ステロイド骨粗鬆症の機序と治療薬の選択

ステロイド骨粗鬆症の機序と治療

ステロイド骨粗鬆症の基本情報
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発症リスク

ステロイド長期服用患者の30-50%に骨折が発生

📉

骨密度低下速度

開始後数ヶ月で8-12%/年、その後2-4%/年

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特徴的な骨折部位

椎体圧迫骨折が最も多く発生

ステロイド骨粗鬆症(Glucocorticoid-induced osteoporosis: GIO)は、続発性骨粗鬆症の原因として最も重要な疾患です。ステロイド薬は膠原病、呼吸器疾患、アレルギー疾患、腎疾患、血液疾患など多くの疾患治療に不可欠ですが、その有益な効果の反面、骨粗鬆症をはじめとする様々な副作用を引き起こします。

特に注目すべきは、ステロイド骨粗鬆症による骨折リスクは、骨密度が著しく低下する前から既に増加していることです。そのため、ステロイド治療を開始する際には、早期から骨粗鬆症対策を講じることが極めて重要となります。

ステロイド骨粗鬆症の発症機序とRANKL発現

ステロイド骨粗鬆症の発症機序は複雑ですが、主に以下のメカニズムが関与しています。

  1. 破骨細胞活性化による骨吸収促進
    • ステロイドによるRANKL(Receptor Activator for Nuclear Factor κ-B Ligand)発現亢進
    • OPG(Osteoprotegerin)発現減少
    • これらの変化により破骨細胞の成熟が促進される
  2. 骨形成抑制
    • 骨芽細胞・骨細胞のアポトーシス誘導
    • 骨芽細胞の機能抑制と寿命短縮
  3. カルシウム代謝異常
    • 腸管からのカルシウム吸収低下
    • 腎臓でのカルシウム再吸収低下
    • 二次性副甲状腺機能亢進症
  4. 性ホルモン産生低下
    • 下垂体LH/FSH、ACTH分泌低下
    • 性腺・副腎機能低下

これらの作用により、ステロイド服用開始後わずか数ヶ月で急速に骨密度が低下します。特に海綿骨が多い椎体では早期に影響が現れ、椎体圧迫骨折のリスクが高まります。その後、皮質骨にも影響が及び、大腿骨頸部骨折などのリスクも上昇します。

ステロイド骨粗鬆症の臨床的特徴と椎体圧迫骨折

ステロイド骨粗鬆症には、原発性骨粗鬆症とは異なる特徴的な臨床像があります。

骨量減少の特徴:

  • ステロイド開始後3〜6ヶ月以内に急激に進行
  • 初期の数ヶ月で8〜12%/年という極めて高い骨減少率
  • その後は2〜4%/年で推移
  • 特に椎体や大腿骨頸部での進行が顕著

骨折リスクの特徴:

  • プレドニゾロン換算7.5mg/日以上服用で脊椎骨折の相対危険度が5倍に上昇
  • 椎体圧迫骨折が他の骨折と比較して多いことが特徴的
  • 骨密度が保たれていても骨折しやすい(骨質の低下)
  • 既存骨折がある患者では新規骨折のリスクが極めて高い(オッズ比5.2〜7.9)

リスク因子:

  • 高齢
  • 閉経後女性
  • BMI低値
  • 基礎疾患の活動性
  • 臥床
  • 機能障害
  • 臓器障害

特筆すべきは、ステロイド骨粗鬆症では骨密度の低下よりも骨の強度低下に伴う骨折リスクが大きいという点です。そのため、骨密度測定値が著しく低くなくても骨折することがあり、日常生活での軽い動作でも脆弱性骨折を引き起こす可能性があります。

ステロイド骨粗鬆症のFRAX評価と補正式

骨折リスク評価ツールであるFRAX(Fracture Risk Assessment Tool)は、骨粗鬆症患者の10年以内の骨折リスクを評価する上で有用ですが、ステロイド骨粗鬆症の評価においては以下の問題点があります。

FRAXの問題点:

  1. ステロイドの投与量がFRAXに反映されていない
  2. ステロイド骨粗鬆症は特に椎体骨折が増加するが、FRAXは大腿骨頸部の骨密度を指標としている

これらの問題を是正するために、ステロイド使用中の患者に対しては特別なFRAX補正式が用いられます。

FRAX補正式(プレドニゾロン換算):

  • 低用量(2.5mg/日未満): 大腿骨近位部骨折リスク -20%、主要骨粗鬆症性骨折リスク -15%
  • 中用量(2.5-7.5mg/日): 補正なし(FRAXの標準設定)
  • 高用量(7.5mg/日以上): 大腿骨近位部骨折リスク +25%、主要骨粗鬆症性骨折リスク +15%

例えば、60歳男性でFRAXでの10年以内骨折リスクが10%の場合、プレドニゾロン換算7.5mg/日以上内服している場合は+15%の補正を行い、リスクは11.5%と評価されます。

ただし、この補正式もより高用量のステロイド(例えば30mg/日)の場合のリスクは過小評価になっている可能性があり、注意が必要です。

ステロイド骨粗鬆症の治療薬選択とビスホスホネート

ステロイド骨粗鬆症の治療は、予防・管理・治療が一体となって進められます。2014年に改訂された「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」(2023年には「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン」に改称)では、骨密度を測定していなくてもステロイド性骨粗鬆症の治療介入をするべき基準が示されています。

薬物治療の適応:

  • ステロイドを3ヶ月以上服用または服用予定で、以下のいずれかに該当
    1. 既存の脆弱性骨折がある
    2. 65歳以上
    3. プレドニン換算で1日に7.5mg以上服用
    4. 骨密度がYAM(若年成人平均)70%未満
  • または、以下のうち2項目以上該当
    1. 50歳以上65歳未満
    2. プレドニン換算で1日に5mg以上7.5mg未満服用
    3. 骨密度がYAM70%以上80%未満

推奨される治療薬:

  1. 第一選択薬: 経口ビスホスホネート製剤
    • アレンドロン酸(商品名: ボナロン、フォサマック)
    • リセドロネート(商品名: アクトネル、ベネット)
    • ミノドロン酸(商品名: リカルボン、ボノテオ)
    • イバンドロン酸(商品名: ボンビバ)

    これらの薬剤はステロイドによる骨吸収を抑制し、骨密度を増加させる効果があります。毎日、週1回、月1回の製剤があり、起床時にコップ1杯の水とともに服用し、服用後30〜60分は立位または座位を保つ必要があります。

  2. 静注ビスホスホネート製剤
    • イバンドロン酸(月1回静注)
    • アレンドロン酸(月1回点滴静注)
    • ゾレドロン酸(年1回点滴静注、商品名: リクラスト)

    経口ビスホスホネート製剤を消化器症状などで服用できない場合や、服薬コンプライアンスが低い場合に選択されます。

  3. 甲状腺ホルモン製剤
    • テリパラチド(毎日自己皮下注射、商品名: フォルテオ)
    • テリパラチド酢酸塩(週1〜2回皮下注射、商品名: テリボン)

    特に椎体骨折があり腰痛が持続している場合に有効です。投与期間は24ヶ月までと制限されています。

  4. 活性型ビタミンD3製剤
    • アルファカルシドール(商品名: アルファロール、ワンアルファ)
    • エルデカルシトール(商品名: エディロール)

    消化管からのカルシウム吸収を増加させる効果がありますが、骨密度改善効果や骨折防止効果はビスホスホネート製剤より弱いとされています。

  5. デノスマブ(商品名: プラリア)
    • 6ヶ月に1回の皮下注射
    • 骨吸収を抑制し骨密度を増加させる効果があります
    • 関節リウマチの骨破壊抑制効果も報告されています

ビスホスホネート製剤やデノスマブ使用中の注意点として、顎骨壊死のリスクがあります。そのため、投与前に歯科受診し、必要な抜歯は先に実施しておくことが推奨されています。また、妊婦には禁忌であり、将来の妊娠に対する安全性も確立していないため、妊娠を考えている女性は主治医と相談の上で服用を決定する必要があります。

ステロイド骨粗鬆症の非薬物療法と早期介入の重要性

ステロイド骨粗鬆症の管理において、薬物療法だけでなく非薬物療法も重要な役割を果たします。また、ステロイド投与量の調整も骨粗鬆症予防の基本戦略です。

ステロイド投与量の最適化:

  • ステロイド中止により骨折リスクは急激に低下することが知られています
  • 可能な限りステロイド投与量を少なく、投与期間を短くすることが重要
  • 代替治療法の検討(免疫抑制剤生物学的製剤など)

非薬物療法:

  1. 食事療法
    • カルシウム: 1000〜1200mg/日を目標
    • ビタミンD: 活性型ビタミンD製剤600-800IU/日
    • タンパク質摂取の適正化
    • バランスの良い食事
  2. 生活習慣改善
    • 禁煙
    • 過度のアルコール摂取を避ける
    • 適度な運動(特に荷重運動)
    • 転倒予防策の実施
  3. 運動療法
    • 荷重運動(ウォーキング、ジョギングなど)
    • 筋力トレーニング
    • バランス訓練
    • 姿勢改善エクササイズ
  4. 転倒予防
    • 住環境の整備(段差解消、手すり設置など)
    • 適切な照明
    • 視力・聴力の定期的チェック
    • 転倒リスクを高める薬剤の見直し
  5. 定期的なモニタリング
    • 骨密度測定(DEXA法)
    • 身長測定(椎体圧迫骨折の早期発見)
    • 血液・尿検査(カルシウム、ビタミンD代謝など)
    • 脊椎X線検査

特に重要なのは、ステロイド治療開始と同時に骨粗鬆症対策を開始することです。ステロイド内服開始後の骨量減少率は初めの数ヶ月で8〜12%と極めて高く、相当な骨密度減少が起こる前に既に骨折リスクの増加が生じます。したがって、「骨折してから」ではなく「骨折する前」の予防的介入が極めて重要です。

ステロイド骨粗鬆症の管理は、処方医の責任でもあります。ステロイド薬を処方する際には、その薬効だけでなく、必然的に引き起こされる代謝異常(骨粗鬆症を含む)についても念頭に置き、適切な予防対策を講じることが求められます。

日本内分泌学会によるステロイド性骨粗鬆症の詳細な解説

ステロイド骨粗鬆症と関節リウマチの相互作用

関節リウマチ(RA)患者におけるステロイド骨粗鬆症は特に注意が必要です。RAは続発性骨粗鬆症を来す代表的疾患であり、ステロイド治療を併用することで骨粗鬆症のリスクがさらに高まります。

関節リウマチと骨粗鬆症の関連:

  1. 炎症性サイトカインの影響
    • TNF-α、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインが骨代謝に悪影響
    • RANKL発現増加と破骨細胞活性化
    • 骨芽細胞機能抑制
  2. 身体活動性低下の影響
    • 関節破壊による不動化
    • 疼痛による活動制限
    • 筋力低下
  3. ステロイド治療の影響
    • 前述のステロイド骨粗鬆症のメカニズム
    • 関節リウマチの炎症抑制と骨粗鬆症促進の二面性

関節リウマチ患者のステロイド骨粗鬆症管理:

  • RAの疾患活動性をコントロールすることが重要
  • 早期から抗リウマチ薬や抗サイトカイン