垂直性注視麻痺と診断と治療とリハビリ

垂直性注視麻痺と進行性核上性麻痺

垂直性注視麻痺:臨床で押さえる要点
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まず「核上性」を確認

随意注視が止まっても前庭動眼反射(人形の目試験)で動けば核上性の可能性が高い。

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PSPの重要サイン

下方視障害・易転倒性・体幹優位の筋強剛は典型像。早期は「垂直サッカード緩徐化」が先行し得る。

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鑑別は中脳背側症候群も

パリノー症候群(松果体腫瘍などの中脳圧迫)では上方注視麻痺が前景に立つことがある。


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垂直性注視麻痺の核上性眼球運動障害と診断

垂直性注視麻痺を語るとき、最初に確認したいのは「核(動眼・滑車・外転神経核そのもの)」の障害ではなく、その上位(核上性)の障害かどうかです。核上性注視麻痺は外眼筋を直接支配する脳神経核より中枢側の障害で起こり、方法によっては眼球を動かせる“余地”が残る点が診断の核心になります。

臨床で役立つのが、前庭動眼反射を利用した頭部眼運動手技(人形の目試験)です。やり方の要点は、患者の眼前約30cmに視標(検者の指など)を置いてゆっくり上下に動かし、途中で眼球運動が止まる(随意注視では追えない)ことを確認したうえで、注視を続けてもらいながら頭部を他動的に前屈・後屈させることです。ここで眼球がさらに上転または下転できれば、随意注視の経路(核上性)が障害されている一方で、反射経路が生きている=垂直性核上性注視麻痺と判断しやすくなります。こうした手技は、観察者と頭部を動かす介助者の2人で行うと精度が上がる、という現場的なコツも共有されています。

また、注視麻痺(“動かない”)が明確になる前に、垂直方向の衝動性眼球運動(垂直サッカード)が遅くなる段階が先行し得ます。視標を正中から上10度・下10度程度に交互提示してサッカードを誘発し、速度低下を観察するのが基本で、正常との差を「見た目で拾う」こと自体が臨床では大きな価値を持ちます。定量化は眼球運動記録が理想ですが、薬剤、意識レベル、個人差の影響を受ける点は常に念頭に置くべきです。

見落としを減らすためのチェック項目(外来・病棟共通)を簡単にまとめます。

・上下の随意注視(追視・サッカード)で、どちらが先に悪いか(下方優位か、上方優位か)。

・頭部眼運動手技で、反射では動くか(核上性かどうか)。

・眼球運動だけで終わらせず、転倒・姿勢・嚥下・構音・認知の“セット”で捉える。

参考:PSPでの眼球運動評価の具体的手技(人形の目試験、垂直サッカードの誘発と観察)

「進行性核上性麻痺における眼球運動異常の診かた」

進行性核上性麻痺における眼球運動異常の診かた – 日本医事新報社
【Q】 特発性正常圧水頭症(idiopathic normal-pressure hydrocephalus:iNPH)患者には,進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)が高率に共存しています...

垂直性注視麻痺と進行性核上性麻痺の症状

垂直性注視麻痺は、進行性核上性麻痺(PSP)で非常に重要な徴候ですが、発症初期から“いきなり目立つ”とは限りません。難病情報として整理されているPSPの臨床像では、初期から転倒が多いこと(易転倒性)が最大の特徴として強調され、姿勢の不安定さだけでなく注意力・危険認知の低下も重なって転倒を繰り返す、とされています。さらに、防御反応が乏しく顔面直撃外傷になりやすい点、車椅子やベッドからの転落が介護上の問題になり得る点は、医療従事者向けに強調しておきたい実務的ポイントです。

PSPの注視障害は、下方視障害が特徴的で、発症初期には認められないことも多い一方、発症3年程度で出現し、その後に水平方向も障害されうる、とされています。つまり「上下が少し怪しい」段階を丁寧に拾い、転倒歴や体幹症状とつなげることが早期の臨床推論に直結します。筋強剛は四肢末梢より頸部・体幹に強い傾向があり、進行すると頸部後屈(反り返り姿勢)が目立つことも典型像です。

合併しやすい症状としては、構音障害、嚥下障害、前頭葉機能障害(把握反射、模倣行動などの前頭葉徴候、動作の開始・終了の障害)が挙げられます。認知症は合併しても程度が軽い場合がある一方、“前頭葉性”の質(思考緩慢、想起障害、意欲低下など)を示すのが本質だとされており、病棟での転倒リスク評価や服薬・食事の安全管理と直結します。嚥下障害が早期にある場合は生命予後不良という記載もあり、眼球運動所見の評価だけで満足せず、嚥下の兆候(むせ、痰、食事時間延長、体重減少)を同時に拾う姿勢が重要です。

現場でありがちな落とし穴は、「パーキンソン病に似ている」こと自体に引っ張られて、転倒の早さ・眼球運動・体幹優位の筋強剛というPSPらしさの束を見落とすことです。PSPでは安静時振戦はまれ、抗パーキンソン病薬への反応が不良になりやすいという整理もあり、“効きにくさ”も鑑別の材料として活用できます。

参考:指定難病としてのPSPの症状経過(下方視障害、転倒、嚥下、認知などの全体像)

「進行性核上性麻痺(指定難病5)」

進行性核上性麻痺(指定難病5) &#8211; 難病情報セン…

垂直性注視麻痺と中脳と松果体腫瘍

垂直性注視麻痺をPSPだけで固定すると、急性・亜急性の中脳病変を取りこぼすリスクが出ます。代表的なのが中脳背側症候群(パリノー症候群)で、上方共同注視麻痺として説明され、松果体腫瘍が中脳を圧迫することが主要な原因として挙げられています。頻度は低いものの、中脳視蓋前域の腫瘍や梗塞でも起こり得るとされており、病歴の時間軸(急に起きたか、じわじわ進んだか)を丁寧に聞くだけでも鑑別の精度が上がります。

中脳病変では、眼球運動障害が「どの方向優位か」がヒントになります。パリノー症候群は上方注視麻痺が典型ですが、臨床では上下どちらの障害もあり得るため、「上に行かない=腫瘍かも」「下に行かない=PSP」と短絡せず、病変部位(中脳・間脳移行部、後交連周辺など)の解剖学的背景を踏まえた評価が必要です。

“核上性”の評価手技はPSPでも中脳病変でも役立つため、眼球運動診察を神経診察の一部としてルーチン化する意義があります。特に、意識が清明で協力が得られる患者では、視標追視とサッカード、そして頭部眼運動手技をセットで行うことで、末梢(外眼筋・神経)か中枢(核上性)かの大枠が素早く立ちます。加えて、頭痛、嘔気、視力障害、水頭症を疑う症状が同時にある場合は、松果体部病変なども視野に入れ、画像検査への導線を早期に作る判断が求められます。

参考:パリノー症候群(中脳背側症候群)と松果体腫瘍などの原因

「共同注視麻痺(MSDマニュアル プロフェッショナル版)」

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%9C%BC%E7%A7%91%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%85%B1%E5%90%8C%E6%B3%A8%E8%A6%96%E9%BA%BB%E7%97%BA

垂直性注視麻痺と治療とリハビリ

垂直性注視麻痺そのものに対する“特効薬”という形では語りにくく、原因疾患(PSP、脳血管障害、腫瘍など)と、合併する機能障害(転倒、嚥下、構音、視機能)を分けて整理するのが実践的です。PSPでは根治的治療が未確立であることが明示されており、治療の軸は症状緩和と合併症予防、生活機能(ADL)の維持になります。薬物療法としては、初期にL-dopaが効く場合があるが長続きしないことが多い、少量の抗コリン薬が無動に有効なことがあるが増量で突発行動が増えるので注意、などの現場で困りやすい“効き方の癖”が整理されています。

リハビリテーションは、頸部・体幹のストレッチ、バランス訓練、言語訓練、嚥下訓練などを併用することが推奨されています。ここで、医療従事者向けに一段踏み込むなら、「垂直性注視麻痺が転倒を増やす構造」を共有しておくとチーム連携が円滑になります。下方視が障害されると、段差・足元の障害物・床面の変化が視覚的に把握しにくくなり、姿勢反射障害が重なるPSPでは“見えていないのに動けてしまう”危険な状況が生まれます。転倒予防は環境調整(床の物を減らす、手すり、照明、靴の見直し)と介助動作の統一が重要で、眼球運動所見が「介助が必要な理由」を説明する根拠になります。

嚥下障害は中期以降に出現することが多い一方、早期の嚥下障害は生命予後不良とされます。したがって、眼球運動を確認した時点で、誤嚥性肺炎リスクの見立て(食形態、姿勢、食事介助、口腔ケア、痰の性状)までを同じ診療線上に置くことが、結果として患者アウトカムにもチームの安全にも寄与します。

病棟・外来で使える、実務に寄せた“指示出し”の例をまとめます(施設の運用に合わせて調整)。

・転倒ハイリスク:歩行時は必ず見守り、特に方向転換と立ち上がりを重点介助。

・視線誘導:声かけは正面〜やや下(患者が見やすい範囲)を意識し、足元を見せたい場合は体幹ごと向きを変える。

・食事:むせ、湿性嗄声、食後の痰増加があれば早期に嚥下評価につなぐ。

・薬物:L-dopa反応が乏しい/短い場合は、目標設定を“動きを良くする”から“安全を上げる”に切り替える説明をチームで共有。

垂直性注視麻痺の独自視点と医療安全

検索上位の説明は「PSPの特徴」「中脳病変の鑑別」「眼球運動の診察」に集約されがちですが、医療安全の観点では、垂直性注視麻痺を“転倒と誤嚥の共通因子”として扱うと一段と実務に落ちます。PSPの解説では、転倒を繰り返す背景として注意力・危険認知の低下が挙げられ、さらに防御反応が起きにくく顔面外傷が多いとも記載されています。ここに垂直性注視麻痺(特に下方視の障害)が加わると、危険を認知しにくい+足元が見えにくい、という二重のリスク構造が完成します。

この構造をチームで共有すると、転倒予防策が「歩行器を使う」だけでは不十分だと説明しやすくなります。例えば、転倒カンファレンスで“患者の目の動き”を共有するだけで、ベッド周囲の動線整理、床頭台位置、ナースコール位置、トイレ誘導の声かけ位置(視野に入る位置)など、具体策が一気に現場化します。視線の上下が使いにくい患者に、口頭だけで「足元見てください」は通りにくく、環境側を変える方が成功率が高い、という判断がしやすくなります。

もう一つの独自視点は、「注視麻痺は“眼科症状”として単独で閉じない」という教育設計です。PSPでは構音障害嚥下障害、前頭葉徴候が同時に進むことが整理されており、注視麻痺の確認は“神経変性疾患の進行を測るバイタル”のような意味を持ちます。眼球運動所見が悪化してきたら、同時期に食事動作や転倒頻度が変化していないか、家族介護が破綻しかけていないか(介護疲れ、転落、夜間事故)が起きていないかを点検するトリガーとして使うと、医療と生活のギャップが埋まりやすくなります。

最後に、現場教育で使える短いフレーズを提案します。

・「下が見えない人は、危険も見えない。環境で守る。」

・「目の動きが変わったら、転倒と嚥下を同時に見直す。」

・「核上性かどうかは、人形の目でまず切り分ける。」

参考:PSPでの易転倒性、下方視障害、嚥下、前頭葉徴候など(医療安全と直結する全体像)

「進行性核上性麻痺(指定難病5)」

進行性核上性麻痺(指定難病5) &#8211; 難病情報セン…