下や併存疾患、服用中の薬剤との相互作用などを考慮する必要があります。また、治療薬(特に非ステロイド性抗炎症薬)の副作用リスクが高いため、慎重な薬剤選択が求められます。

多発性関節痛の診断に役立つ検査と鑑別診断

多発性関節痛の原因を特定するためには、詳細な問診と身体診察に加えて、様々な検査が必要です。これらの検査結果を総合的に評価することで、適切な診断と治療方針の決定が可能になります。

基本的な検査:

  1. 血液検査
    • 炎症マーカー(CRP赤沈):炎症の程度を評価
    • 血算:白血球数の増加は感染症や炎症を示唆
    • リウマトイド因子(RF):関節リウマチで陽性になることが多い
    • 抗CCP抗体:関節リウマチに特異的な自己抗体
    • 抗核抗体(ANA):全身性エリテマトーデスなどの膠原病で陽性
    • 尿酸値:痛風の診断に有用
    • HLA-B27:強直性脊椎炎などで陽性率が高い
  2. 画像検査
    • X線検査:骨びらんや関節裂隙の狭小化などの構造的変化を評価
    • MRI:初期の炎症や軟部組織の変化を検出
    • 超音波検査:関節液貯留や滑膜炎の評価に有用
    • CT:複雑な関節構造の評価に役立つ
  3. 関節液検査
    • 新たな関節液貯留がある場合は、関節穿刺が必須
    • 結晶(尿酸、ピロリン酸カルシウム)の有無を確認
    • 細菌培養:感染性関節炎の診断
    • 細胞数と分画:炎症性か非炎症性かの鑑別

診断のアプローチ:

多発性関節痛の診断では、以下のような情報を総合的に評価します。

  1. 発症パターン
    • 急性発症か緩徐発症か
    • 一過性か持続性か
    • 遊走性(関節から関節へ移動する)かどうか
  2. 関節の分布
    • 対称性か非対称性か
    • 大関節か小関節か
    • 手指関節の場合、DIP関節(指先の関節)が侵されているか
  3. 関節外症状の有無
    • 皮疹、発熱、体重減少などの全身症状
    • 特定の臓器症状(眼症状、消化器症状など)
  4. 家族歴
    • 類似疾患の家族内発症

これらの情報と検査結果を組み合わせることで、多発性関節痛の原因となる疾患を絞り込むことができます。例えば、対称性の小関節炎と朝のこわばりが1時間以上続く場合は関節リウマチを、体軸関節(脊椎や仙腸関節)の炎症がある場合は血清反応陰性脊椎関節症を疑います。

診断が確定しない場合や、典型的な症状を示さない場合は、リウマチ専門医への紹介が推奨されます。早期診断と適切な治療開始が、関節の破壊を防ぎ、長期的な予後を改善するために重要です。

多発性関節痛の治療と管理

多発性関節痛の治療は、原因となる疾患によって大きく異なります。しかし、基本的な治療アプローチには共通点があります。治療の主な目標は、痛みの軽減、炎症の抑制、関節機能の維持・改善、そして基礎疾患の進行を遅らせることです。

薬物療法:

  1. 鎮痛薬・抗炎症薬
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):イブプロフェン、ナプロキセンなど
      • 炎症を伴う関節痛に有効
      • 長期使用では胃腸障害や腎機能障害などの副作用に注意
    • アセトアミノフェン
      • 炎症を伴わない痛みに安全に使用できる
      • 肝機能障害のリスクがあるため、適切な用量を守る
    • 疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs
      • メトトレキサート、サラゾスルファピリジンなど
      • 関節リウマチなどの自己免疫疾患の進行を抑制
      • 効果発現までに数週間〜数ヶ月かかることがある
    • 生物学的製剤
      • TNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプトなど)
      • IL-6阻害薬(トシリズマブなど)
      • 従来のDMARDsで効果不十分な場合に使用
      • 感染症リスクの増加に注意が必要
    • ステロイド薬
      • 急性炎症の抑制に効果的
      • リウマチ性多発筋痛症では特に効果的(プレドニゾロン12.5-25mg/日)
      • 長期使用による副作用(骨粗鬆症、糖尿病、高血圧など)に注意
    • 尿酸降下薬
      • アロプリノール、フェブキソスタットなど
      • 痛風の再発予防に使用

非薬物療法:

  1. 理学療法・運動療法
    • 関節可動域の維持・改善
    • 筋力強化
    • 適切な運動は関節痛を軽減し、機能を改善する
  2. 温熱療法・寒冷療法
    • 温熱:こわばりの軽減、血流改善
    • 寒冷:急性炎症の軽減
  3. 装具・補助具の使用
    • 関節への負担軽減
    • 日常生活動作の支援
  4. 体重管理
    • 特に膝や股関節など体重を支える関節の痛みには重要
    • 適正体重の維持により関節への負担を軽減
  5. 生活習慣の改善
    • バランスの取れた食事
    • 十分な睡眠
    • ストレス管理

疾患別の治療アプローチ:

  1. 関節リウマチ
    • 早期診断と早期治療開始が重要
    • メトトレキサートを中心としたDMARDs療法
    • 必要に応じて生物学的製剤を