錐体外路症状とはと統合失調症
錐体外路症状とは:パーキンソニズム・ジストニア・アカシジア・遅発性ジスキネジア
錐体外路症状(EPS)は、抗精神病薬などにより「運動の調整」に関わる神経回路のバランスが崩れ、震え・こわばり・落ち着かなさ・不随意運動などが出現する副作用群の総称です。
臨床では、①薬剤性パーキンソン症状(振戦、固縮、無動など)、②急性ジストニア(頸部や眼球の異常緊張など)、③アカシジア(静座不能・焦燥)、④遅発性ジスキネジア(口周囲を中心とした不随意運動)に分けて整理すると、鑑別と介入が速くなります。
特に「出現時期」が重要で、急性ジストニアは開始直後〜増量時に目立ち、遅発性ジスキネジアは“数か月以上の長期投与後”に問題化しやすい、という時間軸で理解すると説明もしやすくなります。
現場で混同されやすいのが「アカシジア」と「不安・焦燥」です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_17997
アカシジアは「じっとしていられない」「脚を絶えず動かす」「立ち上がって歩き回りたくなる」など運動症状が前景に出やすく、単なる不安より“身体症状としての切迫感”が強い、と聴き取ると拾いやすいです。
一方、遅発性ジスキネジアは口すぼめ、舌の動き、口唇の動きといった口周囲の不随意運動が典型で、患者本人は自覚が乏しい場合もあるため、診察時の観察が重要になります。
参考)https://www.jsnp-org.jp/csrinfo/img/togo_guideline2022_2_3.pdf
錐体外路症状とは:統合失調症で起こる理由(抗精神病薬・D2遮断・第二世代)
統合失調症治療の中心である抗精神病薬は、ドパミンD2受容体遮断作用を持つため、薬原性錐体外路症状が「今日でも重要な副作用」とされています。
第二世代抗精神病薬は第一世代と比べて錐体外路症状が少ないとされ、統合失調症治療の第一選択として用いられる背景があります。
ただし「少ない=ゼロ」ではなく、用量、個体差、併用薬、増量スピード、既往(既存のパーキンソニズムなど)によって発現し得る点を、チームで共有しておく必要があります。
機序の説明を患者・家族に行う際は、専門用語を並べるより「脳内の動きを調整するブレーキとアクセルのバランスが薬で変わり、動きの副作用が出ることがある」と伝えると納得されやすいことがあります。
また、第二世代抗精神病薬は錐体外路症状が軽い一方で、別の安全性(体重増加や代謝への影響など)も課題になり得るため、EPSだけに視野を狭めず総合的にモニタリングする姿勢が求められます。
「EPSが出た=薬が合っていない」と短絡せず、精神症状の安定度と副作用を天秤にかけて調整する、という治療の現実も押さえておくと連携がスムーズです。
参考)【統合失調症】治療の最終目標は社会復帰 寛解状態を維持する…
錐体外路症状とは:統合失調症の現場での見分け方(出現時期・重症度・観察ポイント)
見分け方の基本は、(1)出現時期、(2)主訴の言葉、(3)診察室での観察、(4)最近の処方変更(開始・増量・減量・中断)の4点セットです。
例えば急性ジストニアは「首が勝手にねじれる」「目が上を向いて戻らない」など強い訴えで来院することがあり、救急的に対応が必要になるケースがあります。
薬剤性パーキンソン症状は「動きが遅い」「表情が乏しい」「手が震える」などで、陰性症状やうつ状態と誤認されることがあるため、固縮や歩行・腕振りといった身体所見を意識すると拾いやすくなります。
アカシジアは「落ち着かない」「そわそわする」「体がムズムズする」という訴えが多く、焦燥が強いと自殺念慮の増悪に結び付く懸念もあるため、軽症でも放置しない態度が重要です。
遅発性ジスキネジアは長期投与後に出現し、口周囲の不随意運動が典型ですが、四肢や体幹に及ぶこともあるため、診察ごとの“短い観察”をルーチン化すると見逃しにくくなります。
参考)【図解】錐体外路症状とは?原因・種類・代表的な症状を解説
意外に盲点なのが「患者が副作用と気づいていない」パターンで、家族や看護記録の“動作の変化”が最初の手がかりになることがあります。
錐体外路症状とは:統合失調症の治療と対処(ビペリデン・抗コリン薬・クロナゼパム)
薬原性錐体外路症状の基本方針は、原因薬の減量・中止・変更(可能ならEPSリスクが低い薬剤への変更)をまず検討し、必要に応じて対症療法を追加することです。
急性ジストニアでは、抗コリン薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジル)や抗ヒスタミン薬(プロメタジン)などが臨床的に用いられると整理されています。
医療者向け資料では、救急対応として中枢性抗コリン薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジル)またはベンゾジアゼピン系(ジアゼパム、クロナゼパム)の投与が有効、と記載があります。
薬剤性パーキンソン症状については、ビペリデン追加、アマンタジン追加、クロナゼパム追加に関するRCT報告がある、という位置づけで述べられています。
アカシジアの対症療法として、極度の不安・焦燥を伴う場合はベンゾジアゼピン系(クロナゼパム、ジアゼパム)、錐体外路症状を伴う場合などは中枢性抗コリン薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジル)を選択する、という実践的な記載もあります。
ただし抗コリン薬はせん妄などのリスク因子になり得るため、特に高齢者・身体合併症・多剤併用では“漫然投与”を避け、必要最小限・定期的再評価が安全です。
参考)https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/25.pdf
論文・総説の引用(病態と重要性)。
成因・危険因子 遅発性ジスキネジアの症状・診断・病態・治療(M-Review)
参考)成因・危険因子 遅発性ジスキネジアの症状・診断・病態・治療
錐体外路症状とは:統合失調症で“見逃しがちな”独自視点(陰性症状との誤認・説明の言語化・服薬継続)
検索上位の解説は「EPSの種類説明」で終わりがちですが、現場で本当に困るのは“精神症状に見えてしまうEPS”です。
薬剤性パーキンソン症状の寡動・表情減少は、陰性症状(感情鈍麻・意欲低下)や抑うつと紛れやすく、ここを誤認すると「さらに増量→さらに悪化」の悪循環に入り得ます。
逆にアカシジアは焦燥・不安として扱われやすく、抗不安薬の追加のみで長引くと、患者は「薬を飲むほど落ち着かない」という体験をし、服薬アドヒアランス低下の引き金にもなります。
医療従事者側の工夫としては、問診テンプレに次の“言語化しやすい質問”を入れると拾いやすくなります。
- 「座っているのがつらくて、足を動かしたくなりますか?」
- 「首や目が勝手に動く/つっぱる感じはありますか?」
- 「口をもぐもぐする、舌が勝手に動くと言われたことは?」
また、第二世代抗精神病薬はEPSが少ないという先入観があるほど、軽いEPSが“様子見”になりやすい点は盲点です。
副作用の早期対応は、精神症状の安定だけでなく、患者の治療継続(「この薬は生活が楽になる」という体験)を支える土台になるため、短時間でも観察とフィードバックを回す価値があります。
この章の参考(薬剤性錐体外路系副作用の治療方針・薬剤名の根拠)。
第3章 抗精神病薬の薬剤性錐体外路系副作用(日本神経精神薬理学会関連PDF)

DIEPSS(薬原性錐体外路症状評価尺度 英語版)