スルホンアミド禁忌と注意事項
スルホンアミドとは何か
スルホンアミド系薬剤は、細菌が増殖するのに必要な葉酸の合成を阻害することで抗菌作用を発揮する薬剤です。主に尿路感染症の治療に用いられ、尿中に高濃度で排泄されるため効果的とされています。代表的な薬剤にはスルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジン、スルファジアジンなどがあり、これらはサルファ剤とも呼ばれます。スルホンアミド構造を持つ薬剤には、抗菌薬以外にも利尿薬、糖尿病治療薬、一部の消炎鎮痛薬なども含まれますが、抗菌作用を持つサルファ剤とは化学構造が異なる部分があります。
参考)スルホンアミド系 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュア…
スルホンアミド過敏症の既往がある場合の禁忌
スルホンアミド系薬剤に対してアレルギー反応や過敏症の既往歴がある患者では、同クラスの薬剤の使用が絶対禁忌とされています。過敏症反応には、即時型の免疫グロブリンEを介するアナフィラキシー反応や、スティーブンス・ジョンソン症候群のような重篤な皮膚反応が含まれます。これらの反応は薬剤投与開始から7日から14日後に発症することが多く、発熱や斑状発疹を特徴とします。添付文書上では「スルホンアミド系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者」「サルファ剤に対し過敏症の既往歴のある患者」といった記載がなされており、厳密な確認が求められます。
スルホンアミド系薬剤間の交差過敏反応
スルホンアミド構造を持つ薬剤同士でも、交差過敏反応のリスクには差があります。サルファ剤(抗菌薬)と非抗菌薬のスルホンアミド系薬剤の間には重要な化学的差異があり、真の交差反応が起こる可能性は極めて低いとされています。特にN1位(含窒素複素環)とN4位(アミン基)の両方の構造類似性を持つ場合に交差反応のリスクが高くなり、どちらか片方のみではリスクは低くなります。利尿薬やスルホニルウレア系糖尿病治療薬では、サルファ剤から発展開発された経緯があり、添付文書上で「スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者」に対して「禁忌」または「慎重投与」の記載がなされています。
参考)【 スルホンアミド系 薬剤過敏症 】交差反応性をサルファ剤の…
スルホンアミド禁忌とポルフィリン症患者
ポルフィリン症患者にスルホンアミド系薬剤を投与することは禁忌とされています。ポルフィリン症は、ヘム合成経路の酵素欠損により中間代謝産物が蓄積する疾患群で、急性型では腹痛や神経症状を伴う急性発作を起こすことがあります。スルホンアミド系薬剤は肝臓でのヘム合成系を刺激し、前駆物質であるδ-アミノレブリン酸やポルフォビリノーゲンの過剰産生を引き起こすため、急性発作を誘発する危険性があります。急性ポルフィリン症の治療では、増悪させうる薬剤の回避が生命に関わる重要な対策とされており、スルホンアミド系薬剤はリスクとなる薬剤の一つに挙げられます。
スルホンアミドとG6PD欠損症の溶血リスク
グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症の患者では、スルホンアミド系薬剤の投与により溶血性貧血が引き起こされる危険性があります。G6PD欠損症は世界で約4億人が罹患する最も一般的な酵素欠損症で、X連鎖遺伝のため男性に多く発症します。G6PDはペントースリン酸経路でNADPHを産生する酵素であり、赤血球を酸化ストレスから守る役割を担っています。G6PD欠損症では還元型グルタチオンの再生ができず、酸化ストレスに対する防御機能が低下するため、スルホンアミドなどの酸化性薬物により急性の溶血発作が誘発されます。溶血により黄疸、暗色尿、腹痛や背部痛などの症状が出現し、重症例では輸血が必要となることもあります。
参考)スルホンアミド系薬剤 – 16. 感染症 – MSDマニュア…
スルホンアミド禁忌と妊娠授乳期の注意
妊娠中、特に出産間近の妊婦や生後2カ月未満の新生児に対して、スルホンアミド系薬剤の使用は禁忌とされています。これは、スルホンアミド系薬剤が非抱合型ビリルビンの血中濃度を上昇させ、胎児または新生児の核黄疸リスクを高めるためです。核黄疸は、高ビリルビン血症により脳の基底核や海馬回にビリルビンが沈着し、神経細胞が破壊される重篤な病態で、脳性麻痺や死亡の原因となります。妊娠中のスルホンアミド系薬剤と先天異常との関連については一様でないエビデンスがあり、動物実験では催奇形性のリスクが示されていますが、妊婦を対象とした十分な研究は実施されていません。また、スルホンアミド系薬剤は母乳中に移行するため、授乳中の母親への使用も禁忌とされています。
参考)サラゾスルファピリジン(アザルフィジンⓇ)を使ってはいけない…
スルホンアミド副作用と使用時の注意
スルホンアミド系薬剤の副作用は他の抗菌剤と比較して比較的よく見られます。主な副作用には、消化器症状として吐き気、嘔吐、下痢があり、皮膚症状として発疹、光線過敏症、痒みなどが報告されています。血液系の副作用として、白血球数や血小板数の減少が起こることがあり、定期的な血液検査でのモニタリングが推奨されます。稀ではありますが、尿中に結晶が形成されることがあるため、十分な水分摂取が必要です。肝毒性として肝機能障害を引き起こす可能性もあり、重篤な肝機能障害がある患者では禁忌とされています。ワルファリンと併用すると出血が起こりやすくなる可能性があるため、抗凝固薬を使用中の患者では注意が必要です。
スルホンアミド薬剤選択時の患者評価ポイント
スルホンアミド系薬剤を使用する際には、患者の病歴を詳細に確認することが不可欠です。まず、過去のアレルギー歴や薬剤過敏症の既往を聴取し、スルホンアミド系薬剤やサルファ剤への反応があった場合は絶対禁忌となります。妊娠の可能性や授乳の有無を確認し、該当する場合は代替薬を検討する必要があります。G6PD欠損症は日本人では比較的稀ですが、アフリカ系や地中海沿岸地域出身者では頻度が高いため、民族的背景も考慮に入れるべきです。既往歴としてポルフィリン症、重篤な肝機能障害、腎機能障害がある場合も禁忌または慎重投与となります。利尿薬やスルホニルウレア系糖尿病薬など、スルホンアミド構造を持つ他の薬剤の使用歴も参考情報として重要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/18/1/18_1/_pdf
MSDマニュアル プロフェッショナル版 – スルホンアミド系薬剤の詳細情報と禁忌に関する医療専門家向けの包括的な解説
薬学オンライン – スルホンアミド系薬剤の交差反応性について、化学構造に基づく詳細な分析と臨床的注意点
MSDマニュアル – G6PD欠損症とスルホンアミド系薬剤による溶血リスクについての専門的解説